魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
A組のクラスメイトと食事をしながら、私はこの後どうするか迷っていた。昼休みは一時間。まだ三十分程残っている。目の前の食事はあと五分すれば食べ終わる。いつもなら場所を変えて食後のお茶か、臨時役員として生徒会室に顔を出すか。
だが今日は、ミアが潜入先の社員として第一高校を訪問することになっている。最近は任務が忙しくもう数日ミアとは顔を合わせていない。特に用があるわけじゃないけど、良い機会であることは確かなわけで何を迷う必要があるのかと私自身思うけど謎の気恥ずかしさで私は中々決断できなかった。
しかし、私はすぐにミアの元へと向かうことになる。
一瞬異質な波動が膨れ上がったからだ。
周りの生徒に気づいた様子はないが、魔法の気配、サイオンの波動ではなかったからだろう。これは先日鬼ごっこをした白い覆面の怪人、『吸血鬼』の気配。方向も大雑把にだが見当がつく。通用門、業者が出入りする門の方角だ。
場所を意識すると、連鎖的に直前の思考が戻ってくる。今はちょうどミアが第一高校に到着する時間帯。納入業者の一員として訪れるなら通用門を使うはずだ。
「─すみません。少し用事を思い出しましたので、お先に失礼しますね」
同席していたクラスメイトへ丁寧に断りを入れて席を立った。
嫌な胸騒ぎが私を駆り立てた。
◆
トレーラーから降りてきたミアが虫を払うように手を降っている。今の季節、部屋の中ならともかく、屋外を羽虫の類いが飛び回っているはずもないのに。
「─何これ?囲まれた!?」
しかしそんなことを気にしている余裕はなくなった。認識阻害の領域魔法が私たちを取り囲んで発生したからだ。
直後、小太刀による攻撃を受ける。
回避行動は完全に直感頼りのものだったがミアを突飛ばし、その反動で私も後ろに転がった。砂だらけになりながらも内ポケットから旧式の情報端末を取りだしその中に仕込んでおいた汎用型CADを起動させる。
「何をするの、エリカ!?」
エリカを吹き飛ばすための魔法を発動させるものの対魔法障壁に阻まれる。
「カツト・ジュウモンジ!?」
愕然として振り返った先には年齢を誤魔化してるんじゃと密かに疑っていた十文字克人。事前の調査でその力量は要注意とされていた。だから一瞬、気を取られてしまった。その一瞬でエリカは距離を詰め小太刀をミアに振るう。
「ミア!?」
私の叫びはミアを案じたものから驚愕のものに取って代わる。
ミアが素手で小太刀を受け止めていたからだ。CADを使わず防壁の魔法を掌に纏わせて。
「どういうこと……?」
呆然と呟いた私の耳に、見計らっていたかのようなタイミングで囁きが飛び込んでくる。
『良かった!ようやく通じた』
通信機を通じてではなくシルヴィの得意とする魔法によるもの、肉体を介さず、空気を音として振動させ、空気の振動を音として読み取る魔法だ。
『ミアだったんです!白覆面の正体はミカエラ・ホンゴウです!』
シルヴィの声に私の意識が空白に埋め尽くされる。
「─ミア、貴女が白覆面だったんですか!?」
ミアは隣の部屋に住んでいて、時々一緒にお茶を飲んだりお喋りしたりする間柄に過ぎない。単なるチームメイト。だとしても、ミアが何度も殺し合いを演じた相手だったという事実はショックだった。
そんな私にミアは敵を警戒する冷たい、非人間的な視線を向ける。
そんなミアにエリカが再び小太刀を振るう。その斬撃はミアの防御をかいくぐり正面から胸を貫く。
そしてミアの腹を蹴りつけ、その反動で小太刀を抜くと、軸足でジャンプし大きく後方に跳び退った。
ミアの貫かれた胸の穴が瞬く間に塞がっていき、完全に治ってしまう。
「治癒魔法!?あの傷を一瞬で!?」
エリカがミアを睨み付けながら吐き捨てる。どうやらミアは本物の化物のようだ。
「だったら、これでどうかしら」
トレーラーの陰から聞こえたその声と共に、ピンポイントでミアに凍気が襲い掛かる。何の抵抗も出来ないままミアは呆気なく凍りついた。
「深雪?」
あまりに呆気ない結末に、思わず構えを解いたのだろうエリカが気の抜けた声で問い掛ける。
その視線の先には深雪と達也。そして達也がこちらに歩み寄ろうとし─突如、CADを抜き凍りついたミアに向けた。
『ありゃーやっぱり気がつかれちゃいます?』
いつの間にかミアの横には人がいた。
白いフルフェイスのヘルメットに白いローブ。その右手には白い杖を持っておりいつか絵本で見た『魔法使い』を彷彿とさせる。それは昨日、達也との交戦中に突然乱入してきた人物と同じ格好だった。背丈は同じくらいに見える。加工された声とはいえ口調もあんな感じだった。同一人物と見るのが妥当だろう。
『この娘は私が貰うよー、少し興味がある』
「俺はお前にも興味があるんだがな『
『えっ何その恥ずかしい二つ名』
達也、エリカ、深雪、十文字克人が変態を囲む。私も何時でも魔法を使えるように戦闘態勢。
高校生レベルを越えた手練れが五人。この状況でミアを連れ出すことなんてできるわけがない。
なのに─
『きゃー私、怖ーい』
アイツは余裕そうに言った。
謎の乱入者かなりピンチだけど…一体誰なんだ(棒)
さて、明日も0時に投稿します。
ただ、次話が書けていないのでもしかしたら番外編を投稿するかもしれません。