魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
ストックなんてないけど書き上がったので投下。
VIP会議室。
予想外に大規模で深刻な事態が進行しており情報が欲しい、と思っていたところに雫からされた提案がそれだった。一般には解放されていない会議室で閣僚級の政治家や経済団体トップレベルの会合に使われる部屋だという。暗証キーもアクセスコードも知っているという雫がいれば大抵の情報にはアクセス出来るだろう。
そう考えてやって来た達也達であったが。
そこに女の子が寝ていた。その横には銃と銃弾が置かれている。
誰もが唖然としている中、達也と深雪だけは他の皆とは別の理由で固まっていた。
「桜井…さん?」
深雪がそう漏らしたのも無理はない。
なんせその少女の顔は亡き母のガーディアンだった元警視庁SP、姉のように気安く、親身に、愛情を注いでくれた女性、今は亡き桜井穂波に瓜二つだったのだから。
「何、深雪知り合い?」
「ああ…少しな」
エリカの問いに答えたのは達也だった。
「とりあえず情報だ。雫、頼む」
達也は新たに発生した問題事項に頭を悩ませながらも、ここへきた目的を果たすことにした。
◆
予想を越えて悪化していた状況を確認し、地上からシェルターに避難することにした一行は避難の前にデモ機のデータを処分するべく、達也と幹比古を先頭にエレベーターホールからステージ裏へと回る通路を突き進んでいた。達也の背にはVIP会議室にいた女の子が背負われている。
「司波、吉田」
そこで服部と沢木を従えた十文字克人と偶然出会い、少しばかりの話し合いをした結果、服部と沢木が地下通路を進む他の生徒を万が一の事態から守るために駆け出す。そして、今度は克人を先頭にして一行はデモ機の放置されたステージ裏へと戻ってきたのだが。
「何をしているんですか」
そこにはデモ機をいじっている鈴音、五十里とそれを取り囲むように見守る真由美、摩利、花音、紗耶香が避難もせずに残っていた。
「リンちゃんや五十里くんが頑張っているのに、私たちだけ先に逃げ出すわけにはいかないでしょ?」
どうやら鈴音と五十里がデータの消去をしているのを待っているらしい。
達也が深雪と共に他校の控え室を回ってデータを消去(分解を使ってストレージを空にした)し戻ってくると、今後の方針を決めるべく一同は控え室に集まった。
「まず聞きたいのだが…その女の子はどうしたのだ?」
摩利の質問は誰もが疑問に思っていたことだった。もちろん、司波兄妹も含めて。
「途中で保護しました。逃げ遅れたようです」
「なるほど」
達也は嘘はついていない。ただ言っていないことがあるだけである。それを知っているはずのメンバー、VIP会議室にいたメンバーは誰もその事を指摘しない。何か言えないわけがあるのかもしれないし、そうでなくてもこんな状況でわざわざ追求するような事でもないからだ。
「敵の狙いは魔法協会のメインデータバンクね。重要なデータは京都と横浜で集中管理しているから。論文コンペに集まった学者さんたちを狙っているって線も考えられるけど」
真由美がそう、話し合いの結果をまとめた時、彼女は呻き声を上げながら目を覚ました。
「あなた、大丈夫?」
状況が分かっていないのかキョロキョロとしている少女に一番近くにいた深雪が声をかける。
「…ここは?」
「一校の控え室よ、あなたはVIP会議室に寝せられていたの。まさか自分で床に寝たわけではないのでしょう?」
「深雪、まずは名前を聞かないと。君、名前は?」
「…桜井水波です」
少女…桜井水波が自らの名前を明かすことに一瞬躊躇があったのは、四葉の許可なく当主候補である深雪とそのガーディアンである達也に接触して良いものか迷ったからである。既に接触してしまっている、ということに気がついてすぐに答えたわけだが。
そんなことで迷ってしまう程、今の水波は混乱しているのだ。
そしてそんな水波と同様、達也と深雪も混乱していた。
顔と名字、この二つが揃えばいくらなんでも偶然では片付けられない。この少女は桜井穂波の関係者だ、と結論づけざるを得ない。そうなると、この少女の目的は何なのか、何故あんなところで寝ていたのか、知らなくてはならないことが沢山あった。ただ、それをこの場、第三者が大勢いるこの場で聞くことは出来ない。混乱するのも無理はなかった。
「会場に侵入してきた兵士に部屋に入るよう言われて入ったら気絶させられました」
大まかな状況を理解した水波は誰にも聞こえないほど小さな声で「あの女男次会ったら殺す」と呟いた後、深雪の質問に真実に少しの嘘を混ぜた答えを返した。
部屋に入るよう言われて入ったら気絶させられた、という部分は大体真実である。
「そう、大変だったわね。もう大丈夫よ、お姉さんたちが守ってあげるから」
可愛らしくウィンクをする真由美にコクコクと頷きながら、水波は今後の対応を考えていた。
CADは常に持ち歩いている、確認せずとも重さで懐に入っているのが分かった。どうやら丸腰というわけではなさそうだ。
─さて、とりあえずあの女男は殺すとして、どうしましょうか
水波の右拳は知らず知らずの内に固く握られていた。
水波ちゃん激オコぷんぷん丸。
今日はもう一話あります。