魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
キャビネットには時刻表がなくその性質上渋滞は発生しないので到着が大幅に遅れるということはないが、軌道内には法定制限速度が無いので早く到着する分にはかなりの時間差が生じる。
「やーやー、久しぶりじゃないかお兄様とお姉様!」
そんなわけで十五分程駅で待っていると兄さんと姉さんが現れた。久しぶりに見たがやっぱり兄妹の距離ではない。恋人の距離である。むしろぼくとあーたんより近い。
「……当主の下着をばらまいて四葉から追われるような弟を持った覚えはないな」
「それは誤解だよ!あれは事故だったんだ!」
久しぶりに会ったというのに兄さんは微塵も優しくない。というかなんでどうでも良いところだけが伝わっているんだ。ぼくが四葉を半壊させたことは伝わっていないみたいだし。
「連絡の一つもない、というのは薄情なのではないかしら?」
「あああ朝だからかな!寒い!極寒だよ!」
「深雪やるなら後にしてくれ。今は雪花に聞きたいことがある」
後でやられるんですね!逃げたい!けど兄さんに右手、姉さんに左手を掴まれたぼくに逃げ場なんてなかった。いやそもそも説明するつもりで待ち伏せしたんですけどね!
「実際何があったんだ?俺の所には情報が回ってこなくてな」
「詳しいことは放課後に家で話すけど、一言で言うと─四葉半壊させちった」
「……深雪、もういいぞ」
ゆらゆらと迫ってくる姉さん。あかん。これは長くなる奴だよ。
「おはようございます、達也さん」
姉さんの説教を止めてくれたのはほののんだった。彼女の登場が姉さんにブレーキをかけてくれたのだ。
マジ女神!ほののんマジ女神!
そんなほののんのすぐ後に来たツッキーは何やらそわそわしており落ち着かない様子。
瞬間、ぼくは察した。
─トイレに行きたいんだ、と。
兄さんとぼくがいるこの場でトイレに行きたいとは言いづらい。エーちゃん辺りだと堂々とトイレに行けそうだが相手はツッキーだ。エーちゃんとは女子力が違う。
「美月、貴女、制服に何をつけているの?」
「えっ?」
「いらっしゃい。とってあげるから。お兄様、申し訳ありませんが先に行ってください。ほのかも先に行ってくれる?」
「ああ、分かった」
一生懸命首を捻り、肩越しに背中を見ようとしているがツッキーの背には何もついていない。これは姉さんのフォローだ。このままトイレに連れ出すつもりなのだろう。
何故だかギクシャクした足取りで兄さんの背中に続き歩き出したほののんを不思議に思っていると後ろから襟首を掴まれた。
「何してるの、貴方も行くのよ」
◆
「バレンタインデー?」
「そうよ、そのためにお兄様とほのかを二人にしたの」
「助かりました、凄く居心地が悪かったので」
どうやらツッキーがそわそわしていたのはトイレに行きたかったからではなくほののんが出していたらしい邪魔なんだよオーラにやられていただけだったようだ。
それにしてもバレンタインデー。おかしいなー朝、水波ちゃんからは何も貰えなかったぞー。こう妹からの義理チョコ的なものがあっても良いと思うんだ。うん、きっと放課後にあるよね!そうだよね!
姉さんとツッキーと別れ、一人、C組に向かう。
すごく久しぶりの教室だがどうせぼくは空気みたいなものだ。『幻の古葉』なんて呼ばれてぼっちを貫いている。
「えーっと…新しいタイプのいじめかな?」
山だ。
机の上に山があった。正確にはチョコの山だ。
「クラス全員が一個ずつ雪花くんにチョコレート。しばらく来てなかったから無駄にならなくて良かったよ」
隣の席の女子…えーっと…うん、その人が教えてくれたが良く意味が分からなかった。クラス全員からって男子からもだよね?それ違くない?何か違くない?
「雪花くんに性別は関係ないよ。可愛いから愛でる、常識でしょ」
いじめだった。やっぱり新しいタイプのいじめだった。ぼくは今最新のいじめにあっているのだ。久しぶりに来てみれば散々である。
「はい、あーん」
「あっずるーい!私もやる!」
「私も私も!」
人形のように隣の席の女の子の膝に乗せられ口へチョコを運ばれる。あーんの声に合わせて口を開きチョコを食べる。
「ただ食べてるだけで可愛い!」
「あっ今の苦かったんだ!涙目になってる!可愛い!」
「ちょっと男子!ビターは駄目って言ったじゃん!雪花たんは苦いの駄目なんだから!可愛いかったから許すけど!もっと食べさせるけど!」
女の子怖い。
ぼくは黙ってチョコを食べ続けた。
雪花くんがC組でどんな扱いなのか、という回です。C組の皆は久しぶりの雪花くんにちょっとはめが外れてしまったようです。
さて、明日も0時に投稿します。