なんかサクサク書けました。
感想欄で皆様鞘無くんをボロクソ言ってますが、私は思い至ったわけです。
これだけボロクソ言ってるけど、実はこれ愛情の裏返しなんじゃ(ry
皿式鞘無という少年がISを動かせたことは、一夏とは違う意味で必然だった。
何せ、そうなるようにこの世界に生まれ、生活してきたのだから。
IS学園。
この国立専門学校に入学することが彼の始めの目的であり、学園内で原作のキャラたちと親しくなり、交友を深めていくこと。そして最終的に、原作キャラの誰かとそういった関係になれればいいと考えていた。
何せこの学園の女子生徒たちはモブであっても美少女ばかり。両手に余るとは正にこのことで、入学式の日は目移りしてしまって不審に思われないよう振る舞うのが大変だったのは記憶に新しい。
彼の理想としてはクラスは一組がベストだった。
あのクラスには原作主人公である織斑一夏を始め、ヒロインたちが数多く在籍しているのだから。それに担任は織斑千冬に副担任が山田真耶。他のクラスと比べてその存在感は群を抜いていた。
しかし彼が割り当てられたのは一組ではなく、四組。どうやら転生とは言ってもそう簡単に思い通りに事は運ばないらしい。それならそれで構わないと思った。障害があればあるほど燃えるのが男という生き物だし、四組にも一人重要な原作キャラが在籍しているのだから。
その少女の名は更識簪。
IS学園の生徒会長を姉に持つ、日本の代表候補生だ。
名字の読みが一緒だったこともあって、彼女は鞘無の真後ろの席だった。先ず真っ先に思ったのは、原作で知るように物静かだということ。鞘無の知識の中では簪は優秀すぎる姉というものにコンプレックスを持ち、自分を卑下するような少女で、特撮モノが大好きだということくらいしか分からず、こうして目の当たりにするまでは彼女に対して漠然としたイメージしかなかった。
彼としては一組の箒やセシリア、後々転校してくるであろうシャルロットなんかと親密な間柄になりたいと考えていたが、簪を目の前にして彼の胸中では。
――――アリだな。
他のヒロインたちが目立ちすぎるために埋もれがちだが、簪も十二分に整った顔立ちをしており、良い関係を築いておいてメリットはあってもデメリットは存在しないと鞘無はすかさず判断した。
そしてそれを実行する能力に彼は長けていた。というか、後先考えずに突っ走った。
『更識さん』
『…………なに?』
声を掛けてから数秒後、訝りつつも簪は鞘無へ返答した。
そのオドオドとした姿に内心で悶えつつも、決してそれを表には出さず彼は続けた。
『代表候補生なんだってね。俺は皿式鞘無、一年間よろしく』
『…………はぁ、』
差し出した手を簪はしばし凝視していたが、やがてゆっくりと自らの手を差し出した。
握手した祭、簪の手がビクッと震えたが鞘無は深く考えず、満面の笑みを浮かべて満足そうに頷いた。
『そういえば俺と更識さんて名字一緒だね』
『………………そうだね』
なんだか話すごとに簪の話すまでの間が長くなってきているような気がするが、鞘無は気にしつつも会話を切らず、
『名字が同じだと分りにくいからさ、簪さんて呼んでもいいかな?』
『え……?』
『俺のことも鞘無って呼んでくれていいから』
『それは、ちょっと……』
『あ、先生来たみたいだ。また後で話そう』
そう言うと鞘無は前に向き直り、そしてこの試合の原因となる出来事が発生するのである。
因みに前に向き直った時の鞘無はたいそうやりきったような表情をしていたが、その後ろで簪は握手した手をハンカチで擦り切れんばかりの勢いで拭いていた。
◆
簪にとって、皿式鞘無という少年の第一印象は図々しい。この一言に尽きる。
いきなり話しかけてきたと思えば握手を求め、あろうことか自身の意思を無視してこの試合を組んでしまったのだ。
はっきり言ってしまえば、簪は今目の前でラファールを展開している少年のことが嫌いだった。
基本的に男性に対して積極的に関わろうとしない簪にぐいぐいと来る鞘無の存在は彼女にとってはマイナスしかなく、またどういう訳かはじめから彼のことが気に入らなかったこともあって、現在簪の中で皿式鞘無という少年の評価は父である更識笄をも上回ろうとしていた。
『簪、準備はいいか?』
「うん、いつでも……」
打鉄弐式の回線越しに訪ねてくる兄にそう答え、簪は今一度正面に立つ少年へと視線を向けた。
男性にしては長い茶髪の髪を肩口で切り揃え、濃緑のラファールを纏う少年は黙っていればイケメンだと判断できなくもない。間違っても簪はそんなことを思わないだろうが。良くも悪くも、少なからずブラコン気質だからである。
そんな彼の表面上に騙されてしまう女子生徒も、決していないとは言えない。
(……させない。この学園の生徒たちに、そんな酷いこと)
ガシャンッ、と簪は身の丈程の武装を展開し正面に構える。
夢現(ゆめうつつ)。
近接武装である対複合装甲用の超振動薙刀である。これは高周波振動発生機をIS用武装の薙刀に取り付けたもので、刃の部分が超高速で振動する。その振動によって物体を切削するのだ。
因みにこの武装は高速振動によって発生させた熱で相手の装甲を切断ではなく溶断することも可能だ。
それに対する鞘無は近接用のショートブレードを片手で構え、空いている方の手には何も持っていない。
不敵に笑う鞘無に、簪は若干カチンときたのか。
(……とりあえず、さっさと片付ける)
内心で秒殺を決意しつつ、簪は開始の合図を待つ。
そして管制塔から楯無の声がアリーナに響くと同時、両者は最短距離で突っ込んでいった。
◆◆
「さて、どうなるかな」
「更識先生はどう思われますかぁ?」
管制塔から試合の様子を眺めていると、俺の独り言に反応した隣の安形がこちらを見て問いかけてきた。
安形は俺よりも一つ年下の二三歳だが、なんかこうポヤヤンとした雰囲気の女性だ。常に笑っているというかほんわかしているというか、目の前を蝶が横切るとそれを追いかけてどこかへ行ってしまいそうな、そんな空気を纏っている。そんな彼女ではあるが、実は元代表候補生だ。真耶と同期の彼女は国家代表にはなれなかったもののその実力はこの学園で教鞭を取るのになんら問題ないレベルである。
ふんわりとウェーブした腰ほどまで伸びた黒髪を揺らしながら、彼女は俺の返答を待っている。
「どうって、そりゃこの試合結果についてか?」
「はいぃ」
「そりゃ簪の勝ちだ。百パーセントな」
「それは身内贔屓抜きで、ですかー?」
「贔屓なんてしてないさ。そんなもん抜きにしたってアイツは強いよ。それだけ努力してるし、目標がハッキリしてる分迷いもない」
「目標、ですか?」
「打倒姉、次は俺。なんだとさ」
「ふふ、良い妹さんを持ちましたねぇ」
「全くだ」
いつだったか、簪が俺に言った言葉を思い出す。
――――今はまだ背中も見えないけど、いつかお姉ちゃんもお兄ちゃんも、超えてみせる。
そう言う簪の瞳は、これまでにないくらいに燃えていた。
そんなこと言うようになるまで成長していたんだなと嬉しく思う反面、簪の前に立ちはだかる壁に相応しく強くいようと思った。それはきっと、姫無も同じだろう。
「何考えてるの? 兄さん」
「……管制塔は教師以外立ち入り禁止なんだが?」
突如として背中に暖かい感触が伝わったかと思えば、聞き慣れた声が俺の耳元で囁かれる。
振り向かずとも誰か分かる、何せ俺の視界の端で水色の髪の毛先が揺れているのだから。
「そこはほら、会長権限よ」
「職権乱用しすぎだ」
「むう、いいじゃない。もう放課後なんだし固いことは言いっこなしってことで」
背中から俺に抱きついてきたIS学園生徒会長、更識姫無は俺の言葉も華麗にスルーして管制塔から出ていこうとはしなかった。
俺も別段強要するつもりもなかったが、姫無には口先だけの注意であることなどお見通しだったようだ。全く、いつからこんな風に人をくったような性格になってしまったんだか。お兄ちゃん心配。
「あ、安形先生こんにちわー」
「ふふ、こんにちわ更識さん」
俺に抱きついたままの体勢で安形への挨拶を済ませる姫無。他の教師の前ではこんなことしないだろうが、安形がこんな性格なので姫無も猫を被ることをしないらしい。
「つうか、生徒会の仕事はどうした」
「…………」
「おいコッチ向けよ」
首を回して後ろを向けば、一瞬にして顔を背けられた。
これ絶対虚に仕事押し付けて逃げてきたな。後で虚にはきつくお灸を据えてもらおう。
「そ、そんなことより! 簪ちゃん、どういう感じなの?」
自身も苦しい話題転換だと感じているのか俺と視線を逸らしたまま尋ねる姫無に俺はハァ、と一度溜息を零してから答える。
「どうって言われてもな、今始まったばかりだぞ」
「でも簪ちゃんならアレくらい瞬殺できるでしょう?」
否定はしない。姫無の言うことは別に冗談でもなんでもなく、単純に簪の能力を推し量った結果出されたものである。
あの男、皿式鞘無がどういった経緯でISを起動させることが出来たのか全くの不明だが、どうやら束の差金ではないらしい。束とつい先日連絡を取った際もあの少年の存在を酷く嫌がっていた。それはまるで、昔の織村に対するもののような嫌い方だった。
やれアレはISを汚してるだとか、やれ刻んで解剖してやりたいとか。
そこはとなく昔の織村と同じニオイがしたのは、どうやら俺の気のせいではなかったようだ。
「ま、あの皿式くん、だっけ? アレが何かとんでもない隠し玉でも持ってれば話は違うかもしれないけどね」
ようやく俺の背中から離れた姫無が懐から扇子を取り出してそう言う。
開かれたそれに書かれているのは『即死』の文字。どうやら姫無もかなりあの男のことを毛嫌いしているらしい。いや、俺が言えた義理じゃないけれども。
「安形。彼の情報はある程度あるんだろう?」
「うーん、それがぁ、身長体重の基本データや出身地くらいしかハッキリしたことは分からないんですよねぇ」
頬に手を当てて困ったわぁ、と零す安形。
いや、お前担任だろうがもっとよく調べとけよと言いたくもなったが、彼女に情報処理を任せること自体が間違いであることに気づいて言うのを止めた。彼女にパソコンなんて触らせたらナターシャのようになりかねないと判断したからだ。
「あ、簪ちゃんが動いた」
姫無の言葉につられて視線をアリーナへと戻せば、そこには近距離で戦う二機のISの姿があった。
◆◆◆
(くっそ、速ぇ!?)
鞘無は簪の攻撃速度に内心で舌を巻きつつ、必死にそれをブレードで防いでいた。
防戦一方。戦局など確かめるまでもなく、簪の一方的な蹂躙だった。
まず得物のリーチからして違う。
簪の使用する夢現と呼ばれる薙刀と鞘無のショートブレードでは、同じ近距離用の武装と言ってもその間合いが大きく異なるのだ。
鞘無は簪の振るう薙刀のリーチに飛び込まなくてはそのブレードを当てることは出来ないが、簪は鞘無の間合いに入らなくてもそのリーチを生かして攻撃することができる。
更に夢現は高周波振動を発生させており、その威力は通常攻撃の比ではない。一撃もらうごとに、鞘無のシールドエネルギーはぐんと減っていった。
そんな鞘無を正面に捉えつつ、簪は内心で呟く。
(…………弱い)
試合開始後すぐの何度かの攻撃を見て思っていたことだったが、この時点で確信に変わった。
この少年は、大したことがない。
先日教室であれだけ大きなことを言っていたのだから、その実力もある程度見合っているのだろうと踏んでいた簪だったが、これでは少し緊張していた自分がバカみたいだった。
――――こんなのが、お兄ちゃんや一夏君と同じ?
――――冗談にしては、笑えない。
スッ、と簪の眼が細くなる。
この程度で戦いを挑んできたのかと思うと、何だか馬鹿にされているような気がした。
攻撃の手を休めることなく鞘無のシールドエネルギーを削っていく。
向こうもどうにかしようと画策しているようだが、折角ラファールに乗っていても武装をコンマ数秒で切り替えるラピッド・スイッチが使えないのでは大した驚異にはならない。武装切り替えの時間を与えることなく攻撃を続けていれば、いずれ向こうのエネルギーは尽きるのだから。
「……そろそろ、終わらせる」
「あぁ!? そんなことさせないってーの!!」
まだ口を開く余力は残されていたのか、簪の言葉に鞘無はいたく反応した。
このままではいけないと判断したのか、多少のダメージは覚悟の上で鞘無は大きく後方へと下がった。簪がそうはさせまいと追撃するが、致命傷を与えるには至らなかった。
なんとか距離を取ることに成功した鞘無は、視界の隅に映し出されたラファールのシールドエネルギーを確認する。
(残り三八……。ちっ、油断した。まさか簪がここまで強いなんて想定外だぜ)
ショートブレードを量子変換して戻し、鞘無は簪へと正面から今一度相対した。
あの薙刀は非常に厄介な代物だ。こちらのブレードでは先のように一方的にやられてしまうし、かといって遠距離から確実に当てられる武装もない。というか、鞘無には射撃のセンスが皆無だった。
(……やるしかねぇか)
鞘無としてはこんなところで使用する気は全くなかった。
神様から転生する際に貰った能力は確かに強力なものだったが、それ故に加減を間違えれば相手を傷つけてしまうと考えていたからだ。
しかし、どうやらそうも言っていられないらしい。
出来るだけ余裕があるように見せるために俯いて小さく笑ってみせる。本当は余裕なんてこれっぽっちもないが、女の子の手前カッコ悪いところを見せたくなかったのだ。
だが、能力の解放を決めた今内心でほぼ勝利を確信してもいた。あのチカラを使えば下手をすればISなんて吹き飛ぶ。それほどまでに圧倒的な能力なのだ。
「……いいよ、わかった。見せてやるよ……」
俯いたまま、鞘無は口を開く。
「簪さんの強さに敬意を評して、俺も全力でお相手しよう」
「……何を、言ってるの……?」
訝る簪を尻目に、彼に自分の世界へと入り浸っていく。
「本当は使いたくなかったんだけどな。君があまりにも強いから、俺も奥の手を使わざるを得なくなってしまった。ああ、誇っていいよ。これを人間相手に使うのは君が初めてだ」
くつくつと笑う鞘無へ、簪は何か汚物でも見るかのような冷ややかな視線を向ける。
この少年は、一体何を言っているのだろう。まさかどこか打ったのだろうか。これまでの戦いぶりを見る限り戦闘においては全くの素人だということをとっくに見抜いていた簪としては彼の言うことの意味が全く分からなかった。
しかしそんな簪の視線には気づかず、鞘無は大仰に言った。
「これを使うと決めたからには、もう俺の勝ちは揺るがない!」
そう言って鞘無は右手を簪へと突き出した。
その手には、これと言った武装は握られていない。
が。
(あれは……、コイン……?」
通常のコインのようなものではなく、その何倍もあろうかというサイズのコイン。それが鞘無の手に握られていた。
そんなもので、一体何をするつもりなのだろうか。疑問に思いながらも簪は夢現に代えて新たな武装を展開させる。
やがて鞘無を中心として、バチバチと紫電が発生しだした。
「電気……?」
「ああ、これは出来れば使いたくなかった。本当だぜ?」
腕を突き出したまま、鞘無はニヤリと口角を吊り上げる。
(学園のラファールに、そんな武装は無かった筈だけど……、)
それを目の当たりにしながらも、簪はどこまでも冷静に眼前の出来事を分析していた。IS学園に配備されている訓練機であるラファール・リヴァイヴには電撃を撒き散らすような武装は搭載されていない。基本的なブレードとライフルといった扱いやすいものだけが積まれていた筈だ。
そんな簪の思考を知ってか知らずか、ご丁寧にも鞘無は説明を始めた。
「これは言ってみれば単一使用能力みたいなものでね。ああ、と言ってもラファールのじゃないよ、……俺の、だ」
何やらイイ顔で言う鞘無。
今すぐ顔面に夢現を突き刺してやりたくなったが、簪はそこを堪えて問いかける。
「あなたの、ワンオフ……?」
「ま、実際にはちょっと違うんだとうけど。そういう認識でいいと思うよ」
ちょっと何言ってるかわからないです、と思わずツッコミかけた。
単一使用能力とは専用機を持つ人間がその機体とのシンクロ率を上げることで使用可能になるその機体だけの能力のことだ。この境地に至るのはとても困難で、世界でも数える程度の人間しかその能力は使用することが出来ない。
それを、目の前の少年が使えると言っているのだ。確かにラファールに電撃系統の武装は無い。無いが、
「……あなたに単一使用能力が使えるとは、思えない」
「なら、その目で実際に確かめてみなよ……!!」
ピイン、とコインが弾かれる。
舞い上がったコインは、やがて重力によって落下を始める。それに合わせるように鞘無の周囲の電撃も激しさを増していく。
――――そして。
「超電磁砲って知ってるか!!」
手元へと落ちてきたコインを、鞘無は渾身の力で弾き出した。
超電磁砲。
フレミングの法則に則って、弾丸を音速の三倍の速度で射出する兵器。轟音と熱を周囲に撒き散らしながら突き進むコインが、簪へと襲いかかる。
「……え、知ってるけど」
「は?」
素っ頓狂な声を上げた鞘無が、超電磁砲ごと簪の荷電粒子砲によって消し飛ばされたのはその直後のことだった。
次回(嘘)予告
楯「お前、何簪に危ないもん撃ってんだよ」
皿「は……、え……?」
楯「歯ァ食いしばれ」
皿「え、なんでなんでなんで!?」
楯「俺の最強(物理)は、ちっとばっか響くぞぉッ!!」