双六で人生を変えられた男   作:晃甫

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#18 勘違いはその時点でフラグ

 

 

 

 

 前回のあらすじ

 まさかの爆弾発言に俺、絶句

 

 

 

 

 

 束は俺と千冬の目の前で、とんでもない事を言い出した。

 

「私のISがすごいってことを証明するために、日本を射程圏内とする世界のミサイル基地のコンピュータを一斉にハッキングしたの」

 

「……え?」

 

 なんとか硬直から立ち直った俺は冷や汗をだらだらと流しながら束のほうを見る。彼女からは『してやったり』的な悪どい笑みが零れているが、そんな悠長なことをしている場合じゃないだろう。

 

 というかこれってまさか『白騎士事件』か? 白騎士事件ってISの発表から一ヶ月くらい後だったと記憶してたんだが、どうにもイレギュラー因子(俺)がいるせいで少なからず原作に影響を及ぼしているらしい。

 

「た、束! 何てことをしているんだお前はっ!!」

 

 俺に遅れること数十秒、ようやく復活した千冬が発した第一声はそれだった。無理もない。この話が本当だとしたら、世界各国の軍事基地から発射された数千発ものミサイルが日本に向かってくるというのだから。

 

「今すぐに止めろ束!!」

 

「う~ん、それがもう無理なんだよちーちゃん」

 

「なっ!?」

 

「だって、もうミサイルは発射されちゃってるんだもん」

 

 流石というかなんというか、この天災は行動が異常に早い。これがISの価値を見せつけるためのマッチポンプだというなら、やっぱりこの後の展開は原作の通りに進んでいくんだろうか。

 

「――――場所は?」

 

 俺はとりあえず、ミサイルの着弾地点として設定されている場所を束から聞くことに。

 

 マッチポンプならば、束が日本各地に着弾地点を分けるようなことはしない筈だ。出来るだけ派手に、かつISがどれほど優れているのかを世界に見せつけるためには、着弾地点は一ヶ所に指定されているはず。

 

「ミサイルの着弾地点に指定したのはどこなんだ?」

 

「国会だよ」

 

 サラッとなんとはなしに束は言ったが、それを聞いた千冬は血の気が引いていくかのように顔色が悪くなっていった。俺はなんとなく予想はついていたので千冬みたいに驚きはしないが、それでも目の前にいる少女の規格外さを改めて思い知らされる。

 

 僅か十四歳、中学二年生の少女が全世界の軍事基地のコンピュータを手玉に取り、あろうことか日本の中心である国会に向けてミサイルまで発射させてしまうのだから、異常なまでのその手腕に舌を巻くばかりだ。

 

 ……おっと。

 そんな悠長なことを考えている場合じゃなかった。このままじゃ日本の中心地が消し飛ぶことになってしまう。比喩でもなんでもなく、リアルに。

 

「ど、どうするんだ!? このままじゃミサイルが日本に……!!」

 

「大丈夫だよちーちゃん。そのために、このISがあるんだから」

 

 言って束は空間投影式のディスプレイを見ながらカタカタとキーを叩き、何やら新しいフォルダを呼び寄せる。

 

 ――――ああ、成程。

 アレを呼び出すつもりなんだな。

 

 束が数年の歳月を掛けて製作したIS、その雛型にして第一世代型IS。

 

「ちーちゃん、これに乗ってミサイルを迎撃しちゃって!」

 

「なぁっ!?」

 

 突然の迎撃宣言に驚愕する千冬だが、直後に現れたISを目にして息を呑んだ。

 

「……これは……」

 

「束さんが丹精込めて造った第一世代型IS、『白騎士』」

 

 白騎士。

 そう呼ばれたその機体は、白すぎるほどに純白の機体だった。

 宇宙空間での活動を想定していたためかやや無骨なナリをしているが、これからフィッティングなどを経てよりフォルムはシャープになっていくんだろう。

 

「さあさあちーちゃん。この白騎士に乗ってミサイルをぶっ飛ばしちゃおう!」

 

「そんなこと出来るわけがないだろうっ!?」

 

 うん。まあ千冬の言うことも最だな。

 いきなり見たこともないような機体出されてハイ乗ってミサイルを撃墜してくださいって、これなんて無理ゲー状態だよ。俺だったらそんな自殺行為は絶対御免だ。

 

 だけど。

 これは千冬が乗らないといけない機体だしなぁ。ていうか千冬が乗らないと日本が終わる。俺は男だからISには乗れないし、束が乗るとは思えない。

 

「千冬」

 

「形無……?」

 

「これは、お前にしか出来ないことなんだ」

 

「形無にも出来るだろう!?」

 

「それは……」

 

「無理なんだよ。ちーちゃん」

 

 俺の言葉を次いで、束が変わりに話し出した。

 

「どういうわけか、このISは女性にしか動かせないんだよね」

 

「女性だけ……?」

 

「そう。だから残念だけど、かーくんにはこの白騎士に乗ることはできないんだよ」

 

「……そういうことだ」

 

 実際に男性がISに乗れないということが分かったのは完成間近になってからだ。起動実験という名目でまだ未完成ながらもある程度の性能は既に出来上がっていた白騎士を起動させようと俺が機体に触れても、何も起こらなかった。束が触れると通常通り起動したんだが、やはり俺は何度触れても機体はうんともすんとも言ってくれなかった。

 

 やっぱり男である俺にはISの適性は備わっていないらしい。

 

 というわけで、日本を守るためには千冬がこの『白騎士』に乗るしかないのだ。

 本当なら千冬をそんな危険地帯になんて行かせたくないし、出来ることなら俺だけでミサイルを撃墜してやりたい。

 でもそれは俺の我が侭であるし、何より束のISを世間に認めさせるためにはISに乗れる千冬が大々的に活躍しなくてはならない。

 

 心苦しいが、千冬に頑張ってもらうしかない。

 

「千冬……」

 

「……分かった」

 

 暫しの沈黙のあと、覚悟を決めたらしい千冬が一言呟く。その表情に戸惑いはない。

 

「束。コレはどうやって装着するんだ」

 

「これはちーちゃんが乗ることを想定して造ってあるからフィッティングまではすぐに出来るよ。あとはちーちゃんの思う通りにこの白騎士が動いてくれる」

 

「ふむ。よし……、」

 

 瞳を閉じ、白騎士へと手を伸ばす。そしてその手が白騎士の機体に触れた瞬間、目映い光とともに千冬は世界で最初のIS、『白騎士』を身に纏った。

 

「どう? ちーちゃん」

 

「……まるで生身のようだ。こんなにも動きがスムーズなものなのか」

 

「まだまだ改良の余地はあるけど、ミサイルを叩き落とすくらいなら造作もない筈だよ」

 

 流石は織斑千冬というべきか。普通の人間が初めてISに乗ったらこんなふうにいきなり自分の手足のように動かすことなど不可能だろう。

 

「行けそうか?」

 

「やってみなければ分からないが、最善は尽くすつもりだ」

 

 手を開いたり閉じたりして感覚を確かめながら言う千冬からは、隠しているつもりのようだがやはり僅かな不安感を感じとれる。

 後の『ブリュンヒルデ』と言っても今はまだ十四歳の中学二年生。IS搭乗時間0の状態でいきなり危険な行為をしようとしているんだから無理もない。

 

 だが、そんな危険地帯に千冬たった一人で行かせるほど俺は腰抜けではないし、最初から覚悟は決めていた。

 

「俺も行く」

 

「「え?」」

 

 俺のいきなりの発言に、千冬だけでなく束までもが素っ頓狂な声を上げた。

 

「か、かーくん? かーくんはISに乗れないんだよ?」

 

「わかってる」

 

「連れていけるわけがないだろう!?」

 

「大丈夫だ」

 

 はあ。本当なら、千冬や束にだってこの超能力のことは黙っておきたかった。そうすることが俺にとっても彼女たちにとっても最善だと思っていたからだ。超能力なんてオカルト紛いのものを誰が信じる、言ったところで一笑に臥されるのがオチだ。だから俺は本当に必要なとき以外このチカラを使うつもりなんてないし、二人にだって話すつもりはない。

 

 ……そう、思ってたんだけどなあ。

 

 千冬は俺と束を信じてISに乗ってくれた。もしかしたら死ぬかもしれない位危険な場所へ、恐怖を押し殺してそれでも行くと言ってくれたのだ。

 

 なら、俺だけのうのうと待っているわけにはいかないだろう。

 本質の部分で行かないほうが良いというのはわかっている。原作通りだとしたら二千発以上のミサイルを千冬は撃墜し、無事に帰還するだろう。マッチポンプなのだから、束のハッキングしたカメラが俺の能力を捉えて全世界に中継してしまうかもしれない。

 

 

 

 だからどうした。

 

 

 

 大事な仲間が戦おうとしているんだ。高見の見物なんぞしていられない。

 幸か不幸か、俺にはISにも引けを取らない超能力がある。核ミサイルをモロに受けようが身体には傷一つつかないような代物だ。普通のミサイル如きでやられることはないだろう。

 

 大体、あの時この二人に関わった時点で原作と無縁な生活なんて無理だと分かっていたじゃないか。なのに二人に能力を隠して生活しようなんて、何を中途半端なことをしてるんだ俺は。

 

 決めたんだろ。

 だったら、貫き通せ。

 

「形無、大丈夫とは一体どういう意味だ?」

 

 訝しげに尋ねてくる千冬。束も流石に理解出来ていないのか首を傾げて俺の返答を待っているようだ。

 

 そんな二人に、俺は先ほどまでとうって変わった笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

「俺ってちょっと特殊なんだよ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「……それにしても未だに信じ難いな」

 

「何がだ?」

 

「形無が超能力者だってことだ!!」

 

 現在地点、国会上空。

 束が言うにはあと十分もすればミサイルの雨がこの国会を襲うようだ。束はこれを回線をハッキングして全世界に中継しているため全世界が知っており、また東京都近辺の人間たちは軒並み避難している。

 

 千冬は白騎士を纏った状態で上空に待機し、俺はというとオペラ座の怪人のような仮面をつけて真っ黒なスーツを身に纏っている。

 

 ……うん、何故にこうなった。

 

 正体がバレると面倒だというのはわかる。だからってなんで束が取り出した変装グッズが仮面で千冬がスーツをいやに推してくるんだ。

 因みに俺は飛べないので国会の正門前に立っている。

 

「ほんとはもっと早く言わないといけなかったんだろうけどな」

 

「……いいさ。形無も私たちを信用して話してくれたのだろう?」

 

「……ああ」

 

「ならば私たちも形無を信じるさ。私の背中、預けるぞ」

 

 そう言って微笑む千冬。嗚呼、仲間ってこういうことを言うのか。互いに信頼できる、命を預けることができる。

 

 ――――そんな人たちに巡り会えて、きっと俺は幸せだ。

 

 だから、千冬を全力でサポートする。間違っても、ミサイルに撃墜なんてされてしまわないように。

 

「時間だ形無……くるぞ!!」

 

「あぁ!」

 

 束が設定したミサイルの到着時刻数分前に達し、俺と千冬は揃って空を見上げる。

 

 すると現れたのは数えきれないほどのミサイルの雨。予想はしてたけど生で見るとこれ確実に東京どころか日本が消滅できるレベルだぞこれ……。

 

「これは束のISを世間に認めさせるってのが目的だ。だから千冬、お前が頑張ってミサイルを撃墜しろ」

 

 俺はベクトル操作によって一気に国会の屋根まで飛び上がり、

 

「お前が危ないようなら俺もサポートするから」

 

「了解!」

 

 千冬は近接型ブレードを展開し、ミサイルへと突き進んでいった。

 

 ……うわ、すげ。

 アレって本当に第一世代型か? 千冬が乗るとなんかもう第三世代くらいの機動性がありそうな感じなんだけど。

 

 あれってハイパーセンサーついてんのか? ていうかもし備わってないのにあの動きができるってんなら俺はもう千冬を人間だとは思わないぞ。

 

 目の前で次々とミサイルを迎撃していく千冬の能力に俺は感嘆した。IS搭乗時間が0でこれだけ乗りこなせるって流石は原作キャラだな。圧倒的だ。

 

「ッ、形無!!」

 

 なんて思っていたら一発のミサイルを撃墜し損ねたらしく真っ直ぐこっちに向かってきている。

 これ着弾したら間違いなく首相官邸とか跡形もないサイズだな。

 

「任せろっ」

 

 俺は演算を開始、一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作、中でも基本的な『反射』を設定する。

 更に足にかかるベクトルを操作することで上空高く飛び上がり、ミサイルのもとへと飛び込んだ。

 

 グシャ、っと。

 俺の身体に触れるか触れないかというところで空き缶を踏み潰すかのようにミサイルが先端からひしゃげ、その場で爆発した。

 遠目で見ていた千冬が驚いているのがこの位置からでも見て取れる。

 

 そのまま落下した俺はタンッと国会の屋根に着地し、千冬が迎撃に間に合わなかったミサイルをことごとく落していく。とは言っても数にして凡そ五百、残りの二千発近くのミサイルは千冬がたった一人で撃ち落としてしまった。幸いなことに周囲の人間が避難していたため破片などで負傷するような人間もいない。

 

 「……ん?」

 

 上空を眺めていた俺は新たにやってくる飛行物体を見つけて目(と言っても仮面を付けているので視界は良好ではないが)を細めてそれを注意深く見つめる。

 

「あれは……ミサイルじゃないな。てことは……」

 

 束が全世界に中継してるこの映像を見て『白騎士』を捕獲、もしくは撃破しようと考えた各国が送り込んできた軍事兵器か。

 戦闘機なんか送り込みやがって此処で戦争でも始めようってのか?

 まあ、こんな鮮烈な映像見せられて平常でいられる訳がないってのは分かるけど。ISの存在を認めてしまったらこれまでの軍事兵器なんて足元にすら及ばないからな。

 

「千冬。あれも撃墜していいぞ」

 

「人が乗ってるだろう?」

 

「お前なら死者を出さずに機体だけを破壊することもできるだろう?」

 

「……ふむ。やってみるか」

 

「そうしてくれ。……って、え?」

 

 何故か白騎士だけではなく、俺にまで戦闘機やらが接近してきている。

 ……ああ、まさか俺もISに載ってると思われてんのか? いやいや確かにミサイル迎撃してたけど流石に仮面つけて黒スーツ着てる奴がIS装着してるように見えるか?

 

 普通は見えないだろ……。

 

「はあ……、」

 

 ついつい溜息が口、もとい仮面から漏れる。

 此処まできてまさか溜息が漏れることになろうとは思っていなかったが、向かって来てしまっているものは仕方ない。捕獲なんてされるのはまっぴら御免なので、ここはちょっと痛い目を見て貰うことにしよう。

 正当防衛だよ。せいとーぼうえー。

 

 タンッ、と屋根を蹴って俺は戦闘機正面へと飛び上がる。

 

「!?」

 

 操縦者がなにやら仰天し慌てふためいているが、そんなことはお構いなしに俺は機体を力の限り殴り付けた。

 それだけで戦闘機はベコベコとひしゃげ、爆発。操縦者は一早くパラシュートで脱出したようだ。

 

「さあて、」

 

 上空に視認できる多くの戦闘機に目を向けて、俺は小さく口元を釣り上げる。

 

「わざわざ演出ゴクロー。華々しく散らせてやるから感謝しろ」

 

 

 

 ……やべ、なんか思考が若干一方通行(アクセラレータ)化してきた。

 

 

 

 この日、ISは世界中に嫌でもその存在を認めさせ、同時に『白騎士』と『黒執事』という名が知れ渡ることになった。

 

 …………『黒執事』?

 

 

 

 

 


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