妄想戦記   作:QOL

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「地下で何かたくらむのは悪者だと相場が決まっている」

Side三人称

 

 …話を聞いた段階で予想はしていたけど、本当に地下鉄に居たとはね。

 すぐ眼の前で降車する箱型の無人機を見た時のフェンの心情はまさにそれであった。そりゃ確認されているだけでもタウルスのサイズ比は種類によって2m~4mの開きがある。小さい物ならばちょっとだけ背が高くて横幅が広い成人男性と変わらない上、四肢の接合を解除すれば更にコンパクトになるので地下鉄のトンネルを潜るのはわけないだろう。

 

 このサイズの違いは仕様用途が歩兵随伴か戦車随伴かで用途を変えているからである。市街戦や制圧戦を行う時には2mクラス、逆に野外での砲撃戦などでは4mクラスが活躍するのだ。またタウルスのデザインは全て同じなのでサイズの違う機体が並ぶと遠近法が狂う事があるが、それはいまはどうでもいい。

 

(うーん…居ても一体か二体だと思っていたんだが…まさかの鉄道輸送か)

 

 フェンのデバイス、ヴィーザフによって感知された敵反応は、HUD上に表示されているだけでも今の所2mクラスが6機。それらは開戦後放棄されていた地下鉄車輌を改造したであろう簡易貨車に乗せられていた。その簡易貨車は人が乗る必要がないので外壁を全て取り外したいわば基部部分だけの貨車である。

 

 固定器具が外れる金属音がホームに木霊し、簡易貨車から降車したタウルス6機は貨車後部へと移動した。一両だけの簡易貨車の後部には様々な機材が乗せられている。フェンの方向からはそれが何の機材なのかは確認する事は出来なかったが、タウルス達が何かをしに地下鉄を利用している。それだけは確かだった。

 

 一方のタウルス6機がそれぞれ一つの機材を運びホームの開いた場所へと円を描くように等間隔、サークルを組むようにして設置する。固定の為に椀部パーツに取り付けられていたリベットガンで杭を打ち込み、機材を完全にホームに固定していた。固定した上でタウルス達は機材其々にコードを接続している。

 

 フェンは首を傾げながらタウルス6機の動きを監視した。連中は一体地下で何をしているのだろうか。考えられるのは爆弾の設置だが地下に設置するのはいささか効率が悪い。ほかはNBC兵器、毒ガスの類であるがそれは陸戦条約により禁止されている。敵が条約を必ず守るなどとはいえないが、流石に大量破壊兵器による報復合戦などは両国とも望まないだろう。

 

 ハフマン紛争はあくまで領土権に起因する。プロパガンダなどでは殲滅殲滅などと騒ぐが、実際のところそういった敵国を完全に叩き潰す戦争などは金の無駄なのだ。戦争復興にも金が掛かる。敵国民を完全にこの世から消し去ると自国だけで戦後復興や開発を行わなければならない。それは国庫的にも国民感情的にもマイナスでしかない。

 

 両国ともある程度疲弊し、それなりに力を見せ付けあったところで、和平交渉にいたる。尚且つそれなりに自国領土を押し広げられればさらに良い。OCUとUSN両国のどちらかが消えるとソレまで大国に押さえられていた国家郡も騒がしくなるので、パワーバランス的にもいずれ和平が結ばれる。故に徹底した殲滅戦はまず起こらないと考えられていた。

 

 

 話を戻すが、その考えに概ね賛同しているフェンもまた、眼の前にいる敵が設置している機械は、爆弾や毒ガスなどの物質的なモノではないと踏んでいた。あり得るとするなら、お互いに魔導師が居るのでもっと回りくどく、それでいて効果的な何かであろう。破壊するにしても調べるにしても、兎にも角にも敵が邪魔だ。

 

 その為、フェンは記録レコーダーを回しながらタウルス達が移動するのを待つ事にした。殲滅する自体は簡単だ。無人機と魔導師なら魔法という物理現象に喧嘩を売っているような超技術を行使できる魔導師の方がずっと有利だからである。勿論それに対する対抗技術は既に完成しているが、それを差し引いても魔導師の方が強い。

 

 だが、現状では敵の目的がわからない。故にフェンは部下達に隠密行動を続行させ、自分自身もレコーダーを回し情報収集を継続させた。実のところこのままタウルスが帰ってくれれば設置された装置を調べるだけで済むから、是非ともそうなって欲しいと思っていた。

 

―――だが、現実はそうそう甘くない。 

 

 ガコン、と音がした。それはタウルス達でもなく、ましてやフェンや彼に従う部下達が発した音ではなかった。ネズミである。フェンの前世における所謂ドブネズミやクマネズミと呼ばれる類の大きいネズミが空爆の衝撃で圧し折れたであろうパイプから出てきたのだ。

 

 運悪く出てきてしまったネズミは、パイプの上で足を滑らせたのか瓦礫の山へと落下した為、大きな音が発せられたのである。その音をタウルスは聞き逃さなかった。

 

《バクンッ》

 

 タウルスの顔が割れた。《∴》に配置されたセンサーの下から、新たな装置が顔をのぞかせる。それを見ていたフェンたちは凍りついた。迫り出したソレが何なのかを彼らは知っていたからだ。

 だがフェンたちが手を出す前に、タウルスはソレを起動させた。

 

《ヴォォォォォン―――ッ!!》

 

 角笛を吹いたかの様な重低音が地下鉄のトンネルに木霊する。まるで雄牛の嘶きの如きそれは、タウルスに装備された空間アクティブソナーであった。カートリッジシステムと呼ばれる魔導師が利用するブーストシステムがある。それを流用し圧縮された魔力を意図的に崩壊、その際に発生する強力な局所的次元干渉すら起こす魔力波が篭った振動波を利用して周囲を索敵するシステムである。

 

 勿論、純粋な科学を用いた空間アクティブソナーに比べると、純粋カートリッジではない粗製圧縮魔力なので効果範囲が限定されるという欠点もある。だが狭い密室空間で使用される分には問題ない上、それに加えて空間アクティブソナーには科学式にはない利点が存在した。

 

《バチバチバチ――》

「(不味いっ!)」

『(魔力素子の共振現象発生。ラウンデル光が発生した事で迷彩率30%にまで低下)』

「くっ、ワイドエリア――」

 

 フェンが不味いと思った時には遅かった。地下鉄ホームのあちこちで紫電を伴った放電と発光現象が起こり、潜んでいたフェンと部下達の姿を顕にした。空間アクティブソナーの利点。それは使い捨てながら隠れ潜んでいる魔導師を索敵できるという物であった。

 

 ソナーにより姿を見せたフェン達にタウルス達は一斉に攻撃態勢に移行する。工具であるリベットガンの反対側にあった固定武装の14mm機銃に一斉に火が点った。直後短銃身の機関砲からフルメタルジャケット弾による鉄火の嵐が吐き出された。

 

「――プロテクション!」

 

 だが、触れれば火傷ではすまない鉄火を前に、咄嗟にヤバイと感じたフェンが張った防御魔法が間に合った。タウルスと自分達を遮るようにトンネルを塞ぐ形で魔法の膜は敵の初撃を確かに防ぎきった。訓練校で幾度も訓練し、染み付いた対銃撃戦における防御戦術。魔導師であるからこそ出来る荒業をフェンは発揮した。

 

 だが、彼らを守った防壁は決して鉄壁ではなかった。タウルスが銃弾を吐き出すたび、圧し潰れた銃弾がバリアに波紋を浮かべるごとにフェンへの負担は加速度的に増大していく。

 

『物理圧迫による負荷値増大、簡易展開の為、防御術式展開率69%まで低下』

 

 ヴィズがフェンのHUDに警告文を浮かべる。フェンが展開した魔法障壁はヴィズが自動展開できる防御魔法術式を流用していたからだ。術式を簡略化した事で咄嗟の展開力に優れていたが瞬間強度はともかくその後の耐久度に難がある欠陥魔法であった。

 

 あくまで自分自身が防御魔法を展開できるまでの僅かな時間を稼ぐ為の術式であり、本来の使い方をされなかった事で、人類が持てない重火器から放たれる圧倒的な弾幕を前に徐々に防御壁へと穴が開いていく。

 警告音がヘルメットの中を満たしていくが、フェンは慌てる事なく行動した。

 

「10カウント、展開停止、仕掛ける」

「イェッサー!」

 

 フェンも彼の部下達も、ただ黙ってみているつもりは毛頭なかった。フェンは味方を助ける為に敵の攻撃を妨害したのではない。それも勿論だが、何よりも状況を立て直す為の時間を稼ぐ事が彼の目的であった。

 

 下した命令は非常に短い命令である。だが、戦場で生き残って熟練した部下達にはこれだけでよかった。状況を判断し何をすべきかは彼らの経験が知っている。ここにおいてフェンは防御魔法を展開しつつも自身が纏うバリアアーマーの魔力を更に滾らせるだけでよかった。

 

 そして簡略化した指示で敵の排除を下すのとほぼ同時、各々が防御魔法を展開した直後、フェンが張った防御魔法が完全に破壊されシールド破壊による魔力片が輝く断片となって辺りへ散らばった。 

 

「左は任せた」

 

 そう告げ返事が帰ってくる前に、フェンにタウルス達からの火線が集中した。防御魔法を展開する為に態々障害物から身を晒していたフェンを脅威と判断したタウルスの戦術AIが集中攻撃の判断を下したからである。これが普通の魔導師であったなら、絶え間ない徹甲弾を前に容易くバリアジャケットを弾けさせられ蜂の巣となったことだろう。

 

 だが、あいにくとタウルス達が相手にしたのは、彼らのデータにはない存在だった。

 

 飛来した弾幕に飲み込まれ地下鉄構内に金属音が反響する。だがフェンはまったくの無傷であった。彼が展開しているバリアアーマー表面に張られた薄いバリアが銃弾を逸らし、或いは運動エネルギーの大半を消失させた。

 

 更にその薄いバリアを突破した弾丸もその先の幾重にも重なった魔力擬似物質とカーボンの複合素材を貫く程の威力を持ち合わすことが適わなかったのである。フェンが自分自身の命をいの一番に考えた設計思想、レアスキルをいい事に魔力コストを考えずに防御面を強化した事が実を結んでいた。

 

 鉄壁に護られしフェンは降りしきる銃弾の雨の中、腰を屈めると一人敵の中へと飛び出していった。脚部クローラーによるローラーダッシュと強化魔法による強靭な脚力は、彼に信じられない運動性を与えている。次の瞬間にはフェンの一番近くにいたタウルスの正面装甲を、紫電を迸る魔力刃が貫いていた。

 

 そのタウルスは一瞬だけ機体を震わせたが機能中枢がある部分を貫かれた事でセンサーアイから灯りが消える。無人機であるタウルスは友軍機が破壊されても一切動揺することはないが、あまりのワンサイドに戦術AIが数秒フリーズするような光景であった。

 

 

 フェンの両手には近接兵装デバイスであるキーンセイバーが握られていた。魔力刃独特の薄い発光現象により浮かび上がるフェンの姿は、暗い地下鉄ホームも相まってまるで幽鬼のようであった。

 

 手にした近接兵装デバイスは兵装デバイスと大層な名が付いているが、実際はデバイスですらなかった。あえて言うならそれは柄であった。この柄は柄と同名の魔法が魔力刃を発生させる為の唯の土台であり、ストレージデバイスのような術式補助や出力強化、術式記録などの魔導機械的な制御機構を持たない唯の魔力刃発生装置でしかない。

 

 ちなみにこの柄はフェンがソフィア教官によりナイフ戦の近接戦を叩き込まれた結果、微妙な重心の変化を感じるようになった事で生まれた物だった。更に言うと魔法術式キーンセイバー自体は、己の持つ唯一の近接攻撃方法として彼が母上の部隊と模擬戦を行った辺り考案し、訓練校時代には既に完成させている。

 

 こうして造られた柄は、普段振るっていた最も馴染んだナイフと同サイズの魔力刃発生機構を持たせた事で、あえて重心というものを生みだし、それにより訓練で染み付いた自身の刃物を振るうときの癖にあわせたのである。こうしてキーンセイバーは取り回しを良くしつつも魔力刃自体の出力の向上と安定を手に入れた。

 

 唯の出力装置でしかない柄である為に魔力刃生成以外に使い道がないが、これにはこれでデバイスには無い利点も存在した。それは術式の使い手の魔力をダイレクトで反映できるという利点である。つまり余計な機構を持たない単純な機構な分、壊れにくく、また使い手の能力にもよるが、総合的な魔力刃の出力を非常に高密度に仕上げる事が可能だった。

 

 魔法の性能は魔導師の性能。それを地で行くことを可能とした事で近接魔法キーンセイバーは局所的に射撃系術式とは別次元の高い攻撃力を発揮した。無人機という対魔法処理が施される事もある硬い装甲殻で覆われたような機械を相手取るには、高出力で確殺できるキーンセイバーはまさに最適だったといえた。

 

「…ワン、キル」

 

 キーンセイバーによりド派手に破壊されたタウルスは金属音を響かせ崩れ落ちると機能を停止した。だが一体破壊したフェンは立ち止まらなかった。彼の背後の部分…背中からカシャンという金属で出来た何かが開かれる音が響いた途端、格納領域より何かが実体化してその背に装着された。

 

 その間僅か0,1秒、タウルスが反応する前に急遽現れたそのバックパックは長方形の形状に加え、両肩の背後部分からアンテナの様に二本の棒が延びている。そしてそのバックパックから甲高い作動音が響いたかと思うと、直後背後に青白い光が瞬いた。次の瞬間、フェンの姿はその場から掻き消えた。

 

 瞬きにも満たない刹那、何時の間にかフェンの姿は最初に居た位置とはまるで反対側でタウルス一体を押しつぶすように停止していた。この刹那の時間に彼は最初の位置と今の位置との間に居た一機のタウルスを切り捨て、最後の押しつぶすように体当たりしたタウルスにはキーンセイバーが突き刺さしている。

 

 この機体は若干中枢部への攻撃がズレたのか、いまだマニピュレーターを振り回すなどしてフェンを振り落とそうと稼動したが、すぐにフェンは魔力刃を伝い高圧電流を流してタウルスを内部から破壊した。

 

 元々レールブラスターに使われる電位差を生み出す為の術式なので撃ち出したりすることは出来ないし、精々が魔力刃に纏わせる程度で燃費も悪いのだが、機械の弱点でもある基盤を焼くには過剰過ぎる電圧である。高圧電流を身体の中で暴れまわされた事でタウルスは内側から焼かれて完全に沈黙したのであった。

 

 

 フェンが突撃する時に掻き消えた様に見えたのには理由がある。それはフェンの背中に秘密があった。最近新たに造りだした支援兵装デバイスの一つであるジェットバックパック。魔力を吸い上げて駆動する複数のマイクロエンジンとスラスターベーンを組み合わせ完成したそれは、フェンに爆発的な推進力を与えた秘密だった。

 

 要するに彼は爆発的な推進力を生み出す背中のマシンの力で直線的に恐ろしく早く動いたのである。直進するついでに進行方向に居た一機を横に構えていたままだった魔力刃で撫で斬りにし、停止位置付近に居たタウルスをブレーキ代わりにしながら貫いたのだ。

 

 ある意味、無人機を始末するには十分な力であった…もっとも結局直線にしか動けない弱点がある訳だが、それはさておき。

 

「撃破、これで3機…キル」

『味方も2機破壊、ターナー伍長たちが苦戦中、援護を推奨』

 

 相変らず小回りは効かないが使える装備だな、とフェンがさりげなく自分で造った装備品の性能を確かめつつ、タウルス3機を瞬く間に破壊したそのすぐ隣では、残りのタウルス3機も、部下達の手で処理されようとしていた。

 

 ただし、彼らは数人がかりでタウルスと対峙している。一人がシールドで全体を守り、その隙に別の一人がバインドなどで敵の動きを阻害し、攻撃役の誰かが銃なり魔法なりで止めを刺す。セオリー通りの戦い方であるが堅実であるといえる。これだけ見ても任官を遅らせて特別な訓練を積まされたフェンと一般魔導師との力量差が如実に現れていた。

 

 それに元々この場にいる部下達は最前線で戦うというよりも、結界やバインド、支援魔法によるジャミングなどがメインの兵士達であり、戦えるとはいえその実力は万能型のフェンや戦闘型の副長ジェニス、後は分隊指揮を任せられている突撃戦車で脳筋なハーヴィー軍曹等と比べれば見劣りするのも当然であった。

 

 とにかく敵を排除する為、フェンはキーンセイバーをヴィズの格納領域へ仕舞い込むと、代わりにアルアッソーを取り出し装備する。レイラインが繋がり内部機構へ灯が点った中距離用兵装デバイスを手にフェンは部下達の援護へと回った。

 

 

***

 

 

 タウルス達が沈黙した事で再び地下鉄ホームは静寂に包まれた。彼は敵の殲滅を確認すると、すぐにタウルス達が設置していた装置に眼を向けた。機械たちが設置した装置の外見は機械剥き出しの円柱の形をしていた。しかしその頂上部にはバスケットボールほどの大きさをした正八面体の結晶が設置され、ヴィズがその結晶から魔力を検知したことで、この装置が魔力をエネルギーに稼動する魔導機械である事が解った。

 

 しかし…とフェンは思考する。この装置、操作には電力を使うが作動原理は魔力であり、また円環を意識するかの様にして配置されている。またコードの束はそれ自体が魔力の流れであるレイラインを構築できる素材で作られていた。装置一個では唯の魔力を放出、安定させる機構だが、装置全体で見た場合、この場に構築された“魔方陣”として考えるなら…。

 

(……これって、マジでヤバイんじゃね?)

 

 敵陣深く、密かに設置された魔方陣。詳しい機能は分解してみないと解らないが、この装置だけでも何らかの効果が付与されている事は間違いない。設置されている機械が魔導機械であるなら尚更である。

 

「ターナー伍長、この装置をどう思う?」

「なんなんでしょうね。自分にも良く分かりません」

 

 自分だけで考えるのもどうかと思い、参考までに部下に聞いてみたが、存外そっけなく返された。

 

「なんせ仕組みがわかりませんからね」 

「…?魔導機械だよ?」

「そうなんですかい?俺達ァ魔法技術は扱えますが、魔導機械やデバイスの仕組みまでわかってる訳じゃないんで…なぁみんな」

 

 うんうんと伍長の言葉に頷くほかの部下達を見て、ああ自分が異質なのかと改めて理解したフェンだった。確かにレッドクリフ隊は隊員全てが魔導師だ。だが魔導師とは基本的には魔法を行使する存在であり、専門で技術を習うメカニックならともかく、一般兵は魔導機械関連に関する事は門外漢であるといえた。

 

 そこらへんフェンはデバイスマイスターである父親からの手ほどきを受け、下地はあったとはいえども自分自身のデバイスをくみ上げる程度にはその手の技術に熟達している。自分も楽しかったとはいえ、結構見境なく技術を学んだんだと思うと、少し恥ずかしい気持ちが浮かんできた。

 

 とはいえ、それが役に立つのもまた事実。人生何が役に立つかわからないもの。とりあえずフェンは部下達に自分の持ちえる専門知識からの見解を伝え、不用意に装置に触れないように指示を出した。下手に触って誤作動でも起こしたら目も当てられないからである。

 

「これまでの記録はとってる?」

「戦闘までばっちり映ってますよ。発見された原因がネズミって事まで…。こんな偶然が折り重なったジョークのような事態はもういらないですわ」

「それには同意」

『マスター、それはともかくとして副長から連絡が入っています』

 

 とりあえず、レコーダーに記録するだけにとどめ、後は司令部に任せようと考えていたところで、地上から連絡が来た。これだけ地下で大騒ぎすれば当然地上にも響く。フェンはヘルメットを収納させて顔を外気に晒すと空間ウィンドウを投影して通信を繋げた。無事な姿を見せたほうがいいと判断したからである。

 

『隊長、無事ですかい?』

「今の所、傷一つないよ。皆も怪我はなし。ちょっと地下で悪戯してた、阿呆どもの機械人形たちを丁寧に解体してたとこ」

『そいつは敵さんとはいえ同情しますな。それはともかく…』

「うん、エドガー君の情報、ただしかった。このまま司令部に中継してくれる?地下からだと、どうにも送信状態が悪くて――」

 

 そんな時、通信中継を要請しようとした瞬間、フェンは自分の身体の奥底で何かがズクンと疼いたのを感じた。それは彼自身にも良く分からないが、生き残る為の勘と呼ぶべき感覚であった。彼の持つ魔導師の持つ超感覚とこれ迄に受けてきた様々な訓練、そしてハフマン島において体験した実戦を通して会得した…所謂生存本能が発する警鐘である。 

 

 通信を途中で放棄し、折りたたまれて収納していたフルフェイス・ヘルメットを再度装着しながら、自分が嫌な予感を感じた方向を注視する。そして居た。一度は機能停止したはずの無人戦闘機械タウルスの一機が再びセンサーアイを灯らせて上半身だけを稼動させている。

 

「伏せろッ」

 

 彼が叫ぶが早いか、タウルスは背部ウェポンベイの片方だけを稼動させ、そこに迫り出した四角い箱のようなランチャーをフェン達に向けていた。フェンが再び防御魔法で魔法壁を展開するのとほぼ同時。ランチャーから幾つかのロケットが射出された。

 

《ズガガガンッ!》

 

 無照準であったにも関わらず、射出された杭のようなそれらは、フェンの展開した防御魔法へと全弾命中する。これが普通の噴進弾ならば、そこで炸裂して防御壁に波紋を浮かべるに終っただろう。

 

 しかしタウルスが射出した杭は普通のそれとは異なっていた。命中する刹那、強度だけなら高い筈のシールドが撓んだかと思うと、命中時の運動エネルギーで銃弾ですら完全に防げる魔法壁を貫通したのである。

 

 半壊したタウルスが使用したのは、対魔導師戦を想定して極一部の機体に装備されていた特殊弾。対魔法防除貫通処置が施された通称シールドバンカーと呼ばれる装備だった。

 

 細長い杭のような弾頭には魔力結合を中和するレアメタルコーティングと魔力素子干渉装置が搭載され、どの様に強固なシールド魔法であっても命中すればその結合を緩ませる事が可能だった。この緩んだ部分へと射出時の物理的な運動エネルギーが一点に集中する事で、この弾頭は半ば強引に防御魔法を突破するのである。

 

 性質の悪い事にこの弾頭はいかに強固な防御魔法壁であっても、展開されたシールドが一枚だけなら、よほど特殊な――ディストーションフィールド等――防御魔法でない限り貫通し、シールド内で炸裂。魔導師を死傷させる兵器であった。

 

 だが中和装置の大きさの関係上、搭載できる炸薬の量はすくなく、フェンのBAは通常のBJとは違いはるかに高い防御力を持つので、たとえシールド内部で炸裂しても少々装甲が焦げる程度で終わる筈だった。

 

 部隊の部下達も全員BJを展開しており、直撃さえ貰わなければ負傷すらする事はない。そう考えた時、フェンの防御魔法を突破したシールドバンカーの一発がジャイロがイカレたのか、ネズミ花火のような不規則な軌道を描き、天井へと直撃してしまった。

 

《――ドドォンッ》

「あ」

『マスター!爆発の衝撃で天井がっ!』

 

 ヴィズの警告が早いか、シールドバンカーの直撃で天井に亀裂が広がった。元々敵の都市爆撃の影響で脆くなっていたのか、亀裂の走る速さは尋常ではなかった。急いで退避しなければ崩落に巻き込まれる。フェンは急ぎ部下に指示を出し、この場から退避しようとした。

 

 しかし、予想以上の早さで天井が崩落しはじめ、殿を受け持ったフェンは自分の前を走る隊員を蹴り飛ばして崩落地点よりも向こう側へと追いやった直後、崩落に巻き込まれてしまったのだった。

  

 




遅れて申し訳ない。

とりあえずリアルが忙しいのですが、何とか改訂が書けたので一話分乗せます。

ホント遅筆でごめんなさい。

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