双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#24 行事参加はその時点でフラグ

 

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 鬼、降臨

 

 

 

 

 

「……あぁ、酷い目にあった」

 

 束が俺の部屋に住み着くだなんだと言い出して問答していたところに(千冬)が現れ、酌量の余地なく制裁された翌日。

 俺は教室の机に突っ伏していた。

 あれからたっぷりと絞られた束は取り敢えず(・・・・・)退散し、俺はゆっくりと床についたので睡眠はしっかりと取れている。にも関わらず俺がこんなにもげんなりしている理由。それは。

 

「(更識くん疲れてるのかな)」

「(これチャンスなんじゃない?)」

「(執事服……良いっ!)」

 

 最前列の座席故に話し声しか聞こえないけど、ひそひそ話もしっかり聞こえちゃってますよ。

 

 更に。

 

「…………」

 

 これを俗に無言の圧力とでも言うのだろうか。

 

 視線の主は多分リリィだろう。疑惑の視線が穴を開けるくらいヒシヒシとこちらに伝わってくる。

 

 俺が机に突っ伏している理由は以上の二つ。総じて言ってしまえば、女子からの視線に耐えられないのだ。

 

(なんか見せ物にされてるみたいで嫌だなぁ……)

 

 俺は客寄せパンダか何かと間違われてるんじゃないだろうか。

 

「形無」

 

「ん、おぉ千冬」

 

 突っ伏していた俺の席までやってきて声を描けてきた千冬に、俺は起き上がって答える。

 

「結局、どうするつもりなんだ?」

 

「何を?」

 

「クラス対抗戦の話だ」

 

 あぁ、それか。

 俺は今朝のSHRでやまよが言っていたのを思い出した。

 

『クラス対抗戦はISに慣れていない生徒が多数のため、冬季に行うものとします。尚、クラス代表二名のうち出場するのは一名なので更識とリリィは話し合って決めておくように』

 

 ということらしい。

 考えてみればクラス代表の中でISに慣れている(表面上)のは俺だけだし、この時期にやるのは無理があるか。そしてそのクラス対抗戦(リーグマッチ)に俺とリリィのどちらが出場するかだけど、この刺すような視線を受けた感じじゃあリリィが出ることになりそうだな。俺も変なところでフラグ建てたくないし。

 

「リリィでいいんじゃないか?」

 

「またそんな腑抜けたことを……」

 

「彼女イギリス出身らしいじゃないか。ISの研究先進国なら適任だと思うけど」

 

「それを言うならお前は『黒執事』のIS操縦者だろう」

 

「俺IS相手にして闘ったことないし」

 

「誰だってそうだ」

 

 ミサイルや戦闘機相手になら立ち回れる自信があるんだが、ISが相手となるとなあ。まだまだ第一世代の実験機という枠を出ない機体ばかりの中で俺が戦えば、十中八九勝てると思う。だが俺のスペックをどう誤魔化せばいいんだ。

 

 年を経るごとに進化していくISと違って俺の『黒執事』に進化はない。最初からレベルMAX状態だし。

 

 だからあまり手の内とか見せたくないんだよ。

 

「束にスペックを身繕って貰ったんじゃないのか?」

 

「その前に千冬が来てあの有り様だ」

 

「あ、あれは束が悪いんだ!」

 

「いやいきなり扉蹴破って突入してくるのもどうかと思うけどな!?」

 

「男女で一緒に住むなんて不純だ!」

 

「昨日お前も一緒に住むとか喚いてたじゃねーか!!」

 

 顔を赤くして大声を出す千冬につい俺も声量が大きくなる。昨日部屋にやってきた千冬が束を説教した後に言い放った一言が、

 

『わ、私も此処に住んでやる』

 

 意味が解らない。

 つい数秒前までお前は束をそのことで説教していた筈だろう。何故に話がそっちに逸れていく。

 というか、千冬も束も俺を一体何だと思ってるんだ。僧侶か何かと勘違いしていないか。

 

 俺だって男だ。そりゃ一線を踏み越えることなんて無いと思うが不眠症になることだけは間違いないだろう。

 

「はぁ……、」

 

「何だその溜息は」

 

「察してくれよ……」

 

 まさか休息を取る筈の休み時間にまで溜息をつくことになるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「というわけで二組のクラス代表は織村一華くんに決定しました。織村くん、よろしくね」

 

「ういっす」

 

 一年二組の教室。その教壇に立つ担任の女教師の隣に立つ俺は、こちらを見る視線に応えるように笑顔を作ってそう言った。

 

 まあ俺がクラス代表に選ばれたのも当然と言えば当然。何せ世界に二人しかいない男性IS操縦者だ、知名度と実力はこのクラスで頭二つ以上抜けた存在。俺が選ばれない理由がない。

 

「じゃあ抱負を一言お願いね」

 

「はい。えー、クラス代表になりました織村一華です。俺がクラス代表になった以上、これから先にある行事では全て優勝するつもりで頑張るんでよろしく」

 

 クラスメイトたちからの拍手を受け、俺は自分の席へと戻った。ふう、掴みは上々、後は俺が活躍するだけだな。

 

 だが、一つ障害が立ちはだかっている。

 

 そう。

 馬野郎だ。

 

 クラスの女子たちが話していたのを聞くところによると、どうやらアイツも隣のクラスで代表になったらしい。ったく、どこまでも俺の二番煎じみたいな野郎だな。

 

 しかもアイツと千冬、束は同じクラス。これはもう誰かの陰謀としか思えねえ。そんなに俺と千冬たちとの仲を切り裂きたいのか。

 

 だが残念だったな。これくらいで俺たちの仲は切り裂けねえよ。なんてったって幼稚園からの幼馴染だからな。俺は千冬や束が小さい頃からずっと一緒だったんだ、あんな奴(形無)とは年期が違う。

 見てろ、直ぐに彼女たちを取り戻してやるから。

 とは言っても、馬野郎を直接叩き潰せると思っていたクラス対抗戦は冬期に持ち越しになっちまった。それはまあ他のクラスの女子たちがISに慣れてない状態でやっても話にならないだろうから仕方ないんだが、そうなると奴を叩き潰す大義名分がなくなっちまうんだよな。裏路地で暗殺なんて真似はできねえし、どうしたもんか。

 

「ねえねえ、織村君?」

 

「ん?」

 

 おっといけねえ、考え事してて話し掛けられてることに気付かなかった。えーっとこの子は……ああ、中条さんって言ったか。

 

「なんだい中条さん」

 

「名前、もう覚えてくれたんだ」

 

「まあね」

 

 一応このクラスの女子たちの名前は脳内にインプットしてある。本命は千冬たちとは言え、主人公ってフラグ建てまくっちまうもんだからな。いざという時のために下準備は万端だぜ。

 

「それで? 何の用かな」

 

「うん、来週のことなんだけど」

 

 ?? 来週?

 なにか俺はこの子と約束なんてしていただろうか。

 

「何か約束とかあったっけ?」

 

「ああそうじゃなくて、ほら来週ってさ」

 

 中条さんは一旦自分の席に戻って机上に置いてあった何かを取り、小走りでこちらに駆け寄ってきた。その取ってきた何か。冊子みたいなものを俺の前に持ってきて。

 

「臨海学校があるじゃない?」

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

「臨海学校……?」

 

 昼食を摂った後の五時間目。こと睡魔に襲われやすいこの時間帯、その睡魔は漏れなく俺にも襲いかかってきており、うつらうつらしながら話を聞いていると担任であるやまよが教壇に立ちながら手に持った冊子を見せ、そんな言葉を言い放った。

 既に意識の八割程が夢の世界に旅立っていたがそれを無理やり現実に引戻し、伏さっていた身体をゆっくりと起こす。

 

 うーん……、臨海学校……。

 

 

 

 それなんかフラグじゃねッ!?

 

 

 

「? どうかしましたか更識くん?」

 

「あ、いえ。なんでもないです」

 

 最前列、しかも教壇の目の前というこの席の場所は大いに目立つ。俺の意識が覚醒した瞬間もバッチリと目撃されていたみたいだ。

 

「では話を再開します。来週の週末の三日間、貴方たちには臨海学校に行ってもらいます。全員パンフレットは貰いましたね?」

 

 言われて俺は自分の机の上に置かれていたオレンジ色の冊子に目をやる。表紙にデカデカと書かれている『校外特別実習』という文字に、俺はワクワクドキドキといった高揚感よりもむしろ焦りや恐怖といった不安感に苛まれていた。

 だって臨海学校だぞ? 原作だと一夏たちが思いっきり事件に巻き込まれたあの臨海学校だぞ? 誰が好き好んでそんなフラグ密集地帯みたいな場所に行きたいと思うんだ。正直に言おう。俺は行きたくない!!

 

「日程は三日間ですが皆さん、これも授業の一環であるということを忘れないように」

 

 そんなやまよの声は届かないのか、後ろの女子たちはワイワイと騒がしくなっっていく。

 

「ねえねえ水着買った?」

「今週末に買いに行こうよ!」

「水着ってもう売ってるの?」

「駅前のショッピングモールなら売ってるんじゃない?」

 

 え、水着? 

 皆、まだ四月だぜ。海に入るにはまだ寒いだろう。そもそも海開き自体されてないと思うんだけど。

 なんて考えていると配布された冊子には。

 

『この地域は潮の流れの関係で水温が高く、四月上旬には海開きがされています』

 

 なんて文字が。

 なんてご都合主義だろう。

 

「それでは二日目に行うIS稼働の班を決めてもらいますね」

 

 今日から早速始まったIS関連授業。受けてみれば束の理論を高校生にも理解できるように極限まで噛み砕いたものだった。だから俺は理解できたけど、流石にいきなりこんなものを聞いて彼女たちが完全に理解出来る筈はない。肝心なところはそのまま引用されてたりしたから難易度は高いだろうし。

 

 そう思っていたんだが、彼女たちはあっさりと授業をこなしていった。

 うーん、流石あの倍率を突破してきたエリートだけはあるってことか。

 

 そんな優秀な彼女たちだけど、やっぱり根は遊びたい盛りの十代女子。やれ水着だのやれ化粧だのといった会話がそこかしこから聞こえてくる。

 さっきのやまよの言葉は完全に忘れ去られてんな。

 

「班は各自今週中に決めて私の方に提出してください。各班三人程度で」

 

 すると。

 

「更識くん!! 私たちの班に入らない!?」

「是非うちの班に!!」

 

 うわあ。雪崩みたいにクラスの皆が俺の席に押しかけてきた。パワフルにも程があると思うんだ。

 

「あー……、えーっと」

 

 俺は困ったこの状況をどうにかしようと、千冬のほうに視線を投げて見た。

 しかし。

 

「…………(むっすー」

 

 なんであんなに不機嫌そうなんだろうか。

 助けを求めようにも、まず目を合わせてくれない。

 

「うーん、ごめん。誘ってくれて嬉しいんだけど、俺は千冬たちと組むよ」

 

 たち、というのはおそらく束も(密かに)来るだろうと思ったからだ。

 

「織斑さんと?」

 

「ああ。だからごめん」

 

「織斑さんとはどんな関係?」

 

「幼馴染みたいなもんかな」

 

 それを聞いた女子たちはかなり残念そうに自分たちの席に戻っていった。まあ確かに俺は専用機持ちってことになってるから勉強熱心な彼女たちが俺と組みたがる(違います)のはわかるけど、人にモノを教えたりするのって俺そこまで得意じゃないんだよな。だから気兼ねしない千冬とか変態成分を抜いた束とかのほうが俺も楽だし。

 

 その当の千冬だが。

 

 さっきまでの不機嫌顔はどこへやら。なにやら目を丸くしてこっちを見ている。頬が赤くなっているのは俺の気のせいだろうか。

 

「おーい千冬ー」

 

「ひ、ひゃいっ!?」

 

 千冬の席まで行って頬を突っついてみると面白いくらいに驚いていた。

 

「どうした? 顔赤いぞ」

 

「な、なんでもない!」

 

「そうか? 無理してないか?」

 

「してない! それに近い、近い!!」

 

 鼻先数センチの所まで顔を寄せていたためか俺の顔をグイグイ押し返す千冬。痛い痛い! 俺の顔面が目も当てられないような造形になるからそんな力で押し返すな!!

 

「はあはあ……、いいのか?」

 

「なにが?」

 

「班のことだ。あんなに言い寄られていたじゃないか」

 

「なんだそんなことか。いいんだよ」

 

 俺は千冬を真っ直ぐに見つめて。

 

「俺はお前たちと組みたかったんだから」

 

 我ながらキザかなあとか思いつつも言ってしまったものは仕方ない。

 しかし、さっきよりも千冬の顔が更に赤くなってるのはなんでだ?

 

 

 

 

 


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