魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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ついに訪れる絶望の時。
彼には今年最後の投稿で華々しく散っていただきましょう。

ではまた後書きで。


明かされた真実

─彼女は見ていてくれるだろうか?

 

魔法科高校の生徒ともなれば九校戦を見ている可能性は高い。会場にいなくとも映像媒体で見ることができるのだから。

 

幹比古は突如、自分に転がり込んできた幸運(・・)に拳を握りしめる。その様子がエリカには落ち着いていないと思われたようであるが実際のところ幹比古の心は静かだった。

 

 

─見ていてくれ。君の言葉、証明して見せる。

 

 

彼の絶望まで後少し。

 

 

 

 

雪花が今にも女装させられそうになっていた時、一人の男子生徒が通りかかった。

服部刑部。フルネーム、服部刑部少丞範蔵である。

雪花は最後の希望とばかりに服部に助けを求めた。その結果─

 

 

「うぅありがとう!本当にありがとう、はんぞーくん!」

 

「はんぞーくんと呼ぶな!大体俺は先輩だぞ!?」

 

 

─女装させられそうになったところを危機一髪で通りかかった服部に助けられた雪花は服部への好感度メーターが振り切る勢いで上昇していた。

 

 

「じゃあ、はんぞー先輩!ぼくは兄さんの部屋に行かなくてはならないので」

 

「はんぞー呼びを止めろと言っているのだがっ!」

 

 

笑顔で手を振りながら小走りで立ち去っていく雪花を思わず呼び止めそうになるが雪花がいなくては達也が困るだろうと思い直し踏みとどまる。そのせいで今後、雪花からはんぞー先輩と呼ばれ続けることを知るよしもなく。

 

 

 

雪花は救出された直後に現れた北山雫、光井ほのかを含む女子メンバーに捕まって未だ狂躁の輪の中にいる深雪を放置して達也の部屋を訪れていた。

 

「どうも、はじめまして。古葉雪花です」

 

 

雪花がドアを開けてすぐにそう挨拶すると飛んでくる疑いの目。そしてそれが形となって現れようとした時、つまりエリカが「いや明らかに女の子じゃない!」と声をあげようとした瞬間、それよりも早く声があがった。

 

 

「君!」

 

 

吉田幹比古である。彼はベッドから立ち上がりすぐに口を開く。

 

 

「君のおかげで僕はこうしてこの場にいられるんだ。あの時君に出会わなかったら僕はきっとあのまま腐ってた。だからありがとう。それがずっと言いたかった」

 

 

幹比古はただ溢れる感情を言葉にする。考えるよりも先に口が動いた。周りの人間が唖然と自分を見ていることにも気がつかない。

 

 

「そっか、でもぼくがいなくても君はこうしてこの場にいたと思うよ。それ()保証する」

 

 

雪花はあの日出会ったのが吉田幹比古だとは知らなかった。今、初めて気がついたのだから。

故に雪花があの日言った言葉は未来を知っていたからではなく心から思ったことなのだ。

だからこそ幹比古の心に響いたのだろう。

 

 

「さっきから話が全く分からないんだけど、まさかあんたが達也くんの()の古葉雪花だって言うじゃないでしょうね?」

 

「えっ?そうだけど。ね、兄さん!」

 

「ああ、これでも()の古葉雪花だ」

 

 

全員の目が驚愕に見開かれる。雪花は皆が驚愕している理由が分かっていない様で不思議そうに首を傾げる。

 

 

「きっ君が!達也の()なのかい!?」

 

「うん、そうだよ?一緒に頑張ろうねモノリス・コード」

 

 

幹比古は雪花が現れるまで腰を下ろしていた達也の使っていないベッドに座り込むとシーツを被り沈黙してしまう。

 

 

「ちょっとミキ、どうしたのよ?」

 

 

エリカが声をかけるも沈黙が続く。

 

「おいおいどうしたんだ?ミキ呼びにも反応ねぇーし」

 

「あ!」

 

レオの言葉に声を上げたのは美月。何事かと幹比古を除いた全員が美月を見る。その美月はといえば青い顔をして幹比古を見ていた。

 

 

「吉田くんはそっとしておいてあげましょうよ!」

 

 

この時美月の脳裏に過ったのは九校戦前、深雪から聞いた言葉。

 

『なんだか良く分からない質問だったのよね。一年生の一科生で一人称が『ぼく』の女子生徒を知らないかって』

 

エリカにいくら問いただされようとも答えようとしなかった幹比古の片想いの相手。それについて美月が知っているのは深雪から聞いたこの言葉だけであったが幹比古のただならぬ様子に気がついてしまったのだ。

一年生の一科生で一人称が『ぼく』、その条件に当てはまっている生徒が今、目の前にいることに。そしてその生徒は一見女の子に見えるが男の子で学校には一度も登校していなかった。それなら幹比古がいくら探そうとも見つかるわけがないということに。

 

美月だけがただ一人、気がついてしまった。

 

 

「そうは言うが幹比古がいなくてはモノリス・コードの話が出来ないのだが」

 

「少しだけ待ってあげてください!選手の精神状態も大切だと思うんです!」

 

「それはたしかにそうなんだが…一体なんなんだ…」

 

 

─吉田くんが立ち直るまではっ!

 

 

美月の孤独な戦いが始まる。

 

 

 

幹比古がどうにか立ち直るまで…あと一時間。




幹比古が一時間でどうにか立ち直れたのは自分の気持ちをまだ理解できていなかったからです。
まあ、これを期に美月が幹比古をかまうようになるので幹比古には許してもらいましょう。

さて明日も0時に投稿します。

それでは皆さん良いお年を。

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