妄想戦記   作:QOL

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要望がありましたので投稿。
遅筆なのでのんびりとお待ちください


第一章・幼年~軍士官学校まで
「あう?(うんと、アレだ……なんで赤ん坊になってんだ?)」


 

 

 

 その日、目が覚めた俺が見た物は―――知らない天井であった。

(………何ディスカこれは?自分が寝かされているのは判る。だけどみた事がない天井が見えるのはなぜ?)

 

 不思議な現象に頭を抱えていると、突然俺の頭は重さを通り越して痛みに昇華した頭痛にさいなまれた。気分は最悪で頭が痛い上、それまでの記憶もはっきりしない。

 

(えーと昨日の夜は何してたんだっけかな?意識がはっきりしてくるにつれて痛みが収まってきたから少し昨日の事を思い出してみよう)

 

 

 たしかバイトが終わってから、すぐに誰もいない我が家に帰って晩酌と共に遅い夕飯を作ろうとしたら材料が無かった。 

 肉体的には大丈夫だったけど精神的に疲れていて、飯作るの面倒臭くなってコンビニに行ったんだっ…け?ちっ、ハッキリと思いだせない。その後はどうなったんだっけ?誰か頭にかかる靄か霞を払ってくれ――ん?だんだんと思いだしてきた。

 

えーと、帰り道に突然車が突っ込んできた。

 

その車にプレスされてペッチャンこにされて、中身が出る。

 

口から血とか噴き出して、ああ死ぬねと覚悟した。

 

それなのに痛みは感じなくて、自分でも吃驚していたなぁ。

 

下半身取れて内蔵潰されてもうダメだって判った瞬間、目の前真っ暗になった。

 

おえー、俺死んだのか。死に方がミンチより酷いぜ。

 

 

 

 

 

 

 

―――まぁいいか……。

 

 

 

 

 

 

 

「え!あういあぉえ!(——って!軽いな俺!)」

 

 

 

――――あ〜、うん納得!そう思いこもう。

 

 死んじまったのは事実だし、その証拠に車に轢かれた時の記憶がデジタルリマスターよろしく高解像度で残ってやがんの…怖っ。とりあえず天国か地獄かは知らないが、生前の世界ではないという事だけは理解した。

 情報は少ないが後ろ向きに考えてもしょうがないし、慌てたところでどうにかなるモンじゃない。とりあえず意識があるんだし…とここまで理解してから気が付いた。俺の視界にさっきからチラチラ映っている回転する物体。

 アレって……所謂メリーさんじゃね?ほら赤ちゃんあやす時に使うベビーグッズ。

 

 え、どういう事なの?そう言えば俺の周りは高い柵で囲んであるし、眼だけ動かしたら顔のすぐ横に瓶みたいな何かが見えるんですが?口も動かないし……もしやとは思ったが、これはまさか所謂転生というモノではないか?身体も妙に重たいと思っていたけど、赤ん坊になっているのであれば理解したくないが納得は出来る。

 

 つまりはどういう事かは判らないけど赤ん坊となったと…………泣いても良かですか?こんな自由に動かない身体なんてタダの牢獄よりもキツイんですけど!確かに俺は聖人じゃ無かったかもしれないけど、幾らなんでもこの仕打ちは死後の待遇にしては容赦なさすぎな気がしないでもないんですが神さま…神さま信じて無いけど思わず祈っちゃうくらい冷静さを失っていますよ。ええ。

 

 こいつは本当やっかいだが、だがそろそろ時間切れらしい。強烈な睡魔が俺のまぶたを鉛に変える。後にこの睡魔は恐らく柔らかな赤子の脳みそに何十年分の記憶とそれを元にした人格が生まれた弊害だろうと理解したが、こん時の俺がそんな事知る訳もない。

 

 再び眠りにつこうしていると感じた時、これは夢で次はきっと天国何だろうなと妄想し、適当にニューワールドで生きていけるよう頑張るさねとか考えて眠ってしまった。もっとも現実は非情であり、目が覚めた時に天国であるとは限らなかったんだが…。

 

 

―――コレが、俺が最初にこの世界を意識した瞬間であった。超眠い。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

―――そして気が付けば2年、人生が進むのは早い。

 この2年間の事は別に語るつもりもない。ガキの生活のこと書いても面白くないし、大体が基本食べて寝て排泄してソレの世話されての繰り返ししかされてねぇんだ。羞恥プレイしかないんだぜ。おしめってあんな感触だったんですね。制御できねぇ膀胱にいら立ちを感じたわ。

 

 色々あって赤ちゃん生活は精神的に死にそうになるというテンプレを味わい、1歳になる頃には自分が転生した事を完全に認め、むしろ開き直って人生をエンジョイする事に決めた。同時期にカタコトで喋り始める。

 

 そうやって訓練しないと口が言葉とかを発声してくれなかったからだ。でも結構早めに流暢とはいかないが理路整然とした言葉を喋ったら、この世界の両親には驚かれたけど、逆にうちの子は天才だとか言って喜んでくれたんさー。

 

 なんか懐が大きいっていうか大雑把で助かったさぁー。でもちょっとだけ寂しそうな目をしていたのを俺は見逃さなかったさぁー。だからちょっと自粛しているんさぁー。やり過ぎて捨てられたら生きてけねぇさぁ。

 

 さて、気が付いたら違う身体に転生という形となった訳だ。尚、以前の俺の名前は高辺正憲って名前の元一般人だった。そして交通事故で死んで、新たに生れ出でたこの世界での名はフェンというらしい。ちなみに姓はラーダーだそうな。随分と外国人の名前っぽくて、純日本人だった俺はなんとなく違和感を覚える。

 

 だが、この名前で2年ちかくも呼ばれ続ければいい加減慣れてくるもので、今では俺のソウルネームだぜ。まだ少し変な感じはするが、これもしばらくすれば消えるだろう。第一俺の外見も外国人だし、日本名は多分にあわないからな。兎に角、これから先は心機一転、憑依幼児フェン・ラーダーとして頑張る事にした。

 

 

 

 

―――で、現在の俺は2歳、まぁ今日の誕生日になってからだが…判ったことがある。

 

 

 

 

 とりあえず、ここは俺がいた日本じゃないし外国ではない。現在過去未来という訳でもない。それどころか地球ですらなかったのだ。なにせ、この世界は完全なる異世界だった。どうしてそう思ったのかと言うと答えは単純なもんだ。生前の世界では見れなかったシロモノを見せられたのだ。

 

 そう、この世界には魔法がある。ちなみに怪しいクスリはやって無い。大体この年齢じゃ薬買えるだけの金なんて持たせて貰えない。それは置いておいて俺もまさかって思った。一歳の頃は両親の顔立ちを見て、ただ単に外国のご家庭に転生したんだと思っていたのだ。

 

 おかしいと思ったのはハイハイ覚えて動けるようになり、色々家の中を動き回れるようになった時だった。両親側から見れば俺は色んな物に興味を持った腕白で好奇心旺盛な赤ん坊に見えた事だろう。だから特に邪魔されることなく精々が赤ん坊にとって危険なモノを手の届かない位置に片付けられる程度だった。

 

 そりゃそうだ。自分の子供が遊びまわるのを邪魔する親は普通いない。そして俺が動き回る先々で赤ん坊が飲み込んだら危険な物、重たくて落っこちたら危ない物、そういったのが目の前から“飛んでいった”…文字通り“飛んだ”のだ。いやまぁ飛んだっていうか、彼らにしてみれば簡単な念力系の物体誘導魔法だったらしい。

 

 だが、当時の魔法の魔の字も想像して無かった俺にしてみれば、掴もうとした物が勝手に宙を舞うその光景はポルターガイストに見えてしまい、自宅が幽霊に呪われてやがると戦慄を覚えていた程度だった…異世界だし幽霊位居ると思ったんだよ。幽霊屋敷にご家族で住んでいるとは奇異な人達だと感じたものさ。

 

 結局、その怪奇現象が魔法だと理解したのは、俺が見ている前で母上が小さな魔法円を空中に描き、魔法の力で俺を引きよせて抱き上げたとくれば、信じないという訳にはいかなかったってのもある。なまじこれまでポルターガイストと思っていた現象が、実はタダの魔法だったのだ。

 

 いや魔法って時点で超自然的というか超能力とかと同レベルの物である事に変わりはないのだが、とにかく愕然とその光景を眺めていたのはしょうがなかった。誰だって自分の親が魔法使いだと知れば唖然とする。本来なら魔法という存在に対して、困惑するのが普通かと思うのだが俺の場合魔法はすぐに受け入れた。

 

 死と転生を体験したというのもあるし、異世界ならばあり得ると思っていた事も理解は出来ない納得を加速させたのである。とはいえ転生者であり、生半可な事じゃ何があっても驚かない自信があったが俺だが、魔法という非現実に触れられると思えば股が濡れた(おしっこ漏れた的な意味で)。

 

 親が魔法使いならば、そのレベルはどれくらいなのかという純粋なる知的好奇心から、俺は母上に笑顔でもっと魔法見せてー!と、羞恥に頬を赤らめながら精いっぱい甘えてみた。思えば普段から世話をかけない良い子ちゃんだった俺は両親にしてみれば子育てのイメージからかけ離れており、物足りなかった事だろう。

 

 そんな我が子が目を輝かせて拙いながらも言葉を発して、精いっぱいの笑顔で懇願して見せる姿は可愛く見えたに違いない。母上は張りきって極太ビームの砲撃魔法を虚空に向けてブチかましてくれた。しかも我が家の敷地上空20mの位置にちゃんと転移門開いてビームを何処か違う場所に撃ち込むというアフターケアもバッチシな魔法を。

 

 お陰で俺はまた股を濡らした(オムツ的な意味で)。ま、まぁその話は置いといて正直ちょっと嬉しかったりした。だって魔法だぜ?超能力に匹敵する超常の技、魔法。その魔法が使える両親は魔法使い、それもかなり高レベルの使い手だってのは先の魔法で十重理解できた。おっきい方も漏らした事で涙を飲んでおしりを洗って貰った位にね。

 

 

 

―――それからさらに時が経ち誕生日の日。

 

 

 

 大分今の身体に慣れた俺は3歳となった事を機に、思い切って両親に魔法を習いたいので教えてくださいと土下座して頼み込んでいた。考えてみると3歳児の土下座ってシュールだよな。ギャグテイストのカートゥーンでも出てこねぇよ。土下座文化が存在しないから余計におかしく見えただろうにウチの両親はホント懐が深い。

 

 結果はまぁ、割とあっさりとOKされた。

 

 というか両親の立場とか色々理由はあるが、立って歩けるようになった段階ですでに教える気満々だったそうな。時折病院に定期健診に連れていかれたのは魔法を扱えるかどうか調べる為だったらしい。道理でワクチン注射をされる訳でも三種混合とかをされる訳でもないのに病院に連れていかれた訳だ。

 

 もっとも何故両親が幼い俺に魔法を教える気満々であったのかは後々になってから判ったが、判っていたらこの道を選んでいたかどうか。

 

 

―――そういう訳で、俺は母親に魔法を教えてもらえる事になった。

 

 

 初めは神秘に触れられると考え、少年のようにワクワクしていた。いや、事実身体は少年なのだから間違いではない。しかし習ってみて判ったが、この世界の魔法というのは高度にプログラム化された非常にシステマチックな代物であり“科学では説明できないような現象を起すがおおむね科学”という感じが相応しいモノであった。

 

 その代表格がデバイスの存在だった。

 

 デバイスとは所謂“魔法使いの杖”に相当するもので術者の力の増幅や能力補正にリミッター、魔法プログラム登録によるサポート機能をもった魔法的ハードディスクといえる存在だった。また魔法の才を持つ者が歪に育たないように矯正する大リーグ養成ギプスのような機能もあり…まぁ色々便利な魔導機械である。

 

 しかしこの魔法の杖、その便利さから犯罪に使われる事もあり、俺が生まれたこの国では銃火器のように個人の所有は制限され、特定の役職につく人間及びその人間の監視下において所持ができるという法律がある程危険な物でもあるらしい。それもその筈で殺傷能力がある魔法をインプットしたデバイスは起動できる魔力さえあれば使用できてしまうからだ。

 

 制御の失敗による魔力の暴発や暴走が起こり得る事を考えると、子供が拳銃を持って撃ちまくるよりもある意味危険であり規制の対象になるのもまた当然と言えた。その為、デバイスを持てるという事は犯罪者かもしくはそれを取り締まる役職に着けるエリートという事になる。デバイスを所持できるのは魔導師のステータスともいえるのだ。

 

 

 さて、そんなデバイスであるがそれは我が家にもあった。ここで一つの疑問を上げてみよう。何で我が家にデバイスという“魔導兵器”が無造作に転がっていたのか?その実、非常に高価な機材であるデバイスは魔導師本人が身に着けるか非常時以外は仕舞っておくのが通例であるのに何故?……理由は単縦明快だった。

 

 つまりそれまで気が付かなかったが、我が家系は通常のご家庭に非ず。両親揃って軍属であり母上に至っては軍の高官だったのだ。国に仕える軍人だからデバイスの所持携帯を許可されている、そして当然そんな彼らの息子である俺も彼らの監督の元、デバイスに触れられる環境が整っていたのだ。

 

 

 この事実を知ったのは規制されている筈のデバイスが我が家に無造作にあった事に関して疑問に思って素直に尋ねたからだ。そうして上記の事を知ったのであるが、その内容の端々を聞くに、この世界の魔法使いは俺が転生時に持っていた魔法使いのイメージとは随分とかけ離れた非常に生々しい存在だったって事がより理解できてしまった。

 

 そう俺が生まれたこの世界での魔法使いは魔導師といい、特殊な能力と戦闘能力により国により管理され、その殆どが軍属だった。それを聞いた時、神秘は?魔法はどうなった?と、魔法という神秘の術を行使する存在が一端の兵士と同程度の扱いという事実に魔導師に対するイメージがガラガラと音を立てて崩れさった。

 

 

 この世界の魔導師の存在が俺の記憶する魔法使いなどという存在などとは、色々と異色である事は理解したが、実はそれよりも重要な部分がある。重要な部分はここだ。【両親が軍属である】これに尽きる。何が言いたいかと言えば、要するに教え方が泣く子は気絶し鬼も裸足で逃げる様な地獄…いやさ軍隊形式だった。

 

 一番簡単にイメージできるのはハートマ○さん的な海兵隊式だろう。殴る蹴る?身体に触れてくれるだけまだ優しい。流石に身体が小さくて未成熟なのを考慮して殴る蹴るは最低限だったけど痛かった。さらには言葉攻めによる罵倒がもう何度枕を濡らせばいいのかってくらいきつかった。

 

 魔法の練習のイメージはイギリスの9と四分の三番線から行く某魔法学校だった俺は、それが凄まじく幻想であり現実は非情であると身体で理解させられたのである。普通なら引きこもり一直線なのであるが、普段の生活では溺愛されておりそのギャップが飴玉とムチのような感じで作用した事も俺が自ら止めようとはしない原因だった。

 

 

 

 例えばであるが、初日の訓練だと————以下ダイジェスト。

 

 

『FNG(ファッキンニューガイ、新兵の意)ッ!貴様は何だッ!!』←これ母上ね?

 

『自分はクソ虫でありますッ』←まだノリで答えてるだけの俺。

 

『どうした、そのメロンみたいなスッカラカンの頭に脳みそは詰まっているのか?それとも頭に詰まっているのは果肉で、ついでに生まれた時にそのクソったれな口と耳をどこかに置き忘れたのか!言葉が全く聞こえんぞッ!』

 

『イエス!自分はクソ虫でありますッ!!!この世で最も劣った存在でありますッ!!!』

 

『いいや違うぞ新兵ッ!!貴様は兵隊技能どころか魔法のマの字も知らない魔導師の風上にも置けないようなクソに集るクソ虫にも劣るクソ以下の存在だッ!!言ってみろっ』

 

『イ、イエッサー、自分は《バキン》――うぎっ!』←平手打ちされた。イテェ。

 

『サーをつけろ馬鹿モンがッ!大体私はマムだッ!ついに脳みそまで虚数空間に忘れて来たか?もう一回だ。貴様は一体何だ?』

 

『サー・イエス・マムッ!自分はこの世でもっとも劣ったクソ以下のクズ野郎でありますッ!生きる資格も無いでありますッ!サーッ!!』←必死&やけくそ。

 

『よろしい、だが出来るのなら最初から声を出せ。――では訓練という名の地獄へのご招待だ………出来るだけ死ぬなよ?後処理が面倒だからな?』

 

『サ、サー・イエス・マムッ!!!』

 

 

 とかね、初日にこれである。ホントに何処の海兵隊の人ですかアナタ?というか本当に魔導師なのか?俺と同じく転生した前世ハー○マン軍曹の方じゃないのか?それはそれで非常に怖すぎる。母親がハート○ンとか自殺レベルだ。勿論そんな事実はない、ない筈である。聞けないけど恐ろしすぎて聞けないけど俺はそう思っている。

 

 ともあれ普段はにっこり美人である母上が一変して氷より冷たい視線で射抜くようにして俺の事を貶すのだ。正直、心にクル。俺が変な世界への扉を開かなかったのはまだ幼いこの身体のお陰かはしらんが、よくも持ったものである。魔法を扱えるように訓練してくれと頼んだが、軍人教育までしてくれとは言ってないとは言えない日本人、それが私です。

 

 そもそも本来魔法に関しては俺がもっと育って13歳くらいになって、魔法の才能があった場合に開始する予定だったが、両親の予想を裏切って精神が急成長(そりゃ中身は異世界の元大人ですしおすし)して早熟だった俺を見て、計画が前倒しになったそうな。こうなった原因は全部俺の所為で、しかも自ら言いだした手前止めるとは言えないこの状況となっていた。

 これを知った時にかなり凹んだ。でもすでに泣きごとが言えなくなるくらいに徹底的に心根まで拷問…もとい鍛えてもらっていたので一応大丈夫だった。もっとも幼少期に精神的な拷問まがいの訓練をしてしまった所為なのか、副作用と言うべきなのか、自分の表情筋が万年休業状態になってしまい、顔から表情が消えてしまった。

 

 どんな状況でも感情が出ない鉄面皮、戦闘において相手に己の感情を一切察知させないそれは、戦闘においては非常に便利だろう。だが日常生活の中では不気味でしょうがない。自分の顔がまるで西洋の人形の如くなのだから余計に怖いのだ。最近では天然のポーカーフェイスだと割り切ったが、今でもたまに目から暖かい水が溢れて枕が濡れる。

 

 

  顔で思い出したが、俺の容姿はこの世界においては珍しい部類の黒髪黒眼だった。もっとも顔の造りや肌は白人系なのだが、全体的に小顔に纏まっていて妙に人形のような感じを受ける。両親がかなりの美形なお陰なのかは知らないけれど、鏡を見るとどうにも中性的を通り過ぎた女の子の様な顔が映る。まるで造り物みたいだと思ったものだ。

 

 そして猛訓練の影響もあり、やや背が小さいオトコノコである。この時期は男の子も女の子も境界線が薄いからそう思うのかとも思ったが、ある日訪ねてきた親戚が酒の席で面白半分に俺を無理矢理女装させたところ、その……俺の艶姿に酒の席を忘れて絶句する程洒落にならなかったくらいで……ええ黒歴史確定で記憶を一時封印しましたとも。

 

 

 大体前世も三枚目な男で今世も性別は男なのに、何故にこんな中性的な容姿なのは一体誰得なのよ?残念なことに俺はオカマでも女装癖もない極普通の軍人一家の跡取りでしかないにな。でも俺にとってはコンプレックスな顔を両親は存外に気にいっていた。女装だけは何とか阻止させました。でも髪形だけはダメだった。

 

 今現在、俺の髪型はとても長いサラサラストレートな黒髪を後頭部で結う形のポニテにされている。女の子ッポイのはイヤという俺と、そう言うのも良い♪っていう両親との妥協の末の結果である。本当は嫌だったがニコニコ笑う両親の手に握られたデバイスを見て、俺は捕らえられた小鳥であると理解した。

 

 まぁその話は置いておいてほしい。つーか流してくれ、お願い。えーと、何処まで話したか…そう訓練の様子だったな。たしか…他にもこんな訓練があった————

 

 

『―――以上がこの魔法の効果的運用法だが、魔導師の身体強化の重要性は理解したな?』

『イエスマムッ!』

『では今から実地訓練を行う。私が撃つ低速の魔力弾を先程教えた身体強化の魔法だけで逃げ切って見せろ。何か質問は?』

『ハッ!……ですが、あの、自分はまだ魔法式を教えられただけで練習とかは―――』

 

 

 虚空に浮かぶ数百もの魔力スフィア。

 

 

『―――え…!?チョッ!!』

『たわけ、貴様が講義の際に密かに実践して成功させていた事に気がつかないと思っていたのか?それに実戦に勝る修練はない。第一新兵、お前に訓練を拒否できる権限は一切ない。さぁ舞踊れ、パーティクル・ダンサーズ(低速)!!』

『メ、メディーーーック!!!』

 

 

―――新しく知った魔法を黙って試した事がバレていて、危うく死にかけました。

 

 

 この日の訓練から俺は必要なこと以外話さなくなった。いや話せなくなったが正しいか?訓練中下手な事を言うと弾幕と言ってもいい魔力弾一斉掃射の回避訓練と同じモノが1セット追加だった。普通そこは筋トレじゃないのかよと思ったが、まるで心を読んだかのように母上は年齢的に筋力鍛えても無駄だからとお答えになりました。

 

 まぁ良く忘れるが肉体はいまだ脆弱な成長期のお子様である。第一無駄な筋力をつけたところで燃費が悪い身体にしかならない。ならば魔法を使わせ続けて精妙な操作力を身につけた方がいいのだろう。この訓練お陰で制御力向上と超人的な反射神経と勘の眼を会得できたが、下手な事は言わない方が良いと心と体に刻まれたのは言うまでもない。

 

 ちなみに母上は空戦が出来て、近接攻撃も遠距離も砲撃も回復も結界etc。もう兎に角何でもござれなオールラウンダーなのです。そしてその基本戦術は超が付くほど高速高機動で空を翔け周り、音速を超えているのにも拘らず、正確無比な射撃および砲撃魔法をぶっ放すというモノスゲェことが出来るお人です。

 

 すこしは上手くなったとかできる様になったとか思っても、このお方と比較すれば、どうあがいても…絶望!自分から頼みこんだ事とはいえ絶望したッ!ああ、今でも目をつむれば————ヒァッ!く、来るなぁ!空が、空が落ちてくるぅ!アレはサディズムの光だ!らめぇ!そんなおっきなビーム受けたら(意識が)飛んじゃうーー!!

 

 

……落ち付け俺大丈夫だ、戦場では取り乱したら死ぬんだ。

 

 

だから落ち付け―――ふぅ。

 

 

 

 すまん、取り乱した。どうにも一部トラウマになった訓練も多々ある為、たまに精神を守るために逃避する事もあるけど許してほしい。厨ニ病とか言わないでくれッ!アレはマジで洒落にならなかったんだッ!!いいか?気絶させて貰えないんだぞ?気絶させてもらえないんだ…大事な事なのでry…顔面にビームry…死ねるry

 

 

 とりあえず話題を変えよう。トラウマを見せてもお互いに無益でしかないからな。他にも全力疾走の100kmマラソンとかやらされた事があって――え?普通のマラソンでも40kmなのに全力で100kmなんて3歳時には不可能?ところがどっこい、そこが魔導師の訓練が通常の訓練と違うところだ。

 

 このマラソン、この間覚えたばかりの身体強化魔法を使っても良かったのだ。当然理性的な判断で俺は魔法を構築し使用した。体力はつけなきゃいけないから走り込みは基本だとは思うが、僅か数百m全力しそうしただけで倒れそうになるこの身体で身体強化なしで100kmも走れる訳がない。

 

 そう思っての身体強化魔法の使用だったのだが、俺が魔法を使用した直後に言い渡された母上の言葉にその日一番の絶望を感じたのだ。曰く、なるほどこの訓練の本質に気が付くとは流石は私の息子だ。そして最後までやり遂げるという勢いや良し!存分に走るがいい!最後まで!――である。

 

 一部リピートしてみよう『最後まで』母上は確かにそう言った。これはどういうことなのか?なんとこの訓練、強化魔法を使ったら最後、泣こうが叫ぼうが俺がゴールにたどり着くまで終わらせてもらえない地獄の魔法制御訓練だったのだ!理由を話した時の母上は、それはもう満面の笑みだった。別な意味でマジ泣きしたぜ。

 

 

 でもこの100kmマラソンは魔法の制御を覚えるという意味では本当に効果的な訓練だった。何せ道中は常に身体強化魔法を使用し続ける。それらの制御はマルチタスクという思考分割術によって行われている訳だが、まだ魔法初心者な俺はマルチタスクという魔法自体が不慣れなので常に全力運転な訳だ。

 

 このマルチタスクも曲者で魔力を消費しながら本来一つの事しか考えられない人間の脳みそを複数用意するような魔法である。要するにリアル脳内会議とかも出来ちゃうような技術だった。というか基本以外の魔法はマルチタスクかデバイスがないと一人で発動するのに時間が異様にかかるのだし必須技能だ。

 

 しかも強化した状態で走り続けている間は魔力がどんどん消費されて魔力最大値の増加にも役立つと言うおまけ付き。

 

 

 この時の魔力配分と体力配分の仕方を間違えると途中で意識がマジで飛ぶ。だから自然と肉体が効率のいい歩方と適量の魔力の巡らし方を覚えていくのだ。何とまぁマラソン一つとってみてもやり方一つで効率のいい訓練に様変わりだ。てっきり魔力制御は瞑想とかやるんだろうとか思ってた数カ月前の自分を呪いたい。

 

 

 

 

―――ただ言いたいのは、マラソンとか何処の体育会系?

 

 

 

 さて、両親から受けた訓練は何も模擬戦染みた実戦訓練だけではない。当然座学もあったし座学を受ける為の基礎知識勉強もあった。あとなぜか軍隊における礼儀作法も少々、いつか連れてくかもと笑顔で言われた時は苦笑で済ませといた。

 

 だがそれらより群を抜いて俺の興味を引いたのは、父上から受けたデバイス設計・構築・改造等の知識だった。なんと母上に比べて随分と影が薄かったように思えた父、ところがどっこいで父は軍属とはいっても兵器廠所属の技研の人間だったのである。

 

 

 いわゆるデバイスの整備班とかで、部隊に同行した時にはメカニックやデバイスマイスターと呼ばれる職種の人だった。だからなのだろうか、正規の軍人でありながら技術畑の父は母上と比べればとっても優しい人だった。

 

 なにせ母上みたいな心身ともに擦り切れる様な訓練はしなかったのだから、それだけでも段々と日々の訓練で身をすり減らしていた俺にとって見ればオアシスだった。興味はあるが詳しく知らない技術を知るというのは、理解とか以前にとっても面白かった。

 だってさ?デバイスが分解整備とか出来るなんて俺知らなかったもんよ。てっきりそこら辺も魔法の力でメンテナンスフリーかと思っていたのに、とかほざいたら自分の手で整備しないデバイスが当てになるかと厳しい一言。これが魔法世界の現実か。

 

 

 もっとも母上よりかは優しいとは言ったが、繊細さとか精神的な意味ではこっちの方が何倍もきつかったのを覚えている。魔導師の使う杖とかデバイスはいわば精密機械の塊であり、簡易ならともかく本格的な整備を手作業ですると発狂できる。

 

 つーか、ウチの家には何故か工房がある。それもデバイスとかを作れる工房が普通に自宅に隣接して建っている。その工房は父上が集中したい時に使うラボの様な小さなものだが、趣味に走った物がたくさん置いてある工房なんだ。

 

 でな?父上は俺みたいなチビガキに対して、一切妥協せずにデバイスの調整の仕方や改造。果ては一から造るやり方まで教えてくださりやがったのですよ。とにかくデバイスってのは結構微妙なバランスで成り立っているもんで、ハンドメイドなデバイスだと手作業で部品一つ動かすのにも恐ろしく精神使うのよ。

 

 

 まぁ最初に初歩くらい出来るかって言われて、ついムキになって組み上げた俺が悪いんだけどさ。だってケーブルと基盤が合わさった様なブロックを筐体にはめ込むだけだったから、なんだがパズルミたいで楽しくて…難易度的にはちょっと難しめの、ブロックパズルみたいな感じだったからつい、ね?

 

 そんな感じで色々仕込まれたのである。練習とはいえ、実際に軍で使われているデバイスのフレームを元にさまざまな魔導部品を組み合わせるという練習を何度もやらされた。この時ばかりは手先が小さくて器用だった事が幸いだった。

 

 なにせ部分的に極細のピンセットとか専用の拡大鏡を使わないと見えないとかいうこともあったのである。とはいえ、パズル自体は嫌いでは無かった為、大変楽しい時間であった。つーか後半はデバイスをレゴ代わりにして遊んでた様な気もする。

 

 多分幼児特有のというかテンプレな知識の吸収力を見た父上が、徐々にハードルを上げていったのだろう。気が付けば俺は何時の間にか一人デバイス工房を名乗れそうなレベルになっていたってワケ。一つ出来るたびにものすごく褒められて嬉しかったけど……自重くらいしてください父上。俺ァ一応3歳児ですぜ?転生者でも限度がありまさぁ。

 

 

 まぁこの精神をすり減らす作業のお陰で、俺は冷静さと強靭な忍耐力も身につけられたから良しとする。生粋の魔導師である母上曰く、魔力と精神は密接に絡み合っているからこういう訓練も結構効果的らしい。

 

 しっかし軍隊形式って言うのはすわ恐ろしい。子供に対してもまったく手加減が無い。 軍隊というのを知らんから多分という言葉が付くがな。とにかく死にかけては回復魔法の無限ループだったもんなぁ……お陰でもう低速の弾幕くらいじゃ怖くもなんとも無いぜ。

 

 何度地面の味を知った事か…何度鉄の味を感じた事か…正直魔法無かったら死んでんじゃね?

 とはいえ今の生活は半端無くキツイけど、それ以上に楽しいんだよなぁ…。

 前の世界では未知の分野だった魔法が学べるのだ、これに心踊らない男子が居ようか?絶対におるまいっ!!断言できるッ!!

 

 

つーかそう思わんとやっていけんからなッ!ナーハッハハ!

 

 

「フェンちゃ〜ん、御飯よ〜!」

「サーイエスマム!」

「もう、今はプライベートなのよ?だから普通にしなさい」

「……うん、わかった」

「それでいいわ。今日のごはんは最近頑張ってたから、フェンちゃんの大好きな特製ミートローフよ」

「…やた」←思わず小さなガッツポーズ

「ああん!もう可愛いわねぇっ!」

 

 母上が呼んでるな、デバイスの設計図造りはこれ位にしておこう。

 

 

 ……ん?今の人誰かって?————母上ですけど何か?

 

 

 あの方は訓練の時はもう鬼軍曹って感じだけど、プライベートだと普通の…というか俺を溺愛するような母親だからなぁあの変わり身はスゲェだろ?もうなんか仮面かぶってるとかのレベルじゃ無いんだぜ?

 

―――最初の頃は本当に人格が複数あるんじゃないかって疑った位だよ。マジで

 

 

「フェンちゃ〜ん。はぐはぐはぐ」

「……ご飯、行く。だから放して?」

 

 

 さて、あんまし父上待たせるのもマズイからな。そろそろ行きますか。そう言えば今度の週末はサバイバル訓練か……生き残れるように全力を尽くそう。そう思いつつ、色んな意味で素敵な我が家族の元へと行く俺であった。なんかもうドップリと浸かってるなぁと思いつつ。

 

 

 

 

 

 


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