魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「諦めたらそこで試合終了ですよ…?」
雪花は『陸津波』を『術式解体』で吹っ飛ばし、勢いを失った土砂が、幹比古の目前で落ちていくのを後目に、唖然としている三校最後の選手を右手のCAD、無系統魔法の『共鳴』で気絶させた。
つまり三校選手全員が戦闘不能となり、一校の勝利が決まったのである。
「痛い、超痛い、マジ痛い!」
雪花には将輝がレギュレーションを越えた威力の圧縮空気弾十六連発を放つことが分かっていた。そしてそれが将輝の決定的な隙を作ることも。
原作知識。
それは雪花の持つ最大にして最高の武器。未来予知にも似た固有の力。
故に雪花は将輝の隙を作るために、圧縮空気弾十六連発を『マルチスコープ』を併用した『術式解体』でその十五発までを迎撃し、最後の一発を
つまりこの勝利は、実際のところギリギリだったのだ。
「見てたよ。やっぱり、ぼくが保証した通りだっただろう?」
歓声が爆発し地鳴りとなってスタンドを揺らす中、雪花が幹比古に手を差し伸べながら言う。
それに幹比古は今までにない程の達成感と感動、そして歓声と拍手を浴びながら頷いた。
「達也の方に手助けが必要なんじゃないかな?」
幹比古は照れ隠しにそんなことを言って立ち上がる。雪花は笑いながら頷いて達也へと走っていく。
そして達也の元へと辿り着くとそこには一校応援席の最前列、両手で口を押さえ、ポロポロと嬉し涙を流しながら、フィールドを見詰める一人の少女、姉の深雪によろめきながら立ち上がり手を振る兄、達也の姿があった。
雪花は声を失ったまま見詰めている姉の視線が自分にも向いていることに気がつき、いつの間にか外れていたフードも気にせず笑顔で手を振る。
会場全てが、暖かな拍手に包まれた。
「全く、めっちゃ痛かったよ、将輝の圧縮空気弾。アレを生身で受けるとか本当に化物だね」
「アレを誰か生身で受けたのかい!?」
「ああいや、もしそんな奴がいたらって話だよ」
「そんなのいるわけないだろ」
「……ですよねー」
達也と共に幹比古と合流した雪花は思いがけない拍手のシャワーによる照れからそんな話をする。
「兄さん、耳大丈夫?」
「鼓膜が片方破れたよ。雪花は大丈夫か?一条選手の圧縮空気弾をまともに受けたんだろ?」
「全力で硬化魔法を使ったから怪我はないけどめっちゃ痛かった。後で姉さんにチクろうかな」
「…止めてやれ」
鬼畜なことを言う雪花に将輝の気持ちをなんとなく理解していた達也はストップをかける。全力で戦った相手へのせめてもの情けである。
「分かったよ。あっそうだ兄さん、それにミッキーも。優勝したらやろうと思ってた決めポーズがあるだけど一緒にやらな…」
「「誰がやるか」」
雪花の提案はあっさりと二人に断られた。
◆
「あの子、幻術を使いながら一条と撃ち合いをしていたわね」
「…幻術ですか?」
「ええ、達也さんと雪花さん、二人は身長も体格も全然違うわ。それを幻術で誤魔化していたのよ」
異性を妖しく惹き付ける大人の可愛いらしさが同居した美しさを持つ女性は画面に映し出された二人の顔を見ながら暫く黙り込むとやがて口を開く。
「葉山さん、彼女をここへ呼んで頂戴」
己の主が名を言わずとも『彼女』が誰のことであるかを理解した葉山は、恭しく頭を下げて言う。
「承知しました。すぐに連れて参ります、奥様」
自分の意を正確に汲み取って部屋を出た執事長に、四葉家の当主である四葉真夜は満足げに頷くと、画面に映る美少女と見紛うばかりの女顔を見ながら小さく呟いた。
「中々面白いわね、彼」
雪花の平穏は遠い。
雪花くん逃げて!超逃げて!
というわけで四葉が動き出しました。
九校戦終了後、雪花が大変なことになりそうです。
さて明日も0時に投稿します。