双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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 遅くなりました。
 やはりというかなんというか、戦闘描写が私は苦手です。そして字数も少ないです……。


#49 準決勝はその時点でフラグ

 

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 生徒会副会長対生徒会書記

 

 

 

 

 

 

 学年別個人トーナメント二日目も終盤に差し掛かり、午後となった今からはいよいよ準決勝が開始される。

 アリーナに立つは生徒会副会長にして日本代表候補生、織斑千冬。そして生徒会書記にして世界で二人目の男性操縦者、織村一華。この両名の対戦は実に半年ぶりのことである。その時の対戦では千冬が勝利したが、今回もそうなるとは限らない。

 モニターに映る二人の表情に硬さは全く見られず、開始の時を今かと待ち構えているようだった。

 IS学園の二、三年生の生徒たちはこの二人の以前の闘いを知っている。生徒会長である更識楯無に負けはしたが、この二人も間違いなく化物だ。それだけに、この対戦カードの注目度は圧倒的に高い。生徒たちだけでなく、各企業や委員会の重鎮たちもこの試合から少しでもデータを得ようと画策しているようだった。

 否応なく高まる周囲の期待。そんな中、当人たちはというと。

 

「こうしてるとあの時を思い出すな」

 

「半年前のことか」

 

「ああ、あの時は負けちまったが今回はそうはいかねぇ。勝たせてもらうぜ」

 

「ふ、その威勢だけは昔と変わらないな」

 

 周囲の声などまるで聞こえていないかのように言葉を秘匿回線で交わす。今や二人にはアリーナ一面の雑音など聞こえていなかった。その瞳に映るのは目の前の倒すべき敵の姿のみ。極限まで高められた集中力は、既に二人を世界から孤立させるほど研ぎ澄まされていた。

 

『これよりトーナメント準決勝、織斑千冬対織村一華の試合を始めます』

 

 管制塔から流れるアナウンスが響くと同時、観客たちの歓声が爆発する。耳を塞ぎたくなるような歓声も、やはり今の二人には聞こえていなかった。

 

 織村は既に自身の専用機『蒼翼』を展開し上空に浮遊している。第一世代型とは思えないそのシャープなフォルムはさながら中世の騎士を連想させた。

 対する千冬も既にその身にはISを展開させていた。彼女が最初に纏ったIS『白騎士』のように純白ではなく、薄く桃色が混ざったような白。見た目はそこまで変化していないが、しかしその性能は白騎士を遥かに上回る。

 天才、篠ノ之束の手によって造られた第一世代型IS。織斑千冬の為だけに製造されたその専用機の名は『白桜』。

 

 白と蒼。二機のISが対峙する中、アナウンスが試合開始を告げる。

 瞬間、二人は全力を以てして相手に向かっていった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 織斑千冬が操る『白桜』は、その機体に二つの武器しか搭載していない。どの機体よりも近接戦に特化した彼女の機体には、それ以外の武装を必要としない。

 そしてその手に握られる一振りの日本刀を模した近接ブレードが、彼女の使用する二つのうちの一つ、『枝下(しだれ)』。西洋剣のような両刃で大きなブレードではなく、片刃の日本刀のように細く、鋭いブレードだ。それを展開した千冬は、開始直後に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を用いて上空からこちらに向かってくる織村の元へと突っ込んだ。

 

 一撃必殺。

 そう呼ぶに相応しい一撃が織村へと放たれる。瞬時加速を使用した千冬の攻撃は織村の攻撃速度を上回り、そのまま上段から振り下ろされるブレードはヒットするかに思えた。

 

 が、そう簡単に攻撃を通させてはくれないようだ。

 

「いきなり瞬時加速か。お前が間合いを取るなんて考えちゃいなかったが、こうも明からさまにくるとはなぁ」

 

 枝下の一撃を空中に浮遊したまま腕で防いだ織村は、眼前に迫る千冬に口元を吊り上げてそう言った。

 

「ふん、お前が相手なら手加減などできそうにないからな」

 

「そりゃ光栄だ」

 

 鍔迫り合いの状態を良しとしないのはどちらかといえば織村のほうだ。なんと言っても千冬のもう一本の武装がある。アレをこの至近距離で使用されては、いくら織村と言えども完全に防ぐことは不可能だ。よって、織村は防御に回っていない左手を千冬に翳した。

 

「ッ!!」

 

 その動作を千冬が認識したと同時、織村の翳した左手を覆うように生まれる光の束。

 それはやがてバスケットボール大にまで膨れ上がり、そして、爆散した。

 

「ちっ!」

 

 爆散した光が無数の矢となり、千冬へと襲いかかる。その粗方を後方への瞬時加速で躱し、それでも迫り来るものは枝下で叩き伏せた。時間にしてみれば僅か十数秒にも満たない攻防。しかし、観客たちの目を奪うには十分すぎるものだった。

 

「へぇ、やっぱこんなんじゃお前にダメージは与えられないか」

 

「ぬかせ。今の攻撃の目的は私のシールドエネルギーを削ることだろう」

 

 一旦互いに間合いをとった二人は、そう会話を交えつつもその構えを解こうとはしない。

 

「まぁな。あの程度の攻撃でお前を堕とせるなんて思っちゃいねぇよ」

 

 織村はそう言い、僅かに口元を吊り上げる。

 

「――――こっからが、俺の本気だ」

 

『蒼翼』を纏った織村の背後から、爆発的な光が膨らむ。その様子を観ていた観客たちは思わず目を伏せ、その視界の全てが白で塗り潰されていく。アリーナ全体にまで及んだその光は、やがて一点へと収束し、その輝きを残したまま一つの形を作り出した。

 ようやく視界を取り戻した観客たちは、その余りの神々しさに言葉を失い目を見張る。

 

「……成程、出し惜しみは無しということか」

 

「そういうこった。悪いが、こうなった俺には――――」

 

 その背中に三対六枚の純白の翼を現界させた織村は、まるで悪役のような笑みを浮かべて。

 

 

 

「――――もう、お前の常識は通用しねぇ」

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

「うお、アイツ短期決戦に持ち込むつもりだな」

 

 控え室備え付けのテレビで準決勝の様子を観戦していた俺は、織村の背中に翼が出現したのを確認して織村が短時間での決着を狙っているのだと確信した。

 あの翼は織村が纏うIS『蒼翼』のワン・オフ・アビリティーだ。いや、正確にはそんなもんじゃないんだが、一応名義上はそういうことになっている。あの翼は織村が本気になると本人の意思に関係なく出現するもので、アイツもどうしてこの翼の形になるのかは分からないと言っていた。

 いやいや、お前完全にアレ(・・)に影響されてんじゃねぇか。俺が言えた義理じゃないが、完全にどっかの第二位だろお前。まぁ、お互いにそのことについては言及しない方向で話はついているのでそれ以上の詮索をすることはないが。

 

「織村のあの翼、いつ見ても病気的なまでに白いわね」

 

 俺の横で同じように観戦していたリリィがあの翼を見て呆然と呟く。

 確かにあの翼は白い。白すぎるのだ。千冬が初めて乗ったIS『白騎士』よりも白い、病気的なまでに。それはつまり、この世には存在しないような色なのだ。可視することもままならない、純白をも越える白。いっそ半透明と言っても差支えのなさそうな、そんな翼が、織村の背中で優雅にはためく。

 

「あれが出たってことは、この試合はあと数分もすれば終わりそうだな」

 

「どうして?」

 

「あの翼、かなりエネルギーを食うんだ(という設定)。それにあれが出たとあっちゃ、千冬も全力で向かうしかない」

 

 半年前、今二人が纏っている専用機はまだ完成していなかった。故に今の状態の二人が戦うのは初めてである。ハッキリ言ってそこいらの代表候補生など造作もなく圧倒できる二人の全力にこの第一アリーナが耐えきれるかそこはかとなく心配だが、その戦闘も直に終わるだろう。

 どちらが最後に立っているかは、俺にもわからないが。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「ほう、もうそれを使うのか」

 

「お前相手に手加減して勝てるなんて思っちゃいねぇからな」

 

 身の丈に迫ろうかという翼を揺らし、織村はニヒルな笑みを浮かべた。当然、この翼は彼の能力『未元物質(ダークマター)』によって生成されたものである。名義上単一使用能力とされているが、実際はエネルギーなど減る筈はない。が、そこは楯無の黒執事同様擬似的なエネルギー残量が使用され、攻撃を受ければ本物と同じようにシールドエネルギーが削られ、0になれば戦闘不能の表示が出るよう束の手によって細工されている。

 よって、織村にしてもこの能力仕様は諸刃の剣だ。エネルギーが無くなればその瞬間敗北が決まる。この能力使用時のエネルギー消費量は瞬時加速使用時の凡そ三倍。五分以上の戦闘は理論上不可能である。

 

 だが、それは千冬にも同じことが言えた。

 織村が全力で来る以上、彼女もまた全力で応戦せざるをえない。千冬の『白桜』に装備できる二本の武装、そのもう一つを展開する。左手に枝下を展開させたまま右手に呼び出したのは、枝下とは少々異なった近接型のブレードだった。日本刀を模してはいるものの、柄と呼ばれる部分は無く、刀身が異様に細い。フルンティングのような細さのソレは、しかし異様な空気を纏っていた。

 

「出やがったか……」

 

「出し惜しみは無し、とお前も言ったろう。全力で行くぞ」

 

 ガチャッ、とそのブレードを握り、千冬は構える。

『松月』と名付けられたそのブレードは、後の零落白夜の骨子となる性能を備えていた。即ち、一撃必殺。比喩ではなく、命中さえすれば相手を否応なく戦闘不能に追い込むことが出来る最強の剣。

 しかし、それ故に燃費の悪さも無視できない。これを展開した状態でその攻撃を行えるのは多く見積もっても二度あるかないか。それを外してしまえばほぼ織村の勝利が決まる。

 

 右手に松月、左手に枝下を構えた千冬はフェイントを織り交ぜながら織村へとブレードを振るう。

 しかし、その攻撃を簡単に受けるほど織村も甘くはない。

 

「甘いぜッ」

 

 翼の上方二枚を射出、それが千冬へと襲いかかる。

 翼の一枚を枝下で斬り伏せ、残る一枚を半身になることで躱した千冬は、右手に握る松月を織村へと向けた。

 しかし。

 

「言ったろう。……甘いってな!」

 

「ッ!?」

 

 松月を振り上げんとした正にその瞬間、千冬の背後を大きな衝撃が襲った。その衝撃に耐え切れなかった千冬の機体は僅かに揺らぎ、松月を構えた右手も織村を狙うことが出来なくなる。そして、それは千冬にとって決定的なまでの隙となってしまった。

 態勢を崩した所に織村の追撃が迫る。

 

「ナ……、メる、な!!」

 

 追撃となる複数の翼は枝下で迎撃することに成功した。

 織村も今の攻撃が千冬に通るとは考えていなかった。重要なのは、この後。つまり。

 

「こっちが本命だぜ」

 

 瞬時加速を用いて背後に回り込んでいた織村の周囲には、光の矢が無数に生成されていた。この矢一つ一つが未元物質によって作り出された必殺の一撃を秘めたものであり、それは千冬もよく理解していた。

 振り払った枝下での迎撃は間に合わない。最早千冬に残された手は一つ、一瞬千冬は逡巡したが、彼女は松月を光の矢に向かって横薙に振るった。

 直後、爆風が光の矢を薙ぎ払う。

 

 松月に付加されているのは零落白夜の骨子となった『零閃』ともう一つ、『一匣』と呼ばれる広範囲用攻撃が存在した。通常の刀を振るっただけではまず有り得ない威力の衝撃波が放たれ、周囲の敵を一掃する。こちらは零閃と違いエネルギー消費がそこまで多くはないため、千冬も近接戦を避けようとする相手に使うことが多々あった。

 今回の場合は迎撃と合わせ織村との距離を一旦開くために使用したが、結果的にその目論見は成功した。

 

 背後に翼を現界させたままの織村は空中で静止し、松月を構える千冬をじっと見据えている。

 

「いいのかよ、それだって普通の武装よりエネルギー食うんだろ?」

 

「構わん。元よりエネルギー残量を気にして戦える程お前を見くびってはいないつもりだぞ」

 

「ハッ、言ってくれるね」

 

 口元を吊り上げ、織村は再び翼を広げる。

 

「俺の未元物質には、お前の攻撃でさえ通用しないんだぜ」

 

「なら……、その目で確かめてみろッ!!」

 

 ドウッ!! と千冬が織村目掛けて突っ込む。愚直なまでに真っ直ぐなその機体は、その距離を二十メートルとしたところで、更に加速した。

 

「二重瞬時加速(ダブル・イグニッションブースト)か!!」

 

「これで、決める!!」

 

 何度目かの激突。

 居合のように松月を振るう千冬と、未元物質によって世界における常識をも塗り替える織村。

 試合開始のアナウンスから七分と十八秒、そして、轟音の後に勝敗は決した――――。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 準決勝第二試合、俺とリリィは既にアリーナに出て互いに向き合っていた。

 俺はいつものように漆黒の執事服を着込み、リリィは青い専用機を展開させている。彼女の専用機はイギリスが生み出した第一世代型IS『ティアーズ』。後にティアーズ型としてその形を変えていくことになる機体の第一号だ。既にそのコンセプトは遠距離主体と決まっているのか、彼女の右腕には大層なスナイパーライフルが展開されていた。

 対し、俺は白の手袋の裾をキュッと引っ張る。少しだけ口角が上がっているのを自覚しつつ、俺は彼女に話しかける。

 

「こうして戦うのは一年ぶりくらいか?」

 

「ええ、正確には三三八日ぶりよ」

 

 正確に覚えすぎだろお前。何だ、あの時の負けをまだ根に持ってるのか?

 

「忘れないわ。あの敗戦が、私を英国代表候補生にまで押し上げたのだから」

 

 昨年の四月。俺はリリィとクラス代表対抗戦で戦っている。その時の結果は俺が彼女を圧倒して勝利したが、それ以降リリィは俺への態度を軟化させて己を研鑽し続けてきた。それを見てきた俺は彼女がどれほど努力してきたのか知っているし、だからこそ、今回も勝ちを譲る気はない。

 負けたら生徒会長を辞さなくてはならないとかそんな理由は正直どうでもいい。最近になって気づいたことだが、どうやら俺は負けず嫌いみたいだ。それを千冬に言った時は『は? 今更?』と怪訝な顔をされたが。

 

 つい先程終結した第一試合の興奮冷めやらぬ中、試合開始のアナウンスが響く。

 

「さて、行くぜ」

 

「来なさい、蜂の巣にしてあげるから」

 

 黒と青。

 二つの影は、瞬く間に激突した。

 

 

 

 

 

 




 どちらが勝ったのか、ここでは敢えて描写しません。
 さて、そろそろキングクリムゾンの時間なのだZE☆

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