ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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ここ最近つまらない展開で申し訳ない。

2017年7月4日 2番青木を2番乙坂に変更しました。


第77話 つなげ、希望を

8回表、スコアは3-2。1点ビハインドの青道。連打を許しながら、驚異の粘りを見せる柿崎の前に、後一歩がとどかない。

 

そんな乗り切れない流れを変えるために、青道はエースを投入する。

 

 

川上の代わりに代打に入った小湊に代わって、ついに―――――

 

 

「投手交代だ、丹波。残り2イニング、頼んだぞ」

 

 

ついにエース丹波出陣。

 

 

8回表の投球――――

 

 

「御幸、どうにもお前は昔の俺を見ているようだ。」

 

「!!」

思わず自分の不安を見透かされた御幸は、押し黙ってしまう。

 

 

「俺が言えた義理ではないが、もう少し大胆に来い。打たれたら、俺の責任だ。」

 

「丹波先輩――――」

 

 

「最後の夏、俺は思い切り投げるつもりだ。この試合、9回でけりをつけるぞ」

この劣勢の場面で、丹波は余裕そうな顔をしている。やせ我慢をしているのは丸わかりだ。だが、それを言わない。

 

 

彼はそのプレッシャーに耐える力があった。

 

 

 

「っ!! はいっ!!」

丹波に諭され、御幸は自分の役割を再認識する。

 

 

ここで、奮い立てなくて、捕手が務まるわけがない。

 

 

しかし、終盤で奮い立つのは青道だけではない。

 

 

「ここで打って、少しでも柿崎を楽にするぞ」

 

 

おぉぉぉ!!!!

 

 

監督の檄に、光南ナインが奮い立つ。丹波は2イニングとはいえ、この相手と戦うのだ。

 

 

 

 

先頭打者の柿崎。ここで三者凡退に打ち取り、次の8回には最低追い付きたい。

 

――――ストレート、インコース。

 

丹波の要求はいきなりインコース。思わず苦笑してしまう御幸。

 

――――いつもは俺がしているのに、何で出来なかったんだろうな。

 

 

ズバァァァァンッッ!!!

 

「ストライィィィクッ!!!」

 

インコース厳しい場所に決まったストレート。手が出ない。さらに球速も、

 

143キロと表示されていた。

 

 

続く二球目、

 

 

 

柿崎の目からは、ビンボールが風に押し戻されている感覚だった。自分のカーブとは格が違う。

 

自分とは違い、本物のカーブを備えている。

 

 

 

緩いカーブが外側に決まり、追い込んだバッテリー。

 

―――なんてカーブだ。この投手が出ていれば、俺達は――――

 

相当苦労していただろうと。そもそも、横浦相手にHQS。連投をきにした監督の采配かは知らないが、スターターなら苦労していただろうと。

 

 

 

そして、勝負の3球目、

 

 

ズバァァァンッっ!!

 

「ストライィィィクッ!! バッターアウトォォ!!」

インコースのストレートに手が出ず三振。切れの良いフォーム。体の開きを抑えた球持ちがいいフォーム。

 

小さいことだが、御幸はある点に気づいた。

 

 

――――丹波先輩、一瞬だけ、ミットから目を切っている?

 

横浦では、余裕がなかったのだが、勝負所で後半からはそれを意識していた丹波。それにより、ボールが体から隠れた良いフォームに変貌しつつあった。

 

 

続く、9番沼倉に対しても―――

 

 

――――フォームは、嘘をつかない。正しいフォームで投げれば、球は勝手にコースに進む。

 

 

ズバァァァァンッッ!!!

 

「ストライクツーッ!!!」

 

ストレートにキレがある。とても、前日に7回を投げた投手とは思えないほどに、伸びと力があった。

 

――――丹波先輩――――

 

 

御幸はアウトコースのフォークのサインを出したが、丹波は首を横に振る。

 

―――――アウトコースのカーブは?

 

それにも首を振る。ならばと、またしても今度はインコースのフォークのサインに首を振る。それは縦に振ったモノだった。

 

 

ククッ、ストンッ!!!!

 

 

「ストライィィィクッ!! バッターアウトォォォ!!!!」

 

『三振~~~~!!! この回マウンドに上がった丹波!! 2者連続三振でツーアウト!! 前日にあの横浦を抑えた勢いそのままに、素晴らしい投球を続けています』

 

『綺麗なフォームですねぇ。制球もよく、もっと見たかったかな』

 

 

最後の打者も、

 

ズバァァァァンッッ!!!

 

最後もいいコースに決まったストレート。腕の振りも、制球力も、伸びも違う。去年の秋に比べても、格段に成長した丹波のストレート。

 

―――――ホント、俺は見る目がないなぁ。

 

この感触を感じながら、御幸はしみじみと思うのだった。

 

 

『最後はストレート~~~~~!!!!! 島村手が出ない!! この回3者連続三振で、素晴らしい投球の丹波!! この勢いを攻撃に見せられるか!!!』

 

 

「この回大事だぞ。相手はリードしている立場になり、構えてくるだろう。柿崎も球数は優に100球を超えている。それから―――」

 

 

 

 

『さぁ、守備でいい流れを生んだ青道高校の攻撃!! キャッチャー御幸、ここで出塁できるか?』

 

 

バッターボックスに立つ御幸は、悔しさでいっぱいだった。

 

――――何やってんだよ、俺は。

 

後輩に心配をかけて、丹波先輩にも心配されるほど、自分は怖気づいていた。この大舞台を前に、楽しむ余裕もなく、情けない姿を見せてしまった。

 

 

――――ストレートは高め、低目は掬い上げる。コースに逆らわずに―――

 

カキィィィンッッ!!

 

 

3球目のカーブを掬い上げた。

 

 

『落ちました!! 先頭バッター出塁!! 無死一塁!! 食らいつきます、青道高校!!!』

 

 

――――あんな御幸の姿、初めて見たな。

 

何かに狼狽えているような姿、不安にかられた彼の姿は、やはりいつも見ている者にとってみれば、信じられないものだった。

 

 

――――だがよ、いっつも平静な奴はいない。アイツも人間だっただけじゃねェか

 

それが悪いことだとは思わない。だからこそ、

 

 

コンっ

 

――――俺に出来ることをするだけだ!!

 

ここで、伊佐敷まさかの送りバント。

 

「ファースト!!」

上杉が指示を与え、一塁へと投げるよう言い放つ。

 

『これで一死二塁のチャンス!! ここで7番増子!!』

 

――――大塚ちゃん、沖田ちゃん、東条ちゃん――――沢村ちゃんがいたから、ここまで来れた。

 

 

だからこそ、この場面、1点差を追う8回の裏。

 

――――大きいのはもういらない。コンパクトに、もうだいぶ慣れてきた。

 

 

選球眼で、配球を読むのではない。すでに、読むまでもない。

 

 

カキィィィンッッ!!

 

「!!!」

柿崎のグローブの頭上、初球ストレートをコンパクトに弾き返し、センター前へ。

 

 

『ここで7番増子に初ヒット!! 一死一塁三塁!! ここでバッターは白洲!!』

 

 

しかし――――――

 

 

「ストライクッ!! バッターアウトォォォ!!」

 

『見逃し三振~~~~!!白洲手が出ない!! 最後はインコースカーブにのけ反った!!』

 

左打者に対しての、左のカーブ。いわば丹波の逆バージョン。白洲と言えど、バットを出すことも出来なかった。

 

続く9番丹波。ここで本来なら代打を送りたい青道。だが、もうかえの投手は存在しない。

 

いや、伊佐敷と東条を使えないのだ。

 

 

 

 

ドクンっ

 

「!?」

心臓が妙に鳴った気がした丹波、打席に立つだけで、何か妙なざわつきを感じた。

 

ズバァァァンッっ!!

 

「ストライクっ!!」

 

 

――――――――インコースを攻めず、アウトコース中心で、行くぞ

 

続くスライダーはボールになり、1ボール1ストライクから3球目。

 

 

ククッ、ストンッ

 

「ストライクツーッ!!」

フォークに手が出てしまう丹波。やはり、投手にはこの好投手の相手は荷が重すぎたのか。

 

『空振り~~~!! 追い込んだ柿崎!!』

 

 

そして――――

 

『空振り三振~~~~!! スリーアウト!! この回チャンスを作りましたが柿崎が踏ん張りました!! さぁ、続く丹波切り替えることが出来るか?』

 

 

 

一方、市大三高では――――

 

「――――これは、不味いな。」

大前は、このチャンスで代打を出し切れなかった青道の敗色が濃厚であることを悟る。

 

「ああ。大塚と降谷がいれば、代打は出せた。だが―――」

真中は、少し違うと前置きしたうえで、

 

「やはり、川上が被弾した時のリードが、この試合のターニングポイントだったな」

 

真中が疑問視した問題のリード。御幸の明らかなミス。一瞬の隙を突かれたのだ。

 

 

「まあ、アイツらも初めての甲子園で、よく頑張った方だな」

チームメイトも、青道がここまで戦力がすり減りながらも勝ち上がったことは称賛に値すると考えていた。

 

 

 

 

 

そして、9回表、

 

「―――――――っ!」

あの好機で凡退してしまった丹波は、より強い気持ちでマウンドに立ち、

 

 

カァァァンッッ!!

 

「ショートっ!!」

ショート方面に転がった打球を沖田が素早く捕球、その瞬間に送球というスピーディーなプレーを見せつける。

 

守備で盛り立てるために、沖田は出来ることをする。

 

カァァァンッッ!! 

 

「セカンッ!!」

 

低め低めの投球で、今度はテンポよく打たせて取る投球。先発としての引き出しが多い丹波。打たせて取る投球で、打順が回る沖田、小湊に程よい刺激を与える。

 

 

最後に――――

 

 

4番垣屋との対決。

 

――――これが、人生最後の甲子園―――――

 

やはり力が入る丹波。

 

 

 

ズバァァァンッっ!!

 

『144キロを計測しました。恐らく自己ベストでしょう。しかし丹波はいいですね。』

 

 

『そうですね。カーブとフォーク、ストレートのコンビネーションに加え、制球力がありますからね』

 

 

続く二球目、

 

ククッ、フワワッッッ!!

 

「ストライクツーっ!!」

 

 

カーブに手が出ない垣屋。これであっさりと追い込んだ丹波。

 

――――ラストは――――

 

ズバァァァンッっ!!!

 

『最後はストレート!!!! 見逃し三振~~~~!!! この9回表、丹波が意地を見せる!! この回も三者凡退!! さあ、いよいよ春夏連覇に向け、光南の柿崎がマウンドに向かいます!!』

 

 

甲子園宿舎にて、この決勝を見守る光陵高校―――――

 

 

「しかし、この柿崎なら打てていたかな――――」

木村は、苦笑い。たが、青道と同じように中盤は打てなくなるだろうと考えていた。

 

「勝てば、あそこに立てたのかぁ―――」

成瀬は、親友との再会は、もう少し先になる事を口惜しそうに感じている。甲子園の舞台で、再会を果たしたかった。

 

「とりあえず、最後の攻撃を見届けてやろうぜ」

山田は、この9回裏で勝負が決まることを悟っていた。延長はない。青道が勝つには、サヨナラしかない。

 

 

 

横浦では、

 

「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい!!! こっちは乱調スロースターター持ちの背番号1に、スタミナなしの即戦力ルーキーコンビ。なんだあれ? 完投能力のある大塚に、QSぐらいは行ける沢村、リリーバーの降谷、中継ぎ、抑え、先発もイケる川上。そしてエース丹波!! あの投手力で俺達捕手が盛り立てなきゃどうするよ!!」

野球に関する羨望の眼差しを向ける黒羽。血涙を流しながらうらやましがる。

 

 

彼の事を託せるか、それが少し不安になった。

 

 

「まあ、そういうなよ。俺も、スタミナ不足で同じようなもんだし。お前におんぶに抱っこだ。てか、解ってるんだからあんまり言わないでくれ――――秋は死ぬほど走るから―――」

辻原は、そんな風に黒羽を宥める。完全な選手が早々いるわけがない。そんな選手はプロにもいないのだから。

 

「せめて4イニングはもってくれ――――マジで投手のリードも限られてくるんだからな」

 

「完投して「6失点は許さない」もうその件忘れてたと―――」

 

1年生たちが騒いでいる中、

 

 

「大塚は怪我でいないのに、青道の投手陣はかなりレベルが高いな。だからこそ、あの被弾はいただけない。」

岡本は、打たれたとはいえ、沢村と川上のポテンシャルを認めていた。彼らのような個性豊かな投手陣を擁しながら、だらしのないリードを一瞬でも見せた御幸がどことなく気に入らない。とはいっても、2年生にそこまでを求めるのは酷だというのは理解している。

 

 

 

「けど、あの外一辺倒の攻めは、我慢なりませんよ。相手を抑えようとするのではなく、逃げているだけのリード。」

 

そこへ、辻原を大人しくさせた黒羽が話に入ってきた。

 

 

「捕手として、何か感じるものがあるのだろう。だが、その辺にしておけ、金一」

坂田久遠が彼らを諌める。

 

 

「まあ、丹波投手は正直格が違った。ハートの強い投手だったし、引っ張られていたんじゃね、あの捕手は」

この大会は主に強打の2番を務めた乙坂は、大塚和正のサイン入りボールを片手に戦況を眺め、御幸の逃げ腰リードの要因を察した。

 

怖いもの知らずだった有望な捕手のリードが保守的になる。よくあることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『9回裏、1番の東条から始まる青道高校の攻撃!! マウンド上の柿崎、完投をめざし、優勝のマウンドへ!!』

 

 

柿崎っ!! 柿崎っ!! 

 

 

まるで、琉球のエースを盛り立てるかのように、光南応援席から大きな声が出る。ハイサーの歌も織り交ぜられ、最早テンションが次元を突破しているような状態。

 

 

 

そして、打席の入る東条は―――

 

 

――――ランナーを溜めて、沖田に回せば勝てる―――

 

何が何でもという気持ちが強い。

 

 

ズバァァンッっ!

 

「ストライィィクっ!!」

 

そして、やはり球速はかなり落ちていた。143キロにまでストレートが衰えていたのだ。

 

――――ハァ、ハァ、7回、飛ばし過ぎたか―――

 

 

ここにきて、覚醒の副作用が柿崎を襲う。今までの実力以上のモノを発揮した柿崎。だが、やはり2年生には重荷だった。

 

 

――――積極的に撃つッ

 

ドゴォォォォンッッッ!!!

 

 

しかし、先程の143キロで危機感を感じた柿崎がここでまた一段とギアを入れてきたのだ。唸りを上げる剛速球が蘇る。

 

「――――まだ、こんなに――――っ」

 

思わずそう言いたくなるようなタフネス。前日に完投した投手とは思えない。

 

『9回130球を超えて!! ここで148!!! 凄いタフネスですね!!』

 

 

『そうですね。最後のひと踏ん張り、頑張ってもらいたいですね』

 

 

――――おいこんだ。ストライクはいらない。低めに当てると言うなら――――

 

 

上杉が選択したボールは、

 

 

『空振り三振~~~~!! 一死!! 春夏連覇まで、後アウト二つ!! マウンド上の柿崎!!』

 

最後はフォークボール。コースに決まったこの変化球にバットが止まらなかった。

 

 

「―――――っ」

握りしめる拳が、一段と強くなる大塚。仲間が、アウトになる光景、いやそうではない。

 

 

自分のいないチームが、自分がいたチームが、負ける光景を見たくないだけなのだろう。

 

――――やめろ――――

 

「――――ちゃんと見ろ。悔しいのは解る。けどまだ勝負は終わってない―――!!」

 

――――俺達の仲間なんだぞ。

 

金丸が、目を伏せがちな大塚に声をかける。いや、これはもう喝に近いものだ。

 

 

「――――ああ」

 

 

 

 

 

「兄貴―――――」

ベンチに既に下がった小湊。当然何もすることが出来ない。だが、彼が出たところで、柿崎からヒットを打てるとは思えない。

 

 

ズバァァァンッっ!!!

 

唸りを上げるストレートが蘇っていた。手が出ない小湊。柿崎は、この9回で勝負を決めるために、全ての力を振り絞っていた。

 

 

「ストライィィィクッ!!」

 

 

――――頑張れ、則春!! あとアウト二つだ!!

 

そして、続くボールは――――

 

 

カァァァンッッ!!

 

「ファウルボールっ!!」

かろうじてバットに当てた、というより、振らされてしまったスライダー。これで追い込まれた小湊。

 

――――まだ、終われない!! まだっ

 

 

――――食らいつく気満々だな、後はワンバウンドでもいい。

 

 

「ボールっ!!」

ワンバウンドのフォーク。カウント的に有利な柿崎は無理をしない。小湊は相手が優位に立っていることを感じ取れる一球と見て取った。

 

―――後は、球威でねじ伏せろ。低めのツーシーム。打たせていけ

 

 

――――球威が一段と―――

 

そして4球目のツーシームに詰まらされ、小湊はショートゴロ。これでツーアウト。

 

『ツーアウト!! これでツーアウトです!! 9回二死!! 春夏連覇に向け、後アウト一つです!! そして3番沖田を迎えます。』

 

 

ついにあとアウト一つにまで追い込まれた青道高校。ここでつなげられるか、それとも終わるのか。

 

 

ネクストバッターサークルから打席に向かう沖田に、気負いはなかった。

 

 


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