魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「雪花から連絡があった。婚約は破棄するそうだ」
「あら、残念。まあ本人はあまり乗り気では無かったですしね。でも大丈夫なんですか?五輪の養子になるって話もあるみたいですけど」
九島烈からの電話に藤林響子は疑問を口にした。藤林は九島烈が雪花をとても気に入っていると思っていたからだ。
「問題ない、こちらにはアンジェリーナがいる。その気になれば何時でも取り込めるだろう」
「だと良いですけど」
そう上手くいくのかしら、と雪花の破天荒ぶりを達也からも聞いていた藤林は思ったものの、アンジェリーナという人間と雪花の関係性について殆ど知らない自分には分からないこともあるのだろう、とそのままそっと電話を切った。
◆
服部刑部少丞範蔵は尊敬される先輩であろうと常日頃から心掛けていた。実際、自分のことを慕ってくれる後輩はいるし、彼もその一人だ。彼が純粋に自分のことを尊敬してくれているのは分かるし悪い奴ではないことは確かだ。だからこうして放課後に相談がある、と呼び出されれば出向くし話も真剣に聞く…聞くのだが彼には一つだけどうして言いたいことがあった。
「その、はんぞー先輩というのを止めろ!何度言ったら分かるんだ!」
「えっ?じゃあ…はんぞーくん?」
「はんぞーを止めろ!何故先輩の方が駄目だと思ったんだ!」
首を傾げている後輩、古葉雪花を前にして服部はため息を吐く。一見、というより何回見ても女の子にしか見えない容姿をしていながら正真正銘男だというこの不思議生物は服部も良く知る学内でも有名な兄妹の弟でありその二人を越える問題児だ。服部はいつの間にやらこの問題児のお世話係のようなものになっていた。尊敬する十文字克人と七草真由美の二人から頼まれてしまったからである。断れるわけもなかった。
雪花が何か問題を起こすたびに急行し問題を解決する。そんなことをしていたせい、というより副産物として多少わだかまりのあった司波達也と今では苦労を分かち合う仲となっていた。もしこれを狙って問題を起こしていたというのなら大したものだが本人は素でやっているのだからどうしようもない。
『歩くトラブルメーカー』。
風紀委員会からそう呼ばれているのも頷けるというものだ。
「もう良い、いや良くはないが…取り合えず相談を聞こう」
このトラブルメーカーを相手にする上で大切なのは『諦める』こと。それが出来ない人間にはお世話係なんて到底無理だろう。雪花から専属メイドがいるという話を聞いたことがあるが彼女には心から同情する。なんせこんな奴を毎日相手にしなくてはならないのだから。
「実は女の子に告白をしようかと思うんですけどなんかアドバイスが欲しくて」
服部は予想外の相談に目を丸くした。何となくではあるが雪花はそういったものに興味がなさそうだと思っていたからだ。とはいえ相談されたからには真剣に考える。が、服部にとってこの相談にはあまり良いアドバイスが出来そうになかった。そもそも恋愛経験というものが乏しい上に告白というものをしたことがないからだ。服部は自分が告白された時のことを考える。そういえばあの時、全く知らない人から告白され戸惑ったものだ。ある程度、仲を深めてからでなければそもそも告白をする意味がないのではないか。自分が感じたことを素直に口にしてみる。
「その点は心配ない…と思いたいです。週一くらいで二人で遊んだりしてるんですけど」
「そうか…なら問題はなさそうだな」
男女二人が週一くらいで遊ぶのは所謂『良い雰囲気』という奴なのではなかろうか。少なくとも周りからお前ら早くくっついちゃえよ、と思われるくらいの仲なのではないだろうか、と雪花の話から『当たって砕ける』ような勝算のない告白ではないらしいことを服部は悟った。だとしたら自分からアドバイス出来ることはもうないということも。
「俺ではこれ以上良いアドバイスは出来そうにないな。誰か恋愛経験の豊富そうな人に聞いた方が良いと思うが」
「…ぼくの友達で唯一彼女がいる某剣術家に相談したら『告白をしたことはないけど、全力でいけばきっと大丈夫』というお言葉を頂きました。それから、『もし無理だった時は妹とお見合いをセッティングしてあげよう』との玉砕前提のお言葉も」
「つまり、良いアドバイスは受けられなかったと」
「だって剣で愛を語り合うとか言い出すんですよ?参考になるわけないです」
服部は恋愛経験が豊富そうな雪花と共通の知り合いを脳内で検索してみる。すぐに思い当たったのは桐原武明だった。しかし先程の某剣術家の話を聞くに剣術カップルからはあまり良いアドバイスは期待できそうにない。次に思い当たったのは五十里啓だった。校内でも有名なカップルの片割れであるし、面倒見の良い性格だ。きっと良いアドバイザーとなってくれるだろう。が、今は論文コンペで忙しい時期だ。時間が取れるとは思えない。するといよいよ誰も思い付かない。そもそも雪花と共通の知り合いという時点で人数が絞られてしまうのだから。
ここは雪花の人脈に頼るべきだろう。
「誰か他に相談できそうな相手はいないのか?」
「うーん、そもそも友達が少ないので」
悲しい答えが返ってきた。どうやら他のアドバイザーに頼るということは出来そうになかった。そこで服部はふと思った。そういえば雪花はどこの誰に告白をするのだろうと。正直なところ服部は恋愛に疎かった。だから、というわけではないのだろうが雪花の想い人に全く検討がつかない。想い人が誰なのかが分かれば、もっと良いアドバイスをすることが出来るかもしれない。
服部が思いきって告白の相手を聞こうとしたその時、雪花が「あっ!」と声を上げて立ち上がった。
「邦人さんがいるじゃん!沙世さんには恥ずかしいから相談できないけど邦人さんなら相談できそう!」
どうやら相談できそうな相手がいたらしい。聞いたことのない名前だか恐らくは学校外の知り合いなのだろうと服部は当たりはつけた。
「じゃあ、俺の役目は終わりかな」
「聞いてもらって本当にありがとうございました!やっぱり頼りになりますね、はんぞー先輩!」
「はんぞーは止めろ」
服部はもう何度目かも分からない訂正をし雪花を残して席を立つ。そしてさりげなく雪花の分も会計を済ませ、カフェから出て一言、小さく呟いた。
「告白…か」
服部刑部少丞範蔵。
彼もまた、悩める男子高校生の一人に過ぎない。
これは前話の次の日、達也が摩利、真由美と共に八王子特殊鑑別所に行っているころの話です。
さて、明日も0時に投稿します。