双六で人生を変えられた男   作:晃甫

33 / 114
#31 二人の戦闘はその時点でフラグ

 

 

 

 前回のあらすじ

 なんだかんだISと戦うのは初めての主人公

 

 

 

 

 

 

 どうやら俺と織村は全く同じことを考えていたらしい。

 

 一応の審判であるやまよの開始の合図も待たずして互いに飛び出した形無と織村。漆黒の執事と純白の白兎が、飛び出した勢いそのままにアリーナの中心で激突する。

 

 

 ゴッ!!

 

 

 甲高い衝突音。それに伴って発生した突風が観客席をも巻き込まんと唸りを上げる。

 

 無理もない。

 

 本人たちはまだ知る由もないが、学園都市第一位の『ベクトル操作』と第二位の『未元物質(ダークマター)』が真正面からぶつかり合ったのだ。世界線が違うとはいえ、その力はあの世界となんら遜色ない。

 

 

 故に。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!?」

 

 

 まるで自分の攻撃がそのまま跳ね返されたかのような衝撃を受けて吹き飛んだ俺は、驚きながらも瞬時に体勢を立て直した。これも、第二位という実力を考慮すれば矛盾は生じないことだ。

 

 空中で一回転し直ぐ様背面スラスターを吹かし空中で停止、眼下でこっちを見上げている馬野郎へと視線を向ける。

 

 

(何だ……、この俺が、弾き飛ばされた……?)

 

 

 過ぎるのはつい数瞬前の攻防、なんの武装も展開せずにその拳であの馬野郎を攻撃しようとした。

 

 だがその拳は相手を捉えることはなく、触れるか触れないかの所で弾き返された。

 

 

 しかもそれは馬野郎が意識的に行なった攻撃というよりは、無意識のうちに行われたと考えたほうが納得のいくように思える。

 

 

(……あの訳が解らねぇ執事服のワンオフ……? いやあれは第一世代型だぞ、そんなものがもう備わってるってのか?)

 

 

 

 

 

 もしもこの織村に未元物質の本来の持ち主である垣根帝督ほどの頭脳が付随していたのならば、この現状を整理して目の前の敵が自身と同じ超能力を持っているという可能性を見い出せたかもしれないが、残念ながら彼にそんな頭脳は備わってはいない。

 

 よって、今の織村には形無の能力など把握出来る筈がなく。

 

 

 

 

「ハッ、どうだっていいそんなこと。てめぇのそのちんけなワンオフも纏めて吹っ飛ばしてやるよッ!!」

 

 

 そう言って、白兎の後部スラスター翼から大量のエネルギーを放出、それを一部内部に取り込み圧縮。そして、放出。

 

 爆発的に加速した純白の機体が、眼下の馬野郎に向かって落下してくるかのように斜めに降ってくる。

 

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)。

 

 

 それによって驚異的な推進力を得た俺はあの忌々しい馬野郎目掛けてその拳を振り上げ、叩き込む。

 

 馬野郎は動く気配を見せねえ。ハッ、もうこの俺の腕が届く有効範囲だってのにブルッちまって動けねぇのか。いいぜ、ならそのまま吹き飛びやがれッ!!

 

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 迫り来る織村を見上げながらも、俺は動こうとはしない。そこには自らの能力の一部である『反射』への絶対的な自信が七割、直線的する織村への呆れが三割だったりする。勿論、この反射とて完璧な代物でないことは百も承知だ。

 

 俺自身が無意識のうちに無害であると認識してしまっているものはその反射の膜を摺り抜けてしまうし、何処ぞのイかれた科学者のようにこの能力を知り尽くした人物なら反射を利用して直接攻撃を仕掛けることも可能だ。

 

 

 だが、間違うこと無かれ。

 

 此処はISの世界。

 

 あの第二位も木原も、存在しないのだ。

 

 

 執事服の尾(テール)をはためかせ、俺は瞬時加速(イクニッション・ブースト)でこちらに向かってくる織村を迎え撃つ。

 

 

 二度、激突。

 

 

 一度目の激突ではどちらも抱かなかった疑問が、二度目で生まれることになる。

 

 

 

 今の激突の後、俺は不審げに眉を潜めた。視線の先には反射を受けながらも行動を止めない『白兎』を駆る織村の姿。

 

 

(反射が効いてない……? いや、明らかにシールドエネルギーは減ってる。ならなんでだ? 瞬時加速を反射したんだ、それがいくら絶対防御があるって言ってもほぼノーダメージって有り得るのか……?)

 

 束に色々と弄ってもらった御陰で今の俺の目先にはIS搭乗時に映し出されるようなモニタが展開されている。それを見る限りなら、『白兎』のシールドエネルギーは確実に消費されている。こちらのシールドエネルギーも幾らか消費されてはいるが、それでも大したものではない。

 

 しかし織村はデータ上ではシールドエネルギーが減少しているものの、そのダメージのようなものが全く見当たらないのだ。機体の一部が損傷、又は破壊されているのでなければ、それどころかほとんど無傷で空中に存在している。

 

(アレは流石にオカシイ……、白兎にそんな性能(スペック)は無かった筈だし、反射を受けてあの程度のダメージしかないってのが引っ掛かる)

 

 俺は何も織村を瞬殺できるとは考えていない。なにせ相手は自分と違ってISに乗れる人間だ。今は第一世代試作型ということもあって原作のような第三世代や第四世代のような性能はないにしろ、軍事兵器としては間違いなく世界で最強。そんなものと一対一で戦うのだから、警戒はしても油断など微塵もしたりはしない。

 

 油断していないからこそ、織村の乗る『白兎』のその性能以上の動きが気にかかる。

 男性がISに乗ればああなる、と言われれば反論に困るが、流石に反射でほぼ無傷というのは有り得ない。

 

(……何かのワンオフ? いや、ないな。あれは機体と極限までシンクロして発動するもんだし、あの試作型をそこまで使いこなせてるとは思えない)

 

 だとすれば、一体なんだと言うんだ。

 

 思考は更に加速する。

 

 その思考の最中にも織村の攻撃が繰り出されるがそれをベクトル操作によって回避、あるいは反射によって防御することで自身へのダメージは0に抑える。それでも僅かにシールドエネルギーは消耗してしまうが、織村ほど削れているわけではないので再度思考の海へと潜っていく。

 

 

 ――――それがいけなかった。

 

 

「ッ!!?」

 

 

 一瞬の出来事。

 油断などしていないつもりだったが、思考の間に生じた僅かな隙を織村が逃さなかった。

 何時の間にか展開されていた近接型のブレードが振りおろされ、俺の反射の膜を切り裂いた。

 

(……ッちょっと待て、核ミサイルだろうが弾き返す一方通行の『反射』が、斬られた(・・・・)……!?)

 

 俺の脳内で一瞬にして警戒レベルが跳ね上がる。

 

 マズイ。一体何をどうやってこの反射を打ち破ったのかはまだ解らないが、織村にはそれだけのチカラがある。

 

 このままでは押し切られる可能性も否めない。

 

 

 チッ。こうなったら出し惜しみなんて無しだ。

 

 

 ベクトル操作によって織村から一旦距離を取り、複雑な演算を開始する。

 織村が何で反射を打ち破ることができたのか、それは気になるところだが今は目先の戦闘に集中しないといけない。

 

 俺は小さく息を吐き出し、足の裏にかかるベクトルの向きを操作。瞬時加速も真っ青な驚異的な推進力を得て、『白兎』のもとへと突っ込んで行った。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「……どういうこと?」

 

 アリーナに仕掛けた無数のカメラの映像が映し出されたラボの内部で、私は信じられないものを見た。

 

 あのかーくんの超能力の一つである『反射』が破られたのだ。

 

 そんなこと有り得ない、って一笑に付したいところなんだけど、実際にこうして映像として見せられてしまった以上認めざるを得ない。

 

 

 ――――アレ(織村一華)には、ナニカがある。

 

 

 それがどんなものなのか現状では把握できないけれど、それがかーくんの障害になるっていうんなら私は容赦しない。

 

 あらゆる手段を用いて解析、潰す。

 

「まっこと癪だけど、ちょっと束さんは興味が湧いてきたよ」

 

 そう言う私の顔には、さぞ悪どい笑みが張り付いていることだろう。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 よしッ!!

 

 俺は内心で歓喜の声を上げる。さっきまでダメージを与えられない原因になっていた奴のワンオフ(?)を打ち破ることに成功したのだ。

 

 しかし賞賛に価するぜ馬野郎。模擬戦とはいえ、この俺に『未元物質(ダークマター)』を使わせたんだからな。

 

 そう、俺が今展開している近接型ブレードには生成した未元物質が含まれているのだ。正確にはこの世界には存在しない粒子を微量含んだ近接型ブレードだ。通常武装じゃ馬野郎の機体を破壊することは難しそうだからな、少々本気で行かせてもらう。

 

 馬野郎がどんな原理で攻撃を防いでたのかまでは解らねえけど、なんたってこのチカラはあの一方通行の反射でさえ打ち破った代物だからな。

 

 幾ら束が開発したISが凄かろうが、この世界に存在しない物質まで把握できる筈がない。

 要するに、もうあの馬野郎にはこの攻撃を防ぐ手立てが存在しないってことだ。

 

 これ即ち、俺の勝利!!

 

 だがまぁ、褒めてやるよ。幾らこの俺が相手だとはいえ、シールドエネルギーを半分以上も減らしたんだからな。

 

「さあ、そろそろ幕引きといこうぜ」

 

 俺は再びブレードを振り上げ、馬野郎目掛けて思い切り……

 

「……ん?」

 

 しようとしたところで、ある異変に気付く。

 

 おかしいな、アイツと俺との距離は結構あった筈なんだが、なんで俺の目の前に居るんだ?

 

 直後。

 俺は自分がアリーナの壁に叩きつけられているということに気付いた。

 

 

「……は?」

 

 

 そして聞こえてくる試合終了を告げるブザー音。視線の方向を変えると俺のシールドエネルギーは何時の間にか0になっていた。

 

「はぁぁああああッ!?」

 

 なんだ!? 一体何がどうなってやがるんだ!!

 つうか今あの馬野郎は何をしやがったんだ!?

 

 そんな俺の疑問など知るかとでも言うようにアリーナから去っていく馬野郎。

 

「おい待てよ!!」

 

 それでも立ち止まらない馬野郎。

 

「俺は……まだ負けてねぇぇええええッ!!」

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 何やら背後から叫び声が聞こえてきたような気もしたがそれを一切無視して俺はアリーナを後にした。

 

 ふぅ、まさか織村に反射を破られるなんて思わなかったな。

 こりゃこれから先反射以外のこともやってかないとキツイか?

 

 というか織村のアレは一体何だっただろうか。ISに備わってる通常兵器で『反射』を破れるとは到底考えられないし…………。

『未元物質』とかなら攻略できるかもしれないけど。

 

 

 ……まっさかなぁ。

 

 

 幾らなんでもそれはないだろ。俺もヤキが回ってきたか、主にあの二人のせいで。

 

「まぁなんにしろ、無事に終われて良かった良かった」

 

 やっぱり平穏が一番だしな。

 そう呟きながら俺は控え室へと戻って行った。

 

 

 フラグまみれの臨海学校は、こうして幕を閉じた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。