魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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来訪者編スタート。
満を持して彼女が再登場です。



来訪者編
アンジー・シリウスの特別任務


私、アンジー・シリウスことアンジェリーナ・クドウ・シールズは制服のまま自室のベットに寝転がった。そのまま寝返りを打ち、うつ伏せに、顔を枕へ押し付ける。

 

処刑任務。

USNA軍統合参謀本部直属魔法師部隊『スターズ』の総隊長、シリウスのコードを与えられた者の任務だ。アメリカ人、魔法師、スターズのメンバー、三重の意味で同胞である隊員をこの手で処刑する。これは何度経験しても慣れるものではないし、慣れたいとも思わない。この心の痛みが消えてしまうことは許されないような気がした。

 

押し潰されそうになる。自分に課せられた責任と自分が課した罪の意識に。

 

私はいつものようにそれを取り出した。透明なガラスの瓶。その中にはいくつもの星が入っていた。

 

昔、雪花から教えてもらった日本のお菓子、金平糖だ。私はその甘くて美味しいキラキラとしたカラフルな星を悲しい時や寂しい時に口にする。

すると少しだけ元気を貰える。雪花の優しさが少しだけ私を癒してくれる。

 

 

「会いたいな…セッカ」

 

 

不意に、呼び鈴の音が聞こえた。お節介な部下が様子を見に来たようだ。

 

 

「どうぞ」

 

 

リモコンで鍵を開けて、ドアホンのマイクに向かい短く答える。

 

 

「失礼しますよ、隊長」

 

 

入ってきたのは予想通りの人物。ベンジャミン・カノープス少佐、スターズのナンバー・ツーで私が不在の時、総隊長を代行兼務する第一隊の隊長。十二あるスターズの部隊、それぞれの隊長の中でもっとも迷惑をかけているかもしれない。

 

彼からの差し入れであるハニー・ミルクに口をつけながらそんなことを考える。

 

 

「総隊長、もう準備は終わっているんですか?」

 

「ええ、大体は」

 

部屋の隅に積み上げられた個人用コンテナを見る。十月末に極東で観測された戦略級魔法によると思わしき大爆発の実行者、術者の正体を探るという特別任務のための荷造りだ。

情報部が絞り込んだ五十一人の容疑者の内の二人が東京の高校に通う学生だった為に、同じ年頃というか同い年の私が潜入捜査なんて不慣れなことを命じられたのだ。

 

「総隊長の役目は、容疑者に接触して揺さぶりをかけること、と考えて気軽に楽しまなければ損だと思いますよ。その方が相手も隙を見せて来ると思いますし」

 

私の不満が伝わってしまったのかベンジャミン・カノープス少佐、ベンはそう私に言葉をかけてくれた。

 

思えば、特別任務でしばらく滞在することになる極東の国、日本には雪花がいる。いやUSNAに比べれば小さな国とはいえ国は国。その中から一人の人間と偶然再会出来るなどとありえない話ではあるのだが、もしかすると、と少し期待してしまう。国のしがらみを無しにしても自分から雪花に会いに行くというのは気が引けた。私の手は既に血に染まり、雪花の手を握ることは酷く躊躇われた。記憶の中の優しい笑顔を踏みにじってしまうような気がしたから。けど、偶然、奇跡的に再会出来たならその時はまた…。

 

 

「まだ少し早いですが、いってらっしゃい。スターズのことは私にお任せを」

 

 

慈しみのこもった笑顔で敬礼するベンに私は感謝の笑顔で答礼した。

 

 

 

 

 

 

私に与えられた任務は潜入捜査でありながら陽動の側面を強く持っている。その一環としてターゲットの容姿を確認すると同時に自分の姿を相手に見せるための最初の接触(ファースト・コンタクト)を行ったのだが…。

 

 

「気のせい…よね?」

 

 

ターゲットである司波達也と司波深雪は日本の伝統であるらしい初詣なるものを友人達としていたようで十人くらいの団体だった。その中に雪花の姿があったように見えたのだ。いや、ありえないことだというのは分かっている。そもそも雪花らしき人物は日本の女性が(・・・)着るという着物を着ていたし、何よりその横には小さい女の子がくっついていた。うん、絶対あれは雪花じゃなかった。日本に来て早速ナイーブになっていたらしい。少し気を引き締めなければ。

 

私は気持ちを新たにして今回の任務で生活拠点となるマンションのドアを開けた。

 

「お帰りなさい」

 

まさかもう帰ってきているとは思っていなかったが、部屋の中から同居人の声がした。

 

 

「シルヴィ?」

 

 

わざわざ玄関までやって来た年上の同居人、シルヴィア・マーキュリー・ファースト。シルヴィア以外はコードネームで、スターズ惑星級魔法師『マーキュリー』の第一順位を表している。階級は准尉で二十五歳。元々は軍人志望ではなく大学でジャーナリズム専攻していたこともあり情報分析技能に長けていて今回はその能力を買われて私の補佐役に抜擢されたようだ。

そのシルヴィが私をまじまじと見てくる。それはもう凝視と言っていいくらいに。疑問の声もあげるというものだ。

 

 

「リーナ……何です、その格好は」

 

「あっこれですか?不必要に目立たぬよう、前に日本人から『日本の女の子の憧れ』だからと貰った服と同じものを購入しておいたんです。USNAでは中々手に入らなくて、結構苦労しました。似合っていますか?」

 

 

シルヴィがこめかみに手を当て、頭痛を堪えているような表情をしている。

 

「リーナ、はっきり言います。その格好は所謂コスプレという奴です」

 

「えっ!?」

 

「えっ、じゃありません!どこの学校の制服ですかそれは!そんな短いスカートの制服が今の時代あるわけがないでしょ!それに今の時代、わざわざ不必要に長い靴下を穿くくらいなら長いスカートを穿くでしょうに。目立って仕方なかったでしょう」

 

 

スカートとニーソックスの生み出す絶対領域は芸術とまで言われている、って雪花が言ってたのに!この服は女の子の憧れで絶対領域こそが最高のファッションだって!

 

 

「本日、以後の予定はキャンセルしましょう。僭越ながらこのマーキュリーが、日本における最近のファッション動向をじっくりと、分かりやすく、ご説明して差し上げます」

 

 

ちょっとこれどういうことなの雪花!

シルヴィの口調だけは丁寧な冷たいセリフに私は言葉を飲み込んで大人しく従うしかなかった。

 

うぅ私、総隊長なのに。

 




主人公、チェンジ!
はたして雪花くんはどうなってしまうのか。

さて、明日も0時に投稿します。

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