双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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 遅くなり申し訳ありません;
 ようやくの投稿です。


#44 不審者はその時点でフラグ

 

 

 

 前回のあらすじ

 うさぎさん襲来

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ちょっと待っててねかーくん。今から国際IS委員会の奴らを皆殺しにしてくるから」

 

「いやいやいやちょっと待て」

 

 俺の横を颯爽と通り抜けようとした束の襟を引っ掴み、とりあえずその場に正座させる。周りの視線が気にならないわけではないが、物騒なことを口走っていたコイツを放っておくわけにもいかない。アリーナ内の視線も気にせず、俺は目の前のウサギに尋問を開始。

 

「束、とりあえず落ち着け」

 

「これが落ち着いていられるかってんですよッ!!」

 

「やばいなキャラがブレまくってる。これ相当キてる時の束だ」

 

 頬を膨らませプンスカしている目の前の少女。

 まず第一に今までどこでなにしてたんだという疑問が浮上してくるが、今の束には何を言ったところで無駄だろうと思い、とりあえずは彼女の激怒の原因を聞き出す方向で考えを纏めた。

 千冬とも一旦視線を合わせ、こくんと首肯を受けたのちに口を開く。

 

「一体どうしたんだ? 束がここまで取り乱すのも珍しい」

 

「だってだって聞いてよかーくん!! あいつら私の研究所に毎日何千通も新技術の情報公開求めてくるメール送ってくるしそれには漏れなくウィルス付の偽情報で撃退してたんだけどそしたら学園通じて直接話がしたいとか言い出すしウザくて国外逃亡してて今日戻ってきたらアイドルの出待ちみたいな行列作って束さんのこと取り囲んで情報搾り取ろうとしたんだよ!!?」

 

 矢継ぎ早にそう話す束の目は血走っていて、今にも凶器片手に飛び出してしまいそうだ。

 というかIS委員会の人間たちも懲りないな本当に。以前にも似たようなことをして痛い目に遭ったことを忘れたわけではないだろうに。確かにそこまでのことをしてでも束のISに関する情報が欲しいのかもしれないが、幾ら頼み込んだ所で束が情報を提供する筈がないし、第一それは条約違反だ。

 

「前にも政府のコンピュータに束さん特性ウィルスぶち込んでやったけど、今回はどうしてやろうか……」

 

「いややめろよ?」

 

 危ない発言が飛び出している束に釘を刺し、チラリとアリーナ内に備え付けられた時計へと視線を移す。午前九時四十分。俺の試合開始時間はまだまだ先だが、そろそろ織村の試合が始まる頃だ。まぁ、別段見に行く必要もないんだが。どうせモニターで試合映像は見ることが出来るし。しかもたった二人しか居ない男性IS操縦者の試合だ。間違いなく混雑するだろう。IS関係者はもちろん、一般の観客や生徒たちもこぞって織村の試合を見に行く筈だ。生徒会書記としての名と実績も伊達ではない。

 

「どうする楯無。直に織村の試合が始まるが」

 

「まあ見なくても結果は分かりきってるけどな。とりあえず俺は姫無たちを特別席の方に連れて行くけど」

 

「ふむ。ならば私も一夏をそちらに連れて行ってから奴の試合を見に行くとしよう」

 

「あー! ずるいよちーちゃん、そんな風にかーくんと二人っきりになろうとして!!」

 

「なッ!? そ、そんな気は全くないぞ!! 大体、私たちは付き合っている者同士であってだな、例え二人きりでも別段問題は……」

 

「はいアウトー!! そんなのはこの私が許さないよちーちゃん!! 私がいない間に勝手に進展しちゃってるみたいだけど、そんなのは無効なのでーすッ!!」

 

 俺の存在など最初からなかったかのように口論を繰り広げる千冬と束。というかそんな話をこんな周囲に大勢の人がいる中でするんじゃない。さっきよりも視線が突き刺さるようになっているだろうが。

 

「……はぁ」

 

 ここ最近はこの溜息ともおさらばしていたんだが、如何せん完全に切り離すことなど到底無理だったようである。それと姫無よ、あの二人の口論に混ざろうとするんじゃない。そんな身を乗り出したって駄目だぞ。お前はあんな風には育っちゃいけないからな。

 

「俺はこの子ら連れて先行ってるからなー」

 

「あ、楯無逃げるな!!」

「かーくん逃げるのは無しだよッ!!」

 

 後ろでなにやら叫んでいるのが聞こえてくるが、それに一々反応していたら自分の身が持たないというのはこれまでの経験上分かっているので華麗にスルーし、俺は姫無と簪、そして一夏の手を引いてそそくさとその場を後にした。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

「……ふう」

 

 第一アリーナの内部に備え付けられた控室でISスーツに着替えた俺は、残りわずかとなった待ち時間をベンチに座って過ごしていた。

 別段緊張などはしていない。いくらこのトーナメントが世界的にも注目されるイベントであったとしても、結局はIS学園の生徒同士による模擬戦でしかないのだ。しかも自身は生徒会メンバーの一人。負けるつもりなどさらさらないし、対戦相手には残念だがさっさと終わらせてしまおう。

 

 そんな風に考えていると、不意にロッカーの中からバイブの振動音が聞こえてきた。俺はロッカーを開けて制服のポケットから携帯を取り出す。そのバイブはメールの着信を知らせるものだった。差出人の欄には、ナターシャ=ファイルスの文字。

 

(ナタル? こんな時に一体なんだってんだ)

 

 まさか何かトラブッたんじゃないだろうな、などと嫌な予感を覚えつつも、俺はそのメール内容を確認すべくフォルダを開く。

 その内容は、

 

『一回戦突破しましたよー(^o^) そろそろ織村先輩も試合ですよね? 頑張ってください! あ、あとIS学園の門のところにおいしいクレープ屋が来てるみたいですよ』

 

「知るかっ!!」

 

 思わず携帯を床に叩き付けてしまいたい衝動に駆られるが、それをなんとか押し留め携帯をロッカーの中へと戻す。

 ったくなんだったんだよあのメールは。クレープなんざどうでもいいだろうが。あいつは俺の集中力を乱そうとしてんのか?

 

「……っと、そろそろ時間だな」

 

 試合開始予定時刻は九時五十分。その時刻まで残り三分を切っていた。

 流石にもうアリーナに出ないとまずい。俺は一度呼吸を整え、そのまま控室を後にした。

 

 アリーナに出た瞬間、俺の周囲を包み込むようにして大歓声が響き渡った。生徒会のメンバーとなって約半年。今となっては慣れてしまった光景だ。対戦相手であるらしい女子生徒は既に純国産の第一世代型、『黒鉄(くろがね)』を装備した状態で俺がやってくるのを待っていた。

 俺としたことが、女性を待たせてしまったことを若干反省しつつ、俺はアリーナ中央へと向かう。

 

「悪いな。少し遅れちまった」

 

「ふふ。今日はその余裕そうな表情を浮かべる暇なんてないんだからね」

 

 俺の謝罪に対して好戦的な笑みを浮かべながら返答する少女。確かこの子はIS適性がBで中々操縦技術が高かった筈だ。

 さて、俺もいつまでもISスーツのままでいるわけにもいかない。このまま戦えないわけではないが、そんなのは更識の領分だ。俺が態々そんなことをする必要もない。

 ――――何よりも。

 

 俺には専用機があるのだから。

 

「来い、」

 

 俺が呟いた直後、全身を蒼い装甲が包み込む。現在世界各地に配備されている第一世代型のような無骨さはなく、どこまでもシャープな印象を抱かせるそれは、さながら中世の騎士のようにも見える。これは去年の冬、どういうわけか束が用意してくれた俺専用の機体だ。これまでの彼女との付き合いはお世辞にも良好とは言えなかったのだが、どうやら更識との確執が解消したことでふと気が向いたらしい。

 特徴的なのは背後に取り付けられたスラスターのようなモノだろうか。しかしこれ自体にはなんの攻撃性も無く、俺の『未元物質(ダークマター)』によって出現する翼の邪魔をしないようにと設けられたスペースのようなモノだ。後は本当に特徴のない、ある種プロテクターのようなIS。機体面積は最小限に、機動性は最大に。その分当然防御力は他の機体に比べて劣るが、そんなものは自身の能力でなんとでもカバーできる。

 

「ほんとにいつ見てもそれがISだなんて思えないよね」

 

「それは見た目がか? それとも――――」

 

 試合前にしては互いにリラックスして話している。ように思えるが、俺も彼女もこれが表面上だけのものであるということは分かっている。互いに開始の合図を待ち、始まった瞬間に仕掛けるつもりなんだろう。

 そして。

 

 試合開始のブザーが鳴り響いた直後。

 

「せいッ!!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)によって奇襲をかけてきた少女が、近接型のブレードを横薙ぎに振るう。剣道部だという彼女の太刀筋は見事なものだ。正確に俺の装甲が薄い部分目掛けてブレードを振るってくる。

 しかし。

 それは、俺には通用しない。

 

「――――この戦闘能力が、か?」

 

 言うと同時、彼女の機体が暴風に晒され体勢を大きく崩す。俺の能力によって生み出された暴風は、否応なく彼女をアリーナ外壁へと叩きつけた。

 

「ぐっ!!」

 

「悪いな。生徒会の一員としても男としても、俺は負けるつもりはねぇんだ」

 

 瞬時に少女への距離を詰めた俺は、そのまま手を彼女の機体へと宛がう。未元物質の混入によって新物質へと変貌を遂げた衝撃波が、彼女の装甲を一瞬で貫いた。

 瞬く間にシールドエネルギーの残量を減らしていく少女の機体は、やがて沈黙した。俺の勝利を告げるアナウンスがアリーナ内に響き、それに呼応するかのように観客たちの歓声が轟く。ざっと周囲に視線をやれば、観客席の一角に更識や織斑の姿があった。どうやら観戦に来ていたらしい。一回戦など、見なくても結果はわかりきっているというのに。

 

「……あん?」

 

 そんな更識たちを含む観客席の一角に、奇妙な人間を捉えた。全身黒づくめの長身の男。首にはしっかりと許可証が下げられているが、その男の纏う雰囲気は明らかに一般人のものではなかった。

 匂う。

 この匂いは、厄介ごとの匂いだ。更識の周囲に居たが故に鍛えられてしまった自身の感覚が言っている。更識たちはまだあの男の存在には気づいていないのだろう。あの男との距離は更識たちの方が離れている。丁度このアリーナ内の対極だ。

 

(……いや、更識たちに気づかれないようにあの場所に居た……?)

 

 だとすれば可笑しい。そこまで気付かれないように慎重に行動している筈の男が、俺がアリーナ内に居るのを知らない筈がない。しかもたった今まで戦っていたのだ。この歓声の中で俺の存在に気付かないというほうが異常だ。であるとすれば。

 

「……罠、か?」

 

 その可能性は高い。あえて自身にだけ己の存在を明かし、俺を誘き寄せるための罠。そう考えるのが最も妥当だと言える。

 どうする? 誘いに乗ってみるか?

 

 幸いにして次の試合までは一時間以上のインターバルがある。相手がどのような腹積もりなのかは知らないが、片づけるには十分な時間だ。

 更識たちには伝えておいたほうがいいか、と考えたところで俺はその考えを放棄した。

 今更識たちは久々に家族と会っているのだ。それに水を差すような真似は出来ることならばしたくない。俺が招待した弾はきっと今頃どこかではしゃいでいることだろうから放っておいても問題はない。というかどっか走って行っちまったし。

 

「さて、そうと決まればさっさと片付けるか」

 

 俺はISを待機状態のブレスレットに戻し、アリーナを出て男を追った。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「かかったようです」

 

「ふむ、詳細は?」

 

「織村一華。世界で二番目の男性IS操縦者。IS学園の三年生、生徒会に所属し書記を担当。その実力は『ビッグ4』に名を連ねているように学園、いえ。世界的にもトップレベルの超人です」

 

 IS学園から遠く離れたとある国内のオフィスビル。

 オペレーターから発せられた内容に、背後に立つ男は満足そうに頷く。

 

「よし。釣れた獲物は特大だ。何としてでも捕えろ。最悪四肢の一本くらいは削ってもかまわん」

 

「了解しました。こちらM-3、対象の捕縛内容を変更。生命に支障をきたさない範囲での攻撃を容認」

 

『M-17。了解』

 

 返ってきた返事を聞き、男はIS学園付近に仕掛けられた望遠カメラの映像をモニタに映し出す。学園内のセキュリティは天才科学者、篠ノ之束の存在もあって非常に高く、敷地内に監視カメラを設置することは不可能だったが、その敷地内ぎりぎりの所にカメラを設置することには成功した。男たちの目的のためには、有能なIS操縦者の存在が必要不可欠。特に男性の。

 その点において織村一華は非常に都合が良かった。生徒会長を務める更識楯無のほうは捕縛するのは非常に困難だと推測された。彼は非常に賢く、なによりあの更識の家の人間だ。早々こちらの都合のいいように動いてはくれないだろうとデータが暗に語っていた。

 反して、織村一華はとても扱いやすそうな人物像だった。プライドが高く自己中心的。更識楯無のことを毛嫌いし、自分が一番でないと気が済まない。典型的な直情型。このデータは以前のものだが、人間性格はそんな簡単に変えられるものではない。たとえこのデータから乖離していたとしても、修正できる範囲のものだろう。

 

 よって男たちは彼の捕縛に至る。

 更識楯無たちには気づかれないよう細心の注意を払い、織村一華にはギリギリ認識できるような場所で姿を現す。

 案の定、彼は男の存在に気づき、アリーナを出て男の後を追い始めた。

 

「クク、全く単純すぎて仕事のし甲斐がないね」

 

 思わず笑いが漏れるのも構わず、男は画面上の織村を見つめる。

 

「さあ、礎になってもらおうか織村君。僕らの――――京ヶ原の悲願のために」

 

 

 

 




 そんなわけで急展開。
 織村の運命や如何に!!ww

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