今回の話で、主人公の『天才』の要素を表現できたらいいな、と思っています。
はぐれ悪魔討伐の翌日の夜。
俺はイッセーと二人で、部室の魔法陣の上に立っている。
「悪いな。才斗」
イッセーが申し訳なさそうに言ってくる。
俺が「気にするな」と言ってやると、不甲斐無さそうに苦笑した。
なぜ、俺がイッセーと一緒に魔法陣の上にいるかというと、部長の指示だ。
なかなか契約を取ってこれないイッセーをみかねて、契約成功経験のある俺を同伴させることにしたのだ。
「部長、転移の準備が出来ました」
朱乃先輩がそう告げると、部長は椅子から立ち上がって、俺達へ近づいてくる。
ちなみに、今回の魔法陣でのジャンプは俺の魔力を使用するので、問題ないそうだ。
「今日の依頼主さんは、いつも簡単なことしか言わないわ。だから、安心して行ってきなさい」
「はい!」
部長の言葉に嬉しそうに頷くイッセー。
なんでも、イッセーの依頼者は変人が多いそうで、普通の依頼なのが嬉しいのだろう。
「才斗はイッセーのサポートをお願い。さっき言った通り、難しいことは言われないと思うけど、念のためにね」
「はい。分かりました」
俺が助けすぎたら、イッセーが達成感を感じないだろうし、ほどほどに頑張るか。
「それじゃあ、いってらっしゃい」
そう言って、部長が魔法陣から離れると、朱乃先輩が魔法陣に手をかざす。
魔法陣が光りだす。一瞬の浮遊感の後に光が収まると、転移が完了していた。
転移してみると、
初めての転移で浮かれているイッセーは気付いていないが、ここの雰囲気ははぐれ悪魔討伐の時と同じだ。
敵意と殺意が渦巻いている。
とりあえず情報収集のために周りを見る。
どこにでもあるようなリビングだ。ソファーやテレビなどが置いてある。
依頼者が見当たらない以外は特に何も―――
あっ、いた。
俺は依頼者に、いや、依頼者
「おい、才斗。どうしっ!?」
イッセーの言葉が途切れる。
気付いたのだろう。切り刻まれ、壁に逆さ十字で貼り付けられた、男性に。
「だ、誰がこんなことを・・・」
「俺だよ~ん」
イッセーの呟きに答えるように、リビングのドアから人が入ってきた。
イッセーが驚き、身構える。俺は最初から気配を感じていたので、驚いてはいないが、しっかりと相手を観察する。
白髪の、若い外人がいた。俺達と同じくらいの年齢で、神父服を着ている。
「んーんー。これはこれは、悪魔君ではあーりませんかー」
前に、イッセーが教会に近づいて、怒られたとき。俺も一緒にいくつか忠告された。
教会関係者、特に『
だが―――
「俺は神父♪少年神父~♪デビルな輩をぶった斬り~、ニヒルな俺が
逃がしてくれそうにないな。
「俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している
そう言って、神父―――フリードは懐から、刀身の無い剣の
ヴゥン
空気の振動する音が聞こえ、柄だけだった剣から、光の刀身が出てきた。
・・・ビームサーベルみたいでかっこいいなぁ、と思った俺は正常のはずだ。
「アーメンッ!!」
フリードは俺達に斬りかかってくる。
俺は呆然としているイッセーを後ろに突き飛ばし、上からくる斬撃を魔力で作った剣で受け止める。
「おい!才斗。いつの間にそんなもの作れるようになったんだよ!?」
「昨日。家に帰ってやってみたら出来た」
俺はフリードと
「おいおい。クソ悪魔のくせに抵抗するんですかぁ~」
フリードは後ろに跳んで距離を取り、拳銃を俺に向けた。
「死ね!」
拳銃の角度で弾道を予測し、避ける。
イッセーに当たりそうな弾だけ、剣ではじく。
「なになに~?君、結構強い悪魔ぁ。イイネェいいねぇ!俺様、興奮してきたよ!!」
拳銃と剣を同時に構えるフリード。おそらくあれが、あいつの戦闘スタイルなのだろう。
俺はフリードに視線を向けながら、昨日の祐斗の動きを思い出していた。
祐斗の動きを脳内で再生して、分析する。
歩幅や腕の振り方、視線の動かし方など全てを思い出す。
俺は、祐斗と同じスピードを出すことは可能だ。だが、その速さを保ったまま細かい動きをする技術がなかった。
だから、その技術を
祐斗の動きをそのまま真似る―――なんてことはしない。
俺と祐斗とじゃあ体格が違う。そのまま真似ても劣化版にしかならない。
なので、改良して、俺専用にする。
俺の方が少し足が長いので、歩幅を少し大きく。
祐斗の方が肩幅が広いので、それに合わせて姿勢を少し落とす。
他にも細かい調整を重ねる。
高速思考から意識を覚醒させた俺は、完成した構えを取る。
「おいおい。急にかっこつけてんじゃねーぞ」
俺の構えを見たフリードが茶化してくる。
確かに、
俺は今、右足を1.2歩分前に出して、軽く前傾姿勢を取り、剣を両手で握り、
後ろにいるので、顔を見ることはできないが、イッセーからも困惑した雰囲気が伝わってくる。
俺は何も言わず、足に力を
スッ!
祐斗と同じスピードで走り出す。だが、祐斗より速くトップスピードに乗る。
「なっ!?くっ!!」
いきなり上がった俺のスピードに驚いたフリードだったが、流石は戦いのプロ。咄嗟に体をずらして致命傷は避けた。
「て、てめぇ・・・!」
それでも、完全に避けることはできず、左肩に浅くはないキズを負った。
「調子に乗るんじゃねぇぞ!クソがぁ!!」
左手に持った拳銃を捨てて、右手の光の剣で斬りかかってくる。あの肩じゃあ、もう撃てないのだろう。
ダメージを負ったはずなのに、最初より速くなっている。
だが―――
「チッ!ちょこまかと小バエみたいに、うっぜぇんだよ!!」
俺は素早い動きでフリードの斬撃を避ける。
そして、祐斗以上の動きでフリードを翻弄する。
トップスピードは『騎士』の特性を持つ祐斗を超えられなかったが、俺専用に改良した動きのおかげで、加速と減速のテンポは
「ぐわぁぁ!!」
俺を捉えきれていないフリードに向かって、もう一度斬撃を放つ。
また、ギリギリで体をずらされたが、さっきよりも深い傷を負わせることが出来た。
フリードはキズを抑えながら、後ろに跳んで距離を取った。
俺も、3mほど離れた場所で足を止める。
巻き込まれないように離れていたイッセーが、俺に近づいてくる。
「才斗・・・お前、そんなに強かったのか・・・」
正確には、今さっき強く
俺はイッセーの呟きに心の中で答えながら、フリードを仕留めるために足に力を籠める。
あいつの動きの観察も終わった。次で確実に仕留められる。
俺が駆け出そうとした―――その時。
「フリード神父!?この状況は一体―――きゃぁぁぁぁあああ!!」
俺たちの戦闘でボロボロになったリビングに、シスター服を着た金髪の少女が入ってきて、壁に貼り付けられた男性を見て悲鳴を上げた。
誰だ?敵にしてはおかしな反応を・・・
「アーシア・・・!」
呆然とした呟きは、俺の隣から聞こえた。
どうでしたか?
今回の話が、書いてて一番楽しかったです。
これから一巻のクライマックスですので、オリ主を上手く活躍させたいです。
最後に、自分には武術の知識がなく、描写は何となくなので、違和感があったらすいません。
矛盾点があったら、是非教えてください。