魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
銀色のCADは焼け落ちたはずの右腕でねじ込まれていた。
「その腕!?」
私の悲鳴と同時にブリオネイクの筒先から、常温のガスと化した金属粒子が勢いよく吹き出した。そして意図せぬ噴射のせいで、私の体は後方に吹き飛ばされる。そのまま地面に叩きつけられ、まずい!っと思った瞬間、四肢に激痛が走った。負けるわけには…そんな思いとは裏腹に私の意識は白い闇に呑み込まれた。
◆
「……良いんですか、見てるだけで」
「今、これ以上近づけばまず間違いなく兄さんに気づかれる。ここだって危ないくらいなんだ」
アンジー・シリウスと兄さんの対決。それを盗み見ていたわけだけど、うん。リーナさんですね、あの金髪は。
「戦略級魔法師なのは知ってたけど未成年だし公表されてないのかと思ってたら、リーナがアンジー・シリウスだったなんて」
「……そこまで知ってたなら気がつきましょうよ。アンジー、で大体分かるでしょ」
「いや、ぼくの中のリーナはポンコツなイメージしかなくて…シリウスって総隊長でしょ?無理だと思うなーUSNAの上層部は何を考えているんだろうね」
リーナは優しい。その優しさは戦闘において大きな隙を生む。兄さんは、どうしても必要であれば昨日までの友人を躊躇いなく殺せるだろう。兄さんの優しさは切り替えられる優しさだ。戦いに優しさを持ち出さない。
今回の戦い、兄さんは完全アウェーだった。戦力だけを考えればリーナをこうもあっさり気絶させることはできなかっただろう。いくら兄さんとはいえ、
リーナの小さな優しさ、兄さんをなるべく傷つけずに生かそうとする優しさが、少しずつ戦いの歯車を狂わせこの結果を作り出した。
リーナは優しすぎる。
「スターズの総隊長、ね」
向いているとは、思えない。
「怖い顔してますよ、まあ可愛いだけですが」
「水波ちゃん、今ぼく割と真面目なこと考えてたからね!?滅多にないことだからね!?」
水波ちゃんのせいで台無しだ。返せ、ぼくの真面目な空気を返せ。
「馬鹿なこと言ってないでどうするんですか、達也様どこかに行っちゃいましたけど」
「撤収しよう、たぶん兄さんがリーナを拾いに来るだろうから。これからそのための準備に行ったんじゃないかな」
「また、怖い顔してますよ。もしかして…怒ってます?」
「……行こう、ぼくの魔法を使っていても兄さんなら気がつくかもしれない」
水波ちゃんに指摘されて自分が怒っているんだってことに気がついた。
そうだ、ぼくは今、怒ってる。
兄さんがリーナを攻撃したのは仕方のないことだった。仕掛けたのはリーナの方だし、リーナ相手に無抵抗でいられるほど兄さんに余裕があるわけでもない。
だから、たぶん、それに対してではない。いや、それもあるけど、もっと大きな理由がある。
─助けて
リーナがそう言っているような気がした。泣いているような気がした。
実際に言ったわけじゃない、泣いたわけじゃない。
心が訴えている。
─助けて
「……まずいな、水波ちゃん早く帰ろう」
「…どうしました?トイレですか?」
「いや、殺したくって仕方ないんだよ。うん、八つ当たりでもなんでも、リーナにあんな顔させるスターズとかいう中二軍のお偉いさんを、さ」
シリウスであるリーナに命令を出せるくらいの奴を片っ端から殺していったらこの気持ちは晴れるだろうか。
いや、たぶん、無理だろう。
だって今までリーナに何もしてやれなかった自分にもキレてるんだから。
ここから徐々に原作改変していきます。
さて、明日も投稿します。