魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
何もなくなった。
真っ白な白紙。
今までの全部が嘘だった。
自分は小百合の死産した子供の代わり。
沙世は深夜が付けたガーディアン。
淡々と自分の生い立ちが語られ、知らなかった事実に心が空っぽになった。
─四葉に来なさい、そうすれば貴方はきっと、望むもの全てを手に入れられる。
返答は何時でもいいわよ、と真夜に送り出された後の記憶がない。どうやってここにたどり着いたのか、どうしてここにいるのか、何も分からなかった。
気がついたら温かくて、目の前にリーナがいた。
「大丈夫だよ、私がいる」
その言葉に安心できた。
リーナがいてくれる。何もなくなっても、リーナは、いてくれる。そんな確信があった。
「……じゃあリーナはずっとぼくのそばに居てくれる?」
弱く脆い言葉。すがるような言葉。
それはいつだったか、リーナが雪花にした質問だった。
リーナはより強く雪花を抱き締める。今、この時のために、きっと自分は日本に来たのだと、そう思った。
「ずっとそばにいる。セッカがどうしても辛くなる前に、涙が溢れそうになる前に、必ずそばにいて、私がいるって教えてあげる。そしてこうして抱き締めてまた優しくて明るい、私の大好きなセッカに戻ってもらう」
本気だった。
心からの言葉。
だからこそ、今の雪花にリーナの答えは劇薬だった。
体が熱くなる。なのに心は寒かった。人の温もりが欲しい。自分一人ではないことをもっと実感したかった。
まるで世界に自分一人だけになってしまったかのような喪失感と孤独感。その二つを抱えていた雪花をリーナの言葉は、行動は、確かに埋めていった。
それでも足りない。埋まらない。
雪花はまだ満たされない。
「…リーナ、全部ちょうだい」
「いいよ、私の全部をあげる」
二人は抱き合ったままベッドに倒れこんだ。
◆
七賢人の一人だという少年、レイモンド・セイジ・クラークの情報提供により、第一高校裏手の野外演習場に誘導された活動中のパラサイトの内、二体の封印に成功し、残りは粉々に砕けて虚空へと散った。
封印したパラサイトは四葉と九島にそれぞれ回収されてしまったものの、元々封印した後のことは対して考えてもいなかったため、達也にとってはどうでも良かった。
それより問題なのはレイモンド・セイジ・クラークから与えられたもう一つの情報だった。
─アンジー・シリウスとバランス大佐が行方不明。
バランス大佐という名前には聞き覚えがなかったが、レイモンドからある程度の説明があったため、日本にいるスターズを実質的に率いている人物だということが分かった。シリウスもバランス大佐も重要なポストの人間だということだ。
その二人が同時に行方を眩ます。これはかなりの非常事態であろう。
アンジー・シリウスが最後に目撃されたであろう防諜第三課にハッキングして見た映像には、大ぶりのナイフでパラサイトが囚われていたのであろう部屋に侵入したところまでしか記録されておらず、レイモンドの話ではこの後、アンジー・シリウスは跡形もなく消えてしまったという。
実際、レイモンドから野外演習場にパラサイトを誘導する、という情報が与えられていたにも関わらず、シリウスはおろか、スターズの誰も現れることはなかった。
一体何が起こっているのか。
パラサイトの駆逐、封印を終えた達也の頭を悩ませているこの問題は家に帰ってみれば簡単に解決した。
『これはバランス大佐が行方を眩ませた直前に、瀕死まで追い込まれた兵士の内の何人もが証言していることなんだけど…白い怪人に襲われたらしいよ。正体不明の怪人…ワクワクするよね』
一方的に向こうから送られてきた映像。
子供っぽい表情で楽しいそうに話す金髪碧眼の少年を尻目に達也は深いため息を吐いた。
「…やはり面倒だからと放置しておいたのは不味かったな…本当にアイツは俺の予想を越えてくる」
達也はまた、ため息を吐いた。
ため息を吐くと幸せが逃げるというのは本当なのかもしれない、と自嘲気味に考えながら。
その後すぐに四葉から連絡があり、また、ため息を吐くことになるのだが。
…雪花。
雪花は前話のような小百合さん、沙世さんの心情を知りません。自分は死産した子供の代わり、沙世はガーディアンだと、真夜から教えられただけです。
次話の投稿は一応一週間以内くらいとしておきますが、なるべく早い投稿を期待していてください。