魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
九校戦編ラストです。
本戦のモノリス・コードは一校の圧勝だった。
十文字克人がいる時点で負けはないようなものではあったが実際に見てみると凄まじい。十文字の多重移動防壁魔法『ファランクス』を応用した突撃に至っては戦車ですかというような迫力があった。
そして忘れちゃいけない、はんぞー先輩のスタイリッシュな戦い方も格好良かった。忍者っぽいけどあのハゲとは大違いだね。あのハゲだと何やっても格好良く見えないし。
と、そんなわけで全競技が終了し一校は総合優勝を果たしたのだ。
◆
九校戦閉会後のパーティーにぼくも出席することとなった。
「やっぱりぼくも出なくちゃダメかな?」
「当たり前だろ、お前も競技に出たのだから。それに懇親会には来ていたんだ諦めろ」
兄さんにぼくのステルスを見破られていたことに驚きつつ周りを見渡してため息を吐く。
ぼくでも知っているような有名人、知らなくても明らかにオーラの違う人がうようよとおり、正直なところキツイだけだ。こうして壁際でおとなしくしているにも関わらず引っ切り無しに声をかけられる。まあ二重、三重の人垣に囲まれている姉さんよりはマシだけど。
どうにか逃れる手段はないかと視線をさ迷わせていると少し先にパーティードレスに身を包んだ澪さんがいることに気がつく。
「兄さん、ちょっと行ってくる」
渡辺摩利が人の悪い笑みで近づいて来たのを確認しつつ兄さんと別れ、澪さんと合流した。
「澪さん、似合ってますね」
「そうですか?ありがとうございます」
今日のモノリス・コードは澪さんと観ていた。一応約束を果たすことができたのだ。
「そろそろ私たちは退出する時間ですね」
しばらく澪さんと会話を楽しんでいると徐々に大人達が少なくなっていることに気がついた。
「ダンス、楽しんでくださいね?」
澪さんと別れてすぐに管弦の音がソフトに流れ始めた。学生だけの時間、生演奏に合わせてのダンスパーティーである。
「えっ、あ、……あっ?司波!?」
少年達が群がっているところを目指せばそこに姉さんはいた。そして狼達から姫を守る
そんな中、素っ頓狂な声を発したのは将輝だった。司波達也と司波深雪が兄妹であると今気がついたらしい。苗字で気づこうか。
「マッキー意外と天然さんだよね」
ぼくが乱入すると将輝は落ち着きを取り戻したらしく「誰がマッキーだ」と返した。
「良いじゃん、ぼくらが勝っただろモノリス・コード。次にマッキーが何かでぼくに勝つまでマッキーってことで」
マッキーは悔しそうな顔をした後、渡辺摩利が浮かべていたような人の悪い笑みで言う。
「まあ、それでいいか。『
『剣姫』。
それが新人戦モノリス・コードから僅か一日で広まったぼくの二つ名?だった。
「何なの?何で姫なの?モノリス・コードは男子競技なんですが!?というかぼく、剣なんてほとんど使ってないんですが!?」
「お前最後に一人でポーズ取ってただろ?剣を天に掲げる奴。それでそんな呼ばれ方になったんだよ。三校でも可愛いーって評判になってたぞ」
死にたい。ノリでやったあのポーズでこんなことになるとは。自業自得も甚だしかった。マッキーを『クリムゾン・プリンセス』と弄っていたら自分がプリンセス呼ばわりだし。
「二人共、いつの間に仲良くなったんだ?」
目を丸くしたというには表情に変化が少ないが驚いているのだろう兄さんが疑問を口にする。
「モノリス・コードの前から友達だったよ」
「…後で話がある」
兄さんがオコである。兄さんが後でと言ったことを忘れることはないので今からだるい。
「いつまでもここに固まっているのも邪魔だし、深雪、一条と踊ってきたらどうだ?」
どうやら姉さんの目に敵ったらしいマッキーは誘いを断られることもなくそのまま二人でホールの中央へと向かった。その時、兄さんに感謝と感激のこもった眼差しで目礼をしたのは見なかったことにしてあげよう。
その後、マッキーだけでなく兄さんまでもがラブコメを始めてしまったため一人となったぼくが壁際でゆったりとしていると厄介な奴に見つかってしまった。
「男子からのお誘いもあったんじゃないかしら?」
七草真由美である。
「ぼくは男なのでそんなことはありませんよ」
「モノリス・コードの後、他校から抗議があったわよ?なんで女子が出場してたんだって」
「……もう、帰りたい」
帰りたい。帰って寝たい。そしてもう起きたくない。
「ふふっじゃあ最後に一曲如何かしら?」
この人はぼくの苦手なタイプかもしれない。結局ぼくは馴れないダンスに付き合わされるハメになった。
一度、踊ってからは大変だった。次から次へと現れる女子生徒。一校ではない人も混ざっており全員が初対面であったため断りづらく「最後に一曲」であったはずのダンスを何曲も踊るハメになり本当の最後の一曲が始まるころには壁に寄りかかっているのがやっとの状態になっていた。
「随分、疲れているみたいだな」
上級生のお姉さま方の引っ張りダコになっていたはずなのに疲れた様子のないマッキーはシャンパンの入ったグラスをぼくに差し出す。
「ダンスなんて普段やらないから」
受け取ったグラスの中身を飲み干して通りかかったウエイトレスに渡す。
「そういえば姉さんとのダンスはどうだった?」
「姉さん?」
不思議そうな顔をするマッキーにぼくは仕返しとばかりに人の悪い笑みで言った。
「そういえば、言ってなかったね。学校には古葉で届け出を出しているんだけど、ぼくの本名は『司波雪花』なんだよ」
「…つまり姉というのは」
「マッキーがお熱の司波深雪だよ。義兄さんとお呼びしましょうか?」
「なっ何ー!?」
マッキーの素っ頓狂な声は幸いなことに最後の一曲だからか熱の入った生演奏に掻き消された。
◆
突如として競技に参加することとなったり何かと疲れた九校戦を終え自宅に帰ると─
「本日から雪花様の専属メイドとして御奉仕させていただくことになりました。桜井水波と申します」
─そこにはメイドがいた。見慣れた家政婦さんではない、メイドさんである。
明らかな厄介事の気配に、ぼくはその場で崩れ落ちた。
次話から夏休み編に入ります。まさかここまで続くと思っていなかったこの作品なので横浜騒乱編はノープランです。書きながら考えます。
さて、明日も0時に投稿します。