双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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 大変遅れて申し訳ありません。
 そして待たせた挙句、まだクラス代表対抗戦が始まらないっていう……。
 しかも今回の話しの中心はあのキャラだよ!
 え、誰かって? みんな大好きs(ry


#10 想像と現実

 

 

 

 皿式鞘無。

 恐らくは、今世界で最も有名な男性四人に数えられる少年である。肩口で切り揃えられた茶髪に整った顔立ち。十人の女性が見れば半数以上が『イケメン』だと評するであろうその少年は、しかし今は奥歯を噛み締めて苦痛にも似た表情を浮かべていた。

 日付も変わり、寮に住む女子生徒の殆どが寝静まった頃、彼はベッドに横たわりながらも決して寝付こうとは思っていなかった。いや、寝付けないでいた。

 理由は簡単に纏められる程単純なものではない。

 生まれてきてからこれまでに積み重ねてきたものが、彼の中で燻っているのだ。

 

「……どうして、」

 

 ポツリと、漏れ出るようにして呟かれた言葉は彼以外誰もいない部屋の中で溶けて消えていく。

 

 こんな筈ではなかった。

 こんな現実を望んではいなかった。

 

 言葉にならない思いが、少年の中で爆発的に膨らんでいく。

 

「俺は、俺は……っ!」

 

 十年以上も思い描いてきたシナリオが頭に浮かぶ。

 

 ――――俺は主人公だ。それ以外の何者でもない。

 ――――じゃあ、この現実は何だ?

 

 彼が思い描いてきたシナリオと現実は、有り得ない程にかけ離れていた。本来であれば存在しない二人の男性IS操縦者の存在。一夏が強くなると決意する切っ掛けとなった第二回モンド・グロッソでの誘拐事件の不発。姉妹仲が最悪だった筈の篠ノ之箒は、休み時間にはあの天災科学者と仲睦まじそうに連絡を取っている。

 神様の双六に巻き込まれるという意味不明の理由で転生されることとなった鞘無だが、貰い受けた能力があればISの世界で十二分に生きていけると思っていた。

 電撃使いという某都市ではポピュラーな能力ではあるが、元の持ち主はあの学園都市第三位の常盤台のお嬢様だ。最大十億ボルトの電撃は通常のISであれば多大なダメージを与えることが出来るだろう。

 本来ならもっと上位の第一位、第二位の能力あたりを手に入れたかったのだが、生憎とその二つは神から貰い受けることが出来なかった。売り切れだのSOLD OUTだの言っていたが、まあ深く考えても無意味だろうと考えうることを放棄する。

 

 第三位とは言ってもその汎用性は非常に高く、この能力のお陰で鞘無はISに搭乗することができる。

 元々の頭の出来はともかくとして、この能力を使えば電子回路に手を加えるなんてお手の物だし、ISに干渉して起動させるなんてことも可能である。鞘無自身、どういう理屈で起動できているのかは不鮮明なままなのでご都合主義という可能性も否定は出来ないが。

 

「本当なら、今頃はとっくに……!」

 

 そう言って奥歯をギリッ、と噛み締める。

 彼の思い描いていたシナリオ。それは――――。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「おっす鞘無!」

「おう一夏。今日も早いな」

「俺より早く来てる奴が何言ってんだよ」

 

 まだ太陽も昇っていない早朝。俺がいつもの公園でストレッチをしていると、ジャージ姿の一夏が小走りでやって来た。同じくらいの身長だが髪の毛はやや短く、俺とは別ベクトルの整った顔立ちをしている。一夏と通う中学校では俺たち二人のファンクラブなんてものまでが存在し、毎日のように女子たちの視線を浴びてしまっている。

 

 ストレッチを終えた俺に、一夏が声を掛ける。

 

「行こうぜ」

「おう」

 

 そう答え、一夏と二人で公園を出て町内を走り出す。

 二人でこうしてランニングを行うようになって、もう何年経つのだろうか。

 切っ掛けは、一夏がとある事件に巻き込まれたこと。それを堺に、一夏は貪欲に強さというものを求めるようになった。強くなるためにはまず身体を鍛えなくては、という結論を出したらしい俺の親友はこうして毎朝町内一周のランニングを続けている。

 俺が付いて走っているのはおまけみたいなものだ。ランニングが終わってからの組手の相手をするのにいるだけであって、決して俺も強くなりたいとか思って走ってるわけじゃない。

 まぁ、巻き込まれた感は否めないけどな。いいんだ、こうして一夏と過ごす時間も、なかなかに楽しいのだから。

 

 小学校時代から走り続けてきただけあって、俺も一夏も中学生男子の平均と比較するとかなり鍛えられている。成長期も相まってガタイも良くなり、それでいてシャープでしなやかな筋肉が全身を覆う。

 

「なあ鞘無」

「あん?」

 

 走りつつ、一夏が問いかける。

 その表情はいつになく真剣だった。

 

「俺、強くなってんのかな」

 

 一夏の問いに、俺は間髪入れずに答える。

 

「さぁな」

「……そこはもうちょっとフォローしてくれよ」

「だって実際にわかんねえよ。俺とは組手しかしないし、他で強さを確かめる場面なんてないしな」

「うぐ……。確かにそうだけどよ……」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をする一夏。

 全く、俺の親友は周囲と自分をどうしても比較してしまうらしい。

 

「ま、少なくとも前には進んでんじゃねぇか? あの時よりもな」

「鞘無……、」

「俺に勝てないようじゃあまだまだだけどな」

 

 口角を吊り上げ、俺は挑発するように一夏へと言葉を投げつける。

 

「なんだとっ、今に見てろよ? 直ぐにお前を追い越してやるからな」

「はいはい。期待しねぇで待ってるよ」

 

 一夏の反発に俺は苦笑する。

 これは俺の見立てだが、徒手格闘だけであれば直ぐに一夏は俺なんて追い抜かすだろう。そこに駆け引きなどの心理戦が加われば話は別だろうが、少なくとも資質だけを見れば流石はあの千冬さんの弟だと言わざるを得ない。

 

 町内一周のランニングを終えた俺と一夏は水道の水で喉を潤した後、そのまま組手の修行へと取り掛かった。

 

 流石はあのブリュンヒルデの弟。俺なんかとは出来が違う。

 だが、それでも今は俺のほうが上だ。

 

 突き出される腕を紙一重で躱し、カウンターを一夏の腹部へと叩き込む。予想はしていたのか、俺の打突を喰らいながらもそこで崩れ落ちることなく反撃に出る一夏。繰り出される蹴りはしかし、狙った俺の膝には届かない。

 

「甘いぜ一夏」

「なっ!?」

 

 一夏の蹴りを足の裏で防ぎ、止めと言わんばかりに隙の出来た一夏のシャツの襟首を引っ掴み、強引に背負投げた。

 

「……ってぇ。くっそ、いい線いってたと思ったんだけどな」

「足元を崩して、ってのは定石だからな」

 

 背中を打った一夏に手を差し伸べ、そのまま立ち上がらせる。

 公園の中心にある時計へと目をやれば、直に七時を回ろうとしていた。

 

「そろそろ帰るか」

「だな、鞘無もうちで飯食ってくだろ?」

「ご同伴に与ろうかな」

 

 こうして朝の鍛錬を行うようになってから、その後は織斑家で一緒に朝食を摂ることが多くなった。というか、殆ど毎回そうだ。朝食を作るのは一夏だが、出来る頃には二階の部屋から千冬さんも降りてきて三人で朝食を撮る。

 それはいいんだが、頼むからほぼ下着姿で俺の前に現れるのは勘弁してほしい。いや、一夏じゃまだ家族だからいいかもしれんが俺赤の他人だからな。昨日の夜は疲れていたからそのままとかいう言い訳は聞きませんぜ千冬さんよ。

 以前頼むからちゃんと着替えてから降りてきてくれとお願いしたことがあったが、『一夏が作った朝食が冷めてしまうだろう。それにお前、私を見て興奮でもするのか?』などとイイ笑みを浮かべられてしまった。

 

「はぁ、俺たちももう受験かぁ」

「いきなりどうしたよ」

「いや、早いもんだなぁと思ってさ」

 

 織斑家へと向かう道すがら、一夏がポツリとそう呟いた。

 確かに、俺と一夏が出会ってからもう何年になるのだろうか。そう考えてしまうほどの長い時間、俺は一夏と同じ時間を過ごしてきた。箒や鈴たちの顔も思い浮かべながら、俺はこの先の未来へと思いを馳せる。

 一夏は学費も安く、多くの分野へ就職口を設けている藍越学園を受験する気でいる。俺も一応表面上はその学園を受験する気だが、入学する気は更々ない。IS学園に入学するためのプロセスとして受験会場が同じ必要があるので受験はするが、そこで一夏と共に迷うつもりだ。

 だってそうしないとISが置かれた部屋まで辿り着けないだろうしな。

 

「ま、人生なんてあっという間に過ぎていくもんだよ」

「なんかジジくさいぞ鞘無」

「んだと!?」

 

 ジジくさい発言を流石に看過することは出来ず、一夏の首へと腕を回して締め上げる。

 

「ちょ! 鞘無、キマってる! キマっちゃってるから!!」

「ジジくさいのはお前だろうが一夏! いっつも温めのスポドリとか栄養バランスばっか気にしやがって!!」

「それはいいだろ別に!!」

 

 傍目から見れば、まるでそれは兄弟のように。

 俺と一夏は、変わらない日常に身を置いていた。

 ISを動かしてしまい、IS学園への入学を半ば強要されてしまう一月前のことだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ちょっと鞘無! 何でアンタが此処に居るのよ!?」

「いやいやいや、お前ニュースとか見てないのかよ」

 

 入学式当日、掲示板に張り出されていたクラス表に従ってクラスへと入ってみれば俺に出会うなり開口一番、ツインテールを揺らした小柄な少女が詰め寄ってきた。

 今俺の目の前で何やら騒いでいるのは中学時代、一夏や弾、俺を含めていつもツルんでいた少女、凰鈴音だ。因みに中国の代表候補生である。

 そんな彼女はどうやら俺がIS学園に特例で入学することを知らなかったらしく、動揺とも驚愕とも取れる表情を浮かべて捲し立てるように俺へと質問を投げかけてくる。

 

「俺もIS動かしちまったんだよ。一夏と一緒にな」

「はぁ!? なによそれどうなってんの!?」

「いや俺に聞かれてもわかんねぇよ。ただ政府からの通達でこの学園に入学することになったってだけだ」

「……ふぅん。まぁいいわ、またアンタとツルめるってんなら退屈しなさそうだし」

「一夏とも一緒だしなー」

「ちょ!? あんま大きい声出すんじゃないわよ!!」

 

 一夏の話題を出した途端にわたわたと慌て出す鈴。何この生き物超可愛い。

 今の反応を見れば分かる通り、この少女は一夏に淡い恋心を抱いている。しかし残念なことに、一夏はそんな鈴の想いなど微塵も気付いていないのである。どうにか二人の仲を進展させようと恋のキューピッド的なことをあれこれとしてみたが、俺の力不足なのかはたまた二人に問題があるのか、全くと言っていいほどその効果を得ることは出来なかった。

 

「ま、まぁ、その……またアンタにお願いすることもあるかもしれないから、その時はその……頼むわよ」

「ハッハッハ、鈴はその素直なところを少しでも一夏に見せてやれば良いと思うんだけどな」

「バッ! 出来るわけないでしょ!?」

 

 ツンデレ属性というのはとことんメンドくさいものらしい。

 

 あ、因みに俺。原作組の一夏ハーレムに手を出す気は毛頭ない。確かにシャルやシャルやシャルなど彼女にしたい女子はいるが、そこはやはり一夏の領域だと思うのだ。

 が、しかし。俺にその気はなくても、向こうが勝手に靡いちゃった場合はしょうがないよな。うん、不可抗力みたいなもんだし。いや、決して俺からは手は出さないぜ、誓って。

 

「あ、そうだ。俺生徒会室に呼ばれてるんだった」

「は? 生徒会? 何でアンタが呼ばれんのよ」

「いやまぁ。そこの会長とはちょっとした知り合いでな」

 

 入学式が終わった直後に声を掛けられていた事を思い出す。というか、会長からの挨拶の時点で俺への視線が半端なかったからなあの人。獲物を狙う眼だったぞあれは。

 ああして顔を見たのは一年振りくらいだが、相も変わらず綺麗だと思ったことはあの会長本人には言わない方がいいだろう。絶対調子乗るからな。

 

「呼ばれてるったってもう授業始まるわよ?」

「そういうの気にしない人なんだよ……」

「……なんか苦労してそうねアンタ」

「言ってくれるな……」

 

 始業のチャイムが鳴るのを聞きながら、俺は重い足取りで生徒会室へと向かう。 

 担任の教師にはうまく誤魔化しておいてくれと鈴に頼んでおいたので何とかなるだろう。一年生の教室からは離れた二年生と三年生の教室がある棟の二階、そこに生徒会室はある。

 扉の前に立ち、一度大きく深呼吸。意を決して、俺は目の前の扉をノックした。

 反応は、直ぐに返って来た。

 

「どうぞ」

「……失礼します」

 

 ガチャリと扉を開き、室内へと足を踏み入れる。

 俺の目の前には、よく知る二人の少女。

 

「よく来たわね鞘無君」

「楯無さんが呼んだんでしょうが全く。俺だって暇じゃないんですからね?」

「ひどい! 鞘無君はおねーさんのことなんてどうでもいいって言うのね!?」

「うわーウザイ虚さんどうにかしてください」

 

 入った瞬間にそんな事を宣う目の前の生徒会長。いや、嘘泣きとかいいんでさっさと用件を離して下さい。

 

「ごめんね鞘無君。お嬢様は久しぶりに君に会えてテンションが上がってしまっているの」

「ちょっと虚!?」

 

 口元に手を添えてそう微笑む虚さんに、楯無さんは顔を真っ赤にして詰め寄る。

 

「あー、取り敢えずそこに座ってくれる?」

「はぁ、で? 何で俺を呼んだんですか」

「もう。せっかちなのは相変わらずねぇ」

 

 長めのソファに腰を下ろし、楯無さんに今日俺が呼び出された理由を尋ねる。

 とは言っても、その理由に大体の検討はついている。楯無さんが俺を呼びつけ時は、決まって何かを押し付ける時なのだから。

 

「率直に言うわね、鞘無君。私は貴方を生徒会副会長に任命します」

「拒否権を行使します」

「却下します」

 

 俺には拒否権というものは与えられていなかったらしい。

 楯無さんが言った事はやはり俺の想像通りで、生徒会への入会を促すものだった。いや、促してねぇなコレ。完全に強要だもんな。

 

「一応、理由を聞いても?」

「有能な人材にはしっかりと働いてもらわないと」

 

 問いかけて返ってきたのは、なんともまあ取ってつけたような答えだった。

 この場で拒否をし続けてもいいんだろうが、楯無さんの横の虚さんが無言で笑みを浮かべているところを見るに彼女の援護は期待できそうにない。何より、この部屋に入った時点である程度の覚悟はしていた。

 原作じゃあ一夏が収まることになるこのポジションだが、俺と楯無さんが以前からの知り合い、というか幼馴染であったためにこうして俺が副会長の役職に就くことになろうとしている。

 しかし一つ、無視できない問題がある。

 

「でも俺、男ですよ?」

 

 ここIS学園には、俺と一夏以外の男はいない。

 只でさえ昨年までは女尊男卑の風潮によって男性は嫌な思いをしてきたし、女性の中にはそういったことが当然だと捉える輩も少なからず存在する。

 まぁ俺が何を言いたいのかと言えばだ。

 俺がいきなり生徒会の副会長になんて就任したら、周囲の女子生徒たちからの反発や苦情が半端ないんじゃないかってことだ。

 

「確かに。その点は否定できません」

 

 俺の指摘に反論することなく虚さんが首肯する。

 だが、楯無さんはそんな心配は無用だとでも言わんばかりに口元を吊り上げていた。

 

「大丈夫よ。実力を示しちゃえば、誰も反論なんてできないでしょう?」

「……それってつまり、俺に誰かと戦えって言ってんですか?」

「ご明察。鞘無君ならそこらの代表候補生一人手玉に取るくらい造作もないでしょう」

「いや俺ISに乗ったことないんだけど」

「さて、じゃあ相手をどうするかだけど」

 

 おい俺の話聞けよ、と大声で叫びたくなったがこうなってしまった楯無さんには何を言っても無駄なので必死に堪える。

 こうして楯無さんが俺をほぼ無条件で信頼してくれるというのは正直嬉しい。が、それと勝手に巻き込まれるというのは話が違う。俺にだって出来ないことはあるし、幾ら何でもISに関して初心者の俺が一国の代表候補生に勝てるとは思わない。

 神様とやらから貰い受けたこの能力を使えばまた違った結果になるのだろうが、やたらめったらに乱用もしたくないのだ。

 

「そうね。じゃあ私とやりましょうか」

「はぁ!?」

 

 ちょっと待て何でそうなる。

 

「大丈夫よ。私に負けても至極普通だし、勝っちゃえば鞘無君が会長だけど」

「勝っても負けてもお先真っ暗なんですけど!?」

 

 幼馴染の暴挙に、俺はただ声を荒げるしかなかった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「へー、この時期に転校生ねぇ」

「ああ。シャルルとラウラって言うんだけどな」

「ラウラってのにお前はその頬の紅葉をつけられたと」

 

 食堂で昼食を取りながら、俺はうっすらと頬を赤くした一夏と二人で雑談に興じていた。

 話によれば先日一組に二人の転校生がやって来たらしい。フランスの代表候補生であるシャルル・デュノアとドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒ。言うまでもなく原作組のヒロインとなる少女たちだ。

 

「ま、シャルルとは仲良くやれそうだけど」

「三人目の男性IS操縦者か。大方俺たちの存在が発覚したことに乗じてってとこか?」

 

 などと話していると、食堂の入口あたりが俄かに騒がしくなってきた。

 何事かとそちらに視線を向けてみれば、件の少年シャルルがキョロキョロしながら入ってくるところだった。

 シャルルは暫し周囲を見回していたが、一夏の存在を見つけるとパアッと顔を輝かせてこちらに小走りでやって来る。

 

「一夏。良かったやっと見つけたよ」

「おうシャルル、今日は箒たちと昼食じゃなかったのか?」

「う、うん。そうなんだけど、セシリアがサンドイッチを作ってきてて……」

 

 ああ、成程と一夏は顔を青くしつつ頷いた。

 

「あ、えっと。一夏、そっちの人は……?」

「ん? ああ、そっか。シャルルは初対面だったな、紹介するよ。俺の友達の――――」

「皿式鞘無だ」

「皿式鞘無――――って入学して三日で生徒会副会長になったっていう!?」

 

 シャルルと視線が合ったので恙無く自己紹介を行う。と言っても、名前を言っただけだけど。

 しかしそれでシャルルは俺という存在を正しく認識したらしく、目を見開いて声を上げた。

 

「いやまぁ、不本意ではあるんだけど」

「生徒会長と互角の試合をしたんだよね!? 僕その映像データ見たよ! あれが初搭乗なんて思えないよほんとに!」

「あれは只単にラッキーが重なっただけなんだけどな。まぁ、男同士よろしく」

「うん! 僕はシャルル・デュノア、よろしくね皿式君」

「鞘無でいいよ。男同士だしな」

「分かった。僕のこともシャルルでいいよ鞘無」

「おう」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「鞘……無……?」

「シャルル、か……?」

 

 唐突、としか言いようがなかった。

 誰もいないだろうと思って入った男子更衣室で、金髪の少女に遭遇した。いや、シャルルのことなんだけどさ。

 

「僕はね、妾の子なんだよ……、」

 

 俺の部屋で、シャルル改めシャルロットは声を震わせて言った。

 

「君たち男性IS操縦者たちのデータを取ることが、僕に与えられた役目。でもこうして鞘無に見つかって良かったかな……。君なら、仕方ないかなって思えるんだもの」

 

 そう言ってぎこちなく笑うシャルロット。彼女の笑みが偽りのものであるということくらい直ぐに分かる。

 俺は自然、彼女の肩を抱き寄せていた。

 

「ちょ、ちょっと鞘無……?」

「……お前はどうしたいんだよ」

「え……、」

 

 シャルロットの肩を抱きながら、俺は彼女の本当の気持ちを聞こうとした。

 数十秒、沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのは、俺に抱かれるシャルロットだった。

 

「……やだよ」

 

 ギュウッ、と俺の制服を掴む。その声はひどく震えていて、俯いている彼女が泣いているのだと気がついた。

 

「IS学園から離れたくない……! 鞘無や一夏、それにみんなと、もっと一緒にいたいよ……!!」

「だったら、此処にいろよ」

 

 ガシッと、シャルロットを一層強く抱き締める。

 

「お前が此処に居たいって言うんなら、少なくとも卒業するまでの三年間は安全な筈だ。会社のゴタゴタした事情なんて知るか。お前の気持ちが一番優先されるべきものなんだからな」

「鞘、無……」

 

 顔を上げ、上目遣いで俺を見上げるシャルロットに、俺も本心を告げる。

 

「それに、俺だってシャルルと離れるのは嫌だ」

「……ふふ、鞘無は勝手だなぁ」

「男なんて身勝手な生き物だよ」

「……うん、ありがとう。鞘無……」

 

 そう言って、シャルロットは俺の胸に顔を埋めた。

 

「少しだけ、このままでいさせて……?」

 

 彼女の言葉に無言で頷き、俺は彼女の頭を優しく撫でる。

 フワリと、女性特有の甘い香りが俺の鼻腔を擽る。

 

 その日、俺とシャルロットは朝まで抱き合って眠った。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 ――――こんなのを想像していた彼にしてみれば、今の現状に満足出来る筈もなかったのである。

 いやいやこんなの有り得ないだろとツッコミが飛んできそうではあるが、如何せん彼は割と本気である。それ故に質が悪い。

 どうやら彼のこの性格というか妄想は簪に負かされたくらいでは矯正されていなかったらしく、今尚実現させようと直向きに突っ走っている最中なのだ。

 

(まぁいい。ここまでの事はしょうがないとして、先ずはこのクラス代表対抗戦で俺の地位を確立させる。生徒会や今後のストーリーに絡んでいくのもこれからだ……)

 

 天井に向かって腕を突き出し、グッと握る。

 

「待ってろよ……! もうすぐ、もうすぐだ。すぐそこまで、俺の時代が来てる……!」

 

 誰もいない部屋で人知れず宣言する鞘無。

 彼の思惑通りにクラス代表決定戦が進むのかどうかは定かではないが、ただ一つ、この時点で分かっていることがある。

 鞘無本人は知らないが、明日にまで迫った対抗戦の組み合わせは、既に完成しているのである。

 

 そこには、こう記載されていた。

 

 第一試合

 一組代表 織斑一夏 対 四組代表 皿式鞘無

 

 そして、当日の朝がやって来る――――。

 

 




皿の(わかりやすい)脳内相関図

皿→楯無、簪 幼馴染(ヒロイン候補)
 →一夏、鈴 親友
 →シャル ヒロイン候補
 →モップ、楯ロール、黒兎 不干渉
 →千冬、束 ヒロイン候補(?)
 


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