前回のあらすじ
妹は正義!!
異論は認めない。
さて。俺こと更識形無は小学校二年生に進級した。これは前回も話したんだが、去年は俺と千冬が同じクラスで束が大暴走し、(本気で)学校が使い物にならなくなるところだった。
なんだパソコンのデータを完膚なきまでに破壊し尽くすウィルスって。しかも無差別。
そんなもんを何処にでもあるような小学校でばら蒔かれてはリアル警察沙汰だ。
……いや、束のことだから足がつかないように何重にも細工してるんだろうな。
取り敢えずそんなことになってはマズイので束の頭にチョップをかまし、そのウィルスを破壊させて一先ずは解決となった。
いや本気であれはダメだろ。ウィルスに侵されたパソコンは完全に束の支配下に置かれ暴走し、二度と使い物にならないどころか破壊される前にそのデータは例外なく流出するらしい。
よかったそんなことにならなくて。
今年は束と同じクラスになったことで、あんなことは起こらないなと安心していた。
……安心、していたんだ。
しかし俺の安堵はクラス分けの張り紙を見た千冬の反応を見た瞬間に消し飛ぶこととなった。
『……だ』
『へ?』
『形無と違うクラスなんて、いやだ!!』
とんでもない駄々をこね始めた。
『いや千冬。小学校なんだからこういうのは当たり前……』
『いやなんだ!!』
うん、人の話を聞かないパターンのやつですねわかります。
がっくりと項垂れている千冬の隣では、同じクラスになった束がピョンピョン跳び跳ねていたが即座に千冬に蹴り飛ばされた。
ううむ。まさか千冬まで束みたいな駄々をこねるとは思っていなかった。
いや束の無差別テロみたいなのと比べれば全く持って可愛いレベルなんだが。
だけどこうなると中々千冬は頑固なんだよなあ……。ミサンガが千切れたときに束が付けていたミサンガを寄越せと言い出したときのことを思い出すよ。
束からしたら『何その理不尽』てきな感じだったんだろうが千冬は必死だったからなあ。結局大泣きしてしまったが。
あの時は母さんが直ぐ様新しいミサンガを作ってくれたおかげで事なきを得たが、今回ばかりはどうしようもない。
『うぅ……』
ガックリと膝を折って踞る千冬。やばい、泣き出しそうな気がする。
『……はあ』
俺は小さく溜め息をついて。
『千冬』
『形無ぃ……』
あ、目尻に涙が溜まってる。
『別に授業を別々に受けるだけだろ。登下校だって一緒に出来るし、授業が終われば一緒に遊べる』
『そうだよちーちゃん。私たち三人は『いつメン』なんだからっ』
『っ、束にもこの気持ちわかるだろう!?』
『ふっふー。束さんはあの地獄のような一年をこれで乗りきったんだよ』
これ? 一体何のことだと思っていると、束はポケットから一枚の紙切れを取り出した。あれは、写真?
『束さん秘蔵のかーくん湯上がりブロマ……』
『なにしてんだお前』
即座に没収。
おかしいな更識家に仕掛けられてた小型カメラや盗聴器は俺が全部処分した筈なんだが。
『ったく……、あれ?』
気付けば没収した筈の俺の写真が手から無くなっていた。
あ、犯人はアイツか。
『千冬……』
『こ、これがあれば一年耐えられる!!』
『んなもん無くても大丈夫だろうが』
『いや、絶対必要だ!!』
『返せ』
そして直ぐに焼却処分だ。ついでにもう一度屋敷内のカメラ類を洗いざらい探し出して壊しとかないとな。
『頼む!』
『…………』
そんな泣きそうな顔をしないでくれ。
俺が知ってる千冬はこんなすぐ泣くような女じゃなかった筈なんだが、これから変わっていくんだろうか。
『はあ。分かったよ……』
これで千冬がいいと言うんだから、ここは俺が退かないといけないみたいだ。
でもいつかあの写真は回収するけどな。
◆
ということがあった四月当初から早二ヶ月。この頃になるとクラス内に友達もできるようになり、休み時間にもなるとドッジボールやサッカーをしにグラウンドへと駆け出していく。
元気だなぁ、なんて思う俺はもう思考がおじいちゃん化してしまっているのかもしれないが、実際否定できない俺がいる。
今は給食が終わったあとの昼休み。元気なクラスのみんなは挙ってグラウンドへと駆け出し、それ以外の生徒は図書室へ行ったり教室で一息ついたりと思い思いの時間を過ごしている。
そんな中、俺はと言うと。
「ねえねえかーくん。ここんとこのパーツって変えた方がいいかな?」
「そんなこと俺に聞かれたも解んねえって」
「嘘ばっかり。ねえどう思う?」
「……変えると他のパーツと喧嘩して駆動率が下がるからオススメはしない」
「やっぱりねー。束さんもおんなじこと考えてたよ」
……なら俺に聞かなくてもよかったんじゃね? という疑問は抱いても口には出さない。こんな風なやり取りは一度や二度ではないから、いい加減慣れてきてしまっている。
束は俺の意見を聞いて満足そうに頷いた後、再びパソコンの画面に視線を戻す。
最早言うまでもないかもしれないが、現在進行形で束が完成させようとしているのは『IS』だ。しかも既に基盤は半分ほどが完成し、理論な構造も纏まり始めている。
俺の知識の中では確か完成はもっと後のはずだったんだが、このスピードのまま順調に製作が進行すれば中学生あたりで完成してしまいそうだ。
これは俺にとってはとてつもなく都合が悪い。
なにせ俺が神様からもらった一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作はおそらくだが脳が成長しないと使えない。最低でも中学生くらいにまでは成長しなくては。こんな状態で束がISを完成させ、巻き込まれるようなことになったら間違いなく俺は死ぬ。
いやまじで。
そんな死亡フラグは御免な俺だから、一応毎日能力を発動させようと意識を集中させてはいるものの、やはり一向に成果は見られない。
もうなんかバッドエンドしか見えてこない。いっそ未来のことが分かる日記とかあればそれも回避できるのになあ。
と、そんなバッドな俺に、この後更にバッドなことが発生してしまう。
昼休みも終わったため次の授業の準備をしているときのことだ。
教室に入ってきた担任の先生、駒田(こまだ)真子(まこ)が何やら大量の書類を教卓の上に置いて一言。
「えー、来週の授業参観についてですが……」
……ゑ?