魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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新キャラ登場。一体誰なんだろうなー(棒)


ヨルとヤミ

「私は中条さんに聞いただけ!それで興味を持って調べてただけなの!」

 

「だって、どうするのヨル姉さん」

 

「決まっているでしょ、ヤミちゃん。持って帰って調べるのよ。嘘ついてるかもしれないでしょ」

 

「嘘なんてついてない!こんな状況で嘘なんてつくわけないでしょ!」

 

 

平河小春は後悔していた。

 

今日、後輩から聞いた司波達也がトーラス・シルバーかもしれないという話に興味が湧き調べてしまったのだ。するとそれが本当のような気がしてきた。トーラス・シルバーの所属するFLT、その筆頭株主である椎原辰郎の本名は司波龍郎だということを知ったからだ。FLTと司波達也には繋がりがあるのかもしれない。もしそうならば彼がトーラス・シルバーである可能性も高い─そこまで調べたところで彼女は拉致された。連れてこられた場所が何処だかは分からない。目隠しをされているのだ。木製ではないひんやりとした座り心地のイスに両手両足を固定されており逃げることは出来ない。

 

そして、聞こえてくる二人組の声。

 

ヤミ、ヨル。お互いをそう呼び合う二人の声は幼く自分より歳下、口調や声から片方は女の子だがもう片方は声も口調も中性的でどちらともとれ性別は不明…そこまでが小春の限界であった。拉致された、という恐怖の中でこれだけ分析できたのは一重に自分を拉致した相手が子供だったからだろう。心のどこかで危機感が薄くなっていたのだ。

 

だから─

 

 

「で、殺していいの?」

 

 

─そんな声を聞いたとき小春の恐怖心は溢れ出した。自分の立場を再確認し涙を流す。聞かれたことには全部答えた。後輩を売るとか見捨てるとかそんなこと考えもしなかった。ただ訊かれるがままに話した。生きるために。

 

 

「うるさいから、黙らせなさい」

 

「了解」

 

 

コツっと腹部を触られた…その瞬間、小春の腹部にハンマーでも打ち込まれたかのような痛みが襲いそのまま意識を失った。

 

 

「移送の準備が整いました」

 

 

ヨルとヤミの協力者である黒服の集団の一人がそう告げたその瞬間だった。

 

黒服とは別に黒い影が立っていた。その姿を見たときヤミはふざけているのか、と声に出そうになった。それも無理はない。影の主は変装のため派手な格好をしているヨルよりもヘンテコだったのだから。

どこのお土産なのか不気味な木の仮面、絵の具を全部ぶちまけたかのようなカラフルなコート、両手には包帯を巻いている。こいつ、変態だ!と女装している自分を棚に上げてヤミは黒い影を変態と呼称することにする。

 

 

「『その人を返してくれるかな?』」

 

 

男とも女とも子供とも大人とも取れるあきらかになんらかの細工がされている声で黒い影、もとい変態は言った。

 

 

「何者かしら?」

 

「『通りすがりの正義の味方、スノー仮面』」

 

 

変態が右手を斜め上に突き上げ、左手を腰の横で構えたポーズでそう決めた。

 

 

「鏡見てから言え」

 

 

気がつけばヤミはそう口にしていた。

 

 

「『仕方ないだろ、有り合わせなんだから』」

 

 

木のお面からはみ出た長い緑色の髪をかきながら変態改めスノー仮面は平坦な声で言う。

 

 

「なんでも良いですわ。ヤミちゃんやるわよ」

 

「了解」

 

 

ヨルが小春の座るイスの背後に立ったその瞬間、小春の身体が消えた。ヨルの『疑似瞬間移動』だ。物体の慣性を消し、その周りに空気の繭を作り、繭よりも一回り太い真空のチューブを作ってその中を移動する魔法。

チューブを作る工程で周囲の空気を押しのける気流が発生するため、移動先が事前に察知されてしまう欠点があるが今回の場合移動先は仲間であろう黒服の元。それを気にする必要はない。

 

 

「『面白い魔法だね』」

 

「貴方の格好程ではありませんわ」

 

「『私も君程じゃないけどね』」

 

「…ヤミちゃん、本気でいくわよ」

 

「はいはい」

 

 

敵の挑発に乗るなんて姉らしくない、とヤミが呆れたように首をふるとスノー仮面がヤミを指差す。

 

 

「『ところで君、なんで女装してるの?変態なの?』」

 

「…ヨル姉さん本気でいくよ」

 

 

女装を見破られたことに関しては良い、むしろうれしい。だが変態に変態呼ばわりされるのは我慢できない。ヤミは先程まで姉に呆れていたことを完全に忘れていた。

 

 

「『さて、平河小春を連れていかれるわけには行かないからね、私も少しばかり本気を出させてもらうよ』」

 

 

戦いの開始はヤミの魔法からだった。

 

ヤミが右手にはめているマットブラックのナックルダスターはその殆どが飾りである。掌に握っている棒の部分だけが単一の術式に特化されたCADでありボタンを押すことでヤミ固有の魔法を紡ぎ出す起動式を展開する。

 

『ダイレクト・ペイン』

 

人の感覚に直接痛みを与える魔法。先程小春を気絶させた魔法である。

 

しかし、恐ろしいこの魔法もスノー仮面にとっては関係ない。スノー仮面が右手を振るとその術式は吹き飛ばされる。

 

 

「術式解体!?」

 

「『私、痛いのは苦手なんだ』」

 

 

スノー仮面の思わぬ実力にヨルとヤミは焦る。術式解体の使い手は少ない、がその力は絶大だ。射程距離は短いがあらゆる魔法に対して有効。二人がかりとはいえ苦戦は免れない。

 

 

「ヤミちゃん、退くわよ。任務は果たした」

 

「『任務は果たした?本当にそうかな~?』」

 

 

ヨルが撤退を決断しヤミを疑似瞬間移動で飛ばそうとすると、スノー仮面がそれを遮るように言葉を紡ぐ。しかしヨルは気にしない。任務は果たした、平河小春は部下の元へ飛ばし運ばせたのだから。

 

 

「次に会ったらそのふざけた仮面ごと顔面をぶっ飛ばしてあげるわ」

 

「『じゃあ次会う時はもっとかっこいい仮面を用意しておくよ』」

 

 

そうして、ヨルとヤミはスノー仮面の前から姿を消した。残されたスノー仮面─雪花は木のお面を外し二人が飛んでいった方を見つめながら言う。

 

 

「仲間がいるのはそっちだけじゃないんだよ」

 

 

 

 

「どういうことなの…これは」

 

 

ヨルの目の前にはボロボロで転がされた黒服達の姿。その数、十数人。黒服は魔法師でこそないものの手練れ揃いだ。敵が一人だと仮定した場合この短時間でこんなことを出来るのは魔法師だけだろう。それも並の魔法師ではない。

 

 

「あの変態は囮だったってことだね、単独で動いてるわけじゃなかったんだ」

 

「…何者なのかしら」

 

 

雨も降っていないのに何故か水浸しになっている地面では座ることも出来ない。二人は連絡した黒服の増員が来るまでその場でただ立ち尽くした。




ヨルとヤミ、二人は何者なのか(棒)

さて明日も0時に投稿します。

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