魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
はたしてその正体とは!?
リーナが水波と少々デンジャラスな理由で街を走り回っているころ。
中条あずさはいつもより少し遅めに帰宅の路についていた。学校の帰りに寄り道をしていたからだ。明日はバレンタインデー、気合いを入れてチョコレートを作るため材料を買い込んだのである。
「……作っても渡す相手がいないかもしれませんが…」
どういうわけかあずさの婚約者、雪花は最近学校に来ていなかった。それとなく、雪花の兄と姉に何かあったのかと聞いてみれば、苦笑い気味に旅に出た、と言われた。意味が分からなかった。
首から下げていた指輪を服から引っ張り出して握りしめる。雪花から預かった指輪である。
「…何があったんでしょうか」
このままでは退学になってしまうかもしれない。雪花は1学期間を丸々サボっており本来なら退学も十分あり得た。それがなかったのは単に学校側がそれどころではなかったというのもあるが九校戦で活躍したことが大きいだろう。その活躍、そして七草真由美の口添えによって雪花はなんとか退学を免れた。しかし、また何週間も続けて休むような事態になれば今度こそ退学、ということになりえるのだ。
「……明日はきっと来てくれます!だから私は精一杯チョコレートを作りましょう!」
ネガティブな思考から抜け出すために拳をぎゅっと胸の前で握り気持ちを声に出す。
すると少しだけ頭の中がすっきりした。だから気がついた。目の前に人がいたのだ。それも二人だ。
顔が赤くなる。
それほど距離は離れていない。今の一人言は確実に聞こえていただろう。見ず知らずの他人に言い訳をしても仕方がないしここは素早く立ち去ろう。そう決めたあずさは歩幅を精一杯大きくして早歩きでその二人の前を通り過ぎようとして─
「中条あずさ、ですね?」
─声をかけられた。
何かの仮装でなければ壊滅的なセンスであろうド派手な格好をし眼帯に長い巻き毛の少女。その隣には全身真っ黒、ミニのジャンパースカート、レギンス、タートルネックの長袖シャツのせいで肌が露出しているのは顔と手だけだが、胸も確かに小さく膨らんでおり少女であろう。
もちろんあずさにこんな知り合いはいなかった。だが相手は自分を知っているようだ。
二人の姿が明らかに年下の女の子であったことも災いしたのだろう。あずさはほとんど警戒していなかった。
「誘拐されちゃってくれます?」
だから眼帯の女の子の言葉と共に何人もの黒服が現れたとき、その場にペタリと座り込むことしか出来なかった。あずさとて優秀な魔法師の卵、抵抗するくらいのことは出来たはずなのに。
「大丈夫、傷は付けませんよ。ただ少し眠ってもらうだけです」
無意識に指輪をぎゅっと握りしめる。その行為に何か意味を見いだしていたわけではなかった。願いを込めたわけでもなかった。ただ恐怖の中で無意識に行った動作。
「君たちさー、この世には絶対やっちゃいけないことってのがあるわけ」
けれど彼は現れた。
久しぶりに見る婚約者。小さくて可愛い、女の子ような彼、雪花は─無表情だった。
喜怒哀楽の全てが抜け落ちて、まるで機械のように思えるそんな表情。雪花の容姿も相まって本物の人形のようだ。
「それやっちゃったらさ─死ぬしかないよね?」
二人の少女は迷わず『逃げ』に徹した。
雪花の実力は分かっている。キレたら何をするか分からないということも。故に撤退のための手段は用意していた。婚約者を狙えば雪花が出てくる可能性は大いにあったのだから。ただ一つ彼女たちに誤算があったとするならば─
「壁!?魔法っ!?」
─雪花にとって二人は既にまな板の上の魚も同然だったということだ。
「一つ、あーたんを怖がらせた」
眼帯の少女が吹き飛び、見えない壁に叩きつけられる。
「二つ、あーたんを泣かせた」
もう一人の少女も吹き飛ばされ、何度も地面を跳ねた後、壁にぶつかって止まる。
「三つ、ぼくを怒らせた」
二人の少女を雷撃が襲う。情け容赦のない雷撃は辛うじて意識のあった二人を簡単に気絶させた。
「それがお前らの過ちだ─死んで償え、ゴミ共が」
雪花は二人にもう一度、銃口を向けた。
二人の命を奪うべく。
二人の少女?危うし!
次話はこの続きになると思います。
原作十二巻までしか読んでいないのですが噂によると九島関連で新キャラが登場したとか。気になるけど読んだら読んだで今後の展開に影響が出そうで迷います。
さて、明日も0時に投稿します。