ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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光南戦決着。

光南戦は凄い不評ですいません。




第78話 終わりとはじまり

『ツーアウト!! これでツーアウトです!! 9回二死!! 春夏連覇に向け、後アウト一つです!! そして3番沖田を迎えます。』

 

 

――――終わらせない。だが、ここでの巡り会わせ――――

 

打席に立った沖田。柿崎はすでに疲労困憊。小湊亮介には球威で押し切ったが、沖田にはそれは通用しない。

 

 

 

 

初球フォークから投げてきた柿崎。やはり警戒しているのか、迂闊にストライクを投げてこない。

 

 

「沖田君――――何とか望みをつないで――――」

祈るような気持ちで、今年最高の2年生投手に立ち向かう、青道最高の遊撃手。そんな彼を応援する貴子。

 

「頼むぞ~~~!! 沖田ぁぁぁ!!!」

 

「まだ終わらないぞ!!」

 

 

青道応援席からも大きな声援が起こる。このまま終わるわけにはいかない。光南の春夏連覇を眼前で認めることになるのだ。

 

 

それだけは―――――

 

 

「――――――」

虚ろな目で、大塚は沖田の打席を見ていた。何もできない自分に絶望しているのか、彼が今何を考えているのかはわからない。

 

だが、先程から金丸が声をかけても、その打席しか見ていない。

 

 

「―――――大塚――――」

金丸は、沖田に祈る。

 

 

――――頼む!! 繋いでくれ!! このままじゃ、大塚が―――!!

 

 

それは、金丸の予感だった。漠然としか見えないが、はっきりと、本能的に見えるその結末。

 

大塚が、どこか遠くに行ってしまうような気がしてならないのだ。チームを離れるという意味ではなく、どこか精神的な面で、彼と自分達では、決定的な違いが生まれるのではないかと。

 

 

甲子園は、沖田と柿崎の勝負を目に焼き付ける。

 

 

「ファウルボールっ!!!」

 

5球目、2ボール2ストライクとなったストレートをファウルでカットする沖田。タイミングもあってきた。

 

 

―――――ホント、こいつは掛け値なしの“怪童”だ。

 

 

ストレートに対しては、もう空振りをすることがなくなった。柿崎のストレートに合わせてきているのだ。

 

――――こいつ、変化球を織り交ぜないと―――だが、ここでカットして逃げるだと?

 

 

驚くべき粘り。まだ終わりではないという事を、光南ナインに見せつけているかのような、打席でのスイング。

 

 

――――ここで、終われない。決勝で、一点差!!

 

 

バントヒットの前の打席は完全に打ち負かされた三振。何よりも個人としてのプライドが許さなかった。

 

 

――――バッターとして、負けたくないだろ!!

 

 

――――ここで、アウトロー、フォークボールだ。無理にリスクを侵す必要はない。

 

 

しかしここで柿崎は首を振る。

 

 

――――ここでカウントを苦しくすれば、それこそ青道の思うつぼだ。それに、沖田には足がある。

 

 

柿崎は、ストレート勝負。そして――――

 

 

投げ込まれたのは、あの時沖田を三振に取った時と同じような、剛速球。140キロ後半を記録する。あの球だ。

 

 

――――コンパクトに、スイング軌道を意識した―――――

 

 

白い閃光と、自らの力の全てを、スイングに捧げる。

 

 

――――本能――――――

 

 

最後は、自分の勘。

 

 

カキィィィンッッッッ!!!

 

「―――――」

打たれた柿崎。だが、自信を持って投げ込んだストレートを、この一年生は弾き返した。

 

 

空高くへ舞い上がる打球を見て、柿崎は心の中でうめいた。

 

―――――マジかよ―――――っ

 

 

それは、選手としてのポテンシャルに驚愕し、そして今の実力に畏怖を覚えた。

 

 

 

 

――――あのボールを、弾き返すか。この1年生は――――っ

 

 

勝負には負けたが、柿崎はシンプルで、引き摺ってはいなかった。

 

 

『右中間抜けた~~~~!! ライト廻り込んで捕球して、二塁転送!!』

 

 

「沖田ぁぁぁ!!!!」

 

 

「つないだぁぁぁ!!! ここでつないだぞ!!」

 

9回2死から繋いだ沖田。しかも、

 

 

『150キロのアウトローを右中間にはじき返した沖田!! 素晴らしいバッティング!! これで二死ながら、同点!! ホームランならばサヨナラの場面!! ここで、4番結城を迎えます!!』

 

 

「いっけぇえぇ!! キャプテン!!!」

 

 

「決めてしまえェェェ!!!」

 

1年生が最後に意地を見せた。柿崎の攻略が困難とされた150キロのストレートを弾き返したのだ。

 

 

――――お前は凄い奴だ。お前のような奴になら、

 

結城は、二塁ベース上で声を張り上げている沖田を見た。

 

――――青道は、まだまだ強くなれる。お前ももっと強くなれる

 

 

柿崎がセットポジションから鬼気迫る表情で投げ込む。自慢の速球を1年生に打たれたというのに、動揺は欠片もなかった。

 

 

――――俺も意地を見せる時だ。

 

 

剛球がアウトロー、少し内に入り込んでくる。だが、凄まじい球威をインパクトの瞬間に感じた。

 

 

――――っ!!!

 

その腕力をもって強引にスイングする結城。甲子園最後になるであろう打席。当てに行くバッティングにはしたくなかった。

 

 

「ファウルっ!!!」

 

 

真後ろに飛ぶ打球。球速表示は150キロ。この9回120球を超えてまだまだ恐ろしい球威を持ったストレートを投げ込む力を示す柿崎。

 

 

――――ねじ伏せる。躱して抑えられる程、生易しいバッターじゃない!!

 

変化球でも甘く入れば、一撃でスタンドに叩きこまれる。柿崎は緩い変化球を投げづらくしていた。

 

 

続く第2球。

 

「ボールっ!!」

 

スライドしながら逃げていく速球。外に外れるツーシーム。それを見極める。

 

 

―――――まだカッキーの球威は落ちてない。インローのストレート。ボールでもいい。厳しく攻めれば!!

 

上杉は内による。

 

 

――――そうだな、ねじ伏せなきゃ、後悔残したくねぇもんな!!!

 

 

 

――――こいッ!! 打ち返してやるッ!

 

 

笑う柿崎。ヘルメットから汗を滴り落とす結城も獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

第3球。インローのストレート。

 

上杉は、結城のバットが動いたのを見た。

 

――――よし、これで詰まらせて―――――!!

 

 

結城も、初球の時と同じような重さを感じた。だが――――

 

―――2度目は仕留めるッ!!

 

 

ガキィィィンッッ!!!

 

 

 

 

『打ったァァァ!! 柿崎のグローブを弾き飛ばし、痛烈な打球がセンター前へ!!!』

 

 

柿崎が寸前、頭上でボールに触るも、強烈な打球を前に、右手首を持っていかれた。

 

「っ!!」

ボールに触れた瞬間に強烈な衝撃を右手首に受けた柿崎。苦悶の表情を浮かべ、膝をつく。

 

 

――――持ってかれた、か――――っ

 

 

一塁ベース上で、吼える結城を見て、苦笑い。

 

――――奴の気持ちをぶつけられたような、打球だった

 

 

「つないだぁぁぁ!!! ここでバッターは!!」

 

 

「サヨナラ決めろ!! 御幸~~~!!!」

 

主軸に連続ヒット。ここでサヨナラホームランを決めた御幸一也が打席に向かうのだ。

 

 

勝負強いバッティングで青道を救ってきた扇の要が、チームを逆転サヨナラに導くか。

 

 

 

 

 

「御幸、思いっきり振ってこい! 肩の力を抜け!!」

一塁にいる結城から、そんな言葉をかけられた。

 

「御幸先輩~~~!!」

沖田も二塁上で叫ぶ。ここで打てば、サヨナラ。春夏連覇を阻むことが出来る。

 

 

全ての人の視線を釘付けにする、今年の夏の甲子園最後の勝負。その最大のクライマックスは、御幸のバットと、柿崎のボールに委ねられた。

 

 

『さぁ、後アウト一つの光南高校。しかしそれに追いすがる青道高校!! この勝負に全ての結果が委ねられます!!』

 

 

「ストラィィィクッっ!!!」

 

まず、カーブから入ってきた柿崎。バットは出さない。しかし、この状況でカーブをまず初球に選択する胆力に、柿崎の投手としての力を感じる。

 

 

――――ここで、カーブかよ

 

続く二球目――――

 

「ボールっ!!」

ここで落としてきた光南バッテリー。フォークに手を出さない御幸。

 

 

この緊張感の前に、息を飲む観客が続出する。

 

「ファウルっ!!」

ここで3球目にはストレート。決めに行こうとしたが、球威に押された。

 

――――ここで打てば優勝――――

 

 

ようやく見ることが出来た全国の舞台。そのクライマックスが、自分のアウトで終わるなんてことにはしたくない。

 

 

――――ストレートをもう一球。

 

 

――――まだストレートでいける。任せてくれ、上杉っ!

 

光南バッテリーは、ここで力勝負を選択。まだまだ柿崎は崩れない。

 

4球目、

 

『ファウルボール!! ストレートで押す柿崎!! そして粘ります、御幸一也!! そして、後アウト一つが遠い光南!!』

 

 

――――ここで、俺が――――っ!!

 

そして、ストレート2球の後にフォークボールを選択する光南だが、それも御幸は見極める。

 

運命の6球目。

 

 

『さぁ、平行カウント、2ボール2ストライクからの6球目!!』

 

 

 

カキィィィンッッッ!!!

 

重心を残した、理想的なスイング。それが、柿崎の148キロのストレートを捉えた。

 

 

『打球伸びる~~~~!!! 伸びていく~~~~!!! ここで、サヨナラか!! それとも春夏連覇か!? 打球の行方は!!』

 

 

「抜けろ~~~~!!!」

沖田が、叫ぶ。あの時とは違う。あの時とは違う。打球は勢いを失わない。

 

「伸びろ~~~~!!!」

奇しくも、あの時と同じく、小湊もその場に居合わせていた。だからこそ、祈る。

 

 

「いけぇェェェェ!!!!」

そして高校生活最後の打席で意地を見せた結城。周りの目を憚らず、大声で叫ぶ。

 

打球は痛烈、ライト方向へと飛んでいく。

 

 

――――抜けてくれっ!!

 

 

ダイヤモンドを駆け始めた御幸が打球を追う。今度は見失わなかった。

 

 

 

白球が飛んでいく。そして―――――

 

 

『正面だぁ~~~~!!!!! ライト正面捕ったァァァ!!! スリーアウト、試合終了~~~~!!!』

 

 

「――――――っ」

いい位置で守っていたライトのグローブに打球がおさまった光景を目の当たりにした青道ナイン。言葉を失った。

 

 

 

 

 

外野は共に深く守っていた光南高校。柿崎の球威をもってしても、沖田、結城に痛烈に捉えられている光景を見た監督が、セオリーとは真逆の守備位置を敷いていた。

 

 

そして、見事に深い打球を打った御幸。相手を読み、自分を知った、経験の差から生まれる作戦。

 

 

御幸の実力を評価したうえでの、最後の采配の前に、青道の夢は断たれた。

 

 

 

 

『3-2!! 沖縄光南高校!! 春夏連覇、達成!! 歓喜の瞬間が今ここに!!』

 

柿崎を中心とした歓喜の輪が生まれていた。最後の打者として打ち取られた御幸は一塁ベース付近で足を止めていた。

 

『群雄割拠!! 新世代台頭の夏は!! 新たな甲子園のスターを生む為のものでした!! 光南のエースから、甲子園のエースへ!! 柿崎則春!! 不屈の2連続完投!!』

 

 

御幸は一塁ベース付近で膝をついた。

 

 

立ち上がれなかった。二塁ベースから戻ってきた結城に肩を貸され、自分で立つ事すら辛いようだ。

 

身体から力が抜けたように、顔を落とす彼の姿は、痛々しかった。

 

 

 

「――――――」

目を伏せ、そのアウトを見た沖田は、泣き崩れることもなく、その後毅然とした表情で光南の歓喜の輪を見ていた。

 

 

―――――届かなかったか

 

悔しい。ここまで来て、負けてしまったことに。

 

 

――――けど、後悔はない。このチームで、俺は最善を尽くせた――――

 

 

「最善を、尽くせたんだ――――」

 

このチームは実力以上のモノを、発揮できたんだと。試合には負けた、課題も成長も見つかった。

 

何より半年前にはこの大舞台に立てることすら想像できていなかった。

 

 

――――今は本当に悔しい。けど、俺は本当に、野球が大好きなんだ。

 

 

 

 

「先輩――――」

御幸と、結城の下に駆け寄る沖田。

 

「――――」

御幸は俯いて何もしゃべらない。悔しさ、最後の打者で終わってしまったこと、サヨナラを決められなかったことで、心の整理がついていなかった。

 

 

「――――胸張って、帰りましょう。先輩。最後まで、堂々と。」

毅然とした意志をもって、沖田はそう言い放つ。

 

 

 

「また戻ってきましょう、御幸先輩。リベンジするために」

 

 

「そう、だな。ハハッ、いつもは、こういう―――役回りだけどさ――――」

眼鏡の奥は、涙に溢れていた。

 

 

「悪い。今は――――冷静でいられねぇや」

涙に濡れた笑顔で、後輩に本音を漏らす御幸の姿。

 

 

 

あの御幸が、人前で涙を流す。それがベンチにいた部員たちにも衝撃だった。

 

「御幸――――」

感情を露わにして、泣いている彼の肩を貸しているのは、沖田と結城。

 

 

あのクールな二枚目のそんな姿に、敗戦以上に彼らは衝撃を受けていたのだ。

 

「よく、よく頑張ったわ――――みんな、本当に――――」

顔を赤く腫らしながら、貴子は振り絞るように声を出す。

 

甲子園という夢の舞台に立てた。後一歩まで栄冠が見えていた。

 

「先輩――――けど、こんな――――」

幸子は、悲しそうな目で御幸の姿を目に焼き付ける。

 

 

―――――こんな残酷な形なんて―――――

 

手すりを握る力が強くなる。

 

 

ベンチの中では、沢村が悔しさに身を震わせていた。

 

 

「―――――っ!!」

ベンチでは下級生たちが悔しさに身を震わせていた。その一人である沢村の夏の最後は、ベンチで終戦を迎えた。

 

――――完投できるとは思っていなかった。けど、俺がもっと長いイニングを投げていれば!!

 

沢村は泣いていなかった。悔しさで身を震わせていた。

 

 

もしまだ投げていれば、川上先輩に負担をかけなかった。御幸が追い込まれることもなかった。チャンスで代打を出せた。

 

――――何が足りないのかはわかってる。悔しくて、今は――――くっそぉぉぉ!!

 

 

沢村は、ひたすら戦後の事を考えていた。もう二度と、こんな思いをしたくない。

 

――――大塚がいなかったら、この様かよ!! 

 

彼がいないというだけで、ベンチも慌ただしかった。みんなに余裕がなかった。

 

 

――――俺はもっともっと強くなりたい。完投できる投手になりたい!!

 

敗戦の中で芽生えた、ダイヤに近づくサウスポーの闘志。

 

 

左腕の心は、この敗戦をばねに、さらなる飛躍を誓うのだった。

 

 

 

そしてリベンジの機会すらない上級生たちは―――――

 

 

 

「―――――終わってしまったんだな」

伊佐敷が、結城達の様子を見ながら、しみじみと語る。

 

「―――――高校最後の夏に、これだけ悔しい思いをできた―――――悔いはないと言いたいね。ファイナルの舞台に立てたのだから。」

小湊亮介は、涙を見せない。笑顔は勿論ない。だが、清々しさもあった。

 

「御幸なら大丈夫だ。アイツらがいる。絶対にまた前に走り出す」

増子も、晴れ晴れとした顔だった。確かに自分たちの代では、この栄冠に届きもしなかっただろう。本選に出られていたかもわからない。

 

――――大塚と沖田が、このチームを変えたんだ

 

 

グラウンドにいる沖田、スタンドにいる大塚には、みんな感謝しているのだ。

 

 

彼らもまた、絶対に前に走り出す。自分達では届かなかった甲子園の栄冠に、きっと彼らなら。

 

 

3年生たちに、後悔はなかった。

 

 

満足げに、燃え尽きることが出来たのだ。次のステージに進む為に、憂いを残すこともなく、前に進めるのだ。

 

 

 

そして残された者達。

 

 

「僕たちの最初の夏が、終わったんだ」

東条は、遠い目をして試合終了の音を聞いていた。

 

「うん――――結局、俺は――――」

春市は最後まで良いところがなかった。他の1年生がスタメンや先発の座をつかむ中、殻を突き破れなかった。

 

悔しさすら、今の自分には似合わない。

 

 

「――――来年、またここに帰ろう。このままで僕は終わりたくない。だから」

 

「――――ああ。俺はまだ――――」

 

―――もっとレベルアップしたい

 

兄の事ではない。もう今はチームの一員なのだと。だからこそ、雑念を感じずに努力をするしかないのだと。

 

1年生たちは、敗戦にショックを受けつつも、それぞれが飛躍を誓う。この経験を活かす。

 

それが彼らの共通の言葉だった。

 

 

 

 

青道の救世主は―――――

 

 

 

「大塚君――――」

スタンドで虚空を見る大塚。隣には吉川がいた。

 

「―――――やっぱり、悔しいな。負けるのは」

虚ろな瞳だった。今まで見たことがないような、覇気を失った大塚の表情に、

 

「―――――ッ」

吉川は思わず後ろの言葉を失う。この敗戦で御幸と同じほどの悔しさを、きっと秘めているのだろう。

 

 

敗戦の一因が自分にあると、悟っている。だからこそ、悔しさ以上に自責の念が彼を襲っているのだ。

 

 

このままじゃいけない。このままでは、大塚栄治の光が消えてしまう。

 

 

彼女は、出来る限り彼に寄り添う事を決意した。

 

 

「――――またここに来よう? みんなならきっとできる。だから」

 

 

 

「――――そうだね。俺はもっと、頑張らないと。頑張れたはずなのに。努力が足りなかった。いや―――そもそも俺は」

涙を流さないあくまで冷静な大塚。

 

 

―――――選択を間違えたのだ。

 

心の中で、そのミスがチームを苦しくさせたのだと、認めた。その一言だけで、大塚は胸が苦しかった。

 

 

 

 

しかし吉川はその心の内を読み取れなかった。読み取れるわけがなく、彼はそれを白状もしない。

 

 

大塚は未だに、まだ仲間に本音を零すことが出来ない。

 

 

 

 

そんな彼の不器用な、頑固な様子に、

 

 

――――出さないんだね、栄治君。

 

 

 

人一倍悔しい筈なのに、彼は毅然としていた。だからこそ、強いと思ってしまった。

 

 

脆いと思ってしまった。

 

 

――――でも忘れないで、

 

吉川は、大塚の手を握る。毅然とはしているものの、辛そうな表情を時折見せる大塚。そんな彼を放っては置けない。

 

「吉川さん?」

 

 

「大塚君の高校野球は、まだ始まったばかりなんだよ」

 

 

「―――――っ……うん。いきなり優勝したら、それこそ歯ごたえがないしね――――うん。俺は大丈夫。戦っている奴らの事、面倒を見てあげて。スタンドも、ベンチも関係なく」

憑き物が落ちたかのように、大塚は微笑む。憂いの表情が鳴りを潜めた。

 

 

 

「うん。けど、辛くなったら相談して。マネージャーとして、力になりたいの」

 

そう言って吉川は、悔しがっている部員たちやマネージャーの所へと向かっていく。敗戦の中で不器用なりに元気づけている彼女の姿は、ある意味光に見えるだろう。

 

 

「―――――眩しいなぁ」

 

最後は笑顔で相手チームと握手している上級生たちも、やり遂げた顔をしている光南ナインも、

 

目の前にいた彼女の言葉も。

 

 

 

「――――――本当に」

御幸たち、2年生たちの悔しさも。

 

 

「―――――ああ、本当に」

1年生たちの、リベンジに燃える心も。

 

 

 

一人最後は蚊帳の外になってしまった大塚は、虚無感を覚えていた。

 

 

――――ここにはいない、彼ならなんていうだろうか。

 

 

降谷なら、きっと離脱したことに自分への怒りを覚えるだろう。そして、何事もなく前に進むだろうと。

 

 

単純だから、色々と考え方がシンプルで、実に分かりやすい。

 

 

自分のように、変に悩んでいたりはしない。

 

 

それが羨ましくて、仕方がなかった。

 

 

 

「眩しいなぁ―――――」

 

 

そう言って、大塚は誰にも気づかれずに、スタンドを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

甲子園決勝戦。春夏連覇を目指す王者光南に、最後まで善戦した青道高校。大塚、降谷を欠きながら、粘りを見せるものの、好機にあと一本が出なかった。

 

光南先発柿崎は、2つの四球、10本を超えるヒットを打たれながら、2失点と粘りの投球。これまでの経験をつぎ込み、最後の一押しを許さなかった。結局9回を投げ、球数は156球。エースとしての底力を見せつけ、総合力の高さを見せる。

 

青道高校、6年ぶりの甲子園出場を果たし、準優勝。東西決戦ともいえるこの一戦に敗れたが、今後楽しみなチームとして観客の記憶に残るのだった。

 

 

濃密な夏を過ごした青道高校。

 

熱き遊撃手は大舞台に返り咲いた。

 

 

左腕は先輩とともに作り上げた宝刀を取り戻す戦いに赴く。

 

 

 

右翼手はさらなる飛躍を、遊撃手に続く者として。

 

 

 

要は大舞台の怖さを知り、もがきながら前に進む。本当の要になる為に。

 

 

 

 

 

ヒットマンは悔しさを糧に、秋大会に悔しさをぶつける。兄と最初で最後の夏の挫折を背負うのではない。チームの一員として、このチームでリベンジを果たすために。

 

 

 

 

 

 

一方、兵庫市内の病院では

 

 

 

「試合、終わってた―――――」

テレビの前で、リベンジに燃える剛腕の姿があった。

 

 

「このままでは終われない。必ず、最後までチームと一緒に」

 

最後の試合に出ることの叶わなかった二人。

 

 

そのメンタルは、実に対照的だった。

 

 

 

 

 

スタンドにいる最後の一人は、何を思う。

 




青道は準優勝でした。

皆さんにとっては、もやもやする感じでしょう。あまりいい幕切れとは言えないですし。

原作と違い、サヨナラ負けというあんまりな負け方ではないので、ナインは一部を除いて冷静です。沢村も、イップスになる要素もありませんでしたし。

秋編について。

挫折を経験したキャラには、全員見せ場があります。


今はそれしか言えません、すいません。


最近謝ってばっかりだ・・・・・

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