魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
司波龍郎は頭を悩ませていた。
四葉からの監視として派遣されてきたであろう水波は雪花の専属メイドということになっている。四葉との契約で雪花に直接手を出すようなことはしないはずだが、わざわざ雪花と歳が近い水波を派遣してきたことにどういう意味があるのか、簡単に分かることだった。つまり雪花が水波に
「…二人で旅行か」
雪花は爆弾でしかない水波と二人で旅行に出掛けたというのだ。沙世がいれば止めるか一緒に行ってくれたものを…と久しぶりの休暇を取り夫と過ごしているであろう沙世のことを考えながらも龍郎は雪花の旅行先を調べる。
雪花のカバンに取り付けられた小型の発信器から常に送られてくるGPS情報を見るに旅行先は石川県金沢市。連れ戻すにしても遠すぎる距離だった。
せめて忠告をしようと雪花の携帯に電話をかける…が何故か家の中で聞こえる着信音。恐る恐るリビングのテーブルを見てみると、そこには雪花の携帯があった。
「…聞きたいこともあったんだがな」
仕事の忙しい彼が昼間から自宅にいるのには訳があった。それはテーブルの上に並べられた四通の手紙のせいである。
一通目は四葉から。そこには水波の派遣に対するもっもとらしい言い訳が綴られている。
二通目は七草から。これは手紙というより招待状である。七草の双子の誕生日会へのお誘いだ。誕生日会とはいえ普通の中学生のそれとは全く違う。彼女達は十師族、七草なのだ。それなりに規模の大きいものとなるだろう。
三通目は九島から。司波雪花、藤林響子の婚約について、と書かれたそれは題目の通りの内容で、最後には九島烈の名前が。
四通目は
どうすればこれだけの問題を一度に持ち込めるのか、と龍郎は頭を抱える。
たった十日間、九校戦に行っただけでこの有り様。何をすればこんなことになるのか皆目検討もつかない。
そもそも、応援に行っただけの雪花が競技に出場したのがおかしいのである。その日、普通に仕事をしていた龍郎にかかってきた妻からの電話。妙に焦っている声に何事かと思いつつ言われるがままにテレビのチャンネルを合わせる。そこには剣を掲げる息子の姿があった。意味が分からなかった。
そして届く四通の手紙。
ここまでくると他にも何かやらかしているのではないか、と疑ってしまう。
が、今は何事もなく無事に帰ってくるのを待つしかない。帰ってきたら詳しい事情を聞かせてもらおう。そう考えた龍郎は仕事場へと戻る。
仕事場に戻るとすぐに携帯が鳴った。
新しい問題が増えた。
◆
一条家で二泊し金沢を満喫した雪花は三泊目となる夜、泊めさせてもらっている客室にて一条将輝と密談をしていた。
「あの二人…どう思う?」
「良い雰囲気…に見えるな」
彼らの言う二人というのはこの場にいない二人、金沢魔法理学研究所の寮へ帰った真紅郎と二つ隣の客室に泊まる水波のことである。
「たぶん一日目の夕飯の後だよね、二人が仲良くなったの」
「ああ、雪花が作ったデザートを食べた後、二人とも食堂を出ていったからな、そこで何かあったと見るべきだろう」
「うん…でも」
「ああ…どうもジョージの一方通行という感じがする」
「マッキーと一緒だね」
「…言うな」
二人が密談をしているころ、吉祥寺真紅郎は寮の部屋で一人、物思いに耽っていた。その頭の中はある一人の女の子で占められており真紅郎はいよいよ自分の状態を把握した。
「これは将輝にあれこれ言えないな」
そして真紅郎はそのきっかけとなった出来事を思い浮かべる。
雪花達の旅行初日の夕食後、少しだけ気持ちが沈んでいた。
気の置けない一条一家の自然な会話にすんなりと入り込んでいく雪花が羨ましく、いつも愛想笑い、楽しそうに見える笑顔で一家の団欒を眺めている自分が小さいように感じたからだ。
少し、風に当たろうと思った真紅郎が食堂を出るとそこには水波がいた。中学生だというのに雪花の専属メイドだという彼女。何か事情があるのだろうが真紅郎は特に聞くことはしなかった。魔法師の家系にはそういう『聞いてはならないこと』が沢山あることを知っていたからだ。
とはいえ落ち込んだ様子の彼女が一人、月明かりの照らす中で座っているのを見た真紅郎は反射的に話しかけた。自分でも良く分からないうちに声が出ていたのだ。
「どうかしたの?」
「いえ…ちょっと料理の勉強をしようかと考えていただけです」
真紅郎の問いに答えた水波は振り向くと言う。
「吉祥寺さんこそ、どうかしましたか?」
「…え」
「落ち込んでいるように見えたので」
今日会ったばかりの女の子に自分の内心を当てられるとは思っていなかった真紅郎は予想外のことにその場で固まる。
「あまり…思い詰めない方が良いと思いますよ?」
何も知らないくせにとは言えなかった。水波の目がどこか自分に似ていたからだ。
「僕にはもう両親がいないから…ああいう一家団欒ってちょっと辛いというか」
親友にも話したことのない自分の暗い部分を気がつけば口にしていた。内心がバレているから、とつい口が軽くなっていたのかもしれない。
「分かりますよ…私も両親がいませんから」
水波の表情は変わらない。変わっていないが真紅郎には悲しそうに見えた。儚く今にも消えてしまいそうに見えた。
そこから暫くの静寂が続いて水波が立ち上がった時、真紅郎は笑顔で言う。
「今度、手料理ご馳走してよ」
「機会があれば」
水波が立ち去ったのを確認した真紅郎はため息をつきボソリと呟く。
「…将輝の気持ちが分かった気がする」
それからというものの、真紅郎は水波が気になって仕方なくなった。
今話で夏の二人旅は終わりだと言ったな、あれは嘘だ。というわけで次話に続きます。次話で本当に終わりです、たぶん。
今話、意外と重要な話になってしまいビックリです。伏線も張りましたし。