妄想戦記   作:QOL

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遅ればせながらのあけましておめでとうございます。
色々あって投降が遅れました事をお詫びしつつ、今年もよろしくお願いします。


「また会いたいよね」

Sideフェン

 

 

 やぁどうも。常に顔は鉄面皮。表向きクールに決めるフェンくんです。

 個別指導の訓練を続けてから、ようやく一ヶ月経過しました。朝起きて牛乳飲んで魔法訓練して、昼飯食べてソフィア教官に弄られてから訓練して、ワイズ教官と模擬戦してから座学して、牛乳飲んでソフィア教官と格闘訓練して、8割は負けて抱き枕にされて一日が終わるを繰り返していたらこんなに時間が経っていた。

 

 正規軍のレベル高めの扱きのお陰で眼に見えて体力・気力・魔力がトントン拍子に底上げされたのは嬉しいと思う。でも流石に対戦車模擬戦の単独クリアとかはきつ過ぎる気がするんだ。相手側の歩兵が教官とか俺に死ねといいたいんだろうか?戦車の模擬弾は例えバリア・アーマー発動中でも当たると痛いんだぞと言いたい。事実逃げる方向を間違えて、まさかの模擬弾直撃で数十mも吹っ飛ばされるなんて思いもよらんかった。

 

 流石にそれはきつ過ぎてヴィズは無傷でも中身の俺が完全に伸びてしまった。慣性制御機構のシステムがオーバーフロー起こす程の衝撃だったのだから仕方がない。後で整備部に申請を出してヴィズの強化とかも自分でしなきゃいけない。それはまだいいのだが、ここ最近の突き詰め特訓で疲労が溜まっていたのも訓練中に意識が飛んだ原因だと医務官に教官団もろとも怒られてしまった。

 

 実際、教官団も俺に対しやり過ぎたと思われたのか、その日の午後から次の日まで、およそ24時間の休息を与えられる運びとなった。僅か一日分の休養だが貰えるだけありがたいので、せっかくだし休ませて貰う事にした。

 

 大体、基地の兵舎には訓練で受けた疲労を次の日の朝には回復させるという。それこそ、まるで某RPGの宿屋システムの様な新陳代謝促進と治癒向上の魔法術式が組み込まれているのに、それのキャパシティを超える程、突き詰められた訓練を行っていたと聞いたのも休む理由だ。訓練で過労死とか笑えない。いやホント、マジな話。

 

 

「おーい、フェン君ー!」

 

「……ハッ!」

 

 

 そんで休暇で暇だった俺はたまたま誰もいなかった基地のロッカールームのベンチに座っていた。すると突如聞き覚えのある声がして、俺は慌てて近くの用具入れの中に飛び込んで息を潜め気配を消した。今の俺はただの箒だ。いや塵取りとかバケツとか使い古された雑巾だ。俺は物、俺は物…物。

 

 

「あれぇ?さっきこっちにフェン君の気配を感じたんですが…気のせいでしょうか?」

 

「オイ、ソフィア。すこしは溜まった書類の整理くらい自分で…なにをしているんだ?」

 

「あれミスタージョナサン?なんでここに?」

 

「それはこっちのセリフだ。大体フェンのヤツを探しているようだが、今日はアイツは休みだろう。何をしようというんだソフィア?」

 

「んふー、それはですね……ぐふふ」

 

「……あー、いい。みなまで言わんでいい。その笑みで大体理解できた」

 

「ツーカーですね」

 

「ま、仕事仲間だからな」

 

 

 俺は用具入れの中でひたすら息を殺し、ソフィア教官とワイズ教官がいなくなるのを待つ。いやね、そりゃ戦争という死亡フラグ満載な場所で死にたくないからこそ、無茶な訓練してきたが休みたい時くらい俺にだってあるんだ。ソフィア教官は俺をおもちゃにするからホントに休みたい時は隠れないと…。

 

 

「それよりも書類を処理しろ。いい加減事務方がせっついてきて大変なんだからな」

 

「わっ!ちょっと!襟を掴まないでください!セクハラで控訴しますよ!」

 

「安心しろ。お前にセクハラを働ける猛者はこの基地にはいないから」

 

「いーやーあーだーあー!書類なんて積んどいて何ぼなんですー!」

 

「ええい!手間取らせるんじゃない!」

 

 

ドタンバタンと大きな音が聞こえる。……時折捕縛魔法のバインドの展開音と破壊音も……ソフィア教官も教官ならちゃんと兵の手本になるようにすればいいのにと思うが、まだ兵隊ですらない俺がいう事じゃないっか。そんな身も蓋もない事を考えていた時だった。俺や教官達ではない第三者の声が聞こえてきたのは。

 

 

「――あーったく。一人で掃除しろとか鬼だろ」

 

 

 ローカールームの扉が開く音が聞こえた。声から察するにまだ若い。たぶん訓練兵か誰かだろうと思うが、間が悪いときに来たもんだと思った。なにせ目敏くソフィア教官が入ってきた第三者に眼をつけたのだから。

 

 

「あ!良いところに訓練兵A!」

 

「訓練兵Aって…俺にも名前はちゃんとあります!大体以前にも会ってますよっ!?」

 

「そんな事よりも私の代りに書類整理の大任を任せようと《ズゴン!》あぎゃっ!?」

 

「あー、すまんな。コイツは現実逃避しているだけだ。お前さんは何も見なかった。OK?」

 

「イ、イエッサー…」

 

 

 なんかドン引きしたような声が響く。まぁソフィア教官の阿呆な姿に引いてしまうのもしょうがないのかもしれないが、そこは温かい眼と言うもので―――

 

 

「なんかフェン君が影で馬鹿にしている気がしますね」

 

 

……何でわかるんですかぁっ!?エスパーかアンタっ!?

 

 

「馬鹿な事を言うんじゃない…。ところで訓練兵。お前は何をしに来たんだ?」

 

「はい。ちょっとした事で一人でここの掃除を承りました」 

 

「一人で清掃ね。ナニをやったんだ?」

 

「模擬戦中ずっと口を開いておりました。うるさかった、だそうです」

 

「そうか。じゃあ掃除を頑張れ訓練兵。俺達は今から消えるからな」

 

「イエッサー!」

 

「いやー!人攫いー!だれかー!」

 

「ええい往生際が悪いぞっ!」

 

 

 ホントですよ。いい加減出てけ。そんで俺に平穏《ガチャ》――ガチャ?

 

 

「…………(;゚Д゚)!」

 

「…………(・ω・)?」

 

 

 ふと見れば、用具入れの中なのに明るいね。だってね。ドアが開いてるんだもんね。それでね。眼と眼が合う瞬間に~な感じなんだよね。つまりは眼の前に丸刈りのお肌が濃い青年が瞠目してらっしゃるんですよね。あ、あう…。

 

 

「…………………おい」

 

「……《ぴく》」

 

「…………………いや、身じろぎじゃなくて返事しろって」

 

 

 あ、どうも。第2期少年訓練兵中退で現第1特殊幼年訓練兵のラーダーです。と、口に出来ないというか言葉に出ない。何故?それは私が鉄面皮だからです。あー無言の俺に凄い怪訝そうなご尊顔をされてらっしゃる。ご、ごめんよぉ、無言なのは最近俺初対面だと何故か声が出ないからなんだよ。昔はそうでもなかったのに何でだろう?

 

 ……なんか思考もおかしいな。疲れてるのかな。 

 

 

「私はまだ捕まらない!」

 

「まてい!逃げるなソフィア!」

 

 

 その時、どたばたと再び教官たちが…あんた等暇なのかよ。ってそれ所じゃねぇ!このドアが開いてたら幾ら気配消してもばれちまうじゃないか!

 

 

《じィ~~~~~~―――》

 

「……(…お願い、このドアを閉めてくれぇ…)」←無表情で眼でモノをいう

 

「はっ…??」

 

 

 たのむ、このままじゃ俺はソフィア教官のおもちゃにされちまう。せっかくの休養の時をそんなので精神すり減らしたくないんだ!俺は一縷の望みを託した視線を送る。正直日々の訓練で結構くたくたなんです。お願いだから黙ってて……ええい、無表情なのか伝わらん、だったら!

 

 

「おね、がい…」

 

「……っ!!??」

 

 

 搾り出すように、なんとか声を出した。結構俺も必死だったのだ。なんか驚いた顔してるけど何でだろう?まぁいいや、ついでにジェスチャーで指を口元に持っていってっと。これで伝わるだろ。

 

 

「ん~~?あれ?そこの訓練兵。用具箱の前でなにしてるんですか?」

 

「ッ!いえ!なんでもありませんです!」

 

「そ、そうですか。ではお掃除がんばってください」

 

「いくぞコラ」

 

 

 ふと隙間から覗いて見れば、バインドでぐるぐる巻きのソフィア教官を引っ張って、ワイズ教官がロッカー室のドアを潜るところだった。はぁ、なんとか切り抜けた。

 

 

「んで、お前だれだ?」

 

「………特殊訓練兵のラーダー、です」

 

 

 

***

 

 

 

「はふぅ…」

 

 

 用具入れから出た俺は今度はベンチに腰をおろしていた。用具入れの中は正直言ってかび臭く気が滅入ったから、外に出るとその分 気が楽になった気がした。ちなみに今いる場所は相変らずロッカー室である。理由は。

 

 

「うぇーい。手伝いありがとな」

 

「ん、気にしない」

 

 

 先の訓練兵、エドワード・コリンズさんのお手伝いをしていたからだ。話してみたら意外と良い人だったよ。手伝ったのは他意はなく、ただ基地のロッカー室は部隊で利用する事が多い為に非常に広いから、一人じゃ大変だろうと思った次第で…まぁ俺も身体を訓練以外で動かしたかったってのもある。罰則を受けている人を手伝うのはタブーなんだが、俺は今休暇中なので問題ない。(問題あります)

 

 ちなみに眼の前の面白黒人みたいなエド兄やん。俺や他の速成栽培な徴兵訓練兵と違い、志願組という別個枠で訓練中の訓練兵である。志願組とは今回の戦争が始まるよりも前に自ら軍に入隊した志願者達が集まった訓練兵で、速成栽培な俺らと違い正規の手順で訓練を経て前線に送られる人たちの事である。

 

 徴兵組はある日突然そうなる事が決まった為、この様に志願者と徴兵とが同じ士官学校で訓練を受けるというのはUSN軍の歴史の中でもある意味貴重な体験だという。ちなみにエド兄やんは俺よりもずっと先にここにいるので俺からすれば先輩にあたる。彼は元々施設で育ち、魔法の素質を確認するや否や、手に職にとばかりにUSN軍に入隊したらしい。

 

 ……なんで知り合って十数分の俺がそんな事を知っているかというと。

 

 

「…ところでさっきドリンクを買いにPXまで走った訳だがそこで俺をこんな眼にあわせてくれた教官と鉢合わせしそうになったから大変だったぜ だから俺は持ち前の機転を利かせてトイレに隠れてみたわけだがこれがクセーのなんのってたまらんって感じだったわけよ でも貰いクソというかなんというかなんかしたくなってきたけど水洗のクセに流れそうもないのはまいったまいった あと 身を潜めてたらなんかトイレに何人か来たんだけどなぜかアッーな空気が漂いそうだったから俺はとにかく走って逃げた その逃げ足はまさに風 俺はウィンドォ でも筋肉痛になりそうだが足がつらないか心配だ そういえば俺の得意な兵科は戦闘支援兵科のメディックだから筋肉の疲労くらいなら一瞬で直せるわけよ ニイやんのはすげぇぞ しおれて垂れてるようなのがいっしゅんでびんびんになるくらいにはな ってチビにはまだこの話題は早すぎたか!WAHAHAHA!!!」

 

 

 ………すげぇマシンガントークなんだよなこの人。

 

 こっちが聞いていようがいまいが関係なしに放たれる言葉の重機関銃、いやもう速射レール砲みたいに止め処なく喋る。黒人系、しかも名前とこの性格。更にこっちから聞いてないのに、何時の間にか聞かされていたマシンガントークでなどで語っていた内容。施設の出身などから彼は恐らくフロントミッションの登場人物にいたエドワード・コリンズと同じ人だと思った。違うのは魔導師資質があるって所か。

 

 ホント、原作でこの人との会話は3年に一度で良いの意味がわかる…。当然の事ながら、表情すら上手く表に出ない俺は、彼に話しかけられても言葉少なめにうんだの、そうだの返すだけで、ずっと聞き手側だった。あまりのトークにこちらから返事を返す隙がなかったともいう。

 

 

 そんな一般人なら話聞いてないのかよとそっぽを向きそうな俺の態度を気にも留めず。エド兄やんは関係なしに、掃除の間ずっと引切り無しに喋っていた。彼はリアルに壁に話しかけても平気な人種であったようだ。そんな奇妙なエド兄やんと共に掃除を手伝ったのは俺自身彼との会話を楽しんでいたからだと思う。なんせ俺と会話できる訓練兵なんて殆どいなかったからなぁ。

 

 両親や教官は除く。あの人たちは“教える側”だから“教わる側”のこっちからすれば隔たりがある。だからこうやってなんの隔たりもなく喋りかけてくれる彼は、ちょっとありがたかった。俺も結構会話に飢えていたのかもしれない……ヴィズはまだ成長中であんまり受け答え的なのは得意じゃないんだよね……。

 

 

「ところで聞いてなかったけど、チビ助はなんで道具入れに入ってたんだ?」

 

 

 ちなみに俺の愛称はチビ助となった。理由はちっちゃいからなのと、彼の態度を見るにフェンは既にいるらしい。……やっぱりフロミに似ているが時系列とかがおかしいな。5の主人公なら俺と同期かそれ以前に卒業しててもおかしくない筈だし……それを言ったらエド兄やんがここにいるのもおかしいけど。うーん。

 

 

「おいおいおい。チビちゃん無表情でフリーズしないでくれよォ」

 

「理由、訓練を無茶し過ぎて、俺強制的に休みに入った」

 

「ふんふん。訓練兵なのに休みがもらえるなんて実にうらやましいな。それでそれで?」

 

「ソフィア教官、怖い」

 

「………………………え?そんだけか?」

 

「うん」

 

「いやいやいや、なにを当然の事言ってんのみたいな感じに頭傾けても事情を知らん俺には解らんってというかお前無表情だからメッチャ怖ぇんだけど、そこんとこどうなの?」

 

「のーこめんと」

 

 

 この表情筋の頑なさは俺の意思ではどうしようもないので。まぁこんな風に駄弁っているウチに、先輩後輩な間柄になれた…のかな?とりあえず会話交わせるくらいにはなっていた。この時、俺が以前受けた仮想空間演習の内容をえっちらおっちら話して聞かせたらドン引きされたけど。お前人間じゃねェって…酷いなもう。

 

 でも、周りから見たらそうなのかもしれない。と、珍しく落ち込んでみたところ、エド兄やんはなんか同情してくれたのか、マシンガントークが3割り増しに……ごめん兄やん、流石に普通の会話に飢えていた俺でもそれはキツイ。

 

 

「そういやチビ助を探してたのソフィア教官だよな?」

 

「そう」

 

「うらやましい!」

 

「《ビクッ》」

 

「あのような美人に追いかけられてナニを不幸そうにしているのか俺は理解に苦しむな。むしろ男なら男冥利尽きるだろうといえるだろう。だがチビにはまだはや――」

 

「理解は出来る。確かに美人。けど…訓練で…」

 

「――お前マセガキってよばれねェ?」

 

 

 マセガキならまだしも、中身はれっきとしたオッサンですがなにか?

 

 

「エド兄は、ソフィア教官好きなの?」

 

「ああムリ」

 

 

 断言したよこの人。

 

 

「俺も最初は良い女とか思ったけどよ、俺のあふれるパッションに従ってれっつアサルトな突撃を掛けてスイッチしようぜべいべーってやってみたところ勘違いされたのか気がつけば俺は地面へダイブダイブダイブッ!その後で追撃の蹴りがみぞおちにHIT!顔面への止めまで流れるような動きで兄ちゃん顎が縦に割られて、自前のヒーリングかけても2ヶ月オートミール飯だったぜ!はっははははっ!うえ、うえぇぇ…」

 

「泣き話?笑い話?どっち?」

 

 

 黒人系の顔が笑みを浮かべながら悔し涙を流す姿は正直いって不気味である。

 

 

「お陰で女は追いかけるよりも追いかけられる方が良いって悟ったって訳だ!俺みたいな良い男をほうっておくような女は居ないだろうからな!いずれは高級住宅街で大きな犬を飼って高級車を乗り回して美人とにゃんにゃんしまくるって寸法よォ。その為にも毎日の筋トレは欠かさない見ろ兄ちゃんのこの割れた上腕二等禁のふつくしさ!めろめろになったって責任はもてないZE!」

 

 

 な、何でだろう、頭痛い。この人無意識に他人に精神汚染かけてるんじゃないだろうな?原作でもそういうキャラだったし、捕まえるのに味方から12ゲージショットシェル使えとか言われてるような男だったしなァ…選択肢にバズーカあった気もするけどどうだっけ?なんか味方に精神汚染生物兵器扱いされていたような…。

 

 とにかく、訓練兵エド兄やんとの出会いは劇的でも非日常でもなく、日常。そんな感じであった。この後は普通に別れ、お互い訓練の日々に戻ったが、時たま出会ったりしたときは言葉を交わす位の仲にはなっていた。と言っても、もっぱらエド兄やんが喋り続け、俺はそれに相槌を打つような感じである。

 

 普通な感覚を持つ人間なら、あまり話さないし表情も変えない俺を見限っていただろうに、彼は生粋のムードメーカーであった。こちらが無表情で無口なのにも関わらず話題が尽きなかった。しゃべりすぎて周りのテンションを降下させる事もあるが、それでも同年代が口も利いてくれない俺には兄やんの存在はありがたかった。一人で食う飯は味気ないのだ。

 

 

 そしてなんだかんだ言ってもエド兄やんは世話好きだった。どうして周りが近寄りたがらない俺に気をかけてくれるのか解らなくて、彼に直接尋ねた事がある。するとこの人のいたホームの悪ガキ共と似ていると彼は言っていた。孤児院であるホームで育った彼にとって年下の面倒をさりげなくするのは頼まれていなくても常識だったらしい。

 

 いつか、彼の弟分であるというウォルターくんとオニールくんとかに在ってみたいものだ。残念ながら病院での魔導師資質検査でも突出した資質は検出されていないらしく、俺みたいに徴兵されていないらしい。それを聞いてやっぱりこの世界はフロミ世界に似ているが少し違う世界だと改めて認識させられたが、まぁ最初から解っていたから今更である。

 

 

―――ともかく、兄やんと会ってからいろいろあった。

 

 

 兄やんの同期さん達に紹介されたり、嫌味な教官のデスクに蛙を詰め込んだ嫌がらせ事件を起こしたり、どこで入手したのかお酒持込事件やら、USNのフランチャイズバーガー店・パラダイスバーガースペシャルセットとキヨ○ク張りの日用品が詰め込まれてしまった装備一式トランクの中身入れ替え事件やら…ホントにいろいろ。

 

 最後のにいたっては別にエド兄やんがしでかした事じゃないが、たまたま兄やんのとこに少ない休み時間を利用して遊びに来ていた俺まで何故か共犯にされかけてまいった。もっとも俺は特別訓練兵だからか訓練期間中の外出許可が下りないし、別の訓練兵だから大丈夫だったけど、兄やんを含めたその他の方々はパイプで出来た硬い三段ベッドが並ぶ寝舎で整列させられ犯人探しが行われていた。

 

 本当はいろいろと兵隊の装備品が入っている筈のトランクを掲げた教官が、日用品に置き換わった中身を見せながら『――タオル一束に石鹸歯ブラシティッシュに冷凍みかん!?ここはキ○スクか!中の装備はどこにやった!それも喰ったのか!?』と叫んでいるのを見た時は不覚にも少しだけプッと吹いた。鉄面皮の俺が吹く程ってどんだけやねん。

 

 

 尚、結局犯人はわからずじまいで、犯人探しが終った後で遊びに行った時は彼らによくも見捨てたなあー!と意味の解らない逆恨みの篭った撫で回し攻撃をされた。俺は小動物扱いか!?と小さく溢すと兄やんを含め同期の方々は揃いも揃ってサムズアップをして来た。なんて奴等だ。流石は兄やんと同期、少しナニカおかしい。

 

 でもそれ以来彼等のところにも寄り付かないようにしたら素直に謝ってきたから許す。同じような事をしてくるソフィア教官、アンタは許さない。絶対にだ。とかは口が裂けても言えない。それが私。

 

 ともあれ、エド兄やんと出会ってから騒がしくも短い一ヶ月ほどが過ぎ。彼を含めた志願組は、なんと俺が前いた徴兵組と共に一足先に前線の何処かへ配属になった。まぁ俺達よりも先にいたのだし、スケジュール的にも先に動員されるのは当然の話だった。むしろ少し遅くかったらしいので、これで訓練校のノルマ達成といったところだろう。

 

 尚、俺は教練が終っていないので彼等を見送る側になってしまったのはなんともはや。

 

 

「というわけで…やって参りました」

 

『見送りなんて必要あるのですか?というか今のは誰に言ったのです?』

 

 

 腕に装着された腕輪型の相棒(ヴィズ)に突っ込まれたけど、やっぱりこういうのって大事だと思うんだ。転生してから絶賛コミュ障な俺が言うのもあれだが、人付き合いは大事なのである。未だ人間の心の機微には疎いヴィズには、少し理解できない事らしいが、まぁおいおい解るだろう。そんな風になる様に神経マップをアセンブリしてあるし…。

 

 今、俺がいるのは基地の出入り口にある門付近のフェンスである。この場所は普段はなんもないただの駐車スペースなんだけど、今はそこに数台の大型バスが止まっていた。数百名もの訓練を終えた魔導新兵を輸送機が待つ航空基地に送る為に用意された移動手段である。

 

 周囲は新兵でごった返し、人で一杯。係りの兵が新兵たちを誘導し、バスに押し込む為に張り上げる怒声が響いている。新兵たちはその誘導に従い、それぞれバスの前で列を作っていた。それを、昼休憩の合間にここに来ていた俺は、フェンスの向こう側から静かに見つめていた。

 

 ただ、そう…ここへ来たのは、ただなんとなくだった。自分よりも先に戦線に送られる彼らの姿を、ちゃんとこの眼で見ることが出来る最後の機会のような気がしたから。

 

 

「……おいエド、あそこ」

 

「あんだよ?――おっ!チビ助じゃねェーか!」

 

 

 フェンスの向こうからバスに搭乗していく彼らを眺めていると、何人かが俺に気がついて振り向いていた。その中にはエド兄やんの姿もある。バックパックを背負い装備一式身に付けた姿はいっちょまえの兵隊に見えない事もない。エド兄やんは周りの仲間に一言二言話すと列を離れ、わざわざ俺の前まで歩いてきてくれた。

 

 そんでフェンス越しに立ち、ヨッと片手を上げて軽く挨拶を交わす。

 

 

「ようチビ助、見送りか?」

 

「昼休みだから、時間あった」

 

「おおうそうかそうか。感動のあまり兄ちゃんチビ助に情熱の篭った熱いハグでもしてやりたいところだぜ。フェンスが邪魔だな」

 

「登らなくていいです。周りの目が…」

 

「時間もないしな。ま、お前も精々訓練がんばれや」

 

「そっちも、ね」

 

 

 兄やんはそれだけ言うとそのままクルリと踵を返した。非常にカラッとしていなくもないが、逆に気兼ねしなくてもいいので気楽である。俺が出来たのは彼らが気持ちよく巣立てるように、無理やり指で唇の両端を上げて笑みを形作る事くらいだった。自己主張を諦めた表情筋が恨めしい。

 

 この時、寂しくなると思って、ちょっとだけ涙腺が緩んだのは俺だけの秘密。中身いい年の人が泣くとかカッコ悪い。

 

 

「おいお前、ラーダーだよな?」

 

 

 その時である。エドワードはクールに去るぜと列に戻ったエド兄やんとは別の声が掛けられたのは。振り返るとフェンスの向こう側で、何人かの新兵たちがザックを足元に置き睨んでいる。アレは、確かシミュレーターの時に一緒だった連中だ。徴兵組も前線行きなのは知っていたが、まさか途中退場みたいな感じになった俺に声をかけてくるなんて。

 

 なんせ他にも何人か前に敵意をむき出しにしてきた者たちもいる。流石に闇討ちにしてきた連中の姿は見えないが、ああして睨んでくるとなると、俺はやっぱり彼らに嫌われていたのかな?なんか、ストンとはまり込むような感覚を覚えた。

 まあ、俺みたいな不気味なガキ。いても目障りでしょうがなかった事だろう。そういう意味では、彼らに迷惑をかけてしまったのかもしれない。

 

 

「はい。ラーダー訓練兵であります。不遜ながらも自分は…皆様のお見送りをさせていただいております…」

 

 

 でも声を掛けられたからには返さねばならぬ。

 声をかけてきた連中のほうへと向き直った俺は、エド兄やんの時とは違い固い口調で敬礼をして見せた。………ん?なんで困惑してるんだろう?

 

 

「見送り?なんでまたお前が――」

 

「………目障りでしたら、いないものとお思いください…ラーダーは、皆様のご健闘を、お祈りしています」

 

 

 俺はとにかく角が立たないように彼らに頭を下げていた。彼らはすでに訓練兵ではなく、正規に部隊に配属される新兵である。対して俺はすこし特殊な立場ではあるが、ここではまだ卒業させて貰っていない訓練兵。すでに階級が異なるのだから不遜な態度を彼らにとる事は許されない。俺の立場はまだ、ひよっこの新兵にすら劣るのだから。

 

 だが、何故か頭を下げた途端、目の前の彼らの困惑具合が増した。ははーん、まぁ彼らと一緒の時の俺は成績優秀者だったからな。そんなのがいきなり頭下げてきたら、晴れてても雨が降るような変な気分になるんだろう。これが終わったら俺も戻ろう。昼の休憩ももうすぐ終わるだろうから…はぁ。なんだか、余計にわびしさが増したような感じを覚えながら、再び踵を返そうとした。

 

 その時である。

 

 

「なぁラーダー。頭を上げてくれよ。俺たち同期だろ?」

 

 

 なんと、彼らの方からやさしい口調で声を掛けられた。どういう事なのだろう?

 

 

「もう話す機会なんて殆どないんだから、そんな他人行儀じゃ硬くていけないわ」

 

「それにそんな態度とられたら、すんなり感謝の言葉も言えやしない」

 

「感謝…?なんの?」

 

 

 俺が彼らに感謝されるような事、なにかしただろうか?……思いつかない。

 

 

「もう二ヶ月も経っちまったけどさ。ほれ、シミュレーターの時に俺を庇ってくれただろう?あんときはありがとうよ」

 

「俺の時は、確か装備が壊れた時に短時間で応急修理してくれたッス。あの時はホントにラーダーに随分と助けられたッス。ありがとうッス」

 

「私は、負傷してもう駄目かと思った時、味方のところまでアナタに運んで貰ったわ。戦えなくなったのに、アナタが言った後は任せろの一言で、どれだけ救われたか…とにかくありがとうラーダーくん」

 

 

 そんな、前の事を?身体が自然と動いてした事なのに?なぜ?どうして?

 

 今度は俺が困惑する番だった。仲間を助ける事は自然な事。そう叩き込まれていた俺にとって、その事で感謝される理由が分からない。だって大変な事ではあるが助けるという行為は必然であり、感謝されるような事ではないからだ。困惑して黙っている俺はただ無表情で立っている事しか出来ない。

 

 そんなところへ、後ろにいた別のやつが歩み寄ってきた。

 

 

「……ふん、相変らず人形みたいな面だな、ラーダー」

 

「おい、レイモンド。お前なぁ。ラーダーだって仲間だろ?」

 

「俺の仲間は俺が決める。指図するんじゃねぇよ」

 

 

 レイモンドと呼ばれた少年はそう俺に言い放った。彼は…たしか俺に敵意を向けてきていたヤツの一人じゃないか。名前までは知らなかったが、成程、彼に俺は仲間だと認められていないのかもしれないな。訓練途中で違う方面に行かされた俺の事を仲間と思えないのもしょうがない。

 

 

「だけど…まぁ単独で突っ込みすぎたアン時に助けてくれた事は礼を言っとくぜ。お陰で仲間の大切さが分かったからな。だから、その…ありがとよ」

 

 

 言外に仲間じゃないとツンとしていわれたと思ったら、デレられていた。

 うわっ、むず痒い!野郎にお礼言われると何だかとっても痒い気がする!

 

 

「ぷっ、あの融通が利かなくてプライド高いレイがお礼言ってるよ」

 

「珍しいな。今日はきっとグレネードとロケランとミサイルの雨が降る」

 

「ハフマン島が熱くなるな」

 

「おい!縁起でも無い事いうなよ!?」

 

「輸送機でこれから向かうんだからな!?わかってんのお前!?」

 

 

 そういうと縁起でも無い事を言ったヤツの肩に手を回して頭をがっちり掴んでいる。されたほうは痛い痛いと手でタップしている。わいわいと賑やかな彼らのソレに、俺は思わず笑みをこぼした……非常に解り辛いだろうが、極自然に俺は少しだけ笑みを浮かべたのだ。

 

 

「……クスっ」

 

「おお!」「「「どうした!?」」」

 

「ラーダーが…わらった…」「なん…だと…?だ、だれかカメラ!?」

 

「もう笑ってないッス!くそ惜しい!」

 

「………なんでお前等あんなの解るんだ?全然表情変わってないだろう」

 

「おーい!もうすぐ出発するぞー!早く乗れー!」

 

「あーあ、もう時間か。それじゃあな。最後にちゃんと話せてよかったぜ」

 

「紳士アンド淑女協定破りはすこし心苦しかったけどね。ま、そんなことよりも私たちは先に行くけど、そっちもがんばってね」

 

「俺たちよりもずっとラーダーは強いッスから、すぐに卒業できるっスよ。それじゃ」

 

「……ま、せいぜい脱落しないようしろよ。じゃあな」

 

 

 そう言うと、彼らは俺に背を向けてバスへと向かっていった。その姿を見て、俺は。

 

 

「みんなっ!……がん、ばってっ!」

 

 

 何時もの外様向けの作ったような声じゃなくて、表情きんが上手く動かないから、すこしどもりながら心からの言葉を彼らに送った。急いでいたからか皆はとくに反応せずにバスに乗り込んでいく。彼らを乗せたバスは時間通りにフリーダム基地から発車し、新兵たちと共にどこかへ行ってしまった。

 

 こうして彼らを見送り、俺は再び訓練へと戻った。一足先に戦場に向かう彼等に俺は何もしてやれる事が無い。精々、バスが見えなくなるまで見つめ続けることしか出来ず、何も出来ない不甲斐無いこの身が恨めしい。それもまた運命なのだろう。だけど戦場に送られるはずの彼等がバスに乗り込む時、うっすらと笑っているのを見た。

 

 

 彼らは厳しい訓練の中で、命を懸けるだけの何かを見出したのかもしれない。

 

 

 祖国か、仲間か、それとももっと根本的なナニカか…。

 

 

 また、あんな風に笑い合う彼等と話が出来ればいいのに…。

 

 

 いや、そういう事はもう考えない方がいい。

 

 

 何故か、俺は彼らとは二度と会う事が出来ないと感じていた。

 

 

 そう、それは勘というべきか…なんとなく、そんな気がした。

 

 

―――そして彼らを見送ってから一週間後、俺も現地へと飛んだのだった。戦いの地、ハフマン島に…。

 

 


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