双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#8 親バカな父はその時点でフラグ

 

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 最悪の行事、襲来。

 

 

 

 

 

 担任の駒田真子、通称こまこの言った言葉が一瞬理解出来なかった俺は、もう一度よく脳内で彼女が言った言葉を反芻する。

 

『来週の授業参観についてですが……』

 

 授業参観。

 ジュギョウサンカン。

 

 それはつまりアレか。

 我が子が一体どんな授業をどんな風にどんな子たちと受けているのかという学校生活の実態を知るために設けられた特別授業。

 

 ――――教室の後ろに親が並んで授業を観覧する、あれ。

 

 ということは当然ながら、二人ともとは限らないが親が来るということになるわけだ。

 

 

 

 

 ……呼びたくねぇぇええええええッ!!

 

 

 

 

 

 断言してもいいが、もしも俺の両親が来た場合、絶対に碌なことにならない。

 

 親父が来たらあのウザイ程の親バカっぷりを所構わず遺憾無く発揮するだろうし、母さんはあの天然っぷりで教室を(別の意味で)支配下に置くだろう。二人揃っての襲来なんて論外だ。

 

 これはマズイ。

 というかこの事を親父たちは知っているんだろうか。知らなかったのなら九死に一生を得た思いだが、既に知っていたなら俺はもう授業参観当日休む。

 

 頼むから授業参観があることを知らないでいてくれ。

 

 そんなことを切実に思いながら、下校を終えて更識家の門をくぐると。

 

「おう形無! 来週授業参観があるんだろうっ!? 父さん仕事なんかすっぽかして行くからな!!」

 

 

 

 ……知っていやがった。

 親父よ、仕事はすっぽかしちゃいかんだろう。せめて片付けてとか言えよ。

 

 残念なことに、本当に残念なことに既に授業参観があるということを知っていたので俺はもう諦めるしかない。

 

 ……なんて言うと思ったか!!

 

 俺は諦めない。平凡な小学校生活を維持するためにも、ここで母さんや、まして親父を学校に来させるわけにはいかない。

 どうにかして親父に用事を作らせないと……。

 

 あ。

 

「父さん」

 

「ん? どうした形無」

 

 庭で何やら筋トレに励む親父に向けて、俺は口を開く。

 

「姫無がその日、遊園地かどこかに行きたいって言ってたけど」

 

 一歳児がこんなこと言う訳もないし普通の人間なら信じる訳もないんだが、俺の親父は折り紙つきの親ばかだ。

 それはつまりどういうことかというと。

 

「んなにぃッ!?」

 

 こういうことだ。

 ほんと、親父が馬鹿でよかった。

 俺はとりあえず親父が学校に来ることはなくなったと思い安堵していると。

 

「こうしちゃおれんッ!! 今からすぐに遊園地に行こうッ!!」

 

「……へ?」

 

 今なんておっしゃいましたかこのバカは。

 

「何してる形無。すぐ姫無を呼んでこい!!」

 

「いやいやちょっと待って。そんないきなり……」

 

「母さんは無理だろう。お腹の子のこともあるし」

 

 いやそういうことじゃねえよ。

 ……ていうか、え?

 

「お腹……?」

 

「ん? なんだ気づいてなかったのか、母さん妊娠してるんだぞ?」

 

「そういうことは早く言えよクソ親父ッ!!」

 

 いやマジで知らなかったよ。時期的にはそろそろかなあとは思ってたけどまさかこんな形で知らされるとは夢にも思わなかった。

 となるとまたあの更識家勢ぞろいでの名前会議が開かれるのか。今回は変な案出ないといいけど、出るんだろうなあ……。

 

「早くしろ形無。日が暮れてしまう」

 

「本気で今から遊園地行く気なのかよ……」

 

「姫無が行きたいと言ってるんだろう? なら行くしかないじゃないか!!」

 

(もうダメだこの親ばかは……)

 

 結局、午後三時から俺と親父、姫無は近くにあるテーマパークへと向かうことに。

 こんなことになるならあんな事言わなきゃよかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ああ、神よ。何故俺はこんなにも慈悲深いのだろう。

 本来なら八つ裂きにされるべきあの馬野郎(形無のことです)と同じクラスになったこともそうだが、束に執拗に付き纏う馬野郎をまだ一度もタコ殴りにしていないのだから。

 

 俺も我慢の限界なんだが、必死に我慢している束を見ていると彼女の意志を尊重しなければ、と思うのだ。

 だがもしもこの俺、幼稚園来からの幼馴染であるこの織村一華に彼女が助けを求めてくるのなら、俺は迷わずその手を取ってアイツをボコボコにするつもりだ。

 

 俺が負けることは有り得ない。

 何故なら俺は神に選ばれた存在。神が見方についているんだ。負ける道理が見つからないだろう。

 

 それに神より賜った能力だってある。これを使えばただの一般人である凡人なんて俺の敵じゃねえ。

 

 

 

 

 

 そう、この俺の超能力、『未元物質(ダークマター)』は最強だ!!

 俺はこのチカラで、この世界の頂点に立つ!!

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

 そして、ついに来る授業参観当日。

 俺にとってはまさに地獄と言えるこの日は、俺の心とは正反対に快晴だ。

 結局両親二人とも授業参観を知っており、そのためにわざわざ仕事を前倒しにしていたり楽しみにしていた両親に来るなと言える筈もなく、何も言えないままこの日が来てしまった。

 

「なあなあ瑞穂。やっぱり男らしい感じのスーツのほうがいいかなあ!?」

 

「あらあら楯無さん。それはスーツじゃなくてツナギですよ」

 

「あ、いっけね(テヘッ」

 

 こんな光景を目の前で繰り広げられて拳を握り締めてしまう俺は間違っていないはずだ。

 いやまじでもうアラサーのオッサンがテヘペロしても殺意しか湧いてこないからな。可愛さなんてマイナス値もいいところだ。姫無の満面の笑みでようやく相殺できるようなとんでもないものだから。

 

「いやあ瑞穂似合ってるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 いやいや母さん。確かに似合ってるけどもそんな真っ赤なドレス着て舞踏会にでも行く気ですかあなた。そんな恰好で行ったら間違いなく他の親父たちを落として帰ってくるよ。頼むからもうちょっと常識ってものを弁えてください。だいたい妊婦なんだろうが。大人し目の服選んでお願い。

 

「ん? どうした形無そんな浮かない顔して。あ、もしかして緊張してるのかあ?」

 

 何を勘違いしたのかイイ笑顔で俺を見る親父。俺がこんな顔してる原因はあんたらが原因なんだぞ……。

 

「はぁ……、もおう学校行ってくる」

 

「おう。千冬ちゃんと束ちゃんたちと仲良くな」

 

 本気で学校行きたくない。

 授業参観の時間だけ保健室行こうかな。まあ、そんなことする度胸は俺にはないんだけどな。

 

 こうなればもう腹を括るしかない。

 

「よし……、」

 

 更識家の門を出て学校への道を歩きだした俺は決心した。

 

 

 

 

 

「絶っ対、授業参観中に後ろは振り向かない……!!」

 

 

 

 

 

 こうして授業参観という名の生き地獄が待つ一日が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回
 最強(それはもういろんな意味の)な形無の両親、小学校襲来。
 
 新世紀カタナシゲリオン
 第九話
 瞬間、心、折れて

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