妄想戦記   作:QOL

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「専用機…うん良い響きだ」

 

 いやぁ、人間のみなさん、こんにちは―――なんて鬼太郎の真似かいッ(ビシッ)

 

 

 さて冗談は置いておいて、母上から言いつけられた地獄の訓練メニューを消化していたある日の事。俺はその日、珍しく父上から呼び出しを受けていた。はて?俺なんかしたかね?褒められることも叱られることもしてはいなかった筈何だが?

 

 まぁ考えてもいたしかたない為、言われた通りに父の居る工房に行くと、予想を斜め上に行くような展開が俺を待っていた。

 

 

「やぁフェン。ようこそ我が城へ」

「狭い城、だね」

「そういう事言っちゃうんだ。パパ泣きそう」

 

 

 しばらく親子の会話が続いたので割愛するが、要点だけ述べるとこうなる。曰く、そろそろ自分の専用デバイスが欲しいんじゃないかと?当然俺は即答したね『凄く…欲しいです』って。ああ、話し方がアレなのは訓練のやり過ぎと人と接する機会が少なかった所為だから気にするな。

 

 それでだ、この時は当然俺専用デバイスを造ってくれるのかと思ってた。こう見えて父上はその筋では有名な職人らしく、フルオーダーメイドで作ると豪邸が建てられるというほどのデバイスを作る人物。そんな人がデバイスが欲しくないかと聞いてくれば、作ってくれるもんだとおもうじゃん?

 

「さぁ、見せてあげよう。新世代デバイスの雛形を」

 

 そういって俺を工房の真ん中に連れて行った。そこには白い布が被せられた何かが置かれている。なんだろうとソレに目線を送ると、パパ上は勢いよく被せてあった布を剥ぎ取って見せた。

 

―――そこにあったのは、金属と回路と配線剥き出しの、中身が無い人形だった。

 

 なにやら蛇腹上の金属を支柱にそこから包み込むような金属の籠みたいなのがある。うーん、あえて言うなら金属か何かで作り上げた人間の骨格?でもなぜか廃材で作り上げた前衛芸術みたいな感じにも見えるし、パパ上にそんな趣味はあったっけ?

 

 見せられたその骨格…フレームを不思議そうに眺めて(いや表情は出てないと思うんだがね?)いると、父上はさらに説明を続けた。

 

「すごいだろう?基本となるフレームは組んでおいたから、拡張性だけはすさまじく高い。後はフェン、おまえが思い描くデバイスを造り上げてみなさい。それだけの知識はもう与えたからね」

 

 何故か自分の手で組み上げろと言われ、何か知らないけど大きな骨格やら部品みたいなモノ渡された。えーと父上、コレなんですか?

 

「まぁアレだ、色々機能つけてやろうかと思ったんだが、色々アイディアが湧きすぎてな?それに母さんとの訓練を見ていると、お前に合いそうなヤツが解らなくて、とりあえず機能を付けられるだけ付けたらそこまでデカくなってしまったんだよ。うん」

 

 なじぇソコで目をそらすのですか?父上、それと出来れば普通に完成された高性能のデバイスが欲しかったのですが?そこんところどうなん?

 

「うんそのままでも十分高性能だよ。でもほらそう言うのって自分で決めたいと思わないか?」

 

 まぁ解らなくもないんですけど………コレって所謂丸投げって言わない?

 

「そうとも言う、じゃあ後は頑張ってね。ココの工房好きに使っていいから」

 

 そう言うと逃げるかの様にスッと工房を後にする父上、逃げたなありゃ。なんか途中から視線だけで会話していたような気がするが気にするな。家族とはすでにツーカーなのだ。

 いたしかたない、とりあえず訓練用のデリンジャーサイズじゃなんか物足りないと思ってたところだ。こうなれば俺の好きな様に改造させてもらいまっせ?さて部品は何があるかな~?

 

 

―――こうして、俺は自分のデバイスを自分自身で組み上げる事となった。

 

 

……………………

 

 

…………………

 

 

………………

 

 

 

 さて、変な骨格を見せられてから2週間が経過した――――。

 

 母上に体がなまらない程度の訓練にして貰って時間を造り、空いた時間を寝食を忘れるくらいにデバイス造りに当てた。その結果、俺専用デバイスは漸く形が出来て来たのだ。作業台には大きな鎧の様な代物が鎮座している。

 

 内部フレームがまだ一部露出しているが、全体的に直角で無骨なそれは鎧というよりかはSFの強化外骨格に見える。普通はデバイスと言えば杖とかそういったのなのだが、なんというか母上の魔法訓練でいじめられた所為で命がすこぶる惜しいのか、コレはそう言うのとは運用方法がまるで違うのである。

 

 

―――コレは俺が今の自分のスタイルに合わせた結果なのだ。

 

 

 当初は空を高機動で動き回れるのをコンセプトに、高速飛行をメインに据えようと考えていた。しかし、考えてみたら今の段階では真っ直ぐにしか飛べない俺が高速飛行用モジュールをデバイスに組み込んだところでたかが知れている。

 

 別に最初はそれでもいいかと思ったんだが、どうにも世界情勢が怪しい状況になりつつある今。上手く操れないデバイスを持っていてもしょうがないと思い、拡張性を残してある程度オミットした。

 

 代わりに足周りに全方位で駆動する特殊なローラーと魔力モーターを組み合わせる事で、装備者にすごい機動性を与えるローラーダッシュという機能を搭載した。コレにより愚鈍な外見に見合わず、すばやい動きが地上でも可能となった。

 

 

 さて、高速飛行型は諦めた訳だが、ならば逆に重装甲にするのはどうだろうと思い、このデバイスはかなり野暮ったい装甲で覆われる予定である。バリヤジャケットとの防御力は基本的に魔力任せな所があり、それ以上の魔力が来ると脆弱なのは否めない為、それなら物理と魔法を組み合わせたら最強じゃね?という考えが浮かんだ。

 

 俺は装甲素材として魔力による疑似物質とカーボンの複合素材を使用し、重量をそれほど上げることなく防護服のバリヤジャケット展開時の強度を上げる事に成功する。数値にすれば僅か数十%にも満たないだろうが、その数値が生命を分ける可能性を考えると捨てきれない数値ではあった。

 

 

 更に更にBJ機能展開時に装甲表面に薄いシールドを絶えず張る術式を自動作動させる事で耐物理、耐魔法において鉄壁の防御力を誇る。その所為でバリヤジャケットを維持する為の消費魔力がバカみたいに増えたけど、元々レアスキルで常に魔力だけはみなぎっている俺には関係無し。

 

 ただ一応、もしもの事を考えて魔力バッテリーを改造した箱型マガジンの形状をした魔力チェンバーと呼ばれる半カートリッジシステムを搭載した装置を組み込んでみた。コイツは大型の大容量魔力バッテリーの中に、自分の余剰魔力を常にプールさせておき、必要に応じてカートリッジの様に必要分の魔力を爆発させて使う事が出来る代物だ。

 

 まぁ試作段階のものであるが、強度だけは高いから壊れる心配も低いのが取り柄かな?んで、鎧にしてしまおうとは思ったけど、普通に鎧にしてしまうのはどこか面白く無い。どうせなら強そうなロボットみたいな感じにしても良いんじゃないかなぁと思っちまった訳だ。

 

 

 そして色々候補がある中で結局選んだのは、汎用人型兵器ヴァンツァーの中の一機。生前最後にやったフロントミッション5に登場するヴィーザフをモデルに造り上げた。

なんでヴァンツァー?それはこの世界がフロミ成分も混じってたからさ。

 

 フロミなのに一機もヴァンツァーが居ないのはおかしいッ!ならば俺がっ!って感じでつい乗りで造っちゃった。作ってたときはちょうど魔法訓練が終わってハイになってたから、若さゆえの過ちというやつである。後悔はしてないけどなッ!

 

 もうこのデバイスは普通のデバイスじゃ無い、祈祷型ともストレージとも違うそれは、あえて言うなら強化装甲型デバイス。今の俺が組み込めるだけの技術を組み込みつつも、これからも拡張…成長の余地がある俺専用のデバイスだ。戦車砲が直撃しても無傷だZE!

 

 

 それにしても、作っておいて何であるが、ココまでごつくなるとは思わなんだ。自重って大事なんですね。まだ配線剥き出しだけど何とか基礎フレームが完成した時に一度試着してみたけど、大きさが4歳児の見た目ヴァンツァーじゃん。なんか前の世界で某○ンダイのプラモデルで人間サイズのがあったけど、そんな感じ?

 

 とにかくこうしてガワは完成しつつある。次はオプションというか武装システムも構築せねばなるまい。幸い材料はまだあるし、そのプランも脳内に浮かんでいるので兵装モジュールとしてのストレージデバイスも製造する予定。

 

 

 あと、全部一人で統括するのは大変だし、母上との高速機動時の訓練を考えると、一人では扱いきれない可能性を考慮して、それらを統括できる程のAIも搭載せにゃならん。そうだッ!AI乗っけるんなら、喋れる機能は付けておこうッ!

 

 いつか図鑑でみたインテリジェントだったかインテリジェンスとかいう種類みたく!それだけで夢が膨らむぜいッ!!さてさて、それが出来るパーツはどこじゃいなぁ~♪確か空間圧縮された倉庫に……この機能も欲しいな。今度解析しとこ。

 

 

 こうして自重しなかった結果のデバイスが作り上げられていく。それにしても父上殿の新作部品から際物まで、この工房には何でも有るから楽だね。考えてみたら、実戦であんまし際物ばっか使ってあったりなんかしたら、整備する負担が増えるなぁ~コリャ。

 

 市販の部品で流用できそうな所は流用しとかないと。サバイバルしてたおかげか妙なところで節約意識が付いている俺は、ガチャガチャと部品の山をかき分けながら、そんな事を考えていた。

 

 

 決定事項のおさらいとしては、自動で出来るシステムの制御系については所謂インテリジェントデバイスと呼ばれるモノと同じように、AIに統括させる事にする。術式制御についても同様だ、この方式なら戦闘中にリソース配分に余裕が出来る。

 

 基本術者は魔力タンクとなってしまうけど、どうせ戦闘で使う術式なんて二つ三つくらいなんだからな。増やし過ぎたら制御が難しくなるだけじゃわい。

 

 

――――戦闘に使わない奴は自分自身が覚えれば良いだけの話だしね。

 

 

 一応演算装置はこれまた試作品のデバイスコアに使用できるものから、一番強力なモノを選び交換して、術式の容量がでかくてもいいように記録メモリの方も大容量にしておこう。強度を増す為にブラックボックス化させて、後はデバイス自体に適当に経験積ませれば色々と楽になるだろう。

 

 

「お……ナノマシン……発見」

 

 

 なんか掘り出し物ないかなと、父上の作業台の引き出し探ってたら『試作XA-205FO』とラべリングされたナノマシンが出て来た。

 

 えと取扱説明書は………あった、コレか。

 

 

「…………すご」

 

 

 思わず目を見開く。なんじゃこのナノマシン?簡易じゃなくて文字通りの修理用だと?来た!コレで勝つる!父上から“工房にあるモノ”はすべて使っていいっていう言質は貰ってるから使ってしまおう。そうしよう。

 

 今見つけたのがどんなナノマシンだったかというと、基本的には普通の簡易修理用魔導ナノマシンと変わらない。ただ“簡易”じゃなくて文字通り“修理用”の魔導ナノマシンってなだけだ。これのすごさは魔導技術系を齧って無いと理解できないだろう。

 

 

 そうだな、普通のデバイスについている簡易修理ナノマシンは、応急修理しかできない。もちろん1~2週間くらい時間かければある程度の修復可能だけど、戦闘中は無理。術者が大魔力で無理やり魔力を糧とする魔導ナノマシンを活性化させれば何とかなるが、それだと後で修復箇所がもろくなってたりして副作用が起きる可能性がある。

 

 だが、この試作型魔導ナノマシンは通常の魔導ナノマシンと比べると多大な魔力を消費する代わりに、戦闘中でも瞬時にデバイスの修理修復が可能になる……らしい。父上が作ったカタログスペックがあてになるならそう言う事になる。これがあれば多少の傷などものともせずに動き続けられるだろう。

 

 一応自己増殖出来るし、ナノマシンの構成物質は大気に含まれている成分や微量な塵芥を魔力で編みこんだ疑似物質製だから少しでも残っていれば自己増殖で補填されるらしい。なんかアルティメットなガ○ダムな細胞みたいな事にならないか心配だが、そこは父上を信用しよう。そんな事態になったら親父の所為って事で。

 

 

 そんな感じで訓練しながらデバイスを作る作業が続き、気がつけば俺は5歳となっていた。デバイスも一応稼動状態に持ってこれたので、最近はもっぱら新しく相棒となったヴィズに新しい魔法プログラムするかたわら、新機能を取り付けたり、追加兵装のストレージ作っていた。

 

 ちなみにヴィズって誰かというと、俺が作り上げた強化装甲型デバイス、ヴィーザフの管制AIの事である。ヴィーザフそのままだと少し言い辛いから略称にしたんだ。何?安直?いいんだよ俺が言い易ければさ。

 

 

 

……………………

 

 

…………………

 

 

………………

 

 

 さて、本日も訓練かと思いきや、今日は母上に有無を言わさず連れられて、どこぞの基地に来ていた。たしか母上の部隊が駐屯している基地である。普通子供連れで入れるのは何かの祭典の時くらいだと思っていたのだが、門で母上が何か許可証の様なモノを見せて一発で入る事が出来た。

 

 一応突っ込むけどココ軍事施設だよな?なんで家族とは言えボディチャックしないの?危機管理に問題無く無い?面倒臭くなくていいけどさ。そんなことがあったが、今は母上の後について施設内を移動している。

 

 なんせ俺は部外者だからな。母上の後を金魚のフンのように着いて行かないと迷子になっちゃうしね。

 

 

 

 そんなこんなで基地のPXに連れてこられたんだが――――――

 

 

 

「隊長殿に、敬礼ッ!」

 

≪―――ザッ!≫

 

 

 

―――――母上がPXに入った事に気が付いた隊員の一人が号令をかけた途端、屈強の男たちが一糸乱れぬ動作で一斉に敬礼を行った。

 

 は、迫力がすげぇ。驚いて心臓が飛び出るかと思ったぜ……顔には出ないけどな。

 

 

「楽にしろ、今日の私は非番だ。いちいち敬礼は必要ない」

 

≪―――ホッ≫

 

 

 おお、いきなり安堵の空気がッ!?

 つーかどんだけ恐れられてんだウチの母上は?その後はまぁやや緊張している様だったが、隊員たちも各々食事に戻ったりゲームに興じたりしている。そんな中恐らく母上の副官と思われる人が、俺の方にちらちら視線を向けながら母上と何か話している。

 

 俺?目立たないように母上の後ろで黙って突っ立てたよ?だってこんなとこで目立ちたくない。

 

 

 

 

 まぁそう言う訳で置物の如く立っていただけの筈……だったんだが―――

 

 

 

 

『フェンちゃ~ん?準備は良い?』

「……イエスマム」

 

 

―――何故か気が付けば、模擬戦用の廃墟につれてこられていた。

 

 母上の職場の見学だけかと思いきや、認識が甘かったという事が大いに悔やまれる。こういってはなんだが、普段でも仕事モードでも母上の行動には無駄がないというのに…そして母上フェンちゃんがんばってね!とか言って素敵な笑みを浮かべながら、いきなり模擬戦に参加させやがりましたよあの人。

 

 どうもPXにいた時に副官と話していたのは模擬戦の為だったらしい。しかも部隊のみなさんVS俺という八百長も吃驚の対戦カードという始末………幾らなんでも戦力違いすぎないか?すでに複数って段階で俺詰んでる気がするんだけど?

 

 

 いやマジでビビったよ?だって相手は現職の魔導師さん、しかも見た目叩き上げの鬼軍曹って感じのおっさんだ。対する俺は最近やっとこさデバイスを扱えるようになったペーペーの幼児ですぜ?レースドライバーに若葉マークドライバーが挑むようなもんだ。

 

 尚、訓練内容としては廃墟の両極端にてスタートし、お互いCPのサポートが無いままで進行、および索敵を行う事。これは突発的な遭遇戦および単騎偵察などを想定しての訓練ということらしい。とはいえ少数のこちらが圧倒的に不利なのだが…。

 

 

「…ヴィズ」

『Yes,マスター、セットアップ』

 

 

 とりあえず俺もデバイスを起動して装甲を展開する。全身を白い装甲に包まれた俺はまさに小さなヴァンツァーだ。兵装モジュールはマシンガン型ストレージのアルアッソーとワイドシールド…もっともシールドは魔法があるのでイミテーション兼バラストであるが。

 

 それと狙撃ライフル型のウィニーが魔法で作った格納領域に一つ保管されている。いまのところ完成している武装ストレージはコレだけなので、これらを駆使して戦いに挑む事になる。一応家でもチェックはしてあるが、まだ開始まで少し時間があるので簡易チェックする為に走査する。問題は無し、オールグリーンだ。

 

 おっと、大事なことを忘れていた。模擬戦が始まるそのまえに魔法設定は非殺傷へ変更。ストレージのデフォルトでの使用魔法を射撃魔法レールブラスターに設定しておく。威力だけなら相当な威力が出るからな。銃機関銃三個分くらいかしら?とにかく準備が整ったので母上に通信を入れ、開始の合図を待つ。

 

 

 ふと考えてみたら母上以外の魔導師との始めての模擬戦である事に気がつき、少しブルルと背筋が震えた。怖いというのもあるのだが、同時に少し楽しんでいる気が見られるな。実戦じゃないからこその心境だろう。イカンイカンと頭を振って余計な事は考えないようにしないと。

 

 

 

 俺がそんな事を考えているうちにもカウントは進んで開始時刻となり―――

 

 

 

『――時間だ。状況開始ッ!』

 

 

 

―――開始の合図と共に、俺はローラーを駆動させて廃墟に躍り出た。

 

 

 

「ヴィズ、索敵レベル最大…」

『イエス、マスター』

 

 

 ある程度進んだところで、俺は一度ローラーを停止し、壊れたビルの陰に背をつける。センサー類を稼動させると、ヴィズが索敵した情報がヘルメット内部に表示されているHUDの左下にレーダー範囲を示す簡易マップとして表示された。

 

 まずは相手がどこにいるのかを探さなければならない。魔法系のほかに動体センサーやレーダーなどの科学的なモノも駆使して索敵を行う。ここからは徒歩で移動を開始した。ローラーのほうが断然早いのだが、音がうるさいので位置がバレやすい欠点があるのだ。

 

 また聴音装置、所謂パッシブソナーなどの稼動効率も低下する。足音一つでも十分相手の情報が得られるので、こちらも静かに移動しないとな。そろりそろりと抜き足差し足ほどじゃないにしても慎重に進んだところ、訓練用廃墟の中心に近づいたあたりでセンサーに反応あり。

 

 

『動体反応検知、数は5、魔力反応も確認』

「(ふむ、奇襲かけられるかもな)……術式レールブラスター、装填」

『了解、アルアッソー、安全装置ロック解除』

 

 反応は5、だが伏兵もいるかもしれない。カシャリと、手に握ったMGアルアッソーから金属音がする。いつでも撃てるようにヴィズがセイフティを解除したのだろう。アルアッソーに魔力をこめつつ、様子を伺おうとビルの陰から覗き込もうとしたその時――― 

 

 

『警告!魔力反応検知!オートディフェンス作動!』

 

 

 ヴィズのその警告が流れる前に作動した防御魔法プロテクションが俺の身体を包んだかと思うと、直後障壁に数発の魔力弾が直撃した。なんてことだ、すでに俺が近くに潜んでいた事は既にばれていたらしい。いやむしろ誘い込まれたのかもしれない。流石は母上の部隊の人!

 

 とはいえその場に留まれば攻撃の手数が更に増える上、あんまり攻撃に当たるようだと監視している母上からストップが掛かってしまう。勿論それは心配ではなくて、その程度の攻撃がよけられなくてどうする的な意味合いだけど。俺的には訓練が増えるという死亡フラグに他ならない!

 

 

「―――っ」

 

 

 脚部に魔力を回す。魔力を受けた魔力モーターが駆動し、すばやくここから離れる事が出来た。なんで位置がばれていたのかは知らないけど、すでに発見されたのなら音を隠す必要は無い。

 

 ドギャギャギャギャと、割れたコンクリートの半ば引っぺがすようにして削りながら、俺は比較的大きなビルの陰に入った。そこらじゅうに身を隠せるほど大きなコンクリート片がゴロゴロしていたが、誘導魔力弾を使える魔導師がいれば隠れてもあまり意味が無い。なんせ山なりにも飛ばせるからなアレ。

 

 すぐに身を隠した俺は、アルアッソーだけビル影から出すと、相手に向けて全力掃射していた。内心こちらの位置がばれていた事に鼓動が早鐘を鳴らしていたし、実力というか経験的に手加減する余裕もないから(結構怖かったんだよぅ)手に持ったアルアッソーを乱射しちゃったのである。

 

 

 

―――ところで、ヴィズには基本兵装としてマシンガン型の兵装が取り付けてある。

 

 このMG型のアルアッソーというストレージデバイスは形状どおり魔力弾を撃つという事に特化させる様に設計した兵装デバイスである。コンセプトは現実世界にあったアサルトライフルの魔導師版で、デザインはフロミでの同名MGといったところ。

 

 俺は生まれつきの体質で魔力弾の誘導が出来ない。だったら目視できる魔力弾の初速を今自分で出来る技術で高められるだけ高めるればいい。そう考えた。勿論今使える技術は魔法だけに留まらず、魔導関連の魔導メカも含まれる。いわば母上と父上から受け継いだ技能の合作といえよう。

 

 

 まず自力でもデバイスありきでも両方で使用可能な魔法の制作が必要だった。既存の魔法ではやはり速度が遅い。尚、ある程度の力量がある魔導師なら誰しも独自の魔法を一つや二つ作成するので問題はなかった。

 

 んで独自に作り上げた魔法の名はレールブラスター。使用した基本術式はフォトンバレットである。文字通り光の弾みたいな魔力弾を無誘導で打ち出す魔法だが、それを根底に母上にも手伝って貰い、術式プログラムをやや変更し、初速を高められるだけ高めてみたのだ。

 

 

 だが想定していた速度に到底及ばなかった。威力はあっても前世の映像で見た機関砲やら大砲とかのように目に見えないという訳ではなかったのである。普通の魔導師なら誘導魔力弾を覚えるので速度はそれなりの方が操作しやすいのだろうが俺は違う。誘導できないから速度は可能な限り上げなければ意味が無い。

 

 自力での速度向上は自身の力量増加を待たねばならずそれ以上はいじれなかった。なので別アプローチの“デバイスのサポートによる連射力と弾速の向上”に掛かった。これは父上から受け継いだ技術が非常に役に立ったといっておこう。

 

 

 とにかく、速射と高初速、そういうコンセプトの元で兵装デバイス・アルアッソーは形作られていった。このアルアッソー、魔導師の杖というよりかは、むしろ兵器としての銃のような作動機構を導入してあった。 

 

 何せアルアッソー機関部の内部では、普通の銃における薬室の部分に魔力弾を形成する。この魔力弾形成時、実は薬室の中では火薬の代わりに薬室内で魔力を爆発させ装薬にする事で射出速度を大幅に高めているのだ。かっこよく言うと魔導と機械の融合、悪く言えばいいとこ取りのちゃんぽんというヤツである。

 

 

 また、俺はそれだけに飽き足らずレールブラスターの術式で魔力弾に電位を加える効果を付与させた。コレだけでは速度は上がらないがデバイスに一工夫した。銃における銃身、いわゆるバレル部分に追加の術式細工を施し、機関部作動時の余剰魔力を使って電位差を発生させる事で磁場の相互作用を作りだす事に成功したのである。

 

 要するに魔導師式のレールガンさせることに成功したのだ……ある意味すごくね?これにより初速が毎秒3,400km位になっており、照準もヴィズの高速演算のサポートを受けてHUDに表示されるから、余程の事がない限りはずさない。もっとも生成やら術式やらにソースを取ったので、単発の威力は程ほどといった感じ。

 

 

 ちなみに母上には避けられた。何でも銃というものは槍と似たようなもので、銃口の向きを見ればどう攻撃が来るのか簡単に予測できる、とか……ホントに人間かあんた?ともかく我が母には通用しなかったモノの、それなりにいいものが出来たと俺は思っている。

 

 そう、“それなり”……これにも問題があるんだよな。

 

 

『機関部熱量、レッドゾーンに入ります。強制冷却開始まで、あと―――』

 

 

 兵装デバイスのアルアッソーを模擬戦相手に連射したのは良かったが、十秒も撃たない内に管制AIヴィズからの警告が入る。これがアルアッソー使用時のレールブラスターの弱点。上記のとおり、なまじ凝った仕掛けと術式を使った事でいい魔法となったが、アルアッソー自体に熱がたまりやすかった。

 

 アルアッソーの構成部品は、基本的に熱に強いものを使っている。術式にも耐熱術式の応用を加えてある。だがそれ以上にこの兵装デバイスと魔法の組み合わせで発生する熱量が膨大であった。要するにまだ制御が未熟なので余剰魔力が抵抗で熱量に変わっているという無駄が発生しているのである。

 

 

『―――機関部、強制廃熱開始。再起動までお待ちください』

 

 

 なので一定以上熱がたまると使用できなくなるように設定したのだが……少し失敗したかもしれなかった。今の設定だと廃熱シーケンスをキャンセルする事が出来ない。

 

 

『左右に動体反応、回避を』

「くっ…」

 

 

 弾幕が切れた途端、待ってましたとばかりに誘導魔力弾とバインドのバリューセットが襲い掛かってきた。幸い速度は遅いので廃ビルを盾にしたり、落ちている瓦礫を身体強化魔法とヴィズのパワーアシストで持ち上げて投げつけて誤作動させたりする事で回避した。

 

 

「……格納領域、ウィニー、装備」

『イエス、マスター』

 

 

 尚も向かってくる魔力弾をギリギリで回避しつつも、現在冷却中で使用できないアルアッソーを収納し、同時にヴィズに口頭指示で新たな兵装ストレージを格納領域から引っ張り出させた。手に握っていたアルアッソーが消えると同時に、身長と同じ大きさの馬鹿でかいライフルが両手に握られるようにして出現する。

 

 兵装ストレージデバイス、第二弾は狙撃銃タイプのウィニー。基本的な機関部構造と動作はアルアッソーに酷似し、外見はこれまたフロミで同名のライフルを肖っている。魔法的な処理と素材を使っても通常なら大人でも持つのに苦労するであろうソレは、身体強化魔法とパワーアシストが付いた俺たちにとっては羽のように軽い。

 

 

『――敵性反応、囲むように展開中』

 

 

 新たな兵装を装備した瞬間ながれた警告に内心舌打ち。

 これは母上との座学で習った対魔導師戦術の一つ。低位の魔導師が高位の魔導師を狩る為に行う予備動作。警告を聞くや否や、強化魔法とパワーアシストをフルに使い、近場のビルの壁を足場にタタタンッと軽いステップを踏んで飛び上がる。

 

 

『高魔力反応、結界と思われます』

「見れば、分かる」

 

 

 二つのビルの間を飛び上がり、屋上に着いたところで先ほどまでいた場所を一瞥。

 ちょうどドーム状に展開した光の壁が崩れ去り、先ほどいた場所が抉られているのが見えた。たぶん食らっていたら抜け出せない拘束となったことだろう。

 

 それを行った魔導師たちはどこかと思えば、廃ビルの瓦礫にまぎれて三点、標的を中心に三角形を形作るようにして隠れている。結界魔法の同調。取得は難しいが訓練すれば到達できるベテランの領域。しかし狙って発動する事は、こと戦闘中には難しいもの。

 

 

「―――はっ」

『マスター?』

「流石は…母上の部隊…」

 

 

 背筋がぞくぞくとした。怖い、痛いのはいや、だけど楽しい。二律背反の思いが身体の中を駆け巡り蹂躙する。それにより感じていた恐怖が薄れていく。アドレナリンが分泌されているかもしれない。とりあえず最高にハイッてヤツだ!とでも言えばいいのかもね。

 

 すぐにその場を離れ、ビル伝いに逃げた俺は一つの廃ビルの窓に飛び込む。おそらくは追跡してくる母上の魔導師たちに網を張った。もちろんあの母上の部下さんが馬鹿正直に迫ってくるとは考えられない。だが、一人でも落とせればこの先楽になると、俺はウィニーのアイアンサイトを向けた。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、その後模擬戦はどうなったのかというと―――

 

 

『―――私の期待を裏切った蛆虫どもには地獄さえ生ぬるい!再び人間に戻れるように訓練を強化してやろう!どうだ嬉しいか!』

 

「「「「「「「サーッ!!イエッス、マムッ!!!!」」」」」」」

 

 

―――勝てました。無様に転がされたり転がしたりして勝利を得ました。

 

 最終的には廃墟で息を潜めて持久戦に持ち込み、持ち前の高機動力を駆使して常に逃げ回り、超長距離からウィニーで時折狙撃して連中の魔力を消耗させることで、魔力切れを狙えたのが勝因だと思う。

 

 いま目の前では模擬戦をしてくれた部隊員の方々が、通信ウィンドウに映る母上の前で直立不動のまま命令を復唱していた。なぜか日ごろ見たことある光景なので、なんだかおじさんたちに仲間意識が芽生える。

 

 

『―――それとフェン、今回の貴様の評定だが』

 

 

 そんでこれで終わりかと思った………だがソレは甘かった。

 今度は俺の行動についての評価が始まるが、まぁ最初からぼろくそに言われる事を覚悟しておくと意外と罵倒にも耐えられるよね。つまりそれくらい俺の評価はひどいモノであったという事だ。

 

 曰く、接敵の際にうかつに近づきすぎだの、持久戦に持ち込んだ判断は一見正しいかもしれないが、もしもコレで相手が敵の大部隊の斥候部隊であり、増援が背後に控えていたら押し切られて潰されるだの、そうなる事を見越して何故通信のジャミングを最初に行わないのか、等々のお説教がされました。勿論聞いている間、俺は正座です。

 

 言われてみれば、たしかに敵部隊とあたる時は通信をジャミングするのは基本だった。相手の力量を推し量り、しなくてもいけるともしかしたら心の隅で思っていたのかもしれない。すこし強くなったからって天狗になっていたのかもしれないと思うと、母上には頭が下がる思いである。

 

 

 この模擬戦は、本当に俺の糧となった。

 特に今回思い知らされたのは、近距離の武装が無いとキツイって事。何度か懐に入り込まれた時は本気で焦った。なにせ模擬戦中にこんな事が起きたのだ。

 

 

「―――手加減はしないっ!貫けッ!ストライクブレードッ!!」

 

 

 連携を仕掛けられ、無様に逃げ回る俺を待ち伏せていた一人が、大剣のクレイモアのようなデバイスに魔力を張らせ、真正面から一気に特攻してきたのである。子供相手に本気で魔力斬撃を繰り出してくるとか……おまけに連携してきて逃げられん。

 

 大人げねぇぇぇぇよ!おまいらぁぁぁぁ!!と思ったけど、相手は待ってくれない。

馬鹿正直に突っ込んでくるだけなら回避できたかもしれないが、周囲の仲間が連携してきて逃げ場が無いと来たもんだ。

 

 

「多重、プロテクション」

 

 

 逃げられないと踏んだ時点で、回避はやめて迎え撃つと覚悟した俺は魔法障壁を展開する。単純に防御魔法としてなかなかの高度を誇るプロテクションを幾重にも重ねた多重構造障壁。この時点では展開した防御魔法で防げると考えていた。

 

 その直後、相手の剣先が第一層目のプロテクションに食い込んだ。瞬間、すごい音と共に障壁は簡単に吹き飛んでしまった。相手の魔法にシールド破壊効果が付与してある事に気が付いた時には、剣先が8層ある障壁のうち6層まで貫通し、7層目も崩壊寸前だった。

 

 だが8層目あたりで勢いが鈍ってくれたおかげで、シールドを貫通した剣先が俺を穿つ事は無かった。危うく腹をやられそうになったが勢いが鈍ったと同時にプロテクションを解除し、ローラーで急速後退をしながら再度使用可能になったアルアッソーを、こんどはFPSでいうところのタップ撃ちをして逃げたのである。

 

 分かったのはクロスレンジにおいて、銃タイプの装備だと剣タイプのデバイスの斬撃は防げない。防御をより強化するか、新たに近距離兵装を追加するか……俺の選択は後者だった。だって一杯武器があるとかっこいいと思ったんだ。ふと武蔵坊弁慶のようなイメージが浮かんだが、すぐに振り払った。

 

 

「お疲れ様フェンちゃん、でも驚いたわ。まさかウチの部隊に勝っちゃうなんて…」

「ギリギリ…だったし…手加減されてたから…」

 

 

 模擬戦が終わった帰り、母上はにこにこしながら俺を抱っこし、そう語りかける。

 …………しょうがないじゃん、体力的に結構きつかったんだから。俺はすこし話をするのが億劫ではあったが、ここまでしてくれる母上の好意を無駄にすまいと無理やり会話を続ける。

 

 実際、部隊の人たちは口では手加減しないといっていたが、あれは嘘ではないがホントではないのだろう。だって一度も、彼らから殺意というべき圧力を感じなかったのだ。純粋におじさんたちは、俺のために訓練をしてくれていたのだ。

 

 

「いいえ、あれでも私が手がけた部隊なのよ?―――誇りなさいフェン」

「おかあ…さん?」

「あなたは気づいたのでしょう?天狗になっていた自分に。そして彼らの胸を借りてソレを自覚し、さらには苦戦したけど打勝てた。それは自慢にしてもいいのよ」

「……ありがと、おかあさん」

 

 

 自信は時として傲慢さに、そして傲慢さは迂闊さにつながる。俺が得た教訓は何も技術面だけには留まらない。元から高かった精神がさらに成長した事に、不思議な喜びを感じている自分がいる。

 

 

―――ああ、ここが居場所なんだな。

 

 

 母の腕に揺られ、漠然とそう思った。

 なんでそう突然思ったのかは分からないけど、もっともっと成長して両親を喜ばせたいと、俺は思ったのだろう。母上には勝てない。この先どうなろうとも。

 俺は疲れで襲い掛かる睡魔の中で、そう思いながら視界が暗くなっていく。

 

 

「………おやすみ」

 

 

 やさしい、とてもやさしいその言葉を聴きながら―――。

 

 

 

 

 

 かくして、俺はこの日からちょくちょくこの人たちの所に行くことになった。

 実戦積んでる人の動きは参考になる。連携とかも覚えられるのがいいね!

 かくして俺は母上の部隊のマスコットになるのでありました。

 

「でも、これで……いいのかな?」

『私はマスターについてきます。』

 

 

 ありがとよ…ヴィズ。

 

 


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