魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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初登校

姉さんの怒りを買い学校に行かなくてはならなくなったぼくは仕方なしに登校の準備をしていた。家には既に両親はおらず家政婦の沙世さんは買い物に出掛けている。えっ朝から買い物なんて何買いにいったって?残念、今は昼の一時だ。つまり大遅刻である。

 

 

 

 

電車が一部を除いて使われなくなったこの世界ではキャビネットと呼ばれる、中央管理された二人乗りまたは四人乗りのリニア式小型車両が主流で初めて乗った時はワクワクしたものだ。そのキャビネットに乗り一校の最寄り駅で降り一校までの一本道を歩く。

 

 

「しかしこの制服コスプレみたいで恥ずかしいな」

 

 

前世では完璧にコスプレだったこの服装で街中を歩くというのは普通に恥ずかしい。

 

そんな感じで周りの視線を気にしながら歩き一校の門をくぐったところで気がつく。

 

 

「ぼくクラス分からないや」

 

 

とりあえずなんでも知っている兄に電話をかける。授業中かもしれないが何らかのアクションはあるだろう。

 

 

「ほら来た」

 

 

30秒もしない内にメールが届く。

 

 

『今は無理だ、10分後にこちらからかけ直す』

 

 

どうやら授業中だったらしい、とりあえず『了解』と返信をする。

 

 

「わー十分間暇だなー」

 

 

十分という時間は意外に長い。とりあえず座ろうと辺りを見渡すと今は授業中のはずなのにベンチに座って本を読んでいる生徒が。

 

 

「サボりかね?」

 

「うわわわ!?」

 

 

男子生徒は驚いてびくりと跳ねるとそのままベンチから転げ落ちる。

 

 

「ナイスリアクション」

 

「褒められても全く嬉しくないよ」

 

 

素晴らしいリアクションを見せてくれた彼は制服からして二科生、神経質そうな外見、体格は細身の中背で右目の下に黒子がある。

 

 

「あっ今気がついたけど君一年生だよね?先輩だったら謝りますけど」

 

「残念ながら一年生だ」

 

 

良かったよ先輩だったらちょっと気まずかった。

 

 

「でー君はなんでサボってたんだい?」

 

「君に言われたくないよ」

 

「ぼくはサボりじゃないよ今登校してきたんだ」

 

「余計質が悪いよ!」

 

 

そのとおりだった。他人をサボり呼ばわりできるような人間ではなかったのだぼくは。だって学校自体をサボり続けているからね!

 

 

 

「はぁ…君変わってるね」

 

 

彼はそう言うと落ちたままの本を拾い上げパタパタと叩くと語り始める。

 

 

「なんだか馬鹿らしくなってね、二科生なんて落ちこぼれのまま高校生活を過ごしていくのが。これでも昔は神童とか言われてたんだ。それが落ちこぼれたもんだから家にも居づらいしさ。もうボロボロだよ」

 

「へー思ってたより重たい理由でぼくちょっと引いてる」

 

「そっちが聞いてきたのに!?」

 

 

 

ちょっとした暇潰しのつもりで訊いてみたら結構重い理由だった。いやーびっくり。でも聞いちゃったら何とかしてあげたくなっちゃうよね。ぼくも前世で中学受験に失敗した時は家に居づらかったから気持ちは分かるし。ぼくの前世の母はそりゃもう教育熱心で金ないくせに色々習わせた。だから受験に失敗した時は大変だった。まぁ高校受験はご期待に応えることが出来たのだが。卒業出来ずに死んじゃったけどね!

 

 

「まぁそういう時もあるさ」

 

「随分適当だね」

 

「だって君思ってもないこと言ってるんだもん。本当はボロボロなんかじゃないよ。俺ならやれる、必ず見返してやるってそう思っているはずだよ」

 

「そんなこと…」

 

 

彼は言葉を濁す。自分でも自分の心境が分かっていないんだろう。ぼくは中学受験に失敗した時次は絶対やってやるって気持ちになるまでかなり時間がかかった。怒るだけしかしなかった母が夜中、ぼくに強く当たってしまうと父に涙を流して語っているのを見て決意したのだ。今世で母の涙に過剰な反応をしたのもそのためだったのかもしれない。それほどその光景は衝撃的だった。

でも彼は自分で立ち上がろうとしている。今はまだ気がついていないけど彼はたしかに自分の足で立とうとしているのだ。ぼくはそれをほんの少し手伝うだけだ。

 

 

「それ、魔法関連の本でしょ?古式魔法かな。それが君の心をあらわしてる。君が一生懸命努力している証だよ」

 

 

ボロボロの本。今時紙媒体の本なんて珍しいからきっと古式魔法関連じゃないかなと当たりをつけた。何度も読んだのであろうその本には彼の努力が滲み出ていた。

 

 

「努力が必ず報われるとは言わないよ。報われない努力もある。でも君は大丈夫だ。このぼくが保証しよう」

 

 

ぼくがおどけて言うと彼は柔らかい笑みを見せてくれた。

 

「何となく楽になった。体の重りが外れたみたいだよ、ありがとう。これから頑張ってみるよ。頑張って頑張って皆を見返すんだ。まぁ君の保証っていうのが不安だけどね」

 

「酷いなーぼくが保証するなんて滅多にないんだからね。最後に保証したのは二年前、金平糖の美味しさだったかな。

 

 

ではさらばだ!」

 

 

 

それだけ言ってぼくは唐突にその場を離れ学校を去った。なんかクサイ台詞を言いまくって恥ずかしくなったのだ。ぼくが走り去ったとき彼が何やら叫んでいた気がしたが良く聞こえなかった。まぁ同じ学校にはいるのだまた会う時もあるだろう。ぼくが学校に来ることがあればだが。

 

 

◆◆◆

 

~雪花が聞き逃した男子生徒の言葉~

 

 

「ちょっ君!せめて名前だけでも!僕は吉田幹比古…って行っちゃったよ。彼女(・・)とは仲良くなれそうだったのに。クラス…どこなんだろう」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

余談だがその日の夜、司波兄妹家に呼び出され兄さんと姉さんに怒られた。学校に登校するのを忘れてたというね!

 

あっちょ姉さん何ですかそのヒラヒラの服は?兄さん助けて!って寝てらっしゃる!?あっやめて服脱がさな…イヤー!

 

 

 

 




今作圧倒的最長となりました。それでも短いですが。

やっぱりシリアスは苦手です。書いててふざけたくなります。

雪花の前世はこんな感じで小出しにしていきます。ちなみに金平糖が好物というどうでも良い設定は最初から決まってました。味を保証したのはリーナに対してです。

さて明日も0時に更新します。



劣等生の世界でメールって…とは思いましたが何も思い付かなかったので仕方ないです(言い訳)

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