魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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思っていたより早く仕上がりましたので投稿。



崩壊

雪花にとって真夜の言葉は到底、受け入れられるものではなかった。

 

 

「な、何を言ってるんだか…四葉の次期当主、最有力は姉さんだろ。それにぼくには四葉の血が流れていない。ぼくが当主だなんて、そんなの、ありえない」

 

「そう、ならまずは少しお話をしましょうか」

 

 

雪花の困惑とは対照的にゆったりと落ち着いて、それどころがどこか楽しそうに四葉真夜は語りだす。

 

 

「貴方と初めて会話をしたとき、画面越しだったけれど貴方は『情報』による交渉を持ちかけた」

 

 

雪花と真夜のファーストコンタクト。

それは剣呑な空気の中で行われた。当時、こうしてゆっくり話す機会があるなど、雪花は考えもしていなかった。

 

 

「それを私は了承したわけだけど、その本当の理由は、貴方がオペレーターなのではないかと疑ったからよ。オペレーターというのはフリズスキャルヴのアクセス権を手に入れた七人のこと。「七賢人」とでも言えば分かるかしら?」

 

 

フリズスキャルヴとは、エシェロンⅢの追加拡張システムの一つ。

エシェロンⅢのバックドアを利用し、エシェロンⅢのメインシステムを上回る効率で世界中から情報を集め、オペレーターの検索にヒットする情報をもたらしてくれるが、ヒットした情報を外部ストレージに保存できないようシステム的にガードが掛かっており、その選出はシステムそれ自体が行っているため、法則性がなく、見かけ上アトランダム。

 

 

その後、真夜からフリズスキャルヴについての詳しい説明を聞いても、勿論雪花に心当たりはない。そもそも七賢人というのも、名前くらいしか聞いたことがない「良く分からないけどすごい組織」くらいの認識なのだから。

 

 

「だから私は貴方のことを調べ直した。何時貴方がフリズスキャルヴのアクセス権を手に入れたのかを調べるために。そこで色々なことが分かったわ。こんな逸材だったのなら、あの時(・・・)、もっと本気で貴方を手にいれておけば良かったと思えるほどにね」

 

 

あの時、というのはどう考えても、雪花がUSNAに逃亡した時だろう。真夜のねっとりとした視線に雪花は本気で当時逃げ切れたことに感謝した。

 

 

「でも貴方はオペレーターではなかった。さて、そうなると貴方はどうやってあんなに機密度の高い情報を詳しく知れたのでしょう。元々アンジェリーナさんと引き合わせないようにしようと考えていた私は、貴方を呼び出すことにしたわ。直接会ってみたくなったのよ」

 

 

雪花の情報源はどうやっても調べようがない。それはオペレーターたる真夜であってもだ。なにせ、この世にあってはならない、未来予知にも等しい情報、つまり原作知識は雪花の頭の中だけに存在しているのだから。

 

 

「そこで貴方を見た私は確信したわ。貴方には四葉の血が流れている(・・・・・・・・・・)

 

 

グラリと、揺れた気がした。

 

こいつは何を言っているんだと、そう頭の中で考えるのとは裏腹に何故かこの先を聞いてはいけないという声が無意識化で響く。

 

そんな雪花の様子を知ってか知らずか、真夜は一度優雅な動作で紅茶を飲むことで、一旦話を区切る。

 

 

「ここで一つ貴方の知らない話をしましょう。

私の双子の姉、深夜は精神構造干渉魔法の過剰な行使を繰り返し、二十歳になる前に身体を壊した。その後、入退院を繰り返す療養生活は十年にも及んだ…これは貴方も知っていることでしょう?」

 

 

何故ここでその話をするのかは、分からなかったが、雪花はそのことを知っていた。原作知識としても、父や兄から聞いた話としても。

 

「でも、それは全て捏造(・・)よ」

 

 

 

それゆえの衝撃。

 

雪花の行動によって原作が変わることがあっても、過去は変わらない。そのはずなのだ。

 

しかし、なら、過去の改変がありえないというのなら、そもそも雪花が生まれたこと自体、既に原作の過去、雪花が生まれる前の改変となりえる。例えば雪花が生まれる仮定で、その母体は妊娠をするだろう。そして体に気を使うかもしれない。仕事も長期的に休むだろう。それは明確な原作改変だ。本来なかったはずのものだ。

 

 

つまり、雪花という存在が、ここにこうして存在している時点で過去に何らかの改変があった可能性は極めて高い。雪花という存在が生まれる未来のために、何らかの改変があった可能性は。

 

 

 

「これは私もつい最近知ったこと。ある人物(・・・・)から聞くまでは疑いもしなかった。事実、深夜は身体を壊していたのだから」

 

 

身体が震えている。衝動的に耳を塞ぎたくなった。

 

 

「深夜が身体を壊したのはとある人体実験を行っていたから」

 

「止めろ 」

 

 

聞きたくない。聞いちゃいけない。

知ってはいけない。知りたくない。

頭の中をぐるぐると駆ける言葉を押さえつけるように、右手で頭を押さえながら、真夜の言葉を制止する。

 

 

「その人体実験とは、四葉真夜、つまり私の遺伝子を受け継いだ子供を産む実験。これは実験の性質上双子の姉である深夜は最高の実験体だった」

 

 

「止めろって言ってるだろ!」

 

それでも止めようとしない真夜に声を荒げる雪花だが、その顔は今にも泣きそうな、すがるような顔だった。

 

 

「そして、その結果は最高のものだった。実験は成功したのよ。それも、私と深夜、二人の遺伝子を、才能を、受け継ぐという最高の形で」

 

 

が、真実は語られる。

 

妖艶に、しかし慈愛に満ちた笑顔で、四葉真夜はその事実を口にした。

 

 

 

 

「それが貴方よ。貴方は深雪さんの双子の弟なの」

 

 

 

 

雪花の中に積み上がっていた『何か』が、音もなく、消えるように、崩れた。




予想を裏切る展開を用意したつもりですがどうだったでしょうか?
次話でさらに詳しくやっていきます。
今まで史上最大のシリアスになりそうです。


さて、次話ですが、一週間以内ということにしておきます。シリアスになると筆が遅くなる可能性が高いので。

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