双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#20 IS学園への入学はその時点でフラグ

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 俺の手から平穏が逃げていきました

 

 

 

 

 

「…………」

 

「……(ジ~ッ」

「……(ジ~ッ」

「……(ジ~ッ」

 

 どうしてこうなった。

 

 俺が居る一年一組の教室。そこに居心地悪そうにして席に着く俺を、他のクラスメイトが食い入るように見つめているのが背中越しからも伝わってくる。

 

「……はぁ、」

 

 最早お決まりになりつつある溜め息を一つ吐き、俺は天井を見上げた。

 

 

 

 ――――本当、どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、例の男性IS操縦者発覚という全世界が驚くニュースを束が流したその日の夕方。俺と千冬は再び束の私室へと足を運んでいた。

 

 腕を組んで無言で椅子にかけた俺の正面には、正座させられた状態の天災、篠ノ之束の姿。

 

「……で? 何か言い残すことはあるか束」

 

「ちょっ!? それこれから束さん殺されちゃうみたいな台詞だよかーくん!?」

 

「よく分かってるじゃないか」

 

「待って待ってかーくん!! 確かに何も言わなかったのは謝るよ。でもこうするしか方法がなかったんだよ!!」

 

「……どういうことだ?」

 

 俺が一応話を聞くようになったことで安心したのかしょんぼりしていたウサ耳(いつの間にか装着していた)がピーンッと勢いよく起き上がった。

 

「『黒白事件』の時、かーくんスーツ着てたでしょ?」

 

「あぁ」

 

「それを見てた各国があの体格は男じゃないかって疑問を持ち始めたの」

 

「…………、」

 

「でね、映像を解析された結果、『黒執事』は男性である可能性が非常に高いって」

 

 俺は椅子に掛けたまま、ガックリと項垂れた。そりゃそうだよな。スーツ着て仮面したくらいじゃ性別を誤魔化すなんて難しい。

 大体千冬が乗ってた『白騎士』と噂されてる『黒執事』って見た目からして違いすぎるだろう。

 

「……はぁ、つまりそういうことか」

 

 俺は束のあの発表の真意に辿り着いたが故の溜め息を一つ。

 

 全く、俺のことを心配してくれてるってのは分かるけどもうちょっとこう穏便にやり過ごすことはできなかったんだろうか。

 

 ……無理かな。

 

 束がこうするしかなかったと言うんなら他に手立てはないだろうし。

 

「どういうことだ?」

 

 意味がよく解っていないのか、今まで話を聞いていた千冬が問いかける。

 

 そんな千冬に俺は自嘲気味に微笑んで。

 

「どうもこうもない。束が俺を守るためにしたことなんだよ、コレは」

 

「?」

 

 いまいち要領を得ない千冬。なにやら目の前のウサギさんは真意を知られたくないのかキョロキョロと左右に視線をさ迷わせているが、千冬ならば知っていてもいいだろう。

 

「――――束は、俺を守るために『黒執事』っていうISをでっち上げて俺を操縦者に仕立て上げたんだ」

 

 思えば俺も軽率だった。全世界の目に晒されるということが分かっていながら、あの程度の変装しかしていなかったのだ。本来ならば顔全体を隠さなくてはならなかっただろうし、男だと判らないくらい体格の区別がつかないような服装をすべきだった。

 

 だというのに、俺は口の出た仮面に黒スーツ。

 

 これで性別を誤魔化せるというほうがどうかしている。

 

 つまるところ、俺の身元や性別がバレる一歩手前まで来ていたのだろう。もしくは既にバレていたのかもしれない。

 

 もし俺の正体がバレて男であるということが解った場合、ISに乗れるのは女性だけという定義に揺らぎが生じる(実際には俺はISに乗れはしないんだが)。

 そして稀な男性IS操縦者の俺は間違いなく何処ぞの研究機関のモルモットにされるだろう。人体実験されるなんて笑えない冗談だ。

 

 そんな折、束の全世界同時中継だ。

 

 これによって各国政府しか知らなかった情報は全世界の人間に知れ渡ることとなり、裏で俺を捕らえようとする政府を牽制、動きを封じた。

 

 そんな束の手腕によって俺は各国から追われるという最悪な事態は回避したわけだ。

 

 

 

 

 

 ――――したわけなんだが、その代償はなかなかに大きかった。

 

 

 

 

 

 あの発表から数日、うちの屋敷に早速日本政府からの通達があった。内容は言うまでもない、IS学園への入学要請についてだ。因みに拒否権というものはないらしい。

 

 それを見た親父は俺が寮生活を強いられるために号泣していたが(姫無、簪も同様)なるべく帰ってくるということで了承を得た。

 

「――――まぁ、確かに束には感謝するべきなんだろうが何故かな。お前のその表情(カオ)を見てると何か裏がありそうな気がしてならない」

 

「うぇっ!? 何言ってるのさかーくん、束さんがそんな邪な考えを持ってるわけがないじゃない!!」

 

 冷や汗だらだら流しながら言っても説得力ないぞ束。

 というか束、絶対俺をIS学園に入学させる気だっただろ。あの表情(カオ)は絶対そうだ。畜生、俺まで道連れにしやがって。

 

 というのも、実は束もIS学園への入学が決められているからだ。

 

 もちろん最初束は猛反発。篠ノ之神社に足を運んでくる日本政府の役人を突っぱねていた。しかしそこは日本政府も引き下がれなかったんだろう。譲歩に譲歩を重ね、なんとか条件付きでだが束をIS学園に入学させ一箇所に留まらせることに成功したのだ。

 

 ……一体どんな条件出したんだろうな束(コイツ)は。

 

「ということはあれか。結局俺のこれまでの受験勉強は無駄だったってことか」

 

「まあそうなるね」

 

「へー。そうかそうか」

 

「えへへー……って痛い痛い!! 蟀谷(こめかみ)グリグリしないでかーくん!!」

 

「やかましい。やり場のない怒りをちょっとは発散させてくれ」

 

「ギャー!!」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

 という事があったために、俺は全く本意ではないが千冬たちと三人揃ってIS学園へ入学することとなった。

 

 長ったらしい入学式も終わり、クラス分けを見て自分の教室に入り(千冬、束とは同じクラス)、宛てがわれた自分の席についたところで最初の場面へと戻るわけである。

 

(……後ろからの視線がなあ……)

 

 運の悪いことに俺の席は真ん中最前列。この上ないバッドポジションだ。今日ほど名前順で『さ』だったことを恨めしく思った日はない。

 

 千冬はなんだか機嫌悪そうにしているし、束に至っては早速消えやがった。どんだけ自由人なんだアイツは。

 なにやら背後から『声かけてみなよ』やら『彼女さんとかいるのかな』やら女子生徒たちの声が聞こえてくるが、そこは気にしないほうがきっと身の為だろう。

 

 因みにこのIS学園。第一期生となる俺たちは年齢の幅が十五歳から十七歳までとされており、学年は二、三年生は存在しない。来年以降になれば別だろうが。チラッと周りを見た感じだと世界各国から生徒は集まっているようだがやはりまだISが発表されてから一年ちょっとしか経過していないということもあって専用機持ちは圧倒的に少ない。大体ISの数自体がまだ少ないのだから無理もないが、その数は俺が知る限りまだ0だ。

 俺のことはカウントしていない。だってこれISじゃないし。

 

「はい席に着いてくださーい」

 

 ガラッと教室前方のドアが開き、教員らしき女性が入ってきた。あれ? なんか見たことあるような顔してんなこの人。

 

「えー、今日から私がこのクラスの担任になる山田麻世です。みんなよろしくね」

 

 ……思いっきりやまやとおんなじ顔だ。てことは姉か何かかな。にしても似すぎだろ。そっくり過ぎて違うところなんてないんじゃ…………あ、あった。

 

 

 

 この人、やまやと違って貧乳だ。

 

 

 

 なにか物足りないと思っていた原因はコレか。いやあるのとないのでこんなにも違うんだな。

 

「えーと更識くん?」

 

「はい?」

 

「君今なにかすごーく私に失礼なこと考えてなかった?」

 

「いや全然?」

 

「……そう?」

 

「はい」

 

 危ねえ。なんだこの人読心術でも修得してんのか? やまやと違って鋭すぎるだろ。

 

「はい。じゃあまずは皆自己紹介といきましょうか。名前順で行くから一番端のえーと、会田さん。お願いね」

 

「は、はい!」

 

 クラス名簿と会田さんを交互に確認しながら自己紹介を促す山田先生。言われた会田さんはガタッと立ち上がって。

 

「あ、会田仁美です! 国籍は日本で、バスケットやってます! 趣味は----」

 

 粛々と進められていく自己紹介。こんな時に思うのもなんなんだが、ISが世界に公表されて一年弱。ここの教師たちはISについてどこまで把握しているのだろうか。当然『白騎士』の正体が千冬だなんてことは知らないだろうし、ISの性能も完全には把握できていないんじゃないかと思う。

 今現在、世界中に普及しているのは第一世代型だが束の中では既に第二世代型が完成しようとしている。各国がようやくISの性能を理解し始めたと思ったら束は遥か先を行っているのだ。

 本当に末恐ろしいよ。

 

「更識くん」

 

「はい?」

 

「次、君の番なんだけど」

 

 どうやら考え事に気を取られて自分の番が回ってきたことに気がつかなかったみたいだ。時間を取らせるのは悪いと思ったので俺はいそいそと立ちあがり。

 

「えー。更識形無です。皆さんご存知の通り世界初のIS操縦者です。以上」

 

 あまり長い自己紹介をする気もなかったので簡単に言って席に座る。

 これですぐ後ろの席の女子へと自己紹介が移るのかと思いきや。

 

「はーいじゃあ更識くんになにか質問ある人ー?」

 

 何故か担任の山田麻世……面倒だからやまよは質問を受付始めた。

 なんで俺の時だけ。

 

 シュバッ!!

 

 ……ほぼ全員が挙手。

 やばいこれ厄介なパターンだよ。一夏の時そっくりだよ。

 

「なんでISに乗れるんですか!?」

「ISがスーツってどういうこと!?」

「黒執事ってなんなんですか!?」

「もう一人とは何か関係あるんですか!?」

 

 うわもう質問攻めだよ。

 だけど、取り敢えずこの質問にだけは今すぐ答えておこう。

 

「もう一人とはなんの関係もないです」

 

 もう一人、というのは俺の呼び名からも察しは付いただろう。

 

『世界初の男性IS操縦者』。

 

 決して『世界唯一の男性IS操縦者』ではない。

 

 

 

 居るんだ。このIS学園に。

 世界で二番目の男性IS操縦者が。

 

 

 

 

 


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