妄想戦記   作:QOL

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「戦場の一番のご馳走って温かい飯だと思う」

sideフェン

 

 行きと違い敵を掃除しておいたお陰で、帰りでは敵と遭遇する事もなく無事にセスル基地に帰還した。次の任務まで待機…実質休みなのだが…一度部隊を解散させた後、俺は一人部屋に戻って今回の任務の報告書を書き上げていた。俺たち兵隊は上から色んな任務を言い渡されるが、どんな任務についても必ずと言っていいほどやらされるのがこの事務作業である。

 

 何処で何をどうしたか?何があったのか?損害は?等々、隊長であるが故にやらなければならない事も多い。一応俺は肉体年齢的には一桁の子供なんだが、そんなのが書いた報告書とかって受理されるん?という疑問もあるにはあった。が、どうもこういう行為を含めて、子供が一部隊を指揮できるかを試験しているらしい。中身が大人なので、今迄ついつい普通にこなしてきたが考えてみると異常な事なのだ。

 

 そしてこれでこの先現れるかもしれない子供指揮官達の要求ハードルを押し上げているのだ。やっといてよかったと思う。

 

「……あ~う~」

『誤字脱字は修正しました。お疲れ様です』

 

 何とか書き上げた時には外はどっぷりと暗くなっていた。元々帰ってきた時間帯が夕方だった事もあり、この報告書作成の作業に時間を取られ夕飯を食い損ねたという訳だ。俺は凝り固まった身体を伸びをして解した。あー、ホント事務作業にPC使ってもよくて助かるわ。

 

 重要書類だと全部紙媒体で手書きっていう化石みたいな事を本当にやらされるんだよな。今回の任務がさほど重要じゃないのが救いだぜ。出なきゃ報告書を仕上げるのが数日掛かっちまう。

 

『さぁ提出してきましょう。提出までが任務です…とソフィア教官が仰ってました』

「……遠足っぽい。まァいいや。これ出したら夜食たべよ…」

 

 兎にも角にも非常に面倒くさいガッチガチの文章で固めた報告書を挙げた俺は、肩の凝りを解しながら何か軽く食べようと、ほいほいPXにやってきたのだ!

 

 さて、夜のPXは閑散としていた。それもその筈でPX自体の営業時間は早朝、昼、夕方という風に決まっており、それ以外の時間では営業はしていない。PXは食堂も兼ねているのだが、残念ながら食堂の開店時間もまたPXと同じであり、厨房の火は落とされていて誰も居ないので注文もクソもありゃしない。

 

 こうなると夜食なんぞ食べられないと思われるかもしれないが、PXには弁当やスープ用に電子レンジや電子ポットが置かれている。俺もそれらの利器を用いて、前世での受験生時代と同じくレトルト食品を頂く事にしよう。

 

「さて…」

 

 売店自体は閉まっているので、持ち込んだ物の中から夜食を作る。ヴィズの格納領域を開き、ど~れにしよ~かな~と適当に掴んだ物を取り出した。

 

「……ふむ」 

 

 出てきたのはUSN軍のレーションである。何故こんなもの持ち歩いているか?非常用というのもあるけど、意外と美味しいから買える時に買い溜めしてるんですわ。USN軍は大軍なだけあり、レーションの種類はなんと70種類にも及ぶ。一日3食、別々のメニューで食べても一ヶ月は悠々食べ続けられるので飽きが来ないようになっているのだ。

 

 もっとも当たり外れが多いのもあるが…今回のヤツは豆と穀類のブリート…不味くは無いヤツだな。当たりじゃないが俺は包み紙を取り、中からレトルトパックを取り出していく。元々レーションは野外で食す事が前提条件にあるので、中に水の化学反応で熱くなるヒーターが入っているが、電子レンジがあるので今回は使わない。

 

 ヒーターだけを格納領域に仕舞い、適当な器に盛り変えたら後は電子レンジにIN。これで食えるのだから楽なもんだ。

 

「……あ、のみもの」

 

 ドリンクを作るのを忘れていた。無くてもいけるが無いと味気ない。

 

「あ」

 

 格納領域からコップを出そうとしたところ、手が滑って床に転がってテーブルの下に入り込んでしまった。いそいそとテーブルの下に潜りコップを探す俺。そんな時、PXの戸が開き誰かが中に入ってくる。

 

「――お前等にも見せてやりたかったぜ。放り投げられて途方にくれてるチビ隊長の顔!」

「くく、それは、さぞかし…面白い光景だったんでしょうね」

 

 入ってきたのは、声から察するに我が隊の副長ジェニスと衛生兵のレンチャックだろう。まぁPXは24時間使える談話室を兼ねているから彼らが来てもおかしくは無い。しかし、どうも話している内容が俺の事っぽいな…少し隠れて聞いていてやるか。

 

「でも驚いた事にな?そのあとすぐさま順応してやがんの」

「ほう。あの隊長殿がですか!」

「俺も驚いたね。あのどんな時でも表情一つ崩さないアレが、キャンプの子供らと遊んでると、どこか朗らかに見えるんだよ。勿論顔には一切出てねぇけどな!」

「それはそれは…さぞかし微笑ましい雰囲気だったんでしょうねェ」

 

 これは…難民キャンプで俺が子供達の相手をした話だろう。でもそんな驚く事か?第一順応したんじゃなくて、あっちから遊びの輪に入れてくれたんだが…って第三者から見ればそう見えていたって事か?だとしたら、それは少し恥ずかしいな。

 

「んで見事お仲間に加えてもらえた我等が隊長殿は、俺達がサボり…キャンプ周囲の哨戒に就いている間、子供達とボール蹴ったり駆けっこしたりとやりたい放題」

「なるほどなるほど、歳相応ですね」

 

 レンチャックが実に愉快そうに呟くのが聞こえた。それにしても、ほう…ジェニスくん、キミはサボっていたのかい?それはいけないなァ。報告書の追加でも書いてあげようか?……いや、やっぱりいいわ、書くの大変だし。

 

 しっかし傍目から見れば俺も歳相応に遊んでいたように見えていたのか…。肉体に精神が引っ張られたかな?普段はどうにも感情が表に出ないくらいに齟齬が酷いのにたまにあるんだよな。

 

「挙句の果てには連中すら匙投げた壊れた品物を修理してたな」

「へぇ……え?なにそれこわい」

「いやね?これは俺も別のヤツから聞いたんだが、チビ隊長は最初子供の為にゲーム機を軽く修理しただけらしいんだよ。それを目敏く見ていた他の大人に囲まれて断らずにあれよあれよと修理しだしたって話よ。なんせ俺達の兵舎を魔改造できるからな。うちの隊長」

「あー…」

 

 スゲェ納得したって感じの声色である。正確には雰囲気的に断れなかったんだよなァ。なんか思い入れのありそうな物品を抱えた人が藁にも縋る気持ちで俺みたいな子供に直せないかいと尋ねてきたんだぜ?

 それを無碍にしたら人間としてダメでしょ?

 

「それでそのままずっと修理業者ゴッコの開催って訳さ。哀れ隊長殿は大人に捕まり、他の子供達はそんな隊長殿には目もくれず、立体ゲームに夢中だったらしい。恨めしそうにそっちを見ながら、それでも修理を途中で放り出せないもんだから、どうしたもんかと困った空気を纏ってたんだぜ?」

「ぷくく…あの、あの何時も、何時も何でもそつなくこなすあの子が…困り顔、くくくッ」

「ひひひ――」

 

 ……………。

 これは注意すべきなのか、不覚にも色々見られていた俺が悪いのかどちらだろう?

 

《――ピピピピッ!》

「ん?レンジが動いてたのか?」

「だれか先客がいたんでしょうかね?」

「……おまえら」

「「ゲェッ!隊長!?」いたの!?」

 

 テーブルの下から這い出てきた俺を見て驚愕する二人を横目に、電子レンジから夜食を取り出す。―――上官をなんだと思っている!キルハウスに連行だ!拒否は許゛さ゛ん゛!とか言う事も出来るが、流石にこの程度の事でそれは大人気ないだろう。

 

「(な、なんで隊長がここにいるんですか!?)」

「(俺が知るわけねぇだろ!)」

「……どいてくれる?」

「「(お、おこってらっしゃるー!?)」」

 

 なんか二人とも急に黙り込んでアイコンタクトで会話してら。それよりも夜食だ。俺は腹が減っているだけなんだ。

 

 取り出したレトルトパックのふちを切り、パック自体を入れ物にする。このブリートって料理はトルティーヤ…要するにタコスの皮の部分だな。そいつに豆やら肉やらの具材を炒めた物を包んだ料理だ。皮ごとパックに入っていたのでそのままでは固形化した油がキツイがこうして暖めると春巻きみたいな食感になる。

 

 早速口の中に放り込んでみた。少し油っぽい皮の中にピリリとスパイシーな味付けが嬉しい豆と穀類の具が入っている。租借すると豆特有の少し粉っぽい感じがするが、ちゃんと味付けがされているのでそれ自体でアクセントとなっていていい感じだ。大きさは10センチ四方しかないが意外と腹が膨れるのもいい。

 

 そんで、何故か居心地が悪そうにしている部下二人を尻目に一人黙々と夜食を食べてたら二人が頭下げてきた。食べるほうが忙しいので彼らの方を向かず、別にいいと答えたらなんかより慌てた風に謝ってきた。どうやら俺が拗ねたと勘違いしたようだ。

 

「すまん!隊長!」

「申し訳ありません!」

「………」

 

 大人二人が子供にマジで頭下げるとか軽くドン引きなんだが…まぁ人気が無いから別にいいか。むしろ面白い物だと思えば面白い光景ではある。ちょっといじわるな気分なのだ。ま、兎にも角にも、悪意が無くても本人が知らぬ場所で笑い話にして笑っちゃだめだよね。 

 この後、副官と部下を適当にからかった後、ちゃんと解ってるから心配しなくても怒ってない事を伝え、夜食も食べ終わったのでPXから出た。時刻は大体11を回ったところか…食べて直ぐ寝るのはある意味至福の時であるが、身体に良くないので最低でも20分は起きていないといけない。

 

(魔法訓練でもしてよ…)

 

 新しい魔法が使えるように準備しておこう。この先、何があるかわからないしな。静かな夜の中、俺は一人部屋へと戻ったのだった。

 

 

***

 

 

―――6日後。

 

 この間、特に大きな戦闘は起きなかった。精々が敵の偵察隊や補給線破壊の連中が潜り込んで来る程度であり、散発的な戦闘こそ起きるが、それ自体俺がこの基地に来る時に遭遇した大規模な補給線破壊戦と比べれば優しいものである。相変らず緊張状態は続いているが味方に死傷者が出ていないので気持ち的には幾分か気楽だ。

 

 そして俺はこの戦闘が少なかった一週間の内に幾つかの新兵装デバイスを自作し新しい魔法を修得した。仕事の間にこつこつと作っていた成果が出たから嬉しいもんだ。

 

 新しい兵装デバイス、それは治癒魔法補助の機構を持つリペアバックパック。そして飛ぶ事は出来ないが跳躍や滑空、そして地上での速力補助を目的として作ったジェットパックである。

 

 リペアパックはバリアアーマーを展開した俺の背中にあるジョイント部分に接続して起動する補助装置で、治癒魔法の効力を飛躍的に上昇させる機能を持たせてある。ぶっちゃけ見た目はフロントミッションシリーズに登場するヴァンツァーを謎回復させる謎のバックパックと瓜二つなのだが、俺の趣味だから問題は無い。

 

 そして後者も似たようなモノで簡単に言えば増設スラスターみたいなものだ。飛行魔法の応用で魔力自体を推力に変える魔導推進器を内臓し、魔力を噴出する事で装備者の機動力の補助を行える。非常に燃費が悪いが、俺は元々レアスキル保持者。しかもほっとくだけで魔力が充填されるような体質なので、これくらいの消費なら問題ないのだ。世の魔導師の方々からは怨みの篭った目線を貰いそうだが、レアスキルだから仕方が無い。

 

 んで、新しい魔法の方は訓練校のワイズ教官からパクった…もとい見ながら教わった迷彩魔法ミラージュハイドと、以前待機任務中に部隊の連中のアイディアと教えてくれた術式をいくつか取り入れた結果、なんでだか知らないが誘導されずに飛翔して爆発する謎のオリジナル魔法である。

 

 ミラージュハイドは結界魔法の一種であり、透明…というよりかは、光を結界表面に沿う形で屈折させる光学迷彩のような魔法だ。光の屈折という意味では京レのカクレミノのような熱光学迷彩に近いかもしれない。また結界とあるように魔法による探査にも引っかかりにくいという便利な魔法である。もっとも展開したままでの攻撃は熟練者じゃないと制御できないので俺は使えるようにはなったが要練習だ。 

 

 さて、オリジナルの方だが、その名も制圧魔法ガルヴァドスという。両肩に展開する魔力スフィアから広範囲に渡って炸裂する複数の高圧縮魔力弾頭をプレゼントする凶悪な魔法だ。

 

 弾速が目で追えるくらいに遅いので、雑魚相手の制圧攻撃ならともかく、タイマンでの対魔導師戦では使いどころが難しそうだが、取り回しはいいが制圧力で劣るアルアッソーやもとより狙撃特化のウィニーとは違う完全な制圧し様なので、ばら撒いて相手の動きを制限するのには役立つと思う。

 

 ただ少し問題があるとすれば…効果範囲や威力は申し分ないのだが、圧縮魔力弾という性質上、常時魔力供給して連射する事が出来ない。何故か四角く形成される魔力スフィアの中に何十発かストックしておけるが、全弾発射して撃ち切ると、再充填に少し時間が掛かってしまう。矢継ぎ早に推移する戦場では少し厄介だが強力なので使う事にしたのだった。

 

 後、どこかで術式が競合したのか発射すると重力による干渉を受けてしまうという謎の特性をこのミックス魔法はもっている。これの所為で狙った場所へと直線的に放つ事が難しいのだが、この前線は障害物となるビル瓦礫の中での戦闘が多いので、むしろ曲射が出来るのはありがたい。直射するのは今のところムリ。だがこれも使えると思い採用した。

 

 これらのお陰で更に戦術に幅が出来たのは先の見えない戦乱の中では喜ぶべき事だろう。しかし、ただでさえヴァンツァーをモデルにした外見がメカっぽいのに、これで更にメカっぽくなってしまった。IFFは手放せないな。未確認兵器扱いされて味方に攻撃されたくないしな。

 

 

 

 

 さて、いろいろあって部隊を率いる事になった俺だが、今日も今日とて上からの命令に従い、もはや恒例となった哨戒任務に借り出されていた。どこを哨戒するのかは全て情報部が決定しており、俺達はその指示に従って巡回して進み、監視網を潜り抜けた敵が潜入していないかを見て回る。

 

 前のキャンプ補給任務もそうだが、意外と激戦区で戦闘に借り出される事は少なかった。そりゃここいらで活動していれば、イヤでも敵兵との接近遭遇戦が起こるが、向こうも偵察部隊を小分けに出してきていて大規模戦闘に発展しないから、最近はどこか散発的な戦闘しか起こっていない。

 

 だが先任である我が隊の皆に俺の拙いコミュ力で尋ねてみたところ、実際兵隊の仕事はこういった地味~なお仕事が多いそうだ。俺のイメージでは魔導師とかなんてもっとこう融弾飛び交う地獄の中で敵兵とド付き合うイメージがあったんだが、それよりも多いのはこういう哨戒のような仕事が主だそうな。

 

 実際、この仕事は最前線で敵の矢面に立つような華々しさこそないが、基地などへ奇襲される可能性の芽を摘むという意味では重要な意味を持つ。この戦争において死ぬ気など毛頭ない俺にしてみれば、むしろこういった任務が多く続いてくれればいいと願う程である。戦えるのと戦いたいのとは違うのだ。俺はどちらかといえば前者である。

 だれが好き好んで曳光弾で空が狭いような場所に行くかってんだ。

 

 

 それはともかく、移動用に高機動車…前世でいうところのハンヴィーに似た車一台と装甲兵員輸送車を借り受けて、指定された担当地区の地雷撤去済みで行ける所まで乗り物に揺られ、後は縦隊を組んで徒歩で哨戒ルート巡りを敢行することになった。

 

 以前、幹線道路には地雷があると言ったが流石に基地周辺などの完全に占領した区域は既に重機の手が及んでおり、車で移動する事が可能ではある。だが残念ながら占領区域と作戦区域の境界線にあたるルートにはIED――ボールや空き缶に似せた即席爆弾がいたるところに放置されていて重機が侵入できず、未だ手付かずの状態である。

 

 瓦礫で道がふさがれているので車輌では通過できない箇所が多々あるので、結局ワシら陸軍は徒歩で行軍となる訳だ。まァ、歩くのは歩兵の基礎だからいいけどね。

 

『こちらラルフ分隊。目標ポイントに到達するも敵影なし』

『トマス分隊も同じく敵影を見つけられず』

『ハーヴィーだ。こっちもだ。なーんもないぞ。周囲警戒しながら合流ポイントに行くぜ』

 

 哨戒を開始して暫くして。

 最後のハーヴィー・デュラント軍曹の言葉遣いに若干苦笑しつつも、三つに分けた各分隊長からの報告が念話に上がってくるのを行軍しながら聞いた。うちの小隊は約30名の人員で成り立っており、合流ポイントを設定した上で小隊を三分隊に分散して哨戒を行わせている。そうした方が小隊全員で進むよりも広範囲をカバーできて効率が高いからである。

 

 しかし、この分隊長たちからの報告も、正直なところ耳にタコが出来そうなくらいに聞いた台詞ばかりだ。運がいいのか悪いのか、最近の俺達は哨戒任務において敵との戦闘はおろか遭遇すらしていない。戦場での運は最高の贈り物だというが、こうも敵に遭遇しないと逆に敵が何か大規模な何かと企んでいるのでは?と不安になってくる訳で。

 

「ジェニス…異常は?」

「センサーはウンともスンともいいませんね。今日も目に映るは瓦礫と化した灰色のコンクリートだけですな。ま、そういう日もありますよ。程ほどに仕事しやしょうや」

「……(なにも起きなきゃいいんだけどね)」

 

 もう腕が鈍るとかいいません。言霊とかになったら怖過ぎる。死にたくないので平和なのは歓迎っちゃ歓迎なんだが、戦争が終ってないからこの平和な空気は嵐の前の静けさのような気がしてならない今日この頃。

 

 魔導師だけど人間だから、いつまでも常在戦場な心では要られないだろうから、敵はきっとこの何もない日々にだらけ切ったところを狙うつもりなんだきっと!なんて恐ろしい!

 

「はぁ、しっかしこんな天気だと、パラダイスバーガーでレモネハフマンでもあおりたい気分ですよ」

「解る。アイランドコーラで、スカッとしたい…」

 

 暑いもんなぁ。魔力節約の為にBJはまだ展開してないから、瓦礫にさえぎられて風が流れない廃墟はより暑く感じる。俺は魔力自体の消費はそれほど問題じゃないんだが、敵も居ないのにBAを展開しっぱなしなのは要らぬ緊張を部下に与えてしまう事に最近気がついたので、あえて展開していない。

 

 ああでもパラダイスバーガーか…USNが誇る全州チェーン店パラダイスバーガーショップの品揃えはUSN一ぃぃ!とか言ってたCMが懐かしいぜ。

 

「お、隊長もわかる口ですな…ってまぁその年なら当然か」

「……残念ながら、俺がパラダイスバーガーを初めて口にしたのは、数ヶ月前が最初」

「うそっ!?」

 

 いや、マジです。訓練校で仲良くなったエド兄やんと愉快な仲間達が買って来たやつのご相伴に預かりました。味は…いかにも本場って感じだったと言っておこう。

 

「生まれてから、ずっと魔法訓練漬けだから」

「……なんかすまん」

「なんで?あやまる?」

「いや、とにかくすまん(普通じゃねぇと思ってたが、まさかそこまで…クッ、お前さんの事は最後まで支えてやるよ)」

 

 事実を話したらジェニスが突然頭を下げた。しかもなんか決意した表情浮かべるもんだから訳がわからないよ。そんな、俺は別にネグレクトされてた子じゃないんだから……自分で選んだ道だしな。

 

「あ、チビ隊長と副長なにはなしてんの?」

「パラダイスバーガーの話」

「おうオリーブ伍長いいところに来た。お前さんもパラダイスバーガー食べた事あるだろ?」

「いえ、あたしはあんまり…あ、でも軍曹がそういうの好きみたいでしたよ」

「「……イメージどおり過ぎる」」

 

 筋肉ムキムキマッチョマンで脳筋のデュラント軍曹。期待を裏切らない男。

 

「ちなみに、ジェニスと伍長は、なにがお勧め?」

「そりゃ、色々とメニューがありますが、オーソドックスなパラダイスバーガーセットが一番無難かと」

「副長意外と堅実」

「うっせ。そういう伍長は?クロワッサンか?」

「熱帯雨林特集のミミズバーガーですね」

「…………わんもあ」

「ミミズバーガーですけど…なにか問題でも?」

 

 熱帯雨林特集、それはハフマン島の南に位置する港町にあるパラダイスバーガー店でしか販売されていないある種究極の店舗限定メニュー。マングローブ貝のスープや蛇とカエルの丸焼き、そして熱帯雨林の代名詞たる人の腕ほどもある巨大ミミズの肉をすり潰して挟んだミミズパラダイスバーガー…見た目は普通のハンバーガーらしい。

 

 成程、伍長さんはゲテモノ大丈夫なのか。

 

「うぇぇ…ミミズなんて誰が…」

「意外といけるよね」

「へぇい!?」

「っ!隊長!わかってくれるの!?」

「あの淡白な味わいは癖になる、うん」

「あ、ありのままに起こった事を話すぜ?個性豊かな面子の中で一人だけ鉄面皮というクール属性だと思いきや、実はゲテモノOKなスゲェ個性を持ってやがった。しかも二人。頭のねじが吹っ飛んでるとかちゃちなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいモノの片鱗を…」

「待てジェニス、それ以上いけない」

 

 尚、俺は熱帯雨林セットは食べた事ありません。全部自分でキャプチャーして食いました。主に母上に課せられたサバイバル訓練で……見た目はともかく美味しいのよ?同じくゲテモノOKだったオリーブ伍長と俺がゲテモノ飯の良さを語らう中で副長以下その他の面々は非常に微妙な表情を浮かべていた。

 

 ふん、これだからアングロサクソン系は困るね。美味しいものは見た目はともかく美味しいのだ。これ世界の理の一つだよ。間違いない。

 

「マウスナゲットって食べた事は?」

「丸焼きなら」

「おかしいよ。隊長も伍長も絶対おかしい…」

「大丈夫、一度食えば解る」

「その通りです!」

「お、俺まで仲間に加えようとするな!」

「「えー」」

「あーもうやだコイツら…。隊長、そろそろおしゃべり辞めて仕事しましょう、伍長も列に戻ろうな、な?」

「「わかった」りました」

 

 そんなアホな会話をしながら、さりとて哨戒にも手を抜かず行軍する俺達。マルチタスクというのは非常に便利なものである。

 

 

***

 

 

 そして俺達が無駄口を閉じてから1時間後―――

 

「隊長。合流ポイントの病院に到着しました。斥候からの報告では周辺に敵は確認されていません」

「…他の分隊と合流次第、1時間休息を取る、各員は見張りを立て、交代交代で食事を取れ」

「解りました。見張りを立たせ、食事を取らせます―――おーいお前等!飯だ飯!」

「「「いぇああああ!!」」」

 

 副官のジェニスが他の人たちに伝えていく。飯にすると聞いた途端、これまで疲れていた彼等の表情に活力が戻るあたりなんというか…。ともかく飯だ飯。

 

「小さな隊長さんよ。こっちきて食おう」

「うん。ヴィズ…出して」

『イエス・マスター』

 

 周りが食事を作り始める中、ジェニス少尉やデュラント軍曹がいるグループに声を掛けられた俺は、素直に頷き彼らの近くに座る。見れば彼等はバックパックからレーションを取り出したり魔法で取り出したりと収納方法がバラバラだ。

 

 これは我が部隊の魔導師資質からくるレベルの差というべき現象である。魔法の格差社会という奴だが、どうもこの部隊の連中はそういうのは気にしない性質のようだ。お陰で俺も受け入れられている様だし結果オーライである。

 

 それはともかくとして、俺もまた自分のデバイスであるヴィズの格納領域から、しまってあるレーション一式を取り出した。デバイスってマジ便利。これ一つあれば重たいバックパックつけなくてもいい。

 

 周りを見回すと、調理時間が短い奴はもう食い始めている。というか気が早い奴はヒーターすら使っていない。それでも食えるのがレーションクオリティ。そのままかっ込んでも何とかなるのだ。俺はそんな事はせずにちゃんと手順どおりにレーションを作る事にしよう。温かい飯は旨い、これ鉄則。

 

 んで、適当に温めたところでパックの中身をスプーンで掬ってみた。

 

「これって、何のお肉、だろう」

「さぁ?形成肉だって聞いてますよ?」

「……元は?」

「食えりゃ同じですよ……多分きっと」

「そいれんと?」

「まて隊長。なんだか解らないがそれ以上いけない」

 

 マジでソレだったら正直笑えないんだが…こちらも腹が減っているので気にせず口に運ぶ。肉の塊をルーと一緒に掬い上げ口の中に収めると、肉料理特有の仄かな獣臭が感じられる。だがソレもトロリと野菜が溶け込み旨味が濃縮しているルーの中ではアクセントに過ぎない。肉を租借するとレトルト特有のハラハラとした肉が解ける感触が心地よい。それでいて肉の味は失われていないのだから、中々のものである。

 

 シチュー味で一杯の口の中、そこに投入するのがパン代わりのクラッカーだ。前世であったリ○ツクラッカーを二周りほどデカくし、倍に分厚くしたようなソレに齧り付く。見た目とは裏腹にサクではなく、若干しっとりとした食感の後、シチューの風味に溶け込んでくるのはチーズの香りだ。肉とチーズの実に濃い二重奏が繰り広げられるなか、クラッカーのいかにも主食といえる小麦粉系の味が中和し、口の中を調和へと導いていく。

 

 うん、いいじゃないか。

 

 そしてソレらを作っておいた粉末ジュースを溶かした飲み物で流し込む。さわやかな柑橘系の香りと若干水をケチった事で濃くなってしまった甘みが口の中を駆け巡った。しかし濃厚なチーズとシチューの味の前には、むしろこれくらい濃いほうが良い。ングっと吞み込むと、胃袋まで落ちていく感覚がして、飯を食したという何ともいえぬ幸福感がして良い感じである。

 

 当然手は休めずにそのまま第二第三と口へ運んだ。気分はハムスター的な小動物、身体の性質上大きく口が開かんので、ハムハムととにかく口を一生懸命に動かして食すのだ。というかそうしないと他の人たちが食べ終わるのに間に合わないんだよね。それにしてもシチューのレーションはあたりだったなぁ。 

 

 

 軍隊なのだしレーションは大味と思われがちだが、その実付属する菓子類は市販品のものとなんら変わりない。唯一気をつけたいのはおかずだ。これだけは契約会社があるのか軍独自の物らしく、基本的にはずれは少ないのだが、時折とんでもない味のがあったりするギャンブル飯である。

 ちなみに俺がこれまで食った中で一番のはずれは水溶き麦粥でした。

 アレは人の食い物じゃない。家畜のえさだ。マジで。

 

「ぐぉぉぉ、なんだこれは…信じられない…」

「どうした?」

「バーガーって書いてあるから信じてたのに!信じてたのにっ!」

「あん?……ライスバーガーって……邪道通り越してなんだこりゃ?」

 

 ハムハムしてると、なにやら一部ではバーガー談義が行われていた。レーションの種類によってはハンバーガーとかサンドイッチがあるらしいが、さすがの俺もライスバーガーがあるのは知らなかったので思わず聞き耳と立てる。

 

「うう、でも不味くない。不味くないんだ。だから余計に変な気分」

「いや旨いなら問題なくないか?」 

「そういう問題じゃねぇんだよっ!いいか?バーガーはバンズと!パティと!ピクルスと!ケチャップ&マスタードに刻み玉ねぎが王道なんだよ!!だがコイツはッ!ライスを固めて焼いた奴に何かのソースで炒めた玉ねぎと肉を挟んだだけなんだぞ!クソ旨い」

「……やっぱり旨けりゃ問題なくないか?」

 

 ごもっとも。胃に入れば同じだが、美味ければ尚良し。元気が湧くからな。

 俺も早く食べなければ、はむはむはミッ!?――舌噛んだ、イタイ。

 

《――カタ》

「――う、ん?」

 

 間違って噛んでしまった舌べらを頬の外から手で撫でながら、部下の他愛ない談話に聞き耳を立てていると、なにやら背後から音が聞こえた。

 

「……(ヴィズ、俺の背後にスキャン実行)」

『(イエス・マスター)』

 

 ちらりと背後を見るがそこは壁だ。しかし用心に越した事は無いので密かにヴィズに調べさせる。若干待機状態のヴィズが淡く光るが、幸いこちらに眼を向けている輩はいないので問題ない。

 

『(生命反応を検知。されど敵性レベル低)』

「……(うん?敵じゃない?動物?)」

『(金属反応や魔力反応がありません。可能性は20%、さらにスキャンを実行―――換気口の中です)』

「……うしろ、ね」

 

 すくっと立ち上がる俺。急に立ち上がった事で周囲が喋るのをやめる。これでも隊長だから、俺の気に障ったとでも思ったのだろうか?まぁ約一名は普段どおりだが。

 

「隊長?どうしたんですかい?」

「なんかいる」

「へ?しかしこの部屋は索敵済みですよ?」

 

 副官の言葉を聞きながらも俺は壁の前に立つ。

 ふむ。足元に換気用のダクトがあるな。正し小さいが…。

 

「ちょっ!隊長!?」

 

 しゃがみ込みダクトの蓋を開けて奥を覗いてみる。薄暗くて見づらいが、成程…確かに何かいる。魔力弾形成の応用で小さな魔力塊を作り、その光源で照らしてみたところ。

 

「なんでだ…」

 

 ダクトの中に居たそれを見た俺は、思わず何で?と呟いていた。

 

「隊長?いきなりダクトに頭突っ込んでどうしたんです?」

「……足を引っ張って」

「へ?」

「はやく、命令」

「りょ、了解」

 

 足首を持たれる感覚。ズリズリとダクトから引き摺りだされた。そして俺と共にあるものが一緒にダクトから外に出される。そして出てきたものを見たジェニスたちから同様の声が上がった。

 

「な!?子供!?」

「ここはOCUとの境界線…一番の危険域ですよ!?なんでこんなところに子供が―――」

「そんな事よりも、メディック…レンチャック、この子衰弱してる。診てあげて」

「……イエッサー、ボス」

 

 明らかに衰弱してぐったりとしている子供をレンチャックに任せ、俺は立ち上がると身体についた埃をパンパンとはたく。それと同時に、見つけた子供の方へを視線を向けた。

 

「エドガー君、なんでここに?」

 

 ダクトの奥でぐったりとしていた難民キャンプに要る筈の一人の少年に、俺は思わずそう漏らしたのだった。

 

 


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