双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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 今回はクラス代表決定戦前の繋ぎ回みたいなもんです。


#3 思惑と矜持

 

 

 

 千冬と安形からアリーナの使用許可申請書を受け取った日の夜、もろもろの仕事を片付けた俺は自室で一人安酒を煽っていた。

 入学式初日ということで職員室も慌ただしく、通常より仕事量も多かったが、流石にこの時間までかかることはなかった。時刻は午後十時。俺の部屋があるのは二年生の寮の一階の一番端だが、消灯時間が過ぎているために廊下や談話室をうろついている生徒はいないだろう。

 因みに先程千冬から受けた報告によれば、一夏と箒は同室でしばらく過ごすことになったらしい。

 どうして一夏を俺が学園に居た頃に使っていた男子用の寮に入れなかったのかという疑問があるだろうが、俺があそこを使っていたのは六年も昔の事である。それから今年まで男性のIS操縦者は現れなかった。その間使われることがなかったあの部屋は、今では物置がわりに使用されてしまっているのだ。

 撤去すれば住めるだろうと思うかもしれないが、六年分の物となると結構なもので、住めるような状態にまで戻すには少なくとも一ヶ月程時間がかかる。という訳で、男子寮が使えるようになるまでの期間、一時的な措置として一夏を箒と同室にすることにしたらしい。

 

 まぁ、見ず知らずの女子と同室になるよりは幼い頃からの付き合いである箒のほうが一夏もいいだろうし、幾分か気も楽だろう。

 あの二人が俺の知っている原作のような一夏と箒であったならば大問題になりそうだが、この世界での一夏は冷静で箒は大人しい。違いで見れば些細な点かもしれないが、これは実は人格形成の上ではかなり重要な部分でもあるのだ。

 

 とは言っても、一夏の天然朴念仁ぶりは原作までとは言わなくとも発揮されたりはしているが。

 いつか姫無や簪が一夏の毒牙にかかりそうな気がしてならない。もしそうなったら俺は愛弟子である一夏を殺すことができるのだろうか。いや、殺すと言っても言葉通りの意味ではなく、精々四分の三殺しくらいだから心配いらない。などと意味の分からない言い訳を自分自身にしていると。

 

 コンコン、と部屋の扉を叩く音が耳に入ってきた。

 

 先も言ったように、学生の消灯時間は既に過ぎている。なのでこの部屋にやってくるのは俺と同じこの学園の教師の連中か、規則を破って大胆にもノックをした学生。もしくは――――。

 俺は呑んでいた缶ビールを机の上に置き、立ち上がって部屋の扉を開けた。そこに立っていたのは。

 

「やっほー」

「……消灯時間は過ぎてるぞ」

「そこはほら、会長権限というやつよ」

「職権乱用すぎるだろ」

「あら、兄さんだってこれくらいしてたんじゃないの? 織斑せんせーとか篠ノ之博士とかと一緒に」

 

 何やら多分に含みのある言い方をしてニヤリと笑うのは、このIS学園の現生徒会長にしてロシアの国家代表を務める少女。分かりやすく言えば、俺の妹である更識姫無だった。既に後は寝るだけなのか可愛らしいパジャマに着替えた姫無はドアと俺の間を巧みにくぐり抜け、なんともないように俺の部屋の中へと入っていく。

 どうして彼女がこんな時間に俺の部屋に、と思ったりはしない。何と言うか、コレはいつもの事だからだ。毎日という程頻繁ではないが、週に二、三度姫無はこうして消灯時間を過ぎた頃に俺の部屋を訪れては此処で時間を潰していく。そのまま俺のベッドで寝てしまう、なんてこともザラだ。

 

「うわ、兄さんお酒呑んでたの?」

「いいだろう別に。勤務時間でもあるまいし」

「そうだけどこういうの、私はあんまり好きじゃないなー」

「なら彼氏が出来たときは酒は呑まないようにしてもらえ」

 

 そんなことがあれば俺はその彼氏を処刑しなければならないだろうが。

 なんてことは思っても決して表情や口には出さない。

 

「む、なぁに兄さん。兄さんは私に彼氏が出来てもいいってわけ?」

「俺の意向は関係あるのか? 俺が嫌だと言ったらお前は彼氏を作らないと」

「そうよ?」

 

 きっぱりと。あっさりと。

 姫無は真顔でそんなことを言ってのけた。

 

 余りにも平然と言うので、一瞬呆気に取られて持っていたビール缶を落としそうになってしまった。

 

「当たり前じゃない。それに前にも言ったでしょ? 私、同年代には興味ないのよ」

「一夏とか面良いじゃないか」

 

 いつの間にやら妹の恋愛事情の話になってしまっているが、兄としては聞いておきたいところでもあるのでこのままこの話を続行させる。まぁ、別に俺としても姫無に彼氏を作って欲しい訳ではない。だが今の彼女は世間一般的には思春期と言われる時期であり、そういうことには少なからず興味を持ってもおかしくはないのだ。

 いや、興味と言われれば、確かに姫無もそういったことには興味は抱いているだろう。何か最近スキンシップが過激になってきたし。

 だがそれが異性に向いているかと言われると、どうも違うらしい。兄としては妹に好かれているというのは喜ばしい限りだが、流石にいつまでもそういうわけにもいかないだろう。

 余り想像したくはないが、何れは姫無も理想の人を見つけ一つの家庭を築くようになる。未婚の俺が言えた義理ではないが、そういう幸せを味わって欲しいと思うのだ。

 

 そんな気持ちとは反対に、やっぱり遠くに行って欲しくないと思う気持ちも存在しているわけだが。

 一夏のことを引き合いに出したのも只単に真っ先に思い浮かんだ姫無と同年代の男子、というのに当てはまったのが一夏だっただけであり、他意はない。

 

「一夏君は確かに優良物件だと思うけど、私の好みじゃないわ」

「お前の理想は高そうだからなぁ」

「あら、そんなことないわよ?」

 

 そう言って、姫無は俺の首の後ろから腕を回す。必然、姫無の胸が当たっているが兄なので何とも思わない。そんなことお構いなしに、俺の耳元で姫無は囁くように口を開く。

 

「ほら、此処に私の理想とする人は居るもの」

 

 普通の男子学生が聞けば卒倒してしまうくらいに艶のある声で言う姫無は、凭れるようにして俺へと体重をかけてくる。

 これが姫無なりの甘えだということが分かっている俺は、特に何も言わず妹の好きにさせている。しかしまぁ、こうも好かれているのは兄冥利に尽きるが、姫無を狙っている世の中の男共には少しばかり同情してしまうな。まぁ、同情はしても容赦はしないが。

 

「ところで、何か用があって俺のとこに来たんじゃないのか?」

「あ、そうだった」

 

 どうやら本件の方をすっかり忘れてしまっていたらしい姫無は、俺にくっついたまま本題を切り出した。

 

「簪ちゃんの模擬戦についてなんだけど」

「やっぱりそれか……、」

 

 妹が切り出した話題は、十中八九俺の想像した通りのものだった。俺が普段居る学年主任室は生徒会室の隣にあるので、恐らくは話が漏れていたのだろう。一応言っておくが、IS学園の重要な部屋には基本的に万全な防音対策が施されている。漏れた、という表現も俺や千冬の声が外部に聞こえていたというものではなく、姫無の情報網に引っかかったという意味合いでのものだ。

 

「当然でしょ、何アレ」

「いや、何って言われてもなぁ……」

 

 俺だってあの申請書の内容を確認したときは驚いたのだ。あの簪が、よりにもよってあの四人目とクラス代表の座を懸けて戦うことになるとは思いもしなかったのだから。放課後簪本人に聞いてみたところ、本人の意思とはほぼ無関係に話がホイホイ進んでしまって断るに断れない状況になってしまったらしい。その事については後で安形をシメることで良しとした。

 

「あんな得体の知れない四人目と戦わせるなんて」

「いや、まぁお前がそうやって簪のことを心配する気持ちは分かるけどな。俺はそこまで心配してないぞ?」

「どうして? ついにシスコン脱却?」

「おい」

 

 シスコンだの言うな。そこまでの重度のものじゃない。

 

 それに簪も、いつまでも俺や姫無に守られてばかりの弱い存在ではない。

 これまで血の滲むような努力を積み重ねてきたのだ。俺や姫無という存在は、時には簪に重く伸し掛ったかもしれない。世界初の男性IS操縦者とロシアの国家代表を兄と姉に持つ妹の気持ちを、俺はそこまで理解できる訳ではない。しかし、いつも比較されて苦しい思いをしてきた簪が少なからず俺や姫無と自信を比べて落ち込んでいたのは知っている。

 それでも、簪は決してそんな他人の評価に一喜一憂されたりはしなかった。むしろ他人が付けた評価をひっくり返してやろうとしていたくらいだ。

 その努力がようやく報われたのは、IS学園に入学する少し前のことだ。簪からの電話に出てみれば、代表候補生に選出されたことを教えてくれた。これでようやくお兄ちゃんやお姉ちゃんの背中が見えてきたよ、と嬉しそうに話してくれたのだ。

 

 そんな簪が、どこの馬の骨とも分からない奴に負けるとは思えない。

 

「私だって簪ちゃんが負けるとは思ってない。けど……」

「ま、相手が相手だからな」

 

 唯一、不安要素があるとするならば、それは簪の対戦相手が男であるということなのだ。

 俺という存在があってからなのか、原作の簪よりも基本的に強くなった簪だったが一つだけ難点があった。

 それは――――。

 

「簪ちゃん。極度の男嫌いなのよねぇ……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 楯無と姫無の二人がそうボヤいている頃。少女、セシリア・オルコットは自室でパソコンの前に鎮座していた。同室の少女は早々にベッドで眠りについているが、セシリアはそんな彼女を起こさないよう気遣いつつも目の前の画面から目を離さない。そこに映し出されているのは、一夏の入学式前に行われた山田真耶との試験時の映像だった。

 山田真耶と言えば第二回モンド・グロッソで射撃部門を制した世界トップクラスのIS操縦者。セシリアも試験時に一度対戦したが、いいようにあしらわれたことは記憶に新しい。何せ山田真耶という女性は世界で五人しか存在しないヴァルキリーの一人。モンド・グロッソの各部門を制した者にだけ与えられる称号を持っているのだ。通称『V5』と呼ばれる彼女たちは、世界中のIS操縦者たちにとって憧れであり頂点。その一人と戦う織斑一夏という少年は、お世辞にもISの操縦が上手いとは言えなかった。

 

 しかし、それでもセシリアは一夏から目を離さない。

 もしこの映像を何も知らない女子生徒が見れば、なんと滑稽に逃げ回るのかと思うのかもしれない。事実、映像内の一夏は真耶が放つ弾丸を必至に躱し、時には崩れながらも致命的なダメージだけは避けるようにしているだけで、全くと言って言い程攻撃に転じていない。

 

 だが彼女には視えていた。

 一夏の動きの至るところに見え隠れする、あの人の動きと重なる部分を。

 

(やはり、この動き……、)

 

 映像を見て、セシリアは確信する。

 

(一夏さんがあの方の弟子ということで、間違いなさそうですわね)

 

 脳裏に過るのは、まだセシリアが代表候補性になって間もない頃。世界初の男性IS操縦者だという男性が、イギリスまでやってきたのだ。どういった経緯でそうなったのかは当時のセシリアには分からなかったが、セシリアの指導役でもあったチェルシーの師匠、リリィ=スターライ国家代表の伝手を使ったということは何となく聞かされていた。

 当時のセシリアは、ハッキリ言ってあまり男性に良い印象を持っていなかった。女尊男卑の風潮というのは徐々に薄れつつあったが、彼女の父は母に媚び諂うようにして生きていたのだ。何をするにも母が中心。婿養子ということも理由にはあったのだろうが、それを差し引いてもあまりにも父の態度は一家の大黒柱と呼ぶには相応しくなかった。

 そんな父を間近で見てきたからなのか、セシリアの男性像というのは父を基本にして構築されてしまった。

 故に男性は女性に媚びるようにして生きる人間が多いのだと、勝手に思ってしまっていた。

 

 しかしそんな彼女の勝手な考えは、目の前の男性の戦闘を目にした瞬間消し飛んでしまった。

 

 先輩代表候補生であるチェルシーが、指一本触れることが出来ない。

 その師匠でありイギリス国家代表であるリリィが、まともに反撃することも出来ない。

 

 圧倒的。その言葉に尽きる。

 男性とは、ここまで強い生き物だったのか。

 

 彼女のこれまでの価値観が、たった一日で塗り替えられた。

 

 リリィたちと模擬戦を終えたその男性のもとへと近づいていくと、何か話しているのが耳に届いた。どうやらその男性を含めた三人で話をしているらしかったが、その輪の中に入っていくことはどうにも憚られたので不躾だとは自覚しつつも、彼女はこっそりと聞き耳を立てることにした。

 

『相変わらず反則的なまでの強さよね』

『リリィも強くなったじゃないか』

『当然。これでもイギリスの国家代表を任されている身だから。……ていうか貴方に言われても皮肉にしか聞こえないわね』

『そんなつもりは無いよ。それにそこの、チェルシーって言ったっけ? 彼女も中々筋がいい』

『あ、ありがとうございます!』

『いつか俺の弟子とも戦うことになるかもな』

『弟子? そんな子が居るの?』

『まぁな。言っとくけど……強えぞ?』

 

 そう言って笑う男性。彼の弟子。

 純粋な興味をセシリアは抱いた。あの人の弟子とは、一体どんな人物なのか。知りたい。そしてその機会は、案外早くやってきた。IS学園の入学前、いつかのように全世界に報道された事実。三人目のIS適性を持つ男性の発覚。その顔写真を見た瞬間、面識は全く無い筈なのに、どういうわけかあの人と被って見えたのだ。

 

 そして入学式当日。セシリアは見た。この学園で教師となっていたあの男性と、例の三人目である少年が親密そうに話しているのを。この時点でセシリアは織斑一夏という少年があの男性の弟子なのだということをほぼ確信していた。それが確信へと変わったのは、休み時間に彼に質問を投げかけた時だ。

 

『貴方は更識先生とは一体どんな関係なんですか?』

『一応、俺の師匠みたいな人だけど』

 

 ああ、やはりか。と彼女は得心する。あの人と、同じ瞳をしていたから。

 クラス代表を懸けて戦う、というのもセシリアが手っ取り早く彼の実力を知るのに都合がいいと思ったからであって、決して一夏が代表になるのを拒むために嗾けたわけではない。とは言っても、余りにも弱ければ考え直すことになるだろうが。

 しかし、その心配はないだろうと彼女は映像を見ながら感じていた。

 織斑一夏は強い。

 ISの操縦技術や身体能力云々ではなく、心が。

 

「ふふ、楽しみにしていますよ。一夏さん」

 

 誰にも聞こえない声でそう呟いて、セシリアはパソコンの電源を落とした。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

「一夏、実際のところどうなんだ?」

「どうって、何が?」

 

 消灯時間を過ぎて暫くした頃、隣のベッドで髪の手入れをしていた箒が横たわって何やら考え事をしていた一夏へと問いかけた。

 普通の高校生の男女であれば同室に異性と二人きり、というシチュエーションはとても耐えられるものではないのだろうが、一夏と箒は幼少からの幼馴染である。箒がどう思っているのかは知らないが、少なくとも一夏に限って言えば自宅で寛ぐのと同じくらいリラックスしていた。

 

「代表決定戦のことだ。勝算はあるのか?」

 

 箒の問いに、一夏はうーんと唸ってから。

 

「勝算で言えばよくて三割ってとこだろうな」

「だめじゃん」

「だめとか言うな。こちとらISにまだ一回しか乗ったことないんだぞ?」

「それでよく対戦などと言えたな」

 

 やれやれ、と箒が呆れたように溜息を吐き出す。そんな箒を見ても何も言えないのは、一夏自身無謀であることは理解しているからだ。向こうはイギリスの代表候補生。ISの搭乗時間は三桁をゆうに上回る。対してこちらはISに乗ったのは試験の時の一回きり。これでハンデ無しに戦おうというのだから、無謀以外の何者でもないだろう。

 しかし、一夏の表情に陰りは一切なかった。

 

「確かにISに触れた時間なんてのは数十分だ。でも、師匠に何年も鍛えられてきたんだ。あの黒執事に」

「……ああ。よくあの鍛錬について行ったな」

「いや、本気で何回か死ぬかと思ったけどな」

 

 更識家十七代目当主、更識楯無との修行の日々を思い出し、背中に冷たいものが流れるような錯覚を覚える。一夏にとって、楯無につけてもらった稽古がセシリアに対抗できる唯一の手段と言っていい。世界初の男性IS操縦者にして、一夏の恩人でもある彼がISでの戦闘においても度々使用してきた更識流。これを会得とまではいかないまでも使えるレベルにまで至った一夏には、もう大の大人でも敵わない。楯無や千冬、姫無といった例外は割と多く存在するが。

 

「とにかく、やれることはやるさ。まだ時間はある、それまでに少しでも……」

「そうだな、稽古ならば私も協力してやれる。ISを使ってとなるとあまり役に立てそうにないが」

「何言ってんだよ。箒には授業の分からないところ教えてもらってるし、それだけでも充分だ」

 

 そう言って笑う一夏に釣られて、箒も微笑む。

 

「さ、もう寝ようぜ。明日も早いんだしな」

「うむ。おやすみ一夏」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 同時刻。

 一年生寮の一室で、一人の少年がベッドに仰向けになって今日一日のことを振り返っていた。少年の名は皿式鞘無。楯無、織村、一夏に続いて発覚した世界で四人目のIS適性を持つ男性である。シャワーを浴びたばかりなのかまだ湿り気を帯びた茶髪がベッドに付くのも構わず、彼は天井を見上げる。

 彼の部屋は一夏のように女子と同室、ということはなく最上階の一番端にある一人部屋だ。これも楯無が使っていた寮の部屋の掃除が終わるまでの一時的な措置だが、元は用務員室として使われていた部屋を無理言って使わせてもらったのだ。

 

「更識、簪か……」

 

 ポツリと、口を開く。

 

「イメージよりも小さかったな……、」

 

 そんな彼女と、クラス代表を懸けて戦う。ここまではハッキリ言って予想通りの展開だった。何年も掛けて行ってきたシミュレーション通りの展開、間違うはずはない。ただ、彼にとっての誤算はこの学園に三人も男性IS操縦者がいるということだった。予想では二人だけだった筈なのに、いや、そういった事もあるのかと納得することは出来る。何せ自分という存在がある時点で、正史のようなルートを歩むとは思えなかったのだから。

 だが。しかしだ。

 幾ら何でも、これはちょっと歪み過ぎじゃないだろうか。

 

「会長の兄がここで教師やってて二人目はアメリカ、挙句の果てにはモンド・グロッソのあの事件も水面下で解決。しかもその兄は篠ノ之博士と親密な間柄……、どうなってんだこれ……」

 

 おかしい、と彼が思い始めたのは世界初の男性IS操縦者が現れた時だ。こんな展開は想像できなかった。しかもあの更識の家の人間だ。何か裏がある、と思うのは至極当然のことだった。それに拍車をかけるようにして現れた二人目。その名前は彼の知る主人公、織斑一夏の漢字をいじっただけとしか言えないような名前の男だった。

 イレギュラーが混ざれば世界は歪む、とはよく言われることだが、これもきっと自身が紛れ込んだことによる影響なのだろう。そう思うことにしていた。

 こうして四人目としてこの学園に入学さえしてしまえば、俺には明るい青春が待っている。そう信じていた。

 

「んだよ……話が違うじゃねえかあの野郎……」

 

 先程までの言葉遣いとは違い、乱暴な物言いになった少年は一旦目を閉じた。

 折角こんな恋愛フラグが乱立する世界にやってこれたというのに、これではあんまりだ。

 だがこれしきで挫折するほど、皿式鞘無という少年はひ弱ではなかった。

 

「まぁとりあえず、簪との仲を深めるところから始めよう。俺の能力があればISを動かすのに問題はないし、まず負けないだろう」

 

 ニヤッ、と鞘無の口が三日月のように歪んだ。

 

 こうして其々の思惑が渦巻く中、クラス代表決定戦となる日がやって来る――――――――。

 

 

 

 




簪「あれ……、私の出番は……?」

ジカイニゴキタイクダサイ

簪「…………」

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