妄想戦記   作:QOL

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「平和な日くらいあってもいいと思う」

sideフェン

 

 

 U.S.N.陸軍セスル駐屯基地所属の第23駐屯部隊レッドクリフ。字面だけ見ると意外と長い名称である。なので厳格な場所以外、基本的に部隊単位で呼ぶときは略称であるレッドクリフと呼ばれることが多い。

 そんな訳で今日もレッドクリフ隊は任務である。ついこの間も待機とはいえ任務があったのだが、魔導師部隊は治癒魔法が使える分、一般兵よりも働かされるのは普通の事なのだ。

 

 そしてローテーションで決められている今日の任務はというと―――

 

《―――ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん》

「いやはや、すごい攻勢ですね」

「そう、ね」

《―――どがーぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん》

「至近弾。いまのは危なかった」

「そう、ね」

《―――ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん》

「ところで隊長」

「なに?ジェニス」

《―――ちゅどぉぉぉぉぉぉおおおおおんっ》

「魔力持ちます?」

「……集中力さえ持てば、だから黙ってて」

 

―――難民キャンプへの物資護送だった。

 

「イエッサー、口をハマグリの如く硬く閉ざしますとも」

「……(焼けば開く、よな?硬いのそれ?)」

 

 そして、ものの見事に敵に攻撃されている真っ最中であります。

 以前、軍が難民キャンプにすずめの涙であるが支援をしているという話を聞いた事がある。俺がいるこのセスル基地近郊にも幾つか難民キャンプがあるらしく、そこへトラック数台分ではあるが少ない物資を回している。

 

 んで今回、俺達の部隊はそういうところに物資を届けて回る補給隊の装甲トラックの一台を護衛任務の命令を受けた。行き先は難民キャンプである。市内にあるし、キャンプ付近の地雷原は撤去済みな事もあり、激しい戦闘は起こら無いだろう…ちょっとは襲撃が来ないと勘が鈍るなァ…とか思っていた数時間前の自分を殴りたい。

 

 何せ物資を載せた装甲トラックを引き連れて、基地を出発して直ぐに、戦争で廃墟になって国境付近のセンサー網が甘くなったのをいいことに、国境線を越えて潜り込んで来ている敵部隊と遭遇したからだ。

 

 以前のホバーコンボイと違い、只の大型トラック一台だというのに敵さんお構いなしで対戦車擲弾発射機…要するにランボーとかで見るようなRPG-7とかパンツァーファウストとかのようなアレをバカスカ撃ち込んで来たのである。

 

 事前にヴィズが敵の事を察知していたので、防御魔法を予め展開できたから防げたものの、飛んでくる成形炸薬弾頭の炸薬量が多いのかプロテクションの強度がやばい勢いで低下していくから驚いた驚いた。魔力を入れ込んで補強しなかったらミンチよりひどい目にあってたかもしれないな。

 

 んで、とにかくトラックの屋根の上に陣取って、敵からの攻撃を展開した防御魔法である多重展開型ワイドエリア・バブルプロテクションで何とか受けきった。

 つーか化学エネルギー弾であるHEAT弾頭のメタルジェットの圧力を防御魔法壁越しで肌で感じながら至近距離で見られるなんて体験、普通は出来ないよな。すげぇぞ?着弾点を中心に圧力の波紋が広がる光景……今回俺は防御側に回ってたからもう腹いっぱいだから暫く見たくないけどな。

 

 敵地に潜り込む事に関しては、こっちも似たような事をやっているらしいから、敵のやる事にどうとは言えないが、だからと言って難民キャンプ用の物資輸送隊まで狙う事は無いだろうに。もっとも敵さんにしてみれば、運ばれている物資が難民用なのか軍基地用なのか見分けが着く訳も無いのだし、ある意味仕方ないのかもしれない。

 まァ、だからと行って殺しに来る連中に容赦などはしないのだが…。

 

『こちらラルフ分隊。敵部隊は撤退。こちらに損害なし』

「レッドクリフリーダー了解。こっちも損害は無い。隊列に戻って」

『了解、通信終わり』

「車長ォ、もう大丈夫だからトラック出してくれ」

「了ォー解。ゆれますぜー」

 

 迎撃に出した分隊が敵が撤退したと報告してきたので、隣に控えるジェニスがトラックに前進するよう指示を出す。すると、穴ぼこだらけになった元コンクリートで現在土丸出しの道路の上を大型トラックがゆっくりと動き出した。揺れるとは言ったが本当にガクンガクン揺れやがる。

 しかし妙だな。出会う敵出会う敵が皆軽く当たると直ぐに引いていく。こっちも任務があるから逃げる敵を追うことはしないが、散発的な戦闘が多過ぎる気がする。何か大きな事の前触れではないか?この時の俺はそんな事を考えていた。

 

 

……………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

「缶詰と日用品の配給でーす!並んでくださーい!」

「全員分はきちんとあるのでちゃんと並んでってそこ!喧嘩しないでください!」

「一人5つまでですよ!5つ…そこ!だから喧嘩するなってば!」

「水は一人ポリタンク二つまででお願いします!」

 

 ほどなくして、我々レッドクリフ隊は難民キャンプへと到着した。襲撃はあったものの物資は無事。到着するや否や補給隊とボランティアが一緒になって難民たちに物資を平等に行き渡るように配給していく。だが焼け出された住民が狭いキャンプに集中しているからか、一度に数百名近く並んでおり混雑や喧嘩が見られた。

 その様子を見て、俺はレッドクリフ隊の半分をこの配給の手伝いに回す事にした。ボランティア十数名と補給隊数名では到底手が足りてないので、この申し出は向こうには喜ばれた。

 手伝いに借り出されたほうの部下達はちょっと不満気ではあったが、まぁ人の役に立つのも軍人の役目だという事で諦めて貰おう。別に任務は護衛しろって内容だったし、手伝ってはいけないなんて命令受けてないもんねー。

 

 残り半分はもちろんキャンプ周辺の見回りである。人手は足りなさそうだが、任務が護衛である以上全員を手伝いに動員する訳にも行かなかったからだ。道中で敵と遭遇したのもある。ま、見回りに回したのは最後まで手伝いを嫌がっていた連中だ。精々嫌がった分、敵が来ないか見回って貰う事にしよう。

 

「さて、俺も…」

 

 見回りに参加しようか。部下に手伝いを命じておきながら自分は楽な方に行く、これ上官の特権だよね。そんな事を思っていたら、ポンと肩に手を置かれた。

 

「隊長。隊長には未だかつてない程重要な仕事がございます」

「え?」

 

 なんかバカ丁寧な言葉遣いをする我が副官《ジェニス》が俺の顔をグイッと無理やり動かす。顔を向けた先には大人たちが食料を受け取る間、暇そうにしている子供の群れが…まさか。

 

「隊長さんは、あちらで暇そうにしている彼らの相手をお願いします」

「ま、まて。俺も見回りを…」

「あーあ。流石ですナァ。ご自分の年齢が彼らに近いから隊長自ら子供らの相手をしてくださるなんて。俺達にはまねが出来ない事ですナァ。いよ!流石はチビ隊長!」

「ジェニス、おま」

「要するに俺達ァガキの世話は出来ねぇんですよ。んじゃそういう事だから――そぉれ!」

「…!?」

 

 なんと、信用できる筈の我が副官が、俺の首根っこを掴むと子供らの方に向けて放り投げてくれたではありませんか。なにやら副官が楽しんでこいよーとかほざいていたが後でしばく。

 とにかく、いきなり放り投げられたがさすがは俺、投げられたり落っことされたり、撃墜されたりする事には慣れていたので、見事に一回転して着地する。

 

「「「「「……………………」」」」」

「……………」

 

 遊んでいた子供らの、ど真ん中に。ど、どうしよう?

 

 

***

 

 

―――そして、二時間後。

 

「パスだフェン!パス!」

「まかせろー」

 

 なんか知らんが馴染んでいた。あはは、童心に返るってたのしー!サッカーなんて何年ぶりだろう!正確にはサッカーに似た何か別のスポーツだが、ルールもボールを使うって言う点でも似てるからもうサッカーでいいや。

 

「にゃははは!こっちだこっちー!」

「まってー兄ちゃん!ほらフェンも追っかけよう!」

「あいよ、行こう」

 

 子供らの一人に手を繋がれる。彼らの手は泥だらけで決して清潔な手とは呼べなかったが、不思議と不快感を感じなかった。戦争中であるのに、家を焼け出された子も居るだろうに…彼らはそれで笑顔になる小さな幸せを見つける達人のようだった…みたいに考えたら一端の詩人っぽいのかもな。

 

 実際、放り込まれた当初は警戒されていたと思う。そりゃまぁ、見た目ゴツくて銃や杖を持っている怖いお兄さんお姉さんと一緒に来た子供を警戒くらいはするだろう。こっちはこっちでいきなり子供の相手しろと信用していた副官のアホに放り投げられた事で混乱していた。

 

 なんせ俺はこの世界に生まれてこのかた友人と呼べる存在はいなかった。一時期は幼稚園的な場所に通った事もあったが、サバイバル訓練を明けてから無表情で謎の威圧オーラが出始めた上、魔法訓練を始めてからそこに行く事は無かったからである。

 

 第一サバイバル訓練明けで少々気が立ち無表情でプレッシャーを放出するという不気味な子供であった俺に近づける幼児などいなかった。いたところで友達と呼べるかはまた甚だ別問題だったが、少なくてもこの身体の年齢に似合った友達はいなかったのは確かである。

 

 勿論周囲への威圧感なんぞ毎日続けてたら疲れる事この上ないので、訓練に慣れた頃から周りを威圧する事とか一切しなくなっていたが、逆に感情まで出にくい謎の減少に現在進行形で見舞われている俺に隙は無かった。そんな無表情少年な俺と難民キャンプの子供達が突然見合っても、話すら出来ないわけで…両者見合ったまま千日手となり掛けた。

 

 だがそれも、子供らのリーダー格の少年の一人によって、いとも簡単に崩されたが。

 

 なんて事は無い。彼らの中で一番遊びの中で先導していた少年がいた。そいつが真っ先に俺を遊びに誘ったのである。あまりに唐突に“かけっこ”しようぜとまぶしい笑顔で言われて固まったのもいい思い出…というには早過ぎるが、とにかく吃驚する事態であったのはいうまでも無い。

 

 そんなこんなで驚き桃の木山椒の木とか光陰矢のごとしとかなんてチャチなもんじゃ断じてねぇ、超スピード友達認定を味わったぜ。

 

「俺の妹となんばしよっとかぁぁぁ!!」

「………あて」

 

 さて、視点を今に戻して、一人の女の子に手を引かれていた俺は、何故か後頭部にドロップキックを食らっていた。派手に吹き飛んで転ぶ俺。ダメージは無いし、蹴られる直前に気配で察知していたのに何故か逃げれなかった。これがお約束のパワーか。

 

「兄ちゃん!フェンはまだ小さいんだよ!」

「知るか!こんのガキャは身内に手を出しやがって!ヤローぶっころしてやるー!」

 

 そして蹴りを入れた張本人の少年は、俺の手を握っていた女の子を背にやると俺にビシッと指を突きつけてきた。まったく、やる事が超スピード過ぎて何を考えてこんな事をしてきたのかわからないが、何を隠そう、この眼の前でシスコンを発揮している少年こそ、俺を直ぐに仲間に入れてくれたリーダー格の少年。その名も―――

 

「エドガー…痛い、です…」

 

 エドガー・キャデラック。くしくも以前に基地の近くまで来て、使える物資を物色していったあの少年であった。エドガー君の事はフェンス越しに見かけただけであり、別に知り合いでも何でもなかったが、何となく印象に残っていたから俺も覚えていたのだ。

 それにしても、いやはやバイタリティが凄いとは思ったが、キャンプでは持ち前のそれで子供らのリーダーやってるんだから恐れ入る。暗い雰囲気が嫌いだからか、空元気でもいいからと笑顔で子供達を先導して遊びまわったり、廃墟に出て使える物を探して回ったりしているんだそうな。

 尚、あの時一緒にいた少女はエドガー君の妹であり、名をネリィ・キャデラックというらしい。兄妹そろって廃墟まで行って使える物を探すなんて、危ないのに生きる為にがんばる姿には頭が下がります。

 

「ふーんっ!その割には全然怪我してないじゃないか!」

「鍛え方が違う?…軟弱者、め」

「オシ、表でろ貴様。この僕がいんどおうを渡してやる!」

「兄ちゃん、それいうなら引導だよ。ていうか二人ともワザとでしょ?」

「「……でへへー」」

 

 ま、仲良くしてもらってるからな。子供の相手くらいしてやるさ。童心を思い出したが俺の中身は完全におっさん。精々親戚の子と遊ぶ程度の気持ちでやってやるさ。そう自己弁護しておこう。

 べ、別に楽しかったからとかそういう理由じゃないんだからね……一体誰に向かって言っているんだろうな、俺。はは。

 

「まったく。どうして兄ちゃんは会った子会った子と直ぐ仲良くなれちゃうのかな?」

「それは僕が紛れも泣く友達を作る天才だからさ!」

「……何も考えていないとも、言う」

「あはは!そのとおりかも!」

「にゃにおー!フェンの癖に生意気だぞこのヤロー!あとネリィそこになおれ!」

「きゃー!やだー!あははは」

 

 ネリィ嬢はそういうと向こうへと駆けて行ってしまった。ふふ、子犬や子猫の様にじゃれあう。成程、これが同世代の輝きなんだな。無表情だけど演技してる俺にはまぶし過ぎらァ。

 そんな事を考えながら、彼らと遊んでいると少し離れたところでポツンと座っている少年を見つけた。あれ?ボッチ君が他にも居るのか?

 

「エドガー、あの子…」

「ん?ああラクトのことか?アイツはみんなと遊ぶよりもゲーム機で遊ぶほうがすきなんだとさ。何処で見つけたのか、瓦礫から充電器まで持ち込んでるんだぜ。たまに皆でゲームしてるよ」

 

 そういうと先に行ってしまった妹のネリィを追いかけていってしまった。俺はポツンとこの場に残される。ふむ、携帯ゲーム機片手に一人黙々と遊んでいるのか。エドガー君が気にかけてるあたり、別に仲間はずれって訳じゃないらしい。なら別にいいかと踵を返そうとした、その時。

 

「…っ!!」

「あ、ゲーム機たたきつけた」

 

 一人ゲームをしていたラクトという少年が突然ゲーム機を揺さぶったかと思うと、何故かゲーム機を大地に投げつけていた。かと思えば途端青ざめてどうしようどうしようといった風に右往左往している。

 なんなんだ?クリアできない事に腹を立てて思わずキーボードクラッシャー化しちゃったのか?ええ若いモンが怒りっぽいのはいかんぜ。でもちょいと気になるな。話だけでも聞いてみてやるか。困っているのなら手を差し伸べるのは人として当然だしな。

 

「ねぇ、どうした、の?」

「ん?だれだよキミは?見ない顔だ」

「なんか、モノを投げてたから」

「別に…騙し騙し使っていたゲーム機が遂におじゃんになっちゃったんだ。こんな場所じゃ修理してくれるお店も廃墟だし、もう散々なんだ。これでいいかい?イライラしてるから話しかけないで」

「……成程。ちょいと借りる、よ」

「え?なにを…」

 

 ラクト君が返事する前に、彼が落としたゲーム機の残骸を拾い上げる。フムン、見た目はP○P見たいなゲーム機だな。小型データチップ式だからどちらかと言えばDSか?まぁどっちでもいいな。どれ…。

 

「(…ヴィズ、ちょっと解析。それとツール)」

『(イエス。マスター)』

 

 少年等からは見えないように魔法陣を隠蔽してっと…。

 うん、思ったとおりディスプレイに問題は無いな。一部接触不良があるみたいだけど、これは多分経年劣化によるものだろう。それにハードが頑丈な作りだからか、たたきつけてたのにダメージはフレームが歪んだ程度だ。これなら…。

 

「ねぇ、何してるの?」

「………」

「ねぇ…ねぇったら!俺より小さいのに生意気な―――」

「はい、直した」

「――――は?」

 

 面白いくらいにぽかんと口を開いている少年。ふ、この程度デバイスという精密魔導電子機器に比べればどうってこたぁない。

 

「たたきつけたから…ちょっと液晶に傷ついてる…でも、まだ使える」

「嘘つくな!そんな簡単に直るなんて――嘘、直ってる?」

 

 ラクト少年は驚きで目を見開き、途端ゲーム機を抱きしめて直った事を喜び始めた。相当思い入れがあったんだろう。ふっ、我ながらいい仕事したぜ。

 

「んじゃ」

 

 フェン・ラーダーはクールに去るぜ。

 

「ちょいまち!」

「グエ」

「凄いや!ゲーム機を直せるなんて!ねぇ!もしかして他にも直せる!?」

「うぐぐ」

「ねぇ!こっちきてくれない?見せたいものがあるんだ!」

「……OK,解っ…た。だから――」

「え?なに?」

「……手を離して?首根っこ持たれると、息が…グエ」

 

 どうでもいいんだが、10歳くらいの癖に随分と力強いんですね。お陰で襟元つかまれた時に足元が宙ぶらりんになって、首が絞まってる訳だが。一般市民にマーシャルアーツ食らわせる訳にもいかないし…に、憎い。規則に縛られた我が身が憎い!きゅぅ…。 

 

***

 

 さて、その後ラクト少年に連れられ(拉致られたともいう)やってきましたはキャンプの一角にあるゴミ捨て場。正確には廃墟から持ってきたはいいが、壊れてる所為で使えない物置き場に来ていた。

 

「これなんだけど」

「……これは」

 

 ラクト少年が見せてくれたのは、一抱えはありそうな大きな箱だった。正確には正四角形のサイコロみたいな外見をしたPC本体みたいな物体。だがPCと違い箱には横に三つ並んだレンズのような物が付いていて、その所為で横幅があるみたいだ。

 

「古い型だけど…ホロティック?」

「うん。電源もコードもあるんだけど、動いてくれないんだ」

 

 それはホロティックと呼ばれる空間投影型の投影装置だった。所謂SFで言うところのホログラム、空中に浮かんで半透明のディスプレイ投影するアレである。結構色んなところでその技術は使われていて、デバイスにも組み込まれていたりもする。俺のヘルメットの中のHUDも実はこれを使ってたり…閑話休題。

 さて、眼の前にあるのは大分古い型だが紛れも無くホロティックだ。何故なら胴体真横にデカデカとホロティックのロゴが描かれているからだ。誰だって見れば一目でわかる。そしてラクト少年は俺に期待と心配のまなざしを送っている。成程、ゲーム機が直せるならと考えたのか。子供だのう。

 まぁいい。元からのその積もりで来たんだから今更断りなんぞせんよ。俺は使い慣れた本来はデバイス用のツールたちを取り出し、ホロティック修理に取り掛かった。ついでにその他もな。さぁ壊れた機材どもよ?廃材の準備は万端か?

 

………………………………

………………………

………………

 

―――1時間後。

 

「……はい、修理終わった」

「おお!ありがとう坊主!形見だから壊れてどうしようかと…ありがとう!」

 

 何故か、俺は大人に囲まれて色んな壊れた物の修理を請け負っていた。どうしてこうなった?俺はただラクト少年に頼まれてホロティックを修理してやっただけなのに…それを大人に見られてあれよあれよという間に俺はタダで修理をやる嵌めに…これほど任務中で賄賂の類を受け取れない軍人の規則を怨んだ事は無い。せめてお菓子とか少しくらい貰ってもいいじゃんか…うう。

 というか俺は隊長なんだぞ?隊長なのになんでこんなに……ってここにいる連中の殆どがキャンプの奥から来た人たちだから、俺が隊長やってる場面を見ていないから知らないのか!……まぁ逆に知っていても妙な目で見られるだろうし、変に構えられるよりも気が楽だ。そう考えておこう。

 

 ちなみに俺が苦労している最中、件のラクト少年共は旧式だけどその分鮮明というブラウン管みたいなホロティックで空間投影ゲームに勤しんでやがる。大人数対応ゲームのド派手なエフェクトにキャーキャー言って楽しんでおり、皆戦争の中とはいえ一時の笑顔になれたのだからいいのかもしれないけど…その分の負担、プライスレス。

 途中様子を見に来た副官(全ての元凶)が俺の苦労している姿を見て大爆笑していたが、ちょーっとイラついたのでジェニスが立ち去ろうとした時、奴の進行方向にバインドを弱出力で設置。腐っても奴は魔導師なのでばれないようにワイズ教官からパクッ…伝授して貰った術式隠蔽の技術で隠した魔法をタイミングを見計らって起動したところ、バインドに足を引っ掛けられ盛大にずっこけたので少し溜飲が下がった。

 疑問符を浮かべながら足を引っ掛けた物体を探そうとするジェニスの姿は非常に滑稽だった。奴が見る前に既に術式は霧散させているからな。ちょっと見渡したくらいじゃ解るわけがない。力の無駄遣いな気もするが世間一般でも力の使い方は大体こんなもんだ。

 

『悪戯ですか?』

「いんや、報復」

 

 ちなみに俺が色々と修理していると、一通り遊び終えた子供らが俺の元に来て何故か心の友認定された。それだけゲームなどの娯楽に飢えていたという事なのだろう。単純で悪意なく本能でそう言ってくれている子供らに少しだけ嬉しさを覚えた。ローテーションで月に一回まわってくるか解らない補給任務な為、再び彼らの元に凝れるか微妙なのが残念である。周りの大人共はそんな俺達を見て微笑ましそうにしていたがね。

 よほど絶望しない限り、人はどんな場所でも笑うことが出来る。そんな人の強さを垣間見たと共に、俺は、俺たちはこういった人たちを守る仕事をしているのだと思うと、少しだけ手を汚す仕事が誇らしく感じられた。例え、既に自らの手がどっぷりと血に塗れているのだとしても、民間人がこれ以上苦しまなければそれでいいと、俺は思った。

 

「ねぇ僕。これ直せるかい?」

「あ、はい。今見ます」

 

 さて、そんなこんなで難民キャンプ支援任務は想定した時間よりも早く終った。本来なら物資を置いていくだけの作業を更に俺達が手伝ってやったのだから終るのも早い。時間的には3時を回ったところであるが、移動時間を考えるにそろそろ出発しないといけない。

 夜間行軍は訓練を受けてはいるが、命令でもない限り好き好んでしたい事ではないからだ。特に護衛対象がいる今は…昼間ですらたまたま遭遇した敵に撃たれたのに夜中だったら闇夜に紛れられて余計に攻撃を察知するのが遅れて被害が出るかもしれない。それが解っているから危険を冒せないのである。

 

「隊長、各分隊の点呼確認。レッドクリフ小隊、揃いました」

「…行きと同じく、帰りもトラックを中心に展開し、基地に帰投する」

 

 右手を上げて合図するとトラックが走り出した。俺達も魔法で身体を強化してそれに追従する。一瞬だけヘルメットのHUDに背後の映像を映すと、一緒に遊んであげた(と俺は思うことにしている)子供らがキョロキョロとキャンプ入り口に居た事に苦笑した。

 そういえば、別れの挨拶をしなかったな…そう思いつつ、トラック護衛の帰路に就いたのだった。

 

「隊長、どうでした?子供のお守りは?」

「ん、ジェニス…うん、意外と、楽しかった」

 

 トラックの横を周囲警戒しながら走っていると、隣に並んだジェニスがそう聞いてきた。

 

 こんな風に駆け回るなんて、少なくても7年近くこんな遊びはした記憶がない。勿論それに後悔した事はなかった。前世では触れる事すら適わなかった魔法という技術にどっぷりと浸かり、厳しくも優しい両親から鍛えて貰える事に至上の喜びを感じていた。

 だから、いま感じているこの感情は、きっと後悔とかじゃない。俺はきっと、彼らを守れるこの仕事が、楽しいと思えてきたんだと思う。いやそうなんだ。

 そう考えないと、とても寒いと、思ってしまうから。


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