前回のあらすじ
何故か原作キャラとエンカウントしました。
「なんなのかなジロジロこっち見て。鬱陶しいから束さんの視界に入らないでくれる?」
……oh。
流石は『天災』だとか言われるだけあって俺らみたいな凡人は眼中にないらしい。
どうでもいいけどまだこの頃はあのウサ耳(箒ちゃんレーダーだとか言ってたやつ)付けてないんだな。
あ、当たり前か。
まだ箒とか生まれてすらいねーんだった。
「あぁ、悪かったな。綺麗な髪してたから見とれてた」
うん、あながち間違ってはいない。確かに束の髪の毛は絹みたいにサラサラしてたんだから。
「……ふん」
その言葉を聞いた束は俺を無視して再びパソコンのキーボードを叩き始めた。
……この年で何をやろうとしてんだろうな? まさかもうISの基礎とか考えてんのか?
とかなんとか考えてたらこのばら組の担任らしい幼稚園の先生が入ってきた。肩までのショートカットと黄色いエプロンがよく似合う先生だ。
「はーい、今日からみんなの担任になりました。舘加耶です、よろしくね」
舘 加耶?
やかた かや
やかたかや
……おいこの人やまやの二番煎じ感がぷんぷん漂ってんぞ。
あれ時系列的にはこっちが先になるからあっちが二番煎じなのか?分からん……。
「じゃあみんな自分のお名前を他のみんなに教えてあげようねー」
というわけで名前順に自己紹介が始まった。みんなたどたどしくもしっかりと自己紹介をこなしていく。名前だけでいいって先生が言ってたのに何やら詳細な自己紹介を始める奴まで居たし。
「……は、はい。次の人~」
見ろ余りにも詳しすぎて先生若干引いてるじゃねーか。
お、次の子が立って自己紹介を始めるみたいだ。
「お、織斑千冬です。よろしくお願いします」
……。
……聞き間違いだよきっと。うん、俺耳悪いんだきっとそうだ。
織斑なんて珍しい名字じゃないし。前の奴も名字は織斑だったし。あ、字が違うわ。あいつは織村だったな。
……完全に主人公の姉さんじゃねえか!!
いや違うと言いたいけどあの髪型と雰囲気は間違いなく将来『ブリュンヒルデ』とか呼ばれる織斑千冬だ。
――――なんなんこのクラス。原作キャラとのエンカウント率高すぎだろ。とゆうか俺完全になんかのフラグ建てちゃってるよ。主に死亡フラグとか。
「はい、次の人~」
俺が沈んでいることなど露知らず、担任の舘加耶……やかや(今命名)は自己紹介を進めていく。
「篠ノ之束」
「…………」
「…………」
俺と先生はそれだけ言って再びパソコンに向き合い始めた束に固まってしまった。この子ほんとに他人に興味ないんだな……。
なんとか先生が困りながらも自己紹介を続け出した。うん、頑張れよ先生。
あ、次俺の番だ。
「更識形無です。よろしくお願いします」
我ながら無難で面白みのない自己紹介だと思うが仕方ないだろう。人前で話すのとか苦手なんだよ俺。
「……ん?」
自己紹介を終えて席についたところで気が付いた。
……何だこの視線の数は(主に女子)。
周りの子からの視線が半端ないんだけどなんでだ。俺変な自己紹介してない筈だぞ?
※主人公は例に漏れずそっち方面において鈍感野郎です。殴って下さい。
その後恙無く自己紹介は終了し、簡単な説明と明日からの日程が伝えられてその日は解散となった。
原作キャラであるあの二人とは、一言も会話をすることなくそそくさと幼稚園を出た。
だって今関わったら間違いなく厄介事に巻き込まれるだろ。少なくとも中学生くらいまでは平穏に過ごしたいんだよ俺は。
◆
入園式も終わり徒歩で自宅へと帰ってきた。やっぱ更識家ってデカイな。裏工作する暗部組織の対暗部組織とか言われてたからひっそりと暮らしてるとか一瞬でも考えた俺がバカだと思えるくらいにデカイ。
母さんと手を繋いで家の敷地内に入る。完全に日本風のこの家は門を潜ると庭園が広がっている。なんというか、どこかのヤクザ者の組長の屋敷みたいだ。
「ただいまー」
「形無っ!!」
帰ってきた途端に座敷から親父が飛んできた。どんだけ心配してんだよ。
「大丈夫かッ!? 苛められたりとかしなかったか!?」
「大丈夫だよ。そんなに心配すんなって父さん」
「本当か!? どうなんだ瑞穂!!」
相当心配しているのか俺が大丈夫だと言っているのにも関わらず母さんに確認を取っている。いや大丈夫だから肩を掴んでガクガク揺さぶらないでくれ。
「大丈夫ですよ楯無さん。苛められるどころかみんなの注目の的だったの。ねえ?」
「……?」
注目の的? ああ、あの自己紹介の後になぜかバシバシと視線を集めたあれか。どういうわけかあのあと多数の女子が席に集まってきて大変だったんだよな。
「あらあら。形無は分かってないのね」
にこやかに微笑む母さん。できることならどういうことか説明して欲しいが、どうせ教えてくれないんだろうな。
「注目? それは一体どういうことだ?」
親父……、俺は信じてたよ。親父も俺と仲間だってな……!!
あ、母さんが呆れて信じられないくらい大きな溜息をついてる。
「それより楯無さん。今日は大切なお仕事があったんじゃないんですか?」
そう。こんなにも親ばかな親父が何故俺の幼稚園の入園式に来れなかったのかというと、『更識』としての仕事があったからだ。詳しくは知らないが相当大きな捕物であるらしく二、三日は家に帰って来れないと言っていた筈なのだが。
つまり、我が母が一体何を言いたいのかというと。
「……何で此処に居るんですか。タ テ ナ シ サン?」
いつの間にか地面に正座させられていた親父の身体はガタガタと震えていた。
これが更識の十六代目当主の姿とは到底思えない。完全に尻に敷かれてるよ親父。
「ぬ……」
「ぬ?」
「ぬけてきちゃった」
テヘッと可愛らしく(実際はおっさんがやっているので全く可愛くはないが)舌を出してコツンと頭を叩く親父。
その後母さんからの連絡を受けた部下が親父を連れ戻しに来たのは言うまでもない。
「あ、そうだ形無」
「なに?」
思い出した、とでも言うように手を叩いて母さんは。
「形無。あなたお兄ちゃんになるのよ」
「……ゑ?」
とんでもない爆弾を投下しやがった。
更識形無、五歳。
どうやら兄貴になるみたいです。