ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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最後の打者は、悔しいでしょうね。


第82話 主将の在り方

8月が終わり、夏の甲子園の激闘からもう1週間が過ぎた。ある程度の練習を積み、新チームの骨組みがまずできつつある中、引退した3年生たちは――――

 

 

「俺らの代に比べて、投手陣と野手のバランスがいいなぁ。おい」

伊佐敷は、すでに4本柱になりつつある青道投手陣の層の厚さを改めて感じていた。並の高校では攻略は難しいと言えるレベルの投手がこれだけそろっている。

 

彼らの世代は、打力特化の攻撃型だ。打力はさすがに今すぐあのレベルにはいかないが、可能性はある。

 

「ああ。打撃陣にも、沖田、東条、御幸、白洲倉持達がいるからな。特に沖田は、守備の要でもある。」

2年生の主力3人、1年生の沖田、東条がまさに要。これだけ新チームに心強い野手が残ったのは大きいし、何よりもセンターラインをほぼカバーできるのは大きい。

 

「だが、沖田があまりに器用であることが、チームの選択を広くしているんだろう。」

守備のセンスは随一にして、身体能力も屈指と言える逸材。本職のショートでもそうだが、サード、夏以降に始めたセカンド、ファーストの守備もほぼ問題がない。やはりセカンドの守備陣形にまだ慣れていないところもあるが、打球への反応から適応は時間の問題とされている。

 

しかし、やはり彼が輝くのはショートだろうというのが、首脳陣の見解。今はチーム事情から彼に負担を強いているが、打力は健在。

 

「新チームの4番は、沖田で決まりだな。」

丹波も、攻守の要である彼が4番であることを悟る。御幸も打撃が向上したが、それでも打撃の信頼度に劣る。

 

「それに、俺達にもまだ引退の時期が遅れているぞ。国体は3年生主体。投手陣は甲子園の疲労でまだ始動が鈍い。丹波にはあの時の投球を願うしかないな」

結城は、目の前に控えた9月中旬の国体での丹波の奮起を促す。甲子園で覚醒した彼の投球は、まさにエースと言ってもいい。

 

特に、準決勝で見せた全国最強の打線を相手に7回2失点の好投。これで青道のエースとしての足跡を残すことが出来た。

 

「アレは、まあ自分の力を出せずに終わりたくないっていう気持ちがあったわけで―――とにかく、自分の投球に集中しただけだ。あれをやるのは難しい」

本人は謙遜しているが、それでも丹波が精神的に成長したことを3年生たちは解っている。

 

「攻守ともに戦力の変動は最小限。だが、やはり大塚の復帰がやや遅れるのがな。」

 

 

大塚栄治の影響によって、投手陣の調子は変動していた。彼がいることで、全体の安心感が生まれていた。だが決勝戦――――

 

 

彼がいないだけで、ベンチのムードは常に緊張していた。特にその影響をもろに受けたのが沢村だった。

 

「沢村ちゃんは、あのスライダーを一時封印するとは言っていたが、フォームのばらつきがあったからだろうな。」

増子も、スライダーがあれだけ対策をされて、使い物にならなくなったことに衝撃を受けていた。予選ではほぼ無敵状態だったあの球が、全国では赤子同然に対処された。

 

それが、3回戦から始まった沢村の不調の原因。相手にスライダーを見極められ、精神的に常に追いつめられていた。

 

「そして、降谷はクリス以外では操縦が困難。御幸も良い捕手だが、やはり暴れ馬の手綱は、簡単ではないな」

門田も、御幸の肩に青道投手陣の未来がかかっていることを解っている。

 

つまり、秋大会で計算できる可能性が一番高いのは、川上であるという事。怪我から復帰した後までわからないが、それに次いで大塚が安定するだろうという事。

 

沢村は、決め球だったスライダーの改善によって大きく変わる。降谷も、投手としての課題をクリアしない限り、厳しい。

 

「――――こうしてみると、盤石とは言えないね。」

小湊も、豊富ではあるが、信頼できる投手が2人しかいないことに、苦言を呈す。

 

 

「それは打撃陣にも言える。沖田が甲子園で活躍したことで、予選では厳しいマークに遭うことは確実だ。ポイントゲッターである彼が封じられた時、誰が点を取るかが重要になってくる」

結城は、甲子園終盤でも敬遠をされることがあった彼の打力を解っている。だからこそ、主軸と言える中軸の打力の充実が必要になると考えていた。

 

 

練習試合は今週の土曜日。8月下旬の初めあたりにようやく本選が終わり、練習試合を組むのが遅くなった。

 

しかも、国体に向けた3年生主体のチームの編成も加わり、片岡監督への負担も増す。

 

 

9月2日の最初の土曜日。青道は夏本選が終わって最初の練習試合を迎えることになる。

 

「まだ練習試合初戦。これが秋大会のメンバーではない。甲子園の余韻が冷めていないかもしれんが、秋大会に向けた時間は少ない。一戦一戦を集中しろ!!」

 

1番遊 倉持 

2番二 木島

3番右 関

4番捕 御幸

5番一 前園

6番中 白洲

7番三 日笠

8番左 麻生

9番投 川上

 

 

沖田、東条、小湊はこの試合はベンチ入り。彼ら以外のメンバーで、どこまで得点できるかがポイントだった。そして、まず2年生主体のチームでどこまでできるかが片岡監督の最初に確認したいことでもあった。

 

これは、有望な1年生が多い現チームでの2年生のアピールの場面として用意したのだが――――

 

 

試合は5-4という僅差の勝利。しかし、打線がつながることがなく、御幸、白洲が気を吐くマルチヒット。甲子園組の実力が際立つ結果となった。

 

特に、新球種のカッターを覚えた川上の安定感はすさまじく、3回までノーヒットに抑える好投。課題の左打者に対して、被安打2という結果に手ごたえを感じていた。結局川上は5回被安打3でマウンドを降り、後続を任せた。

 

2番手には、2年生川島が登板するが、連打を浴びて2回途中被安打5という苦しい内容。一気に2失点し、3番手2年生投手がマウンドに上がるも勢いを止めきれず、1イニング持たない。被安打3、沖田のエラーも絡み、2失点。

 

そして今日出場機会がない筈の東条が8回途中マウンドに上がり、ピンチの場面を何とか防ぎ、9回のマウンドも続投。4者凡退で辛くも勝利を得た。

 

この試合内容には片岡監督も何か言いたい気分にはなったが、一軍の投手陣を後続に投入していなかったので、まずは打線が5点を取れたことに注目する。

 

 

そして試合後の朗報がまず青道に伝えられる。大塚が退院。筋力が幾分か低下したが、骨のダメージも癒え、リハビリの最終段階であるという。来週の中ごろには復活することが分かった。

 

 

その夜、

 

「いつもすまねぇな。」

金丸達が自主練習を行っていた。沖田の教えたメニューを教わった彼らは、それを夏合宿以降から地道に続けていた。

 

「大丈夫だよ、金丸。俺もお世話になった側だったし」

東条も、打撃でのスケールアップ、体のバランス感覚を養い、選手として大きくなった。

 

「春市は今大変な時だからな。東条はレギュラー当確だし」

そして、捕手2番手候補の争いで、小野と競争している狩場は打撃を鍛えたいと考えていた。

 

「とにかく、俺達の世代が秋大会は頑張らねェと」

沖田のポジションがどうなるかはわからない。だが、サードのポジションはなんとしても取りたい。

 

 

この練習試合で、2年生の拙攻が続いた。守備に関してはあまり穴がなかったとはいえ、打撃に関して言えば、甲子園スタメン組と控え組のレベルの差が出た形となった。

 

 

9月3日の練習試合第一試合。今日はダブルヘッダー。一年生主体の練習試合となる。そしてその先発は――――

 

 

「~~~~♪」

記念すべき1年生の先発第一号は降谷。沢村は、スライダーの課題を克服する必要があった。

 

「――――悔しいけど、今の俺は全力を出せるとはいえねぇ……」

スライダーが不十分の今では、自分の満足のいく投球が出来ない。御幸に見てもらう事で、まずはこのフォームを同一化させる必要があった。

 

 

そして、秋大会での現時点で予想されるスタメンが発表される。無論投手に関して言えば、まだまだエースナンバーはだれか、わからない。

 

1番中 左 白洲 2年

2番二 右 小湊 1年

3番右 右 東条 1年

4番遊 右 沖田 1年

5番捕 左 御幸 2年

6番一 右 前園 2年

7番投 右 降谷 1年

8番左 左 関  2年

9番三 右 金丸 1年

 

やはり、1年生ながら甲子園で活躍した沖田、東条は主軸を任され、5番には主将の御幸、6番には前園が続く。上位打線には白洲、小湊の小技を使えるバッター。

 

 

日曜第一試合―――――

 

 

青道の練習グラウンドに轟音が鳴り響く。

 

「――――ふう――――」

 

初回からアクセル全開。降谷の剛速球が相手打線を封殺する。

 

 

「あの剛速球投手、マジかよ――――」

 

「アレが1年生のボールなのか――――」

相手選手からのまばらな声。それほどの威力を秘めていた降谷のボール。しかし―――

 

 

「初球から飛ばしすぎだろ! もっと一球一球丁寧に投げろ!!」

御幸はペース配分を弁えない降谷の声をかける。彼がリリーフのままでいいと言うならば、この投球でも別にかまわない。

 

だが、彼がエースという言葉にこだわるならば、ペース配分を弁えない投手に、エースナンバーは渡せない。託せない。

 

――――何回同じことを繰り返しているんだ、降谷。お前はリリーフしかしないのか!?

 

イライラが募る御幸。丹波は2年間同じチームだったが、今年の春の関東大会から成長を感じさせてくれた。選手としてそれは評価できるし、心強かった。

 

 

だが、聞く気がないのか、出来ないのか。それが解らない。

 

 

――――もっと、一球を丁寧に。バッターに向かっていく度胸はいい。

 

投手向きのメンタルだ。だが、

 

――――もっと投手としてのスキルを磨け!!

 

 

初回は3人で片付ける降谷。だが、御幸は彼に求めるレベルが高い。

 

「いつもいつも、ペース配分を考えろといっただろ? 中盤にばてるぞ!?」

 

 

「――――自分は、スタミナがありません。だからこそ、全力投球でどこまでできるのかを確かめたい、です。」

 

「――――っ(コイツ――――)」

降谷なりに、課題をもってマウンドに上がっていることが分かった御幸。

 

――――練習試合だからこそ、試すことが出来る、か。俺も熱くなり過ぎたな―――

 

そこまで考えているなら、御幸は何も言わない。彼が全力投球で9回までもつのであれば、捕手としては文句がない。

 

 

そして初回の攻撃―――

 

白洲が倒れるものの、小湊レフト前、東条ツーベースで

 

 

「―――――――――」

ここで4番、沖田。相手投手も彼の事は当然知っている。青道史上最強の1年生打者。あの東、結城を凌ぐ成長力と力を誇る、青道の主砲。

 

 

――――この打者相手に、どこを投げればいいんだよ

 

相手投手も、この威圧感と静けさを感じさせるスラッガーを前に、どのように攻めればいいのかわからない。

 

 

初球を外し、2球目も変化球が浮いて2ボールとボール先行の相手投手に対し、

 

――――違う、ストライク先行の相手に対し、どう打つかが必要だというのに。

 

相手は、自分で自分の首を締めに来ていた。

 

 

 

まだストライクが入らず、苦しいカウント。ストライクを取りに行った、3球目。

 

 

――――このコースを打ったとしても――――

 

 

ガキィィィンッッッ!!!!

 

 

「―――――――」

打球を追う必要はない。この感触で分かる。

 

 

悠々と、沖田は一塁ベースを回っていく。

 

 

投手は、打球がネットに突き刺さった光景を見ることしか出来なかった。

 

 

「さすが沖田ぁぁぁ!!!」

 

「いいぞぉぉぉ!! 青道の怪童!!」

 

「初回いきなりの3点先制!!」

 

 

その後御幸もヒットで続いたが、前園が併殺打に倒れる。

 

 

降谷の勢いは止まらない。

 

 

続く2回も――――

 

「ストライィィクっ!! バッターアウトォォォ!!」

 

唸る剛腕。唸るストレート。甲子園常連の高校でなければ、相手にならない。

 

――――ストライク先行でリードをしているが、まだ球にばらつきがある。

 

御幸は今日の降谷の状態をいつも通りと考える。

 

――――適当に球が散っているからこそ、相手も的を絞りづらい筈。

 

続く打者はピッチャーゴロに打ち取り、これでツーアウト。球威でどんどん押すタイプである彼の投球はまさに剛のピッチング。

 

 

ドゴォォォォンッッッ!!

 

御幸のミットが、引き裂かれてしまうのではないかと思えるほどの唸りの音。手ごたえは十分。

 

「ストライク!! バッターアウトっ!!」

 

 

「いいぞぉぉぉ!! 降谷!!」

 

「球はいつも通り走っているぞ!!」

 

味方からも、剛腕の復活はとても大きい。甲子園では嫌な形で離脱を余儀なくされたが、その彼が復帰したことはチームに好影響を与える。

 

しかし、2回は下位打線が三者凡退。金丸が大飛球を上げるも、相手のファインプレーに阻まれる。

 

 

その後も小刻みに得点を上げるものの、やはり上位打線が打てなかった場合、得点力が落ちる。さらには―――

 

 

「ボール、フォア!!」

 

「くっ」

 

3回目の打席。沖田はバットを振ることなく敬遠された。2回目も相手捕手が立ち上がり、沖田との勝負を避けていたのだ。これには青道側からもため息が上がる。

 

 

「くそぉぉ!! 勝負しろよ、練習試合だぞ!!」

 

「練習試合ならいいじゃねェか!!」

 

 

だが、沖田との勝負を割り切ったことで得点力が落ちる。3番東条、5番御幸が力んで好機で凡退。しかし、前園が走者一掃のタイムリーツーベースを上げるなど、昇格組の打撃信頼感が上がってきた。

 

 

試合は、5回終了時点で7点差が付いた。やはり、1年生の有力選手を加えたことにより、得点力が上がった。

 

 

しかし―――――

 

 

「ボール、フォア!!」

 

 

6回、それまで好投を続けていた降谷が突如崩れる。制球が定まらなくなり、ボール連発。先頭打者にフォアボールを与えてしまう。

 

「後続を抑えていくぞ、降谷!!」

 

 

「もっと腕の力を抜け!!」

 

「落ち着いて、低めに丁寧に投げていくぞ!!」

御幸は、降谷がこの6回で全力投球が限度であることを考えた。さらに、相手打者が球速になれてきている。

 

――――スピードも制球も落ちてきている。ここで踏ん張らねェと、エースはないぞ

 

御幸は低め低めのジェスチャーをしつつ、ストライクゾーンを広く見るよう指示をした。

 

 

しかし、初球――――

 

――――それじゃあ、棒球だろうが!!

 

カキィィンッっ!!

 

 

球威のない棒球を痛打された。思わずストレートを打ち返された方向を見ると、打球がライトへと転がっていく。

 

「いいぞ、あの剛腕から続けざまの出塁だ!!」

 

「打てるぞ!!!」

 

 

あの剛腕からの連続出塁。やはり相手の士気が上がってきた。

 

 

さらに――――

 

「ボール、フォア!!」

球威とスピードが落ちたことで、さらにストライクゾーンへのコースを嫌う降谷。これで一死満塁の大ピンチを招いてしまう。

 

 

「降谷―――――」

課題を持って取り組んだ。だが、課題をこなすにはまだ実力が足りなかったのだろう。

 

 

――――腕を振れ、ボールを置きに来るな。

 

 

だが、ボールを置きに行けないことが、降谷のさらなる力みを生んでしまう。

 

 

カキィィィンッッ!!!

 

 

詰まりながらも腕を振りきった降谷のストレートをセンターへと弾き返した。センターは白洲。

 

 

「くっ!」

彼には、伊佐敷程の強肩はない。堅実な守備で、後逸することはほとんどないが、それでも、好返球による満塁時での2点目阻止の成功率は低い。

 

 

 

「しゃぁぁぁ!! これで5点差!! あの剛腕から連打だぁ!!」

 

「このまま点差を縮めていくぞ!!」

 

 

「か、監督!! 降谷がもう限界です!! ここは東条を!!」

 

 

第2試合に先発予定の沢村。ここで彼を使うつもりはない。ここには大塚もいない。川上も投げる日ではない。

 

「――――次の打者への対応。練習試合だからこそ、試せることがある。まだ降谷を変えない。ペース配分の重要性を、身を持って知ってもらう」

 

片岡監督は、ペース配分を怠ることに含みを含んだ物言い。先発であるならば、ペース配分を怠ることは致命的な欠陥。それを治さないのであれば、エースナンバーを与えることは出来ない。

 

沢村は、本来躱していくタイプ。元々体力もあり、ピンチでのギアチェンジも可能だ。体が出来てくれば、さらに球速も上がってくるだろう期待感があった。

 

 

大塚は、1年生の時点で完成されつつある。それは、高卒ルーキーの実力を超えるレベルで完成されているという事。断じてこのレベルは、大塚栄治の完成系ではない。沢村と同様にフォームで眩惑し、癖球を駆使することで、ペース配分や球数を調節している。ピンチや大事な局面でのギアチェンジも可能であり、投手としての安定感もある。

 

 

やはり、降谷の大塚以上のスピードボールがあったとしても、投手としての能力で見劣りしてしまうのだ。

 

 

その後、次の打者にもヒットを浴びた降谷は、6回途中4失点で降板。結局東条が何とか後続を打ち取る。

 

「ナイスピッチ、東条!!」

金丸としても、投手としてのチャンスが巡ってきたことに、喜びを感じずにはいられない。

 

「ああ。打撃も好きだけど、やっぱり投手も、諦めたくない――――」

一度挫折した東条。だが、それでも投手として全国ベスト4、2年連続の全国大会を経験した自負がある。

 

その後、7回で打線が爆発、満塁の場面で沖田に打席が回り、

 

 

「これなら敬遠出来ないだろう」

 

 

 

ガキィィィンッッッ!!!

 

 

軽々とフェンスオーバー。今日2本目となる満塁ホームランで、4点詰められていたのを一気に押し返す。

 

 

その後、7回のマウンドにも立った東条が3者凡退に抑え、これで練習試合2連勝。打撃が後半目覚めたことで、コールド勝ちになんとか辿り着けたが、降谷の失点の仕方、ペース配分の欠如が思いっきり出た形となった。

 

 

「降谷―――――」

倉持は、タオルで顔を埋めていた彼に言葉をかけることが出来なかった。彼が今日課題をもってマウンドに臨んだのは解っている。だが、この結果は――――

 

あまりにも理想とはかけ離れたものだった。彼の全力投球の球数は100球にとても届かない。70球を超えて怪しくなり、半ばになると突然球威が落ちた。

 

御幸はこのままではいけないと、降谷の下へ行く。期待していなければ、こんなことはしない。

 

 

降谷には、大塚に勝る武器がある。その武器を活かせず、3年間エースの座を沢村や大塚に許すのは、今後の彼にはよくないことなのだと。

 

 

 

もっとお前は出来るはずだと。お前は凄い投手になれるのだと。

 

 

 

 

 

「ペース配分。初回からアクセル全開。それで9回をもつわけがないさ。」

御幸が降谷に声をかける。それは、今日の課題を全否定するものだった。

 

「けど僕は体力が――――体力を鍛えないと」

言い分は解る。だからこそ、自分で考えた課題を言おうとする降谷。

 

――――キャプテンなら、諭すように言うべきなんだろうが

 

御幸は悩んだ。主将としての立場。自分はどのような立ち位置になるべきなのかと。

 

だが、御幸はあくまで厳しいことを言う事で、彼に奮起を期待することにした。

 

それが心苦しくもあり、絶対に這い上がってくれると期待しているからこそ。

 

 

 

「出来ないことをしようとするな。地道なトレーニングで、体力はついてくるんだ。今日はアイシングをした後、ゆっくり体を休めろ。成宮、大塚、楊はそれが出来ているぞ」

 

「―――――」

 

形式的なことを一度に言った御幸は、それだけを言うとその場を去っていった。

 

――――俺は、このチームを勝利に導く。その為なら――――

 

 

あの時の自分と、誰かが同じ気持ちになってほしくない。

 

 

 

「おい、御幸!!」

流石に言い過ぎではないかと、倉持は御幸の後を追う。

 

 

「倉持――――」

倉持が負ってきたのが解ったのか、御幸はそこで足を止める。

 

「確かに、初回からアクセル全開は考え物だけどよ。言い方ってもんがあるだろ!!」

言いすぎだ、彼はそれを指摘する。

 

「ああ。だが、先発を、エースを目指す以上、それは絶対に避けては通れない道だ。今厳しいことを言わないと、アイツはいつまでたっても同じだ」

燃えるような瞳で、御幸ははっきりとそう言い放つ。エースを、先発として活躍するには、ペース配分は必ず必要。それが出来ないなら、同じことだと。

 

「け、けど。比較対象がおかしいだろ!! 成宮、大塚、楊と比べたら、それこそ難しいだろ……」

 

――――倉持なら、もっといいキャプテンになっただろうか。

 

仲間意識の強い彼の事だ。勝利を最優先する自分とは違い、仲間の意識やモチベーションを大事にする。それもキャプテンシーの一つであることを彼は解っていた。

 

 

それでも、一番悔しい舞台での負けた悔しさを知ってしまえば、厳しい言葉を言わずにはいられない。

 

――――ダメだな、自分の信じた道を仲間に示すことも出来なくなったら、それこそおしまいじゃねぇか。

 

 

だからこそ、御幸はぶれない。ぶれるわけにはいかない。

 

 

「大塚はうちのエース候補だが、成宮と楊は、今年の夏、実際に当たったんだぞ。そういう投手とぶつかることもあるだろ。」

そう、御幸が言い放った投手のうちの二人は、今年の夏に対戦した選手でもある。

 

「それは――――」

言いよどむ倉持。そうだ。全国という舞台を考えれば、いくらでも怪物染みた投手は現れる。ペース配分を覚えていてもおかしくはない。

 

 

「その時に必要なのは、投手としての“実力”だ。“才能”じゃねぇんだよ。」

そう言い切って、御幸は再び歩を進めるのだった。

 

 

 




厳しい事を言う御幸。

けど、降谷は秋で覚醒します。

原作と逆ですね、沢村と。


最新話を見ました。春市の決断は多分、金属かな?

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