SAMULION ~まじっくナイトはご機嫌ナナメ☆~   作:Croissant

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巻の肆 <陽の章>

 出会いはそのものは入学式。

 

 同じクラスになった日。

 青紫という奇天烈すぎる色の髪をした美少女だった。

 

 だけどまぁ、その時にはこんなに長く付き合う事になるとは思いもよらなかったなぁ……

 

 

 

 つか、

 今も時々 罪悪感が……うう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友達になってくれてからずっとなんだけど、この月村 忍という人間はホントーに世話焼きで優しい人だと思う。

 

 本人もすっげー美人さんだし、突拍子も無く頭が良いし、運動能力も高い。家も大きいお(ぜう)さま。絵に描いたよーな高嶺の花。それが彼女だ。

 そんなに人柄が良いもんだから誰とでも気さくに話かけたりするから言うまでもなくすっげー人気があった。

 ……尤も、当時はお家騒動とかがあったらしく、皆と絶妙に距離置いてたけどネ。それでもそーゆー気遣いができるんだから大したもんだ。

 オレみたく怖がられて近寄ってもくれないのと大違いだ。コンチクショー

 

 だけど……

 だけど何だかよく解んないんだけど、彼女はオレ達との間に壁みたいなもんを挟んでるような気がしてた。

 

 後になって聞いたんだけどさ、何かオレが思ってた以上にお家がゴタゴタしてたらしいのよ。

 それに巻き込みたくないから、そういう距離を置かせてたって事だったんだろう。

 

 まーそーだろーなーとは納得してたけどネ。

 あんな大きいお家だし。旧家だし。おじょーさまだし。跡取り娘だし。

 

 落ち着いてから一応の説明はしてもらえたけど、よく解んなかったんだよな。

 記憶の切れっ端を繋ぎ合わせると、テレビドラマ宜しくの悪漢が『げっへっへっ お嬢ちゃん遺産よこしな』って感じか? 多分。

 ああ、やっぱ金持ちってそんな事もあるんだーってヘンな感心したもんさ。

 

 だけどそん時に何でか恭也が居合わせてワルモノどもをやっつけて事無きを得た…と。まぁ、そんな展開があったらしい。

 ナニそのヒーローっぷり?

 おまけにそれが縁でお付き合いを始めて、なんとびっくり今や婚約者だ。

 

 うぬれ~~…… やっぱ『天は二物を与えず』っつーのは凡人に対する気休めの言葉でしかないのか!!

 

 いや、オレなんかの友達になってくれた恭也にゃあ感謝してるけど、コイツってばチート野郎なんだぜ?

 お父さんに教えられてて剣術強くて、理数はナニだけど全体的に見れば悪い成績でもないし、

 両親揃って美形で、二人の妹さんも美少女。

 それだけでも妬ましいと言うのに、御金持ちのお嬢さんに見初められて婚約者だぁ!? お付のメイドさんはできたわ、可愛い義妹はできたわ……って、順風満帆じゃねーかバカヤロウ。

 ナニこの格差社会。泣くぞコラ。実際 泣けたけど。

 

 あの月村さんにしても、恭也と付き合いだして落ち着いた感じが増えて余計に魅力的になりやがる。

 そんな美人さんを増した彼女の口から出てくるのは恭也の惚気ばっか。クラスで…いや、学校で何人の男子生徒がハンカチ噛み締めて悶えたと思ってやがる。オレもそーだけどさぁっ!!

 

 ふぅ……でもまぁ、恭也だからいいやって納得してる自分もいる。

 何だかんだ言って数少ない友達だし、けっこう気ぃ使ってくれるし。

 

 あ、やっぱ勝ってるトコねーよ…… か、悲しくないもんネ!!

 

 確かかーさんが恭也のお母さん…桃子さんとあんまり歳変わらないだっけ。ああ、見た目の若さだけだったら かーさんが勝ってるよな。実際、中身もけっこう若いけど……って、それだけか? ウチのかーさんは『自慢じゃないけど、高校にはあんたの離乳食作ってから行ってたんだよ』とか言いやがったから(ホントに自慢にならん)。

 オレって兄弟もいねーしな。頼んだらできるかもしんねーけど、生々し過ぎてイヤだ。

 

 ――兎も角(それはいいとして)

 

 恭也はそんなチートな男なんだが、クラスメイトになって三年。大学入れて+一年。短いけど、それなりに仲良くやしてくれてるもんだから文句も言えねー

 

 こちとらこんなパンピーだぜ? 特典もなんもねーってのにさー……

 

 

 ………って、アレ? このオレに向けられてる呆れ返ったよーな眼はナニ?

 

 オレ、何かヘンなこと言った? ねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       巻の肆 <陽の章>

 

 

 

 

 

 

 

 

 「流石にチューブは無理ですね」

 

 「ポロリがほぼ確実よ? ナニよこのプロポーションバランス。なめてんの?

  ぱるぱる言っちゃうわよ?」

 

 「意味が判らんでござるよ!?

  というか、こんなはしたない恰好は……」

 

 「さっき着てたのよかマシじゃない。

  ナニよ地肌に作務服って。どんなサービス業の娘かと思ったわよ」

 

 

 ちょいと向こうの売り場では綺麗ドコ三人がきゃいきゃいと下着を選んでる。

 いや、会話だけ聞いてたら服選んでるよーにしか聞こえないんだけど、選んでるのは下着だ。

 

 よく解んないけど、どういった下着を着けるかで選ぶ服が変わるんだと。

 だから着る服とか想像しつつ下着選ぶんだそーだ。知んねーけど。今言ったのだって、月村さんが雷に説明してたのを聞いただけだし。

 

 いや確かに助かるよ?

 女の子の下着とか解る訳無いし、下手に『どんなのが良いでござる?』なんて聞かれたら、ウッカリとどっかの⑨氷妖精のみたいな水色ストライプなんか選んじゃいそーだし。言うまでも無いけど、別に⑨に性的な興味なんて持ってないからネ? ホントだよ? 男だからストライプにロマン感じてるだけなんだからね!?

 

 

 ……と、(わ、)兎も角(わすれて!!)

 

 

 下着を詰め込んだであろう紙袋四つを持って出てきた雷らと合流。

 ニソニソする月村さんの視線に気付かぬフリをして出ようとしたら、「どこ行くのよ。次は服に決まってるじゃない」と引っ張られてしまった。

 

 いやまぁ、考えてみたら下着しか買ってないんだから当然なんだけど、こんなカラフルな色彩の布地溢れる店になんか入れる訳ないじゃないか~っっ!!

 

 

 「ホラホラ、男のあんたがそんなんじゃ困るでしょ?

  ちゃっちゃと立って付いて来るっ

  折角、雷ちゃんに似合うストライプのも選んであげてるんだから」

 

 

 何で漢のロマンが解るのさ!?

 

 それじゃあ逃げようがないじゃないのっっ!! 悔しいぃっ

 

 

 といっても、実のところ逆らう気は全くない。

 

 何だかんだで話し相手が出来ている雷を見れるのが嬉しんだもん。

 やっぱさ、女の子って笑っててナンボだよなぁ。

 

 だから、申し訳無さそうにしゅんとしてる雷に、

 

 

 「……気にするな。良い運動だ」 

 

 

 って言っちゃったのさ。

 

 甘いって? ほっといてよね!?

 何となく、スラックスとか穿いてる雷とか想像しただけでGJって言いそうになったんだもんっ

 

 

 ……てっ、ゲフンゲフンっ

 と、兎に角、スカートとか選んでるのを遠目にしつつ、オレはカジュアル系の売り場から距離を置き、近くにあった託児スペースのある こども広場に足を向け……たら、遊んでた子供達が涙目になったから止めて、そのまま広場をに背を向けた。

 か、悲しくないもん……っ ぐすん

 

 仕方ないから、心配されないように三人からも見えるだろう喫煙スペースのソファに腰を下ろし、そこで暇をつぶす事に。ああ、さっきの広場で売ってるポップコーンとか食べられたらなぁ……ぜってー混ざりモン入ってるから食べらいないんだよなー

 それにしても、途中でどっかのおじさん達が怯えた顔でそそくさと出てったのは……気の所為だよね? チクショウ。

 

 しっかし……

 向こうからは見えるだろうけど、ちょっと離れ過ぎたか?

 

 まぁ、ガールズトークに耳を傾けたってノリについて行けないだろーから聞こえなくったって別にいいんだけどさ。暇だなぁ……

 オレってば、ぼーっとしてたらすぐに寝ちゃうから気をつけないと……

 

 

 

 そう――自慢じゃないが、オレは寝つきが良い。

 

 何せバスに乗って寝過ごしたのは一度や二度じゃないのだ。

 

 そしてその所為でオレは月村さんに罪悪感を持つ事件を起こしてしまったのである。

 

 

 高校三年のあの日……本屋に行った帰りのバス。

 

 乗ったのが遅かったから眠気もピーク。その上今さっき言ったよーに寝つきがいいもんだからおもっきり寝過ごしてしまい、はっと気が付けば何と隣町だった。

 運悪くその時は定期も持ってなかったから隣町から歩いて帰る破目に陥ったんだけど……

 

 いや、もうチョット早く帰られるはずだったんだけどネ。計算ミスった。

 何せ近道だーっと脇道に入ったら道に迷っちゃったんだもん。

 ……知ってるかい? モノホンの方向音痴って鳥瞰(ちょうかん)図を頭の中に描けないんだぜ?

 だから道の繋がりを想像できないって事さ。フフ 解ってた筈なのにねー……

 

 でだ、

 

 街灯の明かりだけを頼りに、どこかで見た事あるよーな道を探してフラフラ歩いたのさ。

 

 真っ暗だしさー 誰もいないしさー

 事故かなんか知んないけど遠くでどーんとか大きな音とかしてたしー 心細いったって心細いったって……もぅ半泣き。

 

 その時、スナネズミが如く臆病なオレの耳は何かが走って来る音を感じ取った。

 

 

 この世の中 HGSなんつー超能力な病気もあるから物騒なのよ。不良に襲われちゃうかもしれないし。

 ただでさえオレはビビリだってぇのに。

 

 すわ何事っ!? って身構えたね。別に強くもないけどさ。

 

 

 

 

 ……で、即行で大後悔。

 

 何か知らんけど、木の上に目を爛々と輝かせたヘンな人がいるんだもん。

 

 

 

 ま、まさか高機能性遺伝子障害(HGS)の暴走患者!?

 いや、暴走ったって名前くらいしかしんないけど多分それっポイ。

 尤も世間じゃこの病気って名前すら知られてないんだけど、オレの知り合いにHGSのヒトいるから知っている。

 

 それにしても……知り合いの皆は安定してるから何も気にもならなかったけど、考えてみたらアレにかかってる人って所謂エスパーになるんだよね。

 

 つまり暴走したエスパーがオレを見下ろしてるって事で………

 

 

 あれ? ひょっとしてオレ、危なくない?

 

 

 って、ヤバ過ぎるじゃなーいっっ!!??

 

 オレvsエスパーなんて一輪車で第七艦隊とガチバトルするくらい無謀な話じゃねーか!!

 言うまでもなく一輪車のドライバーはオレな!! ルナティック過ぎるわ!!!

 

 そんなオレの戦闘力理解して嘲笑ったのだろう、そのエスパーはたっぷりと余裕見せて跳躍。問答無用で襲い掛かってきた。

 

 あ゛ーっっっ もーだめだーっっ と叫びまくるオレの分割思考。

 その他の意見も、オーノーとか、My Godとかしか言えねーでやんの。

 言うなればオレは、ゴルゴさんの一メートル前に置いた(まと)のよーなもん。

 ボードゲームで百面ダイス振って100が出ない限り狙撃が成功するゴルゴさん相手に対応できるわきゃない。

 

 

 「……っ」

 

 

 と悲鳴を上げられただけでも上等だろう。

 因みに↑のは悲鳴ね? 普通の人のに直したら「きゃあああっっ」って感じの。

 

 だが死を目前にしたオレは良い意味で諦めが悪かった。

 こんな事で死んでたまるかっと足掻いた訳だ。

 

 とは言ってもオレは超草食系人間。

 戦う術もないし、逃げようにも相手はエスパー。仁丹を顔にぶつけてテレポートされるかもしれん。

 そうなるとこのオレには古来より培われてきた人間の英知……即ち礼儀戦法しか残されていない。

 

 それはつまり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すんません!! お許しくださいっっっ!!!

 

 

 ――そう、大謝罪土下座であった。

 

 

 しかしナニがどう転ぶか解ったもんじゃない。頭を下げた事で頭部を狙ってた腕の一振りを回避できたんだから。

 で、急に身体を倒した所為(と言うかお陰)で目標を見失ったその怪人は、腕を空振ってオレの背中に乗っ掛かってしまい、そのまま滑り落ちてしまった。

 

 真後ろで聞こえる ぐしゃっ べぎぃ と鈍い音。

 そして、がしゃんと倒れる重い音が現実逃避を許してくれない。

 

 

 恐る恐る振り返ったオレの目に入ったものは……

 

 腕を大きく十字に組んでしまって受身も取れず、首を見上げ過ぎにも程がある角度にしてしまった女の人が一人………

 

 

 

 

 

     き、きゃあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!

 

 

 

 

 と悲鳴を上げてしまうオレ。

 もちろんまた胸が痛んだから声にはならなかったけど。

 

 あわあわあわと生きてるかどーか脈をとってみたら……ないっ!?

 

 あ、あ゛~~~~~~~~~っっっ 死なせてしまったぁあああっっ!!??

 どうしよう!? どうしようっ!!??  

 

 そう慌てふためいて悶えてたら、追い討ちをかけるように、

 

 

   ぼぎっ ぼとっ

 

 

 何とその手に取った腕が千切れてしまった。

 

 

 うっぎゃあああああっっっ 更に死体損壊!?

 懲役何十年~~~~っっっっ!!!???

 

 分割思考のまま大騒ぎだ。

 

 あ゛~~っっ 千切れた腕から大出血…の代わりに火花が散ってて痛そうだぁーっっ

 首からも火花散ってるし、オイルみたいなもんも出てるし、

 オ、オレはなんて事をしてしまったんだぁああああっっ

 

 

 ………って、ん?

 

 

 そう混乱しつつ警察に電話しようとしたオレであったが、その時になってようやく気がついた。

 

 ……アレ? 傷から血が出てない?

 

 つーか、突き出てるコレって明らかに骨じゃないよね??

 血管じゃなくてコード見えてるし……

 

 段々と落ち着いてきたオレはもう一度その人をよく見る事にした。

 チョット怖かったけど首のトコとか、千切れた腕のトコとか……よく見たら何かあちこち裂けてたり穴空いてたりするし。

 

 

 何んつーか……人間じゃなくロボットっぽくね? このヒト。

 

 

 ものごっつい人間っぽいけど、中身機械だよこの人。いや、ロボットに人っつーのもナニだけど。

 

 ああ、首が折れてるのも、目標を見失って受身を取り損ねたからかも。

 そんで滑り落ちた時、首にこの重たそうな身体の全重量がかかってポッキリいった……って感じか。

 

 街灯の灯りだからよくわかんないけど、腕がとれたのも骨(フレーム?)が金属疲労起したからって気ががする。だってナニしてたか知らないけど、ズタボロだし。

 

 落ち着いて考えてみたら、暗闇で目を赤く光らせる人なんている訳ゃなかったんだよね。

 

 

 

 …………て事は……オレ、ヒト殺してない?

 

 

 

 あ゛……

 

 焦ったぁああ~~~……

 

 一時は人殺しの仲間入りかと……ふぃいいい~~~……

 その場でヘタりこんで冷や汗を拭き拭き。ウム、ベットリだ。オレノ人生で(当時)1,2を争う驚愕だったのだから当然だろう。

 

 落ち着くと言うか気が抜けたというか、手を濡らす汗をハンカチで拭いつつ、それにしてもとロボ()ちゃんに目を向ける。

 以前なんかの番組で見たどっかの大学教授に似せたロボット何ぞ足元にも及ばない、人間と寸分だがわぬ出来具合。

 何という匠の技術。見事すぎる。

 

 ううむ…誰が作ったか知らないけど、流石は技術先進国ジャパン。ナニ作っちゃうやら解ったもんじゃないな。

 いやロボONE(二足歩行ロボの競技会)くらいは知ってるけどさぁ……オレが呑気に飯食ってる間に世間はここまで進んでいたとは……恐るべし技術革新。

 

 ――そうへたり込んだまま唸っていたオレだったが、その時別の事に気が付いてしまった。

 

 

 この娘がロボットなのは良いとして、それだったら作った人、或いは持ち主は何者――?

 

 

 ざぁ……と血の気が引くオレ。

 

 状況が状況だから壊したのはオレと思われちゃうかもしれない。

 いや、思われるだろう。

 そう思われる可能性は低くないと断言できちゃうし。

 

 慌てて立ち上がり、周囲をキョロキョロと見回す。

 それっぽい姿はないけど、何かが森ン中を走ってきてる感じがする。

 

 うぉっ!? 拙いっっ!!

 

 幸いにも痴漢に間違われた件数はゼロだけど、目つきの悪さから器物破損で疑われた件数はけっこう多いオレ。この状況は最悪だ。

 

 壊したなっ!? お前だろ!! 間違いない!! もう決めたし!! ハイ決定!! とか言われかねん。

 

 となると……もはや兵法にある走為上(そういじょう)を使わざるを得ないだろう。

 

 走為上。

 それは()ぐるを(じょう)()す という兵法三十六計の最後の計。

 勝ち目がないならば、戦わずに全力で逃走して損害を避けるというもの。

 

 即ち……

 

 

 逃げるに()かずぅうううっっっ

 

 

 そう、オレは偉大な騎士サー・ロビンが如く、後方に向かって雄々しく逃げた。

 勇敢にケツまくって雄々しく逃げ出したのだ。

 

 ……ただ無理な体勢で必殺技の大謝罪土下座を行った為に両足挫いてたから精々競歩くらいの速度だったけどネ。

 

 まぁ、それでも企業の追っ手みたいなのはかかっていなったようで、何とか家にたどり着く事に成功。どこをどう走ったかはサッパリ覚えてないし、声すらかかってなかったんだから御の字か?

 

 ああ良かった良かった。肝冷えたぁああ~~………

 

 

 

 

 

 

 で、その次の日。

 

 何故か恭也と月村さんがガッコを休み、他に話をしてくれるヤツなんていなかった(赤星とゆー恭也繋がりの知人もいるが、何故か口利いてくんねーしよ)から暇だったのだけど……

 オレはこの二人が休んだ事で“ある可能性”を思い出し、ずっとガクブルしていた。

 

 というのも、昨日ナゾの襲撃を受けた場所って月村さんのお家の近くだった気がするんだよね。

 

 まぁ、女の子情報少ないから良く解んないんだけどネ(泣)。

 

 いやそれ以前に、あんな精巧且つ趣味とロマンがつまったロボットなんて開発できるトコ、この街じゃあ『月村』が関わってるとしか思えなかっただよ。

 

 

 そう思い至った瞬間、オラの身体に電気が走る!!

 

 ひょっとして、あそこで開発中のメイドロボとかを間接的とはいえオラが壊してしまったって事でねーべか!? 

 

 

 ああ、もしあの娘がプロトタイプのメイドロボだっていうのならなんか納得できるかも!?

 恐らく搭載している回路…良心回路ならぬドジっ娘回路とかが暴走し、走り回ってコケまくり傷だらけになっていたのだろう。

 そーに違いない。ドジっ娘要素のないメイドロボなんて麺のないラーメンみたいなもんだし。

 

 よく思い出してみれば、襲われた(と思った)際にも『はわわわ~ 落ちるぅ~』という声を聞いた気がしないでもないではないか。

 いや、仮にもメンドロボなんだからそう言っていたに間違いない。多分…っ!!

 

 ドジなメイドってどーよ!? と思わなくもないし、実際いたら腹立つ気がするけど、ロボっ娘ならアリだ。つか狙って作ったのなら誰だって許しちゃうだろう。

 うむ、TUKIMURZのドジメイド。流石未来に生きてる。

 

 しかしあれだけの完成度だ。そりゃあ自信も満々だったんだろーなー

 それが物理的にポンコツになったんだ。そりゃショックで学校も休むだろう。

 

 恭也が休んだのもそんな彼女を看病する為なんだろう。なんか最近仲良いし。 

 

 あー……そー言えば逃げる時にあの二人の声聞いた気がするなー……

 ひょっとして、バレてる? オレの所為だって知られてたりする?

 

 

 あれ? 考えてたみたら、オレって器物損壊犯じゃね?

 ひょっとしてオレ破産?

 

 TUKIMURAの新製品であるメイドロボ(ドジっ娘回路装備版)。

 販売前だからその相場なんか知らないけど、数十万では済むまい。

 いやあれだけ人間と見分けが付かないレベルなんだ。百万とかいうレベルかも……?

 

 となると、高層ビルの間で鉄骨渡りでもしないと得られないほどの借金が出来たっちゅー事なのか!?

 

 その怯えからだろう、オレは一日中 ざわ ざわ…してて授業も身に入らなかったのだった。ギャース!!

 

 

 更にその翌々日――

 

 

 

 「あ、おはよう太一郎君」

 「おはよう」

 

 「ああ、二人ともようやく来たか(びくびく)」

 

 「あー……やっぱ気にされてたみたいね。

  昨日までは その、解ってるとは思うけどまだ回復しきれなくってさ……

  今もまだ本調子じゃないし」

 

 「……だろうな(そんなにショックが大きかった!?)」

 

 「(やはり太一郎が……)」

 

 「だが、その様子なら恭也が上手くやったようだな」

 

 「……ま、ね」

 「すまんな」 

 

 「オレに言われても…な(謝罪するのはこっちだし)」

 「そっか。そうだよね(月村(ウチ)の問題だし)」

 

 「お前も…気にしてくれていたようだな」

 

 「……当たり前だろ(示談的に)?」

 

 「ホント気を使わせちゃったみたいね。ありがと」

 

 「礼なら恭也に言え。

  どうせ支え続けたんだろう?」

 

 「……むっ」

 「あは、敵わないなぁ……」

 

 「それよりも気になる事があるんだが……」

 

 「何だ?」

 「何?」

 「ああ、その……あのメイドロボ(イレイン)は……(ぼそぼそ)」

 

 「?」

 「メ、メイドロボ…?! ああっ! あの娘(ノエル)の事ね? 一応無事よ。

  直に元通り元気になるわ」

 

 「そ、そうなのか…良かった……(思ってたより壊れてなくて)」

 

 「太一郎……」

 「(うわぁ…笑顔なんて初めて見た)ホント、色々気を使わせちゃってたみたいね……

  ウン、大丈夫よ。ちょっと時間かかるかもしれないけどあの娘(ノエル)は大丈夫だから。

  ありがとう。あなたのお陰よ」

 

 (……? どゆ事? 意味わかんないんスけど……?

  ハっ?! そうか暴走してた訳だから、他の人の目に付いたら困るんだ!!

  壊しちゃった訳だけど、機密が護れて丁度良かったのか。怪我の功名というか……)

 

 「……ならいい。オレの所為でもあるからな。

  それよりきちんと直してやってくれあの子(イレイン)には可哀想な事をしてしまったからな」

 

 「!? お前……(やはりこちらの様子を……)」

 「……うん、解ってる。任せといて。

  ゴメンネ。そんな気遣い(、、、、、、)させちゃって……」

 

 

 ――とまあ、こんな感じ。

 何ともかんとも。結局は月村さんの御厚意で有耶無耶にしてもらえたのだ。

 

 軽自動車一台分はしたであろう損害をチャラにしてくれるなんて……お金持ちの余裕と言うべきか、得難い恩義だと平伏すればよいやら……

 そんな訳で、未だ彼女には罪悪感が湧くのだよ。あうぅ~~

 でもまぁ……どーも、あの一件で恭也と表立った(ねんご)ろの仲になった訳だから、下手すると彼女には損がないんじゃあ……とか思ってみたりする。

 

 もちろん自己弁護だけどネ……

 ああそうやって自分の罪を軽く考えようとするとは何てオレは浅ましいんだ。

 

 

 ま、まぁ、それは兎も角。

 

 

 そんな月村さんとノエルさんに遊ばれる形でオレと雷はからかわれ続け、そのデパートの上の階にある飲食店街(当然ながらヘンな混ざりモン使ってない高い店)に誘われてお茶をおごってもらえたのはまだ良いとしても、その店の中でも遊ばれ続けてしまったのは……ウン もー泣かない。

 

 幸い、昼食後すぐに解放してもらえたんだけど、二人して くたくたになってたりする。

 だけどオレなんか飲み食いできるモンが限られるから、口に入れられたのはコーヒーばっか。クリームもヤバイと直感が訴えてたからブラックオンリーだチクショーめ。だから腹も減って余計に疲れたぞ。くそーっ

 

 

 

 だけど、まー……

 

 

 

 「殿」

 

 「ん?」

 

 「良き……

  真に良き御友人をお持ちでござるな」

 

 「……だろ?」

 

 

 気疲れはしたけど、悪い時間を過ごした訳じゃない。

 

 『ヒモのとストライプの、きっちり選んで買っておいたから楽しみにしててよね』――て、いらん事言われもしたけどさ。

 

 なんつーもん買わせるの!?

 つか、どうしてオレのシュミにストライクなん!?

 ナニが『いいでしょ? ファリンとおそろいよ♪』だ!! なんでそこでファリンちゃん出てくるん?! 思わず想像してもーたやん!!

 いや可愛いけど、想像上ストライクだったけど!

 余計なお世話って言葉知ってる?! どーもありがとございますっ!!

 

 

 ぜぇっぜぇっぜぇっ……

 ツッコミ疲れっつーか気疲れっつーのもナニなんだけどさ。

 

 

 でもさ、

 

 

 月村さんも、恭也も、

 

 

 貴重で大切な、オ レ の 友 達 なんだよねー 

 

 

 ホント、ありがたいなぁ……

 

 

 

 

 その晩。

 気疲れしたのに、なんか ほっこりとしたオレは、何か生温かいまなざしを送る雷におやすみと言い、早めに床に着いたのだった。

 

 

 

 ――ああ、今晩は良い夢が見れそーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       -誰か

 

 

 

         -誰か、僕の声を聞いて……

 

 

 

   -力を貸して……

 

 

 

 

 

 

          -魔法の、力を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何ぞコレ? 

 

 

  




 連続投稿させていただき申し訳ありませんでした。
 というかお疲れ様です。

 これにて序章終了。
 次からは無印編となります。

 この流れ……いいの? という展開です。
 ご容赦ください。
 ではまた。

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