魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
「終ったか?」
兄さんが
そりゃ、この部屋、台風の後みたいになってるしね。引くよね。
「少しはスッキリしたかな」
呂剛虎にすら無傷で勝利したこのぼくがチビりそうになるくらい怖かった。
リーナのお話とはOHANASIだったわけで、ぼくの話を聞きながら、「ふーん、それで?」なんて言って、近くの家具を破壊、終始ニコニコしながら迫ってくるリーナはヤバイ。
「セッカ、しっかり力入れてね」
なんてとびきりの笑顔で言った後、拳を鳩尾に叩き込まれて許されたけど。
なんでぼくの周りの女子は皆パーじゃなくて、グーなんだろ……。
「信じられないわ、あの指輪を貸しちゃうなんて」
リーナが全く口を聞いてくれず、怒りが収まらないのか、今は姉さんに愚痴をこぼしている。
姉さんのぼくを見る目がどんどん冷たくなっているんだけど……ぼく死なないよね?
「最低の雪花様、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ!今の一言でね!」
水波ちゃんが冷たいを通り越して蔑むような目でぼくを見ながら言ってくるから、自分のクズさというのを再確認させられた。
「あれはかなり怒ってますよ、嫌われちゃったんじゃないですか?」
「うう、あんまり不吉なことを言わないでよ……」
「捨てないでー、とすがっている雪花様の姿が簡単に想像できますね」
「酷い!水波ちゃん、ぼくをいじめて楽しいの!?」
「楽しいに決まってるじゃないですか」
なんだかしばらく見ないうちに水波ちゃんがドSになってしまっているんですけど……あんな恍惚の表情浮かべてぼくをいじめてくる水波ちゃんなんて見たこと……いや、やっぱり前からだったかも。ぼくわりといじめられていたかも。
「でも、まあ、もし、リーナさんにも、中条さんにも捨てられちゃったら、その時は……私が貰ってあげますよ」
水波ちゃんはそれだけ言ってリーナと姉さんの『ぼくディス大会』に混ざっていった。
リーナにもあーたんにも捨てられるとか最悪過ぎて考えたくないよ!
水波ちゃんはもうちょっとぼくに優しくても良いと思うんだ。
女子三人の『ぼくディス大会』と、兄さんが家具を魔法で直しているのを眺めながら、一人落ち込んでいると、インターホンが鳴ったのであろう『ピンポーン』という独特の音が響く。
一斉に、ぼくに向けられる視線。
はいはい、ぼくが出ますよ。
この空間において、完全に立場が一番低いのはぼくなので、仕方なく玄関に向かう。あそこにいるのも辛かったし、ちょうど良かった。
「はいはい、出ますよー」
再び鳴った催促のインターホンを聞きながら、ぼくはゆっくりと玄関を開けた。
「お久しぶりです、雪花様」
そこには、沙世さんがいた。
◆
「母さんがいなくなった!?」
アンジー・シリウス、アンジェリーナ・クドウ・シールズは雪花の弱点となる。
それは幼少から雪花を見てきた沙世にはすぐにでも分かることだ。
それゆえに、雪花がアンジー・シリウス=アンジェリーナ・クドウ・シールズである、と確信した時点で、四葉に雪花出生の秘密を明かしたのである。
四葉と九島の手によってリーナをアンジー・シリウスからただのリーナにし、USNAから奪うことは不可能ではないだろう。世界に名を轟かせる、『九島烈』の九島と『
沙世が問題視したのは、リーナが雪花を縛ってしまう可能性だ。
四葉と九島、二家の力によってリーナを奪還した場合、雪花はリーナが存在する限り、その二家に弱味を握られ続けることになるからだ。
リーナの安全はその二家あってのものであり、雪花は二家にとって欲しい人材なのだから、当然の成り行きと言うものだろう。
その、問題を解決する手段が、雪花の出生を語ることだったのだ。
雪花が四葉の血を、それも、現当主であり、子を作ることのできない四葉真夜の力を受け継ぎ、その双子の姉である司波深夜の実子だというのなら話は変わる。
まず四葉は雪花を手厚く保護するだろう。そして策略のための利用などせず、大事に次期当主として育てる。
四葉真夜は自身の息子(?)のように雪花を大切にし、他には向けることのない愛情を持って接するに違いない。四葉とは元々肉親への愛が強い一族であり、それを向ける相手のいなかった真夜ならばそうするだろう。
そして九島にも大きなメリットがある。
雪花が四葉の人間ならば、リーナと結婚させることで、四葉と強い繋がりを持つことができるのだ。
そうなれば、雪花が二家から利用されることは無くなる。
四葉真夜の寵愛を受ける雪花を利用しようとすれば、いかに九島といえ、ただではすまないことは一目瞭然。なにもしなければ四葉と良い関係が築けるというのにわざわざそんなことはしないだろう。
つまり、沙世の目的は、雪花の出生の秘密を四葉に明かすことで、四葉と九島、二家にとって雪花を傷つけることのできない重要人物として押し上げ、雪花を守ることだった。
リーナを救い、雪花を守る。
紗世の選択した最良の道。
しかしそこに、小百合の気持ちは入っていない。
あくまで沙世が守るのは雪花であり、そのための計算に小百合の気持ちという
だから、雪花の出生の秘密を四葉に明かしてしまえば、四葉が雪花を養子にするであろうことも、それによって小百合は雪花から引き離されてしまうであろうことも全部分かっていた。
故に、小百合が突如として消えたことも誤差の範囲だった。
「『雪夜』の存在は想定外でしたが、雪花様とアンジェリーナ様の婚約、二家の反応、概ね私の計画通りです。いなくなった小百合様の居場所も把握しております」
「計画通りって……」
「私は雪花様のガーディアンとして現状できる最適な判断をしたまでです」
沙世にとっては雪花が全てだった。だから今まで雪花の生きる道を矯正し続けてきたのだ。
雪花に後ろ楯を与えるために十師族であり、力の強すぎない、『五輪』に所縁のある者と結婚し、雪花と相性の良さそうな五輪澪を通して雪花と五輪の間に強い関係を持たせた。
そして様々な根回しを行い、養子になるという話にまで発展させたのである。
そして、状況が変われば、ルートの変更もする。
五輪家に養子に入るより、四葉に入った方が現状では良かった。
ただそれだけのこと。
「四葉家は才能ある者にとっては、それほど悪い家ではありませんよ。力もあり、情報を秘匿する能力もある。四葉の養子となり、アンジェリーナ様と結婚すれば、未来は約束されたものになるのですから」
雪花の特異な力は、魔法師というものを根本から覆しかねない程の力だ。
秘匿すべき魔法を、あっさりと見抜き、会得し、改良する。
その力を欲する者は山ほどおり、その利用方法もまた同様にあるのだ。
四葉や九島という大きな力を持つ家に守られていなくては、常にそういう危険と隣り合わせになってしまう。
沙世は逆に今の状況を良いものであるとさえ考えているのだ。
「沙世さんがぼくを守りたいって気持ちは嬉しいよ、沙世さんはいつだってぼくの側にいてくれたし、いつだってぼくの味方でいてくれた。沙世さんのことは信じてるし、だから、きっと沙世さんの言っていることは正しいんだと思う」
雪花が生まれてから今まで、沙世はずっと雪花を見守ってきた。雪花もそれは理解しているし感謝している。
沙世がいたから、雪花は今まで、何時だって一人ではなかった。沙世は雪花にとって一番長く共に時間を過ごしているもっとも信頼できる人物なのだ。
「それでも、四葉の養子にはならない」
その沙世の提案を雪花は一考もすることなく、拒否した。
「五輪の時とは話が違う。ぼくが四葉に入るということは、それは、母さんの存在を否定してしまうことなる……いや、母さんが否定されたと感じてしまう」
雪花が真実を知ってしまったことを小百合は知っている。だから小百合は逃げ出したのだから。
雪花に会わせる顔がないと、雪花にはもう会えないと、自身への戒めとして。
それだけ、責任を感じている小百合が、雪花が四葉の養子になったと知れば、あのときの自分の選択は間違いだったのだと、思い詰めてしまう。
「ぼくの母さんは司波小百合ただ一人だけだ。そして母さんを悲しませるわけにはいかない」
涙を見たくないと思った。
母を悲しませないと決めた。
自分を、司波深夜の子だって知っていながら、本当の息子のように育ててくれた母に、負い目を感じさせるようなことはあってはならない。
だから──
「そのために、ぼくは沙世さんを裏切るよ。沙世さんがやってくれたことを全部無駄にして、ぼくの思うままに進む」
─だから、進もう。
自身のための沙世の全てを捨てて、約束された成功も、確約された未来も、関係ない。
思うままに、ただ進もう。
沙世は雪花の意思を確かに感じていた。
雪花のことは一番良く分かっているつもりだった。一緒にいなかったことなどそうありはしない。
少しだけ、そう、ほんの少しだけ、離れている間に、随分と変わった。
──強くなった。
「……子離れ出来ない親の気持ちというのはこういうものなのでしょうか……寂しいものですね、
「ぼくの
「そうでしたね」
朗らかに微笑む沙世は少し寂しそうで、なのに嬉しそうで。
「なら、私は今まで通り見守りましょう。これも、母の役目でしょうけどそれくらいの役目は私が貰っても構わないですよね」
「うん、よろしく沙世さん」
雪花が見たことないくらい、綺麗だった。
後書きのおまけを書く暇がないので、後書きは随時、更新できれば更新します。シリアス壊しちゃうしね(言い訳)
さて、明日も0時に投稿します。