双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#28 フラグのことを考えるのはその時点でフラグ

 

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 一日で建つフラグの数が尋常じゃない

 

 

 

 

 

 …………はぁ。

 なんかもう、ここまで来ると臨海学校に来たこと自体が既に間違いだったんじゃないかと思ってしまう。

 

 いや、分かってたよ?

 IS学園に通う男子が俺と織村の二人しかいないって時点でコイツと接点を持たずに乗り切るってことが不可能だってことくらいは。

 

 でもさ。少しくらいの希望は持ってたんだよ。ほら、俺と織村はクラスも違うし、ひょっとしたら部屋とかも違って三日間会わなくても済むんじゃないかって淡い期待をしてたんだ。

 

 そんな俺の微かな希望は臨海学校初日でいきなり木っ端微塵にされてしまったけどな!!(物理的な意味合いも含む)

 

 

「おい! 俺の話聞いてんのかよ馬野郎ッ!!」

 

 なんて一人で悶々と考え込んでいたら、織村が青筋を額に浮かべてこっちに詰め寄ってきた。近い近い近い、頼むからもう少し離れてくれ。鼻先一ミリなんて吐き気を催すには充分過ぎる距離だから。

 

「はぁ……」

 

 これはいつもの溜め息じゃない。諦めの溜め息だ。え? それじゃいつもと同じじゃねぇかって?  …………気にしたら負けだ。

 

「聞いてるよ……、で? 俺に何の用かな織村」

 

「てめえ人の話聞いてなかったのかよッ!!」

 

「聞いてたけど、一体どういう風に決着つけるつもりなんだ?」

 

「ハッ、バカだなぁてめえは」

 

 イラッ

 

「ここは一体何を学ぶ学園なんだ?」

 

「……ISで決着つけようってのか?」

 

「ご明答。お前は『黒執事』とかいう専用機を束から貰ってるらしいが俺は訓練用ISでやってやるよ。丁度いいハンデだろ?」

 

 得意げにそう言う土御……じゃなかった織村。いや確かにISで闘うってのに反対はしないけど、これって明らかに自分が不利って解ってて言ってんのかなあ。向こうはISに触れてからまだ一ヶ月も経ってない、謂わば素人も同然。搭乗時間だって女子と大差ないだろう。それに対して俺は(立場上)黒執事なんていう専用機を持ち、搭乗時間だって比べ物にならない。というかベクトル操作がある限り俺の負けはないと思うんだが。

 

「いや、それじゃお前が不利すぎると思うんだけど」

 

「ああ? 俺とてめえじゃあこのくらいのハンデがないとまともな試合になんてならねぇだろうが」

 

 まともな試合ねえ。もし織村が専用機を持ってて、その性能を100パーセント出し切ることが出来たとしても、まともな試合になんてならないだろうけれど。

 

「はあ……。先ず訓練機の私的使用の許可は貰ってるのか?」

 

「あん? なんだそれ」

 

 頭が段々痛くなってきた。大体、今現在日本国内に数体しかいないISを、勝手に使用出来るわけがないだろう。ここIS学園という特殊な場所だからこそ、そのうちの二体を借りて操作の練習を行えるわけで、幾ら世界で二人しかいない貴重な男性IS操縦者だろうとそんな勝手な言い分が上層部に通るとは思えない。

 

「私用目的なんだから使用許可がいるのは当たり前だろう?そもそもそんな申請が通るとは思えないけど」

 

「……ああ! 俺も今丁度そう思ってたとこなんだよ!! 馬野郎にしちゃあなかなかやるじゃねぇか!!」

 

 絶対にそんなこと考えてなかったなコイツ。

 

「とりあえず、ISの使用許可が出ないと話にならないからな。許可がとれたならもう一度来てくれ」

 

「ハッ、言われなくてもそうするつもりだよ馬野郎」

 

 腰に手を当てて言う織村。まぁ、そんな申請は受理されないと思うから俺は闘う気なんて更々ないけど。

 

「首を洗って待ってろよ馬野郎ッ!! その首へし折ってやるからよ!!」

 

 それだけ言って土御……織村は去っていった。ああ、なんかまた面倒なフラグを建ててしまった気がする。千冬や束関連のフラグはもうとっくに諦めているが、それ以外の余計なフラグは出来ることなら極力回避したいんだ。だって疲れるし、何よりも俺への被害が尋常じゃないからな。

 なんだか疲労感がスゴイ。バイト週七で入ったあとみたいな疲労感が俺に襲いかかってきてる。ダメだな。折角の海なんだから、せめて楽しまないと。

 

「更識くーん!!」

 

「ん?」

 

 とりあえず休息をとろう、ということで借りてきたパラソルとブルーシートの準備をしていると前方から声が聞こえてきた。あれは、えーっと、確かおんなじクラスの……ダメだ名前が思い出せない。

 

「こんなところでなにしてるの?」

 

「いや少し休もうと思って。疲れちゃったし」

 

「もう? 早いよー。ていうか今日はあの執事服じゃないんだね」

 

「やっと調整が終ったんだ。流石にこの炎天下の中であの服は辛いから」

 

「だよねー。あ、そうだ更識君。今から私たちビーチバレーするんだけど、更識君も一緒にやらない?」

 

 ビーチバレーか。前世じゃやったことなかったけど、普通のバレーボールと同じ感覚でやれば大丈夫か。疲れはしてるけど、折角誘ってくれてるんだ。無碍にするわけにもいかないし。

 

「いいね。やろうか」

 

「ほんとに!? じゃあこっち来て!!」

 

 というわけで俺は名前の分からないクラスメイト(多分)に連れられ、ネットとポールが用意されたコートへとやってきた。ラインもしっかり作られてるし意外に本格的なコートだな。

 

「って千冬!?」

 

「なんだ形無。私がビーチバレーをしてはおかしいのか?」

 

 なんとビーチバレーを行う面子のなかには我らが千冬さんの姿が。先日買い物に行った時に選んだ黒のビキニタイプの水着をしっかり着ている。うん、やっぱ千冬は白より黒だよ。なんかこうクールビューティな感じがしてよく似合ってる。

 

「な、なんだジロジロこっちを見て」

 

「それこの前選んだ水着だろ? よく似合ってるなと思って」

 

「な、なな……!」

 

 ボッと顔が瞬間湯沸器のように熱を帯び真っ赤になる千冬。どうしたんだ、具合でも悪くなったんだろうか。

 

「? どうしたんだよ」

 

「なんでもない! なんでもないから余りこっちを見るな!!」

 

 ババッと勢い良く左右に手を動かして『こっちを見るな』と暗に示してくる。なんだよ、そんなに水着が恥ずかしいなら上にパーカーとか羽織っておけばいいんじゃないか。日焼け止めにもなるだろうし。

 

「…………」

 

 なんて考えていると、いつのまにやら仏頂面になっている千冬。

 どんだけ喜怒哀楽が激しいんだこの娘は。

 

「なんだよ?」

 

「形無。多分だがお前は何か勘違いをしている」

 

「勘違い? 何を」

 

「……もういい。さっさと始まるぞ。お前は私たちのチームだ」

 

「おう」

 

 なにやら額に手を当てて溜息を吐いた千冬。なんだ、なんか呆れられているような感じだったぞ今。

 

 ビーチバレーをするのは俺を含めて六人。三対三みたいだな。

 

「ルールとかどうするんだ?」

 

 さっき俺をこのビーチバレーに誘ってきた女子に訪ねてみる。とは言ってもこれはお遊びだし、そこまで本格的なルールで行うこともないだろう。せいぜい十点勝負くらいの軽いものになると思うが。

 

 しかし。

 

「そうだねぇ。まあ楽しむのが目的だし、お遊びルールでいいんじゃ……」

「二五点の三セットマッチ。先に三セット取ったほうが勝ちだ」

 

 そんな生温いルールに、千冬が黙っているはずがなかった。

 

「えー……。いや千冬、これそんな本格的なもんじゃ……」

「勝負は勝負だぞ形無。それと私は負けるのが大嫌いだ」

 

 あ、これもう引き下がらないパターンのやつだわ。もう何言っても聞く耳もたないモードに入っちゃってるわ。

 でもこんなルールで向こう側の三人が納得するはずが……

 

「面白いじゃない」

 

 あれェェええええッ!!?

 

「私も一度、アナタと真剣勝負をしてみたかったのよ織斑さん」

 

「ほう。望むところだ和田さん」

 

 和田さん、と呼ばれた黒髪ロングの少女は挑戦的な笑みを浮かべて千冬のほうを見る。後で聞いて知ったことだが、彼女は中学時代バレー部で全国にまで駒を進めるほどの選手だったらしい。

 

 というかこれ完全に巻き込まれフラグじゃね?

 

 なんて思っているうちに始まったビーチバレー。宙を舞ったバレーボールがネットを超えた瞬間、ソレの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「はぁ……、ヒドイ目にあった」

 

 時刻は午後七時半。

 大広間を三つ繋げた大宴会場で、俺たちIS学園の生徒は夕食を取っていた。目の前に並ぶ刺身や鍋などの様々な料理が俺の空腹を刺激している。

 はっきり言って俺の空腹はピークをとっくに超えていた。原因は明確、昼間にやったあのビーチバレーのせいだ。結果だけ言えば俺たちのチームが勝ったんだが、内容は二時間を超える大激戦。当然のようにファイナルセットまでもつれ込む白熱の試合だった。最後のほうなんてコートの周りに大勢の観客が出来てたからな。ちょっとしたイベントみたいになってたし。

 

 つーか後半は完全に千冬と和田さんの一対一の勝負になってたな。

 俺を含む残りの四人はサーブの順番が回ってきたときと、千冬たちがボールに触れた次の処理の時くらいしかボール触らなくなってたし。

 試合後は千冬たちは熱い握手を交わしてたからな。あれか。スポーツを通して芽生える友情、みたいなやつか。

 

 とまあ、そんなわけで疲労が半端無いことになっていた俺は目の前の料理を平らげていく。刺身美味いなぁ、鮮度が違うってこういうことを言うのか。

 

「かーくんかーくん」

 

 不意に俺の右隣から掛けられた声に首を動かしてそっちを向く。

 

「はい、あーん」

 

「……はい?」

 

「「「(ガタガタッ!!)」」」

 

 天災科学者、篠ノ之束。彼女が刺身を箸でつまんで俺のほうに差し出してきている。これは俗に言う『あーん』なるものであることは分かるけど、束さん。少しは状況を考えて欲しいんですけど。今俺が居る場所は大宴会場。ここには一年生の全員が食事を取るために集まっている。

 

 つまり。

 

 突き刺さる視線が痛すぎる。

 

 ただでさえ束がこの場所に居るってこと事態みんなにとっては予想外すぎるってのに、こんなことしてたら視線を集めるに決まってるじゃねぇか!!

 

「た、束? これはちょっと……」

 

「あーん」

 

「あの、また今度……」

 

「……ヘタレ(ボソッ」

 

「なんだとコラ」

 

「かーくんのヘタレー。いくじなしー」

 

 何やらブーブー言ってくるウサギに若干イラッとしたが、それよりも先に鉄拳が降り注ぐこととなった。

 

 ガツンッ!!

 

「いった~!! ちーちゃんがぶったぁ!!」

 

「なんてことしようとしてるんだお前は!?」

 

「え? 愛の共同作業、的な」

 

「平然と言うな!」

 

 俺たちよりも少し離れたところで食事を取っていた千冬が束の頭に拳骨を叩き込んだ。これきっと束以外なら入院確実だろってレベルの強さで。

 

「ぶー、なにさちーちゃん。自分がかーくんと離れちゃったからってー」

 

「そ、そそういうことじゃないだろう!?」

 

 途端に狼狽する千冬。最近こういう反応多くなってきたよなあ。

 

「それにしてもかーくんもなかなかやるねぇ」

 

「は? なんの事だよ」

 

「まったまたぁ。まさかいきなりなんて、束さんも予測してなかったよ」

 

 ?? 一体束は何を言っているんだろうか。俺なんか仕出かしたっけか? なんて俺が考え込んでいると。

 

「皆さーん。明日の日程について変更があるのであ知らせしますね」

 

 襖を開いてやまよを含む数人の教師たちが大宴会場に入ってきた。どことなく神妙な面持ちの教師陣は、冊子を片手に俺たちに説明を始めた。

 

「明日の午後ですが、審議の結果更識君と織村君のISによる模擬戦の観戦をすることになりました。近くにある第一アリーナに集合するようにしてください」

 

 

 

 

 …………ゑ?

 いつの間にか回収されているフラグに、俺は気づいていなかった。

 

 

 

 


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