双六で人生を変えられた男   作:晃甫

45 / 114
#41 見習いはその時点でフラグ

 

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 クラリッサがデレた

 

 

 

 

 

「……っはぁ~、終わらねえ」

 

「口よりも手を動かしたらどうだ会長殿」

 

「でもやっぱりこの人数を振り分けるのは難しいですね」

 

「いっそのこと全部抽選にしちまえばいいんじゃねぇのか?」

 

 クラリッサとの決闘があった日の翌日。俺を含む生徒会のメンバー全員は授業時間中であるにも関わらず生徒会室にて膨大な量の書類と格闘していた。其々の机の上にはその束が山積みにされ処理されるのを待っている状態である。

 ちなみに上から順に俺、千冬、真耶、織村の言葉だ。

 

 さて、一体俺たちが授業を受ける間も惜しんでこの生徒会室で何をしているのかと言うと、今月末に行われる学年別個人トーナメントの組み合わせ決めだ。このIS学園は一学年が一二〇人前後なので、その組み合わせを三つ作成しなくてはならないのだ。因みにこのトーナメントは生徒は有無を言わさず全員参加なので、当然俺たちも参加しなくてはならない。

 

 しかし、それでは組み合わせを作成する俺たち生徒会メンバーが有利になるように山を決める可能性が発生するので、俺たちは当日あらかじめ決められている空白の場所を抽選によって割り振ることになっている。つまり俺たちも当日までどこの山に入るかは分からないのだ。でもそんな面倒なことをするくらいなら、ここの教師たちが組み合わせを作成すればいいのではないかと橘教諭に提案してみたところ。

 

『あん? なんでそんな面倒なことをしなきゃならんのだ。ほら、私だって結構忙しいんだぞぅ』

 

 とバッサリ。

 絶対面倒だからやりたくないだけだろあの似非教師が。

 

「つーか最近生徒会は便利屋みたいな扱い受けてる気がするんだが」

 

「そこはかとなくな」

 

 相も変わらず生徒たちからは羨望の眼差しで見られる俺たちだが、ここのところ教師陣からいいように使われている気がしてならない。特にあの似非教師を筆頭にして。確かにあの人には少なからず世話になったので無碍にすることはしないが、それでも少し教師らしい仕事をしたらどうなんだろうか。

 

「で、でも会長。それだけ信頼されてるってことじゃないですか!」

 

 真耶がそう言う。ああ、なんていい子なんだ真耶は。こんな雑用じみたことさせられてるってのに健気だなぁ。はっきり言ってこの生徒会は真耶がいなかったら成立していないと思う。主に事務的な作業が進まないという点において。

 

「……まぁ、組み合わせについては今週中に作成できれば問題はないらしいから徐々にやっていくとして」

 

 実はこの生徒会室に俺たち以外にもう一人、何故か居座っている人間がいる。

 織村の席の後ろにどこからか持ってきたパイプ椅子を置き、そこに鎮座している人物。

 

「どうしてお前が此処に居る? ナターシャ=ファイルス」

 

 金髪の少女、アメリカ代表候補生であるナターシャがどういうわけかこの部屋に居た。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 時は少しだけ遡って、会長とドイツ代表候補との決闘時。

 

 更識楯無生徒会長とドイツ代表候補のクラリッサ=ハルフォーフ。この二人の決闘を第二アリーナ観覧席上部、織村先輩の隣で見ていた私は信じられないような光景を眼にしていた。

 国は違うながらも国家代表候補生であるドイツの少女が、この学園の生徒会長に全く手も足も出ないのだ。あの人が『黒執事』であるということはデータで知っていたが、こうして目の前で闘いを見るとその異常なまでの強さに自然、喉が干上がる。

 

 ドイツの少女、クラリッサだったか。あの人も決して弱くはないはずだ。いや、間違いなくこのIS学園でトップクラスの実力を有している。

 にも関わらず、生徒会長には傷一つ付けるころが出来ない。

 

「…………」

 

 私は呆然として言葉も出なかった。

 そんな私に隣で試合を観戦していた織村先輩が問いかける。

 

「あれが生徒会(うち)の会長だ。アイツ相手に勝負吹っかけて、お前は勝てる自信があるってのか?」

 

「うッ……」

 

 こんな闘いをまざまざと見せつけられては、嫌でも実力差を感じてしまう。勝てない、少なくとも今の私がどれだけ努力しようと決して届くことのできない領域にあの人はいる。そう思わずにはいられなかった。

 

「つってもアイツ、手ぇ抜いてやがるみたいだけどな」

 

「へ!?」

 

 手を抜いている? あれで?

 

「よく見てみろ。アイツ、自分からは全く攻撃してないだろ。物理攻撃を反射あるいは躱すだけ。ま、相手にしてみりゃいいように遊ばれてるように感じてイラついてる頃だろうな」

 

 ったくどんだけ規格外なんだあの野郎は、と零す織村先輩の言葉に私は開いた口が塞がらない。

 あれでまだ全力じゃないって? 悪い冗談にも程があるでしょう。

 

「せ、生徒会長ってやっぱりスゴイんですね……」

 

 なんとかそう口に出すことに成功した私だったが、更に織村先輩は爆弾を投下。

 

「あん? つーか生徒会のメンバーは全員アイツといい勝負できるくらいには強ぇぞ。特に織斑なんかほぼ互角だ」

 

「はいッ!?」

 

 そう叫んでしまった私は悪くないと思う。何せあの生徒会長と互角の闘いが出来ると言うのだこの先輩は。しかも生徒会のメンバー全員が漏れ無く。

 だとしたら、間違いなく生徒会は最強の集団ではないか。

 

「そんな信じられねぇみたいな顔すんなよ。考えてみりゃ当然のことだろうが。世界各国からIS操縦者が集まるこの学園で、生徒会が生徒たちより弱けりゃなんの抑止力にもなりゃしねぇ」

 

 いや、それはそうなんでしょうけども。

 流石にこれは次元が違いすぎるだろう。なんだ、急に私の存在がちっぽけに思えてきた。なんでだろう、泣きたい。

 

 ずーん、と気落ちしている私を不思議そうに眺める織村先輩だったが、アリーナでの戦闘の毛色が変化したのを感じ取ったらしい。そして直後、先輩の顔から信じられないくらいの汗が噴き出す。

 

 ? 一体、何が起ころうとしているんだろう。

 そんな風に私が呑気に思っていると織村先輩が一言。

 

「…………やべぇ」

 

「え?」

 

「やべぇやべぇ!! アイツ、アレ(・・)をやる気だ!! 今すぐ生徒たちを避難させねぇと!!」

 

 何がやばいんですか、とはとてもじゃないが聞けるような状況ではなかった。直ぐ様携帯を取り出した織村先輩は何処かへと連絡を入れ(恐らく先生か生徒会のところだろう)、その数十秒後にはアリーナ全体に避難命令を告げるアナウンスが流れる。

 二、三年生はこれから何が起こるのか知っているらしく我先にと避難を開始するが一年生は理解が及んでいないらしくキョトンとしている。多分これが通常の反応だろう。

 しかし、事は意外にも重大のようで。

 

『何をしている一年共!! さっさとアリーナから出ろ!! 死にたいのかッ!!』

 

 管制室から、生徒会副会長の怒号が飛ぶ。死にたい? それほどまでに危険な状況なのだろうかと私は思い、何気なくアリーナの中心へと視線を移す。

 

「……な、なんですか? あれ……」

 

 そこには、私の知らないナニカが渦巻いていた。このアリーナ中の大気を掻き集め、圧縮しているかのような、そんな空気の塊を見ている気分。

 

「ありゃあ、高電離気体(プラズマ)だ」

 

「プラズマッ!? そんなものがISで生成できるんですか!?」

 

 出来る筈がない、と暗に込めて言った私に、織村先輩は自嘲気味に笑って。

 

「ま、常識的に考えりゃ無理だろうな。でもアイツはそんなもんに囚われねぇ。生徒会(うち)の会長に常識は通用しねぇんだ。……ってんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇ!! 早くここから逃げねぇとマジで吹き飛ばされるぞ!!」

 

 焦る織村先輩に背中を押され、そのまま急いで第二アリーナの外に出る。その数分後くらいだ、私たちが今の今まで居た第二アリーナの北側半分が轟音と共に消滅したのは。

 爆風の余波が外に居る私たちにまで届き、思わず手で顔を覆うようにしてそれを防ぐ。

 

 やがて私の視界に飛び込んできたのは、外壁もろとも抉り取られたかのように消え失せた瓦解したアリーナ。

 こんな事、普通のISに出来うる芸当ではない。少なくとも現在世界に存在するどの機体でも不可能だ。

 

「……スゴイ」

 

 ポツリと、私の口から漏れ出したのは紛れもない感動と感嘆。

 

「スゴイ、操縦する人が違うだけで、こんなにもISの性能は引き出されるのね」

 

 アメリカに居た頃から国のトップクラスとして過ごしてきた私には、当然ISに関する知識が膨大に詰め込まれている。でなければ天才児などど呼ばれることはないだろう。

 実際、私も他人よりは優れているという優越感が全くもってなかったというわけではない。何かをすれば他人よりも速く的確に出来てしまう故に、少なからず他人を見下していたような節もあっただろう。それはこの学園に来た当初も変わりなかった。生徒会? 精々が国家代表クラス、善戦、あるいは勝ちを拾えるかもしれないと考えていたのだから。

 

 しかし入学式。

 私の目の前で扇子を広げ壇上に立った生徒会長からは、とんでもない言葉が飛び出した。

 

『思い上がるなよ。世界ってのは広いんだ、井の中の蛙じゃいけない』

 

 まるで、私に直接言われているかのような気分にさせられた。そんな言葉を受けた私は、壇上の会長をじっと見据える。

 飄々としながらも全く隙を感じさせないその立ち振る舞い。同学年の少女たち(というか実際は二つ上だが)はそのルックスに目を奪われているようだが、真に気にするべきはその圧倒的なカリスマ性なのではないだろうかと思った。体育館横の椅子に座る一癖も二癖もありそうな生徒会メンバーを束ね、さらにあの篠ノ之博士ともパイプを持つ生徒会長。

 

 気になった。

 あの人は、どうしてあんな風になれたのだろう。

 

 関わりたいと思った。

 あの人に近づけば、こなすだけになりつつあったISの操縦になにかしらの光明が見えるかもしれない。

 

 そして、今。

 半壊したアリーナを前に、私のあのときの考えは正しかったのだと実感する。

 

 その実感がある決意に変化するまで、大した時間はかからなかった。

 

「……織村先輩」

 

「あん?」

 

 怪訝そうに私を見る織村先輩に対し、私ははっきりと、もう一度宣言した。

 

「私を、生徒会のメンバーにして下さい」

 

 興味本位からではない。本心からの言葉が、自然口をついて溢れ出した。

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

「……織村」

 

 ことのあらましを聞いた俺は、頭を抱えて織村へと刺すような視線を投げつける。

 

「いや分かってる、うちがなんでみんな日本人なのかも全部分かってるんだが、如何せん押し切られて……」

 

 お前言っとくけどつい半年前までそんな常識溢れたキャラじゃなかったからな、と俺は心の中でツッコみ、現在進行形で問題の中心となっている少女、ナターシャへと視線を移す。

 

「さて、これがちゃんとした初対面になるわけだな。ナターシャ=ファイルス代表候補生」

 

「初めまして更識生徒会長。ナターシャです。気軽にナタルと呼んで下さい」

 

 椅子から立ち上がりペコリと頭を下げるナターシャ。なんだか昨日のクラリッサと重なって見えてしまうな。

 まぁ、そんなことはさておきだ。俺はこの少女にハッキリと生徒会には入れることが出来ないと断らなくてはならない。これも会長職に就いている人間の仕事だ。これまでも何人か生徒会に入りたいと言ってきた生徒がいたが、その生徒たちは皆一様に実力が伴わないという理由で断ってきた。

 今回の件で言えばナターシャは実力的にはアメリカの代表候補ということもあり基準には届いていると思われるので申し分ない。というわけで何か別の口実を見つけないといけないわけだ。

 何故ここまで生徒会に入りたがる生徒たちを拒むのかと言えば、それはやはり抑止力として機能する人間を選ばなくてはならないというのと、各国との摩擦を最小限にするために他ならない。

 

 俺に千冬に織村、そして真耶と現在の生徒会のメンバーは四人。役職は其々会長、副会長、会計に書記だ。まだ役職には庶務などの空きがあるがそこまで、必要性のある役職でもないためにそのまま真耶に兼任してもらうような形で現在の生徒会は機能している。

 

 ハッキリと言ってしまえば、今の段階で生徒会は十分に機能しているため生徒を生徒会に入れるようなことはしないのだ。

 それは代表候補に選出されるほどの実力を備えた、このナターシャであっても例外ではない。

 

「ナタル。お前が生徒会に入りたがってるというのは織村から聞いてる。しかしだ、生徒会として現在メンバーを増やすつもりは一切ない」

 

「……私の実力が足りないからですか?」

 

「いや、実力的には一定値には達しているとは思うよ。だがまぁ、生徒会の他の連中には及んじゃいないがね」

 

「……でも!!」

 

 ナターシャは強く拳を握って俺を真っ直ぐに見据えてくる。良い瞳(め)だ。それだけで、彼女がどれほど真剣に生徒会に入りたいと考えているのかが伺える。

 

 だが、俺は自分の意見を曲げるつもりはないのだ、残念だが。

 

「あー……、更識。俺からも頼む、別に今すぐコイツを生徒会に入れろなんてムチャクチャなことを言うつもりはねぇが、ちっとばかし検討してやってくんねぇか?」

 

 バツが悪そうにそう言う織村。ふむ、コイツがこんな他人に関心を寄せるような事をするのは珍しいな。よっぽどナターシャに入れ込んでいるのか? それともなにかコイツなりの考えでもあるのか。

 

「織村。生徒会(ココ)に多国籍の生徒を入れることの意味を分かった上でそれを言っているのか?」

 

「ああ」

 

「織村先輩……」

 

「いいんじゃないか」

 

「千冬?」

 

 織村の言葉を肯定するように今まで書類とにらめっこしていた千冬が口を挟む。

 

「楯無の言うことは尤もだが、これから先、常に日本人だけで生徒会を組織することは難しいだろう。そう遠くない未来、必ず国籍問わず生徒会のメンバーが選出されることになる。ならばいっそ、この女で試してみればいいではないか。実力さえ伴っていれば、生徒会としては何の問題もないのだからな」

 

「ふむ……」

 

 俺は顎に指を添えてしばし考え込む。確かに遅かれ早かれ生徒会に多国籍の少女が加入することになるだろう。たまたまこの年のメンバーが日本人で構成されていたというだけなのだ。抑止力としての機能さえ失わなければここはどの国も干渉不可能の独立機関、誰が生徒会であろうと問題はない。いや、実際は人望やカリスマ性など細かい部分はあるがそれは些細なことだ。

 

「あ、あの。私もナターシャさんに試しに参加してもらえばいいと思います」

 

 書類を整理し終わったらしい真耶もオズオズといった感じで言ってきた。

 生徒会長だからといって俺全てに決定権があるわけではない。他のメンバーがいいというのなら、俺もそれに従うのは当然のことだ。となれば。

 

「えーと……、あったあった。ナタル」

 

 俺はナターシャに向かって引き出しから取り出した手のひらサイズのプレートを放り投げる。

 それをキャッチしたナターシャはそこに書かれていた文字を見て驚愕したかのように目を見開く。そこに書かれていたのは。

 

 

 

『生徒会研修中』

 

 

 

 つまりは見習いみたいなものだ。正式に生徒会に入ったわけではないが、生徒会と同じように活動はしてもらう。次期生徒会候補みたいなものだと考えてもらえればそれで問題ない。

 

「会長……!」

 

「しっかり働けよ。ナターシャ=ファイルス生徒会見習」

 

 こうして、我が生徒会に一人の見習いが参入した。

 はぁ、これなんかまた余計な巻き込まれフラグを建ててしまったような気がしてならないんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これで一先ず、にじファンに掲載していた分は終了です。
 これからは新話になるので、不定期更新になると思いますがご了承ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。