さて、俺こと更識(さらしき)形無(かたなし)は無事に五歳になり、明日は幼稚園の入園式だ。
生まれてからこれまでのことは余り話したくない。前世で二十歳だった俺が零歳児からやり直して母親のおっぱいしゃぶるなんて羞恥プレイ以外の何物でもなかったしな。
いや実際転生してみて思ったけど、この家すごくね? 完全に首相官邸かとおもったわ。
俺がそんなことを思っていると、唐突に俺の部屋の襖が開いた(ちなみに俺の部屋は十二畳)。
「形無。勉強は済んだのか」
「終わった」
俺に宛がわれた部屋に入ってきたのは俺の親父、更識(さらしき)楯無(たてなし)。
暗部に対向するための対暗部組織『更識』の十六代目。つまり現当主だ。
「明日からお前は幼稚園に通うわけだが、」
一見とても厳しそうに見えるこの親父だが。
「大丈夫か!? 苛められたりしたらすぐ父さんに言うんだぞ!?」
とんでもない親バカだったりする。
「大丈夫だって。何も心配いらないから」
「本当か!? いや心配だ。明日の入園式、やはり俺も――――」
そんな親バカっぷりを遺憾無く発揮する親父だが、その言葉を遮るように部屋に入ってきた女性が親父の頬を思いっきりビンタした。
おい今のビンタなんか破裂音したぞ。
「あら楯無さん。明日は大事なお仕事があるのでしょう? 入園式には私が行きますから」
「み、瑞穂!! しかしだな……ッ!」
「タ テ ナ シ サン」
ゾクゾクッ!! と背筋に何か得体の知れない悪寒が走る。
こえーよ、瞳から完全に光が消えてるよ。親父も完全に硬直してしまっている。
紹介が遅れたが、この大和撫子みたいな美人は俺の母親、更識(さらしき)瑞穂(みずほ)。ちなみに二三歳。
この更識家に十七で嫁いで十八で俺を生んだ若奥様だ。
「わ、わかった。形無の入園式はお前に任せる……」
「はい。任せてください楯無さん」
がっくりと肩を落とす親父。なんか哀愁漂ってんなあ。
そんなこんなで入園式。
俺はなにやら幼稚園の制服らしい紺色のブレザーに同色の帽子を被され、少し広めのホールの席に座っている。
どうやらこの幼稚園なかなかレベルが高い私立の幼稚園らしく、入園試験なるものまでやらされ合格したのがここに集まっている園児たちのようだ。
ん? 俺は試験余裕だったよ? だって精神的にはもういい年だぜ。イラスト見てなんの動物か答えるとか簡単すぎるわ。
「形無。緊張していない?」
「ん、大丈夫」
つーか隣に座ってる母さんの方が緊張してんな。まあまだ二三だし美人だから回りからちょー見られてるし仕方ないんだろうけど。
「母さんね」
「?」
「実は今緊張してるわ」
「知ってるよ!」
この人実はとんでもない天然だから困る。料理とか家事とかは完璧なんだけどな。
あ、なんか始まるっぽい。禿げたおっさん出てきた。
「えー本日は――――」
割愛。
式が終わりました。
あんな長ったらしいおっさんの話誰も興味無いだろうし、もし書いたら軽く五万字は行くだろうからカットで。
そんなわけで現在俺は幼稚園のクラス分け、早い話が“ばら組”というクラスにやって来た。ちなみに教室の後方には親さん方が横並びしている。
クラスは全体で二十人という少人数制でそれが『ばら』、『きく』、『ひまわり』、『ふじ』の四クラス計八十人の構成になっている。
……なんか幼稚園児に混ざって座るのって恥ずかしいな。
俺の席はクラスのちょうど真ん中あたり。名前順で座席を決められるから『さ』だとちょうどこの辺りになる。
先生もまだ来ないみたいだから暇なので辺りをキョロキョロと見回してみる。
やっぱみんな幼いなぁ。
――――ん?
おかしいな。
俺の見間違いか?
俺はごしごしと何度か目を擦ってみた。
……見間違いじゃない。
俺はその子のほうをジッと見つめてみた。
「……何なのかな」
するとムスッと不貞腐れたようにその子がこちらを睨んでそう言った。
腰まで伸びた髪、なにやらカタカタとノーパソを叩くその仕草。
ああ、これは間違いない。
アイツだよ。
俺の座席の左隣に座るこの少女。
左隣ということは名前順てきに必然的に『さ行』になるわけだ。
そしてその少女の左胸の位置に付けられた可愛らしいバラをモチーフにした名札に書かれていた名。
しののの たばね
……。
え? いきなり原作キャラとエンカウントとかこれ完全にフラグ建てちゃ(ry