妄想戦記   作:QOL

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「フルボッコ?そんなのは天国だ!まずは地獄を見て来いっ!」

Sideフェン

 

 

 俺は生きているぞー!!!!!!

 

 

 つい叫びたくなったが、ついに現実世界に帰還したぜ!いやぁ実にむちゃくちゃなシミュレーター訓練だった。普通新兵にあそこまで追い詰めるような事するのかよ。大体いくら促成栽培したいからって無茶させて潰したら元も子も無いだろうにね。実際俺最後の方なんて殆ど覚えてねぇや。疲れとかMAXだったし。

 

 まぁとにかく現実世界に戻り、今度は身体を鍛えたりとかいろいろする筈だったんですが相変わらず俺はボッチとなってしまった。どうもがんばりすぎてドン引きされたらしく、あの演習以来俺は皆から敬遠されているような気がする。というか俺だけ何故か演習が終わった途端、他の訓練兵たちと隔離されたんだよな。何でもいろいろと検査するとか何とか……健康診断っぽくは無かったが、何でだろう?

 

 その後は一週間、訓練免除である。教官曰く最後まで生き抜いた御褒美とかなんとか言っていたが、それでいいのかUSN軍?はやく前線に兵士を送りたいんじゃないのかといいたい。こちとらあんな演習みたいな最後を迎えたくないから強くなりたいのに、部屋で軟禁状態にされてつまらないったらない。なので暇つぶしに閉じ込められている部屋でも出来る腕と足の訓練を始めた。魔力無しでやると実にいい訓練だ。

 

 

―――んで筋トレをしているある日、部屋がノックされる。

 

 

「ラーダー訓練兵、入るぞ」

 

 

 そういって俺の返答も待たずに扉を開けて、誰かが部屋に入ってきた。

 

 

「………お前は一体何をしてるんだ?」

 

「ハッ!両手両足の訓練をと思いまして…」

 

 

 そういうと何故か入ってきた人物が額を押さえている。頭痛かしら?

 

 

「……いや、なんか息子が持っていたコミックにそんなキャラクターがいたと思ってな。確か蜘蛛男とかなんという名前だったな。というかふざけてないですぐに降りて来い」

 

「イエスサー」

 

 

 俺はそういうと部屋の隅っこの天井から降りる。

 実は部屋の角を利用して天井に張り付いていたのだ。筋力要るぜーこれ?

 

 

「それでだラーダー」

 

「なんでしょうか?」

 

「どうだ?訓練を再開したいか?」

 

 

 そう問いかけるのはワイズ教官……この軍仕官学校での最古参の教官の一人だ。フルネームはジョナサン・ワイズマンと言い、卒業した訓練兵たちからはその真摯な姿勢と真面目な教導から“親父さん”と親しまれている。俺に対しても厳しくも優しく接してくれるいい人である。

 

 

「……命令とあらば」

 

「そうか…」

 

 

 そんな人の問いに俺は言葉少なくそう答えた。いやもう少しちゃんとしゃべりたいんだけど、これが限界というかなんと言うか。とにかく今の状態だと問題が無い訳じゃない。俺はどっちにしろ逃げられないのだから、鍛えられるだけ鍛えておかないといけないのだ。

 

 この世界に来て7年と少し。どっちにしろ死ぬには早すぎる。平和になってからいろいろと経験したい事も沢山ある……あれ?俺魔法以外でなにかしたいことってあったか?うーん……俺的にはパソコンとネット環境とドリンクさえあればあとはいらない気が……これ駄目人間の発想じゃないか?いいのか俺?もう少し考えないと―――

 

 

「ラーダー?どうかしたか」

 

「いえ、何でもありません(変な方向に思考がズレた事は言わないでおこう)」

 

「ところでラーダー。貴様は夜中に自主訓練を行っているそうだな?」

 

「……いけないでしょうか?」

 

「いや、俺にも経験がある」

 

 

 そう言うと彼は自嘲気味にクククと笑った。なんとも歳に似合わない悪戯っ子みたいな笑い方だ。

 そして再び沈黙……BGMには外から漏れ聞こえる訓練兵たちが歌う声が流れている。

 

 

「貴様は…」

 

 

 そして僅かな逡巡の後、教官は思いもよらない質問を口にした。

 

 

「貴様は…何故そこまで頑張る?」

 

「ハッ…もうしわけありません。自分には…質問の意味が…理解しかねます」

 

 

―――俺がココに来た理由。教官の貴方が知らない訳は無いだろう。と言外に言う。

 

 

「質問の仕方が悪かったな。まぁアレだ?貴様の自主訓練はだ。我々の新兵に対する常識からしたら少し度が過ぎている……ある意味異常だと言っても良い」

 

「そうです…ね」

 

 

 母上直伝だからなぁ、常人には異常なのかも……つまり、俺って変態?

 

 

「その事を踏まえてだ。なぜ貴様はそこまで頑張る?自分自身を苛める?もしや…」

 

「別に自傷行為という訳ではないので…安心してください。そうですね……自主訓練にあえて理由をつけるならば……」

 

「―――ならば?」

 

「―――生き残る…為です」

 

 

 正直に打ち明けてみる。いや真面目な話、本当にそれが理由なんですワイズ教官。

 シミュレーターの時は無茶したけど、あれはあくまで恐ろしくリアルなシミュレーションで割り切ってたからな。

 でもマジで死にたくないんスよ…俺は。

 

 

「後は…臭い話ですが、家族を守りたい…その為の力が欲しい…それだけです」

 

「いや、いい心がけだと俺は思う。」

 

「そう…ですか」

 

「ああ」

 

「「…………」」

 

 

 再び流れる沈黙――――き、気まずいぞい。

 

 

「最後に同じ事を聞くようだが、生き残りたいんだな?死にたくは無いんだな?」

 

「はい…そうですが?」

 

「その為なら、どこまでもヤル覚悟もあるんだな?」

 

「はい」

 

 

――――んと、教官は何が言いたいんだ?

 

 

「そうか…まぁ俺が聞きたかったのはそれだけだ。訓練に戻ると良い」

 

「ハッ――失礼します」

 

≪ザッ≫

 

 

 立ち去るワイズ教官を敬礼をして見送り、俺は部屋の隅をよじ登り訓練に戻った。

 

 

……………………

 

 

…………………

 

 

………………

 

 

――――数日後―――――

 

 俺はいきなり呼び出しを受けた。はて?特に問題がある行動はしていなかった筈だが?大体基本的に部屋に軟禁されていて、夜中に外に訓練しに出る事くらいしかしてない筈……自主訓練って禁止されてない筈だけどなぁ……その事を不思議に思いながら、教官待機室の扉をノックした。

 

 

「―――誰だ?」

 

「フェン・ラーダー訓練兵…です」

 

「ん、入れ。」

 

「……失礼します」

 

 

 部屋に入ると、ワイズ教官を含め複数の教官達が部屋にいた。

 ―――というかアンタら、他の訓練兵の訓練は?

 

 

「短答直入で言う、貴様は他の訓練兵との訓練から離れ、我々教官団が一対一で行う特別訓練に参加させる。なお、貴様に拒否権は無い。」

 

 

 え?――――なに?新しい死亡フラグ?

 

 

「質問が…有ります。発言の許可を」

 

「許可しよう」

 

「自分は何か…失態を犯しましたでしょうか?」

 

 

 なるべく怒られないように、言われた事は全部平均よりも高めにクリアしたのですが?

 何故こんないじめの様な事になるんですか?嫌マジで…。

 

 

「逆だ。貴様は訓練で失態を犯した事がない…むしろ優秀な訓練兵だ。」

 

「でしたら…」

 

「だが…優秀すぎる。正直貴様の実力はとっくに訓練兵のソレを逸脱している。このままでは他の訓練兵たちの士気に影響が出る…いや既に出始めている」

 

 

―――あーそう言えば演習の間もボッチだったのはその所為か?いや知ってたけど。

 

 

 そういや夜の訓練に行こうとした時にも、なんか嫉妬に包まれたヤツに闇討ちされたっけね。ん?闇討ちされて大丈夫だったのかって?大丈夫だったよ?じゃなかったらココにいないモン。俺母上の訓練のタマモノなのか敵意とか殺気とかが解るようになってさ?お陰で相手が仕掛けてきた時も何とか撃退できたんだ。

 

 とりあえず襲ってきたバカはMP(ミリタリーポリス)に引き取ってもらった.

 勿論ボロボロにして――――閑話休題。

 

 

「―――そう言う訳だから諦めろ」

 

「……イェッサー」

 

 

 別に良いけどね、年齢が年齢だから友達とかなんて出来なかったし……言ってて哀しいなコレ。

 

 

「話は以上だ。下がっていいぞ」

 

「ハッ!――――失礼しました」

 

 

 カッと靴が鳴るくらいの敬礼をして、俺は教官待機室を出た。

 

 

≪カツカツカツ……≫

 

 

 一人寂しく廊下を歩く音を聞きながら自嘲する俺、はは…ホントお笑いモンだ。まさか、やり過ぎで余計に目をつけられる羽目になるとはなぁ。でもさ…そうやって訓練にでも打ち込んで無いと、不安で押しつぶされそうだったからな。全部あのやり過ぎなシミュレーターの所為だ。クソッタレめ。

 

 

「ちょっといいか?ラーダー」

 

「ワイズ教官」

 

「敬礼はいい」

 

「…了解」

 

 

 帰り道、俺が隔離されている部屋に戻ろうとしたところ、突然声をかけられ後ろを向くと親父さんが立っていた。軍施設内なので敬礼は欠かさない……のが普通なんだが、このヒトはそう言うのを嫌う様で、周りの目が無いと敬礼しなくていいらしい。でも調子狂うよなぁ。

 

 

「とりあえず、コイツを返しておくぞ?」

 

「え?あ…」

 

 

 敬礼を解いたところ、突然ワイズ教官が俺に何かを投げ渡してきた。慌てて掴んでなんだろうと思いソレに視線を向けた俺は、思わず驚いて変な声が出ちまったい。

 

 

 なんせ手渡されたのは―――――

 

 

『マスター!お久しぶりです!』

 

「ヴィズッ!」

 

 

――――ココに来る時に訓練兵には早いと没収された、ヴィズだったのだから。

 

 

「どうして…ヴィズがここに…本来は卒業後の筈では?」

 

「なに、どうせ貴様はココを出たら尉官として着任させられるんだ。尉官は他の訓練兵と違って自分専用のデバイスを持つ事が許可されるからな。予定を繰り上げたにすぎん」

 

「しかし…」

 

「それにだ。俺達からの特別訓練を受ける事になるだろう?薄着のままじゃあ実力を発揮する前に落とされる。演習の時みたくな」

 

 

 うぐ、なんか痛いところ突いてくるなぁ。あの演習の時の事はあんまり思い出したくない。そう言えばワイズ教官。このヒト今は実戦を退いて教官職してるとはいえ、若いころは歩く災害とか呼ばれてた人だっけ?他の教官もなんか二つ名付きだった様な……そんな人たちから受けるスペシャルな訓練。ヤバいかも知んない。

 

 

「―――まぁこちらの楽しみを増やしただけにすぎんから貴様は気にしなくていい。」

 

「…………(唖然)」

 

「ん、もう時間か?それじゃ俺は訓練に戻るからな?貴様の特別訓練は明日からだが…」

 

 

 ワイズ教官は俺に視線を向けると、ワザと悪戯を企むかの様な笑みを浮かべ―――。

 

 

「覚悟しておくことだな?ラーダー訓練兵?」

 

「ッ!―――サーイエッサーッ!!!」

 

 

―――プレッシャーと不安を煽ってきた……教官、アナタ意外とSなんですね?

 

 

 教官は言う事は言ったという表情を浮かべると、そのまま廊下の角を曲がり見えなくなった。

 

 

「……(はぁ~)」

 

『溜息なんて幸せが逃げちゃいますよ?』

 

「ほっとけ…」

 

 

 何だか余計めんどくさい事が起こりそうな予感がして溜息をつく俺。あーもう、優等生ですまそうと思っただけなのになぁ。夜中の鍛錬だって、母上から言われてたのを欠かさずやってただけだし…そうしないとすぐに勘が鈍っちまうんだよな。習慣付けってのは恐ろしいもんだぜ。

 

 

『今更何言ってるんですか?』

 

「……地の文に突っ込むな」

 

『それよりもこれから忙しくなりますね。再びマスターとご一緒できて光栄です』

 

「ありがとう」

 

『でも特別訓練。大丈夫ですか?』

 

「どうしよう…死んじゃったら」

 

『葬儀屋を手配します』

 

 

 あはは、なんて事を覚えてるんだこのやろう。

 

 

――――ちきしょうめ。

 

 

 

***

 

 

 

――――フリーダム基地 第4訓練場――――

 

 

 軍士官学校で同期生たちと切り離されて、特別な訓練を受けさせられるようになって早数週間。俺は模擬戦に使われている市街戦を想定した屋外訓練場に来ていた。

 

 

『熱源接近。接敵まであと20秒』

 

「―――…アルアッソー、ファイアーロック解除。術式レールブラスター装填」

 

『ロック解除、FCSと同調――――敵の反応ロスト、情報を処理中。お待ちください』

 

「大丈夫だ。ロストする前に…必ず痕跡がある…ソレをさがせ」

 

『ログを検索中』

 

 

 そして今現在、教官の一人と模擬戦を行っている。まぁ訓練兵が外に来たのだからする事何ぞそれくらいしかない。さて、相手は廃ビルを模した建物の中に入ったか?いや…以前は地下鉄を模した地下道内に隠れていたな。あの時は突然地面から魔力弾を撃たれて度肝を抜かされた。しかし引き出しの広い“アノ教官”が、以前と同じ事をするとは考えられない。

 

 

『ログ検索終了。極少量の幻術系魔法の反応を検知。警戒を推奨』

 

 

 幻術?幻術系でセンサーを騙した?ということは………まさかッ!?

 慌てて上を見上げようとしたのと同時にHUDがレッドアラートを響かせた!

 

 

『上空魔力弾接近ッ!自動障壁展開』

 

≪ズガガガンンッ――――≫

 

「くッ!…その程度っ!」

 

 

 射撃地点と思われる所を狙い、レールブラスターを放つが―――手応えなし。

 

 

『反応ロスト――敵未だ顕在』

 

「壁を削っただけか…広い空間まで後退する…策敵レベル最大で起動」

 

『警告、ディレイバインドの反応多数!トラップも検知!そんな一体どうやって?!』

 

「無駄口を叩くなヴィズよ…それよりも、トラップの少ないルートを…検索」

 

『り、了解―――ルートを検索。HUD上に表示します』

 

 

――――姿が見えない相手に翻弄される。遊ばれている。……畜生、忌々しい。

 

 

『後方警戒に反応!障壁展開!』

 

≪ズガガガッ!!≫

 

「…ぐぅ!」

 

 

 クソッ!敵は一人な筈なのに何でこうもいろんな方向から攻撃が来るんだよッ!!

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

 次は、上か?下か?それとも左右か?どこから、どこから来る!?

 

 

『マスター、バイタルに異常が見られ…右後方から魔力弾ッ!』

 

「またか…くッ!」

 

『障壁展開効率60%に低下――コレ以上は危険と判断します』

 

 

 ええいコレが実戦経験者とそうでない者の違いってヤツなのかッ!?

 魔力量も技量も攻撃も防御も速さも全て優っている筈なのに!!

 俺は、俺は手も足も出せないのか―――!!

 

 

「姿がみえない…厄介だ」

 

『魔力隠ぺいも完璧ですね。あちらが攻撃してこないと位置の特定も出来ませんし…』

 

「さすがは…ワイズ教官か」

 

 

 経験というのがいかに大事なのかがホント良く解る。しかも容赦がない。ヴィズの高感度センサーすら騙す隠ぺい能力といい、どうやっているのか不明な全方位からの同時攻撃といい、伊達に教官では無いって事か。

 

 

『今度は左です!魔力反応!』

 

「毎回…やられるかッ!」

 

 

 俺は周りにあるトラップに注意を払いつつ、なるべくトラップが無い所を走る。

 そう“無い所”を…そして――――

 

 

≪ブン≫

 

「ディレイ…バインドだと?」

 

『バインドブレイク開始!ブレイクまで10秒』

 

 

――――巧妙に隠された“罠”に捕まった。クソッ!逃げ道に罠を置くのは常識じゃないかッ!

 

 

「そこまでだ。貴様は“戦死”だ。ラーダー訓練兵」

 

「……イエッサー」

 

 

 気がつくと首筋に充てられている小さな魔力刃。大きさはナイフ程度の魔力刃だが人を殺すのに大きい刃物は必要ない。小さな魔力刃でも首周りの関節部分を狙われたら、俺ご自慢のバリアアーマーすらも貫通するだろう…その結果はデッドだ。それに今まで姿が全く見えなかった教官が、俺の目の前に姿を現した時点で俺の敗北は決定した訳だしな。

 

 シミュレーターとは、なんだったのかと、数週間まですこし天狗だった俺を殴りたい。

 

 

「今日の模擬戦はココまでだ。それとラーダー。貴様はセンサーに頼り過ぎだな。もっと全体を見て流れを掴まんと死ぬぞ?気配の一つくらい察知できるようになれ」

 

「…了解」

 

 

 無茶言うなよ。大体アンタ気配消してるじゃないか。どうやって察知するんだ?

 まぁ考えてもしょうがないだろうけど…欝だ。

 

 

「何が悪かったのかをレポートにして明日までに提出しておけ、シャワー浴びたら今度は座学だ」

 

「了解」

 

「では解散」

 

 

―――――こうして俺の負けた模擬戦の数が二桁を超えた。ちくせう。

 

 

 

***

 

 

 

Sideジョナサン・ワイズマン

 

 今日も教え子を扱き模擬戦での評価報告書を自室でまとめる作業を行う。主観と客観、双方のかね合わせた評価をレポートのように書き記すのは、ここ十数年変わらない俺の仕事の一つだ。成績も良いヤツも悪いヤツも関係ない。俺はただ教えるだけ。若い連中が一端の口を叩けるような新兵に成長するまで仕立ててやるのが教官のお仕事ってヤツだ。

 

 そんな彼らに教えるのは生き残る為の技術であり……そしてもっとも効率の良い敵の殺し方だ。これは決して褒められる仕事ではあるまい。言いかえれば俺は人殺しを大量に育成する為に教育しているのだ。だがその殺人術が前線において若い命が生き延びる為のモノだと考えると、すこしは気が楽になる。だから少しでも長く生きられる様に、扱き罵倒し慢心を砕いてやる。そうして一人前の兵士を作り上げるのが、俺の仕事…そう思っていた。

 

 

 その年はすこし何時もとは違っていた。USN軍は一応志願制だった筈だが、戦争が始まってすぐに類を見ない程の戦力低下を強いられた軍は特例として短期魔導師育成プロジェクトを立ち上げ、徴兵という形で素質があると判明している者たちを秘密裏に集めた。まるで近未来SFにでもありそうな設定だな。暴挙とも言えるそれが何故世論で問題にされず、議会を通過できたのかはなはだ疑問である。

 

 だが事実として、そのプロジェクトは行われた。

 

 全州のメディカル・データバンクに登録されている魔導師の素質を持つ者たちを対象に徴兵が行われた。多くは軍人の家系に連なる者。当然だ。基本的に魔導師の多くは軍人なのだから、素質を持つ者の多くがそうなのも普通の事なのだ。魔導師は一般兵に比べて成長が早く、早期の戦力補填はコレで補われると思われた。しかしこのプロジェクトには並行してもう一つ、ある実験が行われる。

 

 短期育成プロジェクトの中で特に優秀な者。それを限界まで鍛え上げたらどれだけの兵隊になれるか。或いはその可能性の模索である。馬鹿げている。荒唐無稽だ。なんとでも呼べるだろう。だが軍は大真面目に検討し、そして被験者を見つけ出した。そいつは魔導式シミュレーターにおける内部演習、別名殲滅プログラムの中で約8時間もの間生存し続けた。

 

 

 普通に鍛えた魔導兵士部隊なら6時間前後である事を考えれば、その特殊性は尋常なものではない。むしろ異常である。俺はそうは思わないが一部の訓練兵や教官が陰でそう呼んでいたのを聞いた事がある。もちろんそんな輩にはお灸を据えておいたがな…蔭口はみっともない。確かに異常ではあるが、俺は彼の詳細データの血筋を見て逆に成程と納得していたのだ。

 

 それはともかく被験者に選ばれたのは特例で配属された特殊訓練兵フェン・ラーダー訓練兵。若干7歳の子供だった。さすがに最初詳細データの年齢欄を見た時、いくら特例でもコレは無いんじゃないだろうかと思い、正直これにGoサインを下した人間の正気を疑った。もっとも、ラーダーの実力を見てソレは無くなったがな。

 

 

――――だが一方で、他の人間がアイツをそう呼称するのも解ると言うのが本音だ。

 

 

 戦い続けて30年前、前線を退いて10年、かれこれ40年も軍に居た俺だが、あんな教え子は初めてだ。確かに7歳児に軍の魔導師訓練をさせる酔狂な輩はそうはいないだろうが、それはともかくとしてだ。俺達USN軍の魔導師は通常の魔導師とは訓練の密度、質、量、全てが通常のソレを上回る。当然、訓練について来れず、脱落するモノ達も存在する。

 

 それをアイツは脱落どころか、他の訓練兵を大きく引き離す成績を訓練で修めている。事前に鍛えられていたのは当然として、彼自身が初めてやる訓練ですら何度か試しただけでソツなくこなし、その次からは必ず今までの成績を塗り替えた。そしてシミュレーターではあの大暴れ。お前は一体どこの超文明からやってきた超人なんだと突っ込みたくなった。

 

 それにすら飽き足らず、他の訓練兵が寝静まった夜中に自主練習をいれ更なる高みを目指す。だが……まだ早すぎる、早すぎる筈なんだ。魔導師の子供は総じて早熟であると言える。親がそうであるし、マルチタスクなどの並列処理を覚えた子供は、様々な思考を同時に処理できるようになる為、精神への負荷値と受容性が高く、それにより心の成長が早い。

 

 

 だがそうだとしてもアイツのそれは幾らなんでも早い。だから異常なのだ。まるで大人が子供の皮をかぶっているかの様な錯覚すら覚える。そして何より俺達大人を困惑させるのは、見た目は小さな幼子であるにも関わらず、アイツはどんなに苦しい訓練ですら顔色一つ。表情をまったく崩さないと言う事だ。

 

 俺も長いことこの仕事でおまんま喰っている身だから、職業柄精神的なショックがきっかけで無表情になる子供はごまんと見たことがある。目の前で両親が死んだり犯されたりと原因はいろいろだが、感情を殺されるというヤツは沢山見た。だがアイツのそれはソレとはすこし毛色が違う。あれは自ら望んでそうなった、所謂兵士のソレに近い。

 

 何故彼はそこまで自分をいじめるのか?―――正直俺には理解が出来ない。時折、まるで見えない何かに怯えるかの様に、無心で無我夢中で訓練に打ち込む様は悲しみすらおぼえるくらいだ。残念なことにこれらの事を俺達教官職に就く者は、上へと報告しなければならない。その所為で……彼は特例の実験に放り込まれることとなった。

 

 

――――――現在、前線は膠着状態を維持している。

 

 

 世論は戦争賛成派が大多数ではあるものの、時間が長引けば当然ながら、世論の敗戦ムードが高まる事による戦争反対派の運動が活発になる。何の解決策も提示せずに声高に戦争反対を叫ぶ馬鹿もいるが、別にそれは良い。愛国心も大事だがこちらも大事な教え子たちが戦争で散るのは勘弁してほしいのだ。問題はそれに応じた過激派がテロを行ったりした時だ。

 

 上層部としては短期決戦が望ましい、なので使える戦力はドンドン前線へと送り込みたいのが、心情なのだろう。勿論、人の道を踏み外したとしても…だ。ラーダーが唯一このプログラムを受けているのはそう言う訳だ。このプログラムは正直、彼のような特別な存在の為に行われる実験なのだ。魔法の才能さえあれば、どんな年齢の子供でも戦場において活躍が出来ると言う事を証明する…それがこのプログラムの裏側である。

 

 今までは最低でも15歳を超えていない子供は前線には送らず、後方勤務が殆どであった。今回の戦争で特例としてその最低ラインが引き下げられたが、それでもいきなり前線には放り込まれない。そんな事をすればすぐに死ぬ事は目に見えているからだ。だが恐らくアイツはデータ取りの為に、所定の訓練が終了次第、最前線へと配属される事がすでに決定している。

 

 たとえ死んだとしても、一般にはすぐにはバレない訳だし戦争のドサクサという事で処理できる。逆に功績をあげれば、それは軍の功績となる訳だ。おまけとして幼年魔導師部隊というモノが作られるかもしれないのだが…狂気だ。これは戦争の狂気なのだ。人の死を数値でしか見れなくなった上層部連中には、人の命がどう果てるかなんて、そう言った事はもう関係ないのだろう。

 

 

―――アイツは優秀だ。

 

 

 経験さえ積めば、すぐに俺を追い越せる程の逸材だ。こんな大人の事情で起こったくだらない戦争で散って良い命では無い。だからこそ、俺は今まで経験した全ての技術を、ラーダーに教え込む。血反吐を吐こうが、泣き言を言おうがやらせる…と言っても普通に付いてきてるのだが…まぁいい。

 

 とにかくだ、俺に出来ることは、あいつが死なない様に、教えられる全てを教えると言う事に他ならない。例えその結果。俺の存在そのものがアイツの心にとって大きな傷となろうとも、死なせはせん。前線を退いて10年。高ランク魔導師でもロートルである俺が出来る事は、アイツに人の殺し方を教える事………ただそれだけなのだから。

 

 

 

***

 

 

 

Sideフェン

 

 死ぬ…マジで死ぬ…なんなんじゃこの拷問染みた訓練は?実戦形式の模擬戦に次ぐ模擬戦。ワイズ教官ともう一人のお方以外の教官は倒したけど、それでもきついぞコン畜生。座学に居たっては………戦略ってなんですか?美味しいんですか?俺7歳だぜ?お前ら人の皮を被った鬼かいな?幾らなんでも苛めすぎやと思うで?それでも自主トレを欠かさない俺は…もう手遅れなのかな?

 

 しっかし今日の模擬戦もワイズ教官には勝てなかったなぁ。“見えなければ、どうという事はない”を実戦で見せてくれたもんなぁ…え?字が違う?いや違わないよ?なんせ姿が見えないタネは、ミラージュハイドとかいう光学迷彩魔法。それと自身の魔力操作の上手さだもんなぁ。ミラージュハイドで姿隠して、そこら辺じゅうに設置型術式を同じくミラージュハイドで隠して回るっていう単純なもんだし。

 

 

 まぁイメージできない人は、そこら辺じゅうに見えない地雷が設置された様なもんだと思ってくれ。タネさえ解れば単純なもんだけど、魔道師からしたら相当厄介な人だよ。相当の熟練者か魔力探知に長けた魔導師じゃないと見破れないレベルの隠匿魔法だぜ?俺も段々感覚を掴んで、徐々に察知出来る様になったけど、初見の奴ならムリだ。

 

 というか、設置式術式+隠匿魔法はヤバいコンボだろ…見ただけじゃ探知出来ねぇし。辺りに魔力素子が充満していたら、幾ら魔力探知に長けた魔導師でも、発見しずらいしな。ようやく発見したかと思ったら、気が付いたらあの世だなんて笑えネェ…マジで。俺は夕飯がわりのレーションをほう張りながら、そんな事が出来る教官の事思い溜息をついた。

 

 で、夜の訓練の為に次の教官の所へと足を運んだ。

 ああ、さっきのとは違う意味で疲れる訓練か…鬱だぜ。

 

 

………………………

 

 

……………………

 

 

…………………

 

 

 俺が精神的に重たい足を引き摺り向かったのは、主に近接訓練に使われている施設。見た目は体育館といった感じで板張りの床には衝撃吸収マットが敷かれており、たとえ受身が取れなくても死ぬ事はない……そう願いたい。ワリと切実に。

 

 

「おぉ~、ようやく来ましたねフェン君」

 

「はい…ソフィア教官」

 

「ふふ~ん♪フェン君~?まえにも言いましたが私はソフィア。教官は要りませんよ?」

 

「いえ…規則ですから…」

 

 

 そこで待っていたのは、一見フレンドリーな態度で接してくる殆ど黒のダークブラウンの髪をした女性。男むさい教官団の紅一点。このUSNフリーダム基地軍仕官学校で唯一の女性教官であるソフィア教官であった。常に二コニコと笑みを絶やさない彼女は……正直苦手である。

 

 ナニが苦手といわれれば……いやソフィア教官はかなりの美人さんですよ?ただなんていうか性格というか、とにかく何か逆らえない空気を持っているといいますかね。彼女に見つめられるとゾクゾクするのだ。言っておくがそれは悪寒の類だからな?とにかく笑顔で隠された彼女の心が常にナニを考えてらっしゃるのかが分からないから怖い。

 

 ま、内心俺が怖がろうが彼女には関係ない。

 

 

「では、いつも通りに、まずは運動をしましょうか?」

 

「はい…」

 

 

 ソフィア教官はそう言ってゴム製のナイフを2本投げ渡してきた。とは言うモノの一本だけでも俺が両手を使わねばならない程ずっしりとした硬質ゴム製の模擬戦用ゴムナイフである。実質山刀(マチェット)なみの大きさだが、二本持つとバランスが取れるので何とか持てる。ソフィア教官も同じゴムナイフをすでに腰のホルスターから外していた―――そう、彼女は珍しく近接攻撃が主体の魔導師なのだ。

 

 俺は渡されたゴムナイフをすぐに構え走り出した。ナイフを受け取った瞬間に“この運動”はすでにスタートしている。別に合図などは無く、いきなり始まるナイフでの戦いは身体強化魔法で身体を強化し、間合いを計って、懐に入り込む為に距離を詰める。というか身体強化以外使ってはいけないのが暗黙のルールだ。

 

 始まって早々、俺は当たりやすいだろう胴体を狙って横一線にナイフを振るう。だが、ソフィア教官が一歩下がった事でそのナイフは触れることなく虚しく空を切った。攻撃の手を緩めず、返し刃でもう一度薙ぎ払うかのように斬るが…当るかと思った瞬間、彼女が視界から消えた。

 

 

「!?」

 

「下ですよ」

 

 

 下を見れば大きく開脚してしゃがみこんだ彼女が居た。そして俺の首と腹にゴムナイフが添えられている…ちっ1死亡だ。すぐに弾かれる様にバックステッポォしてゴムナイフで袈裟切りに切りかかった。

 

 だが――

 

 

「ん~、狙いは悪くないですが、大ぶりはNGです」

 

≪シュッ!≫

 

「うぐっ」

 

 

 カウンターですらない。ただの無駄のない動作で繰り出されたナイフは、まるで生き物のように俺の胴体を切りつける。ワザと浅く切られ…遊ばれている事にムカつきを感じながらも反撃してみるが、案の定というべきか。ソフィア教官にはあっさりと見切られて避けられてしまい。さっき斬られた場所と同じところを切りつけられた。

 

 

「アツッ…」

 

 

 ゴムがこすれて熱くなりつい声を出してしまう。それを見て実に楽しそうに口元を弧の字に歪める教官。これが怖いのよ~。なまじソフィア教官美人だから、嗜虐心たっぷりな笑顔を近くで見るとマジで失神モノだよ。中身が俺じゃなかったら悪夢に出てきてオネショ出来るレベルだね。

 

 

「ほらマタ。いちいち無駄が多いですよ?」

 

 

 今度は太ももにナイフが当てられた、コレも動けなくなると言う意味で1死亡だ。

 

 

「例え必殺にならなくても…」

 

≪ススッ≫

 

「浅からろうが何度も斬りつければいいのです」

 

 

 テンションが上がってきたのか、手首足首同時に斬られた……つか見えねぇよ。俺これでも激戦だったシミュレーター演習を耐えたのに、あれは所詮シミュレーターでしかないのかっ!

 

 

「特に手足への攻撃は、相手の動きを制限させるのに有効です。痛いとフォークも持てませんからね」

 

 

 確かに人間ってのは手足怪我すると、かなり動きが制限されるモンな。

 そんな事を考えつつ、再び2本のゴムナイフを構えなおして連続して斬りかかる。

 

 

「そうそう、上手いです。軽くても当れば良い…当らない刃物は怖く無い」

 

「―――――シッ(なら一発くらい当たれよっ!)」

 

 

 そう言いつつも未だに一太刀も当らない教官。攻撃が当たらない事に苛立ちを覚えていく。このままじゃ拉致があかないと俺は左のナイフを投げつけた。

 

 

「う~ん、おしいです。今のタイミングは悪くはないけど……必殺じゃない」

 

 

 そんな俺の攻撃は意図も簡単に弾かれ。

 

 

「必殺というのは…」

 

 

 いきなり体制を崩したソフィア教官が視界から掻き消えるかの様に動く。 

 重心が一気に下がった事で、腰の入った一撃が―――

 

 

「地面をはうように…」

 

≪ボッ!≫

 

「入れるのです」

 

 

―――俺の鳩尾よりかちょっとした…胃袋か肝臓辺りに当った。イテェ…。

 

 

「ゲホッ!ケホッ…うげ…」

 

「予想だにしない動きで相手を止めるのもナイフ奥義の一つです」

 

 

 いいですねフェン君?と実に楽しそうな彼女は、どこかハ虫類を思わせる笑みを浮かべ俺を見つめる……ぐぅ、やっぱり苦手だ。そして何よりもこの後の展開が……うう。

 

 

「はい、じゃあいつものように死んでしまったフェン君は、PXで私にデザートを奢る事。良いですね?」

 

「…アイマム」

 

 

 はぁ、コレだモンなぁ…。物凄く強いけど、どの相手に対してもフランクで、どこかカラっとした態度を崩さない。コレが意外と人気があるらしいが、その延長線で奢らされてしまう俺はたまったモノではない。絶対いつか俺が勝って奢らせてやるモンなッ!!―――永遠にムリな気がしてきた。

 

 アレ?目元が暖かいな。なんでだろう?

 

 

「さて、今日も動きの確認をした後、組み手やりますよ。さっきみたいに手加減はしませんからね」

 

「了解」

 

 

―――――というか、さっきのですら手加減されてるんだもんなぁ。

 

 

 ソフィア教官の魔導師資質。彼女自体の総合的な魔導師ランクは一般的評定でC+とされている。この数値は正直な話、彼女の階級を考えると通常の魔導兵よりも大分低い。彼女と同階級の佐官の殆どがAランク越えしているといえば、ソフィア教官のおかしさが理解できるだろう。使える魔法も高密度だけど小さな魔力刃が造れる程度で、射撃魔法はからっきしらしい。

 

 だがソフィア教官をソフィア教官たら占めている理由。彼女は近接戦闘、こと室内戦闘においては無敵を誇るのだ。極めて少ない魔力を効果的に運用し“どうすれば格上な相手を制する事が出来るのか”を極めた完成系がこのヒトであると言ってもいい。魔法第一主義が蔓延しているこの世界で特殊部隊に参加して一時期少佐にまで上り詰めたというレジェンドな実力を持っているのだ。

 

 

 つーか勝てねぇよ…ホント容赦しないし…姉御肌だし。これ重要。

 

 

 でも分かるんだ。このヒトもココまで来るのに血反吐を吐くと言うのも生易しく見える程の訓練と経験を積んでいる。鬼畜シミュレーターをある程度生き延びたチート性能を持つ俺でも、このヒトに勝つのには時間が掛かるだろう。もしかしたら近接戦闘では永遠に勝てないかもしれない。つーかUSN軍内でも近接戦闘のみで一対一なら、彼女に勝てる人間はいないと思う。

 

 そもそもどうして俺が彼女から近接戦闘を教わっているのか?ソレは俺も魔力刃を使った近接戦闘の魔法を持っていた所為だ。ココに来る直前に造って入れた術式なんだけど、自主訓練で組み上げてた魔法を何故か覗き見していたらしいワイズ教官に見られてしまい、気が付いたら彼女との近接戦闘訓練がプログラムに組み込まれてたって訳。

 

 まぁ近接戦闘用魔法持っていても、肝心の使い手が扱えませんじゃ話にならないモンなぁ。魔力刃とはいえ刃物は刃物。こうして昔ながらの近接戦闘訓練や組み手の方が、身体がなじみやすいのだ。なんか着々と最強魔導戦士育成計画が進んでいる様な気がするけど……気にしたら負けだよね。うっ、こんどは視界がぼやけて見えるよ。目から潤滑油が漏れてるよ。

 

 心技体全てが強くなれば戦場で死ぬ確率は減る事だろうから反対はしないけどね。

 

 

―――――とりあえず。

 

 

「死なないよう…頑張らな…」

 

『マスター?』

 

「ん、何でも…無い」

 

 

 何としても生き残らなければ……うん。

 

 

「あ、寝っ転がっているところアレですが、また負けたの罰ゲームのお時間です」

 

「……うっ(ビクッ)」

 

「ン~ふふ。今日は ど ん な 罰ゲームがいいでしょうか?」

 

 

 濁っり…もといにっこりと笑みを浮かべてそんな処刑宣告なんてひどすぎるっ!

 

 

「……がたがたぶるぶる」

 

「それじゃあ3日前と同じヤツで」

 

「きょっ教官!そ…れだけは…」

 

 

 あ、あれは確か、夕食後に個人レッスンでボコボコにされてそのまま持ち帰りされて抱き枕扱いにされたじゃないですか!え?美人と添い寝できるから貴方によし私によし?……痛みで動けない俺を問答無用で湯たんぽ代わりにした挙句、朝は寝ぼけのスリーパーホールドで天国と地獄の二重奏を奏でてくれたあれなんてもう一回されたら死んでしまう!肉体強化って関節技相手だとあまり効果ないんですねっ!

 

 ああ、普通ならソレなんてエロゲな天国なのに、幼児だから女性に反応できないこの肉体が恨めしいっ!反応したらそんな事されないんだろうけど、俺だって男の子なんですよ!恥ずかしいんスよっ!簡便してくださいっお願いします!な、なんでもしますから!どうかそれだけはっ!?

 

 

「なんでも?」

 

「ア、アイマム」

 

「それじゃあ。普通に抱き枕で」

 

「ジーザスっ!」

 

 

 抱き枕は決定事項なんですか!?……え?抱き心地サイコー?……さいですか。

 

 

「怨むなら低ランク魔導師にボコボコにされちゃう我が身を怨むんですよ?力があっても弱いフェン君が悪いのです。強いものが生き残るのです」

 

「………(放心中)」

 

「それじゃあ夕食後、教官棟に出頭する事。拒否したら…わかりますね?」

 

 

 ………もう、ココロ折れても…いいよね?俺がんばったよね?うう。

 

 




今日はここまで。

次回はすこし間が空く予定。

それではしつれい。

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