あと、オコエ選手がすごい。なんだアレ・・・・
準決勝の後、青道に衝撃が走る。
―――――エース大塚と、1年生降谷が離脱。
意識が朦朧とする降谷は救急搬送され、大塚はそのまま病院へ向かい、治療が開始された。
「――――――――――」
救急車に運び込まれた降谷の姿を見送る事しか出来なかった沢村。同期のライバルたちが同時に離脱。今まで共に切磋琢磨していた仲間の今の姿は、彼には重過ぎた。
甲子園球場は騒然としていた。球児二人が試合終了直後に病院搬送。決勝を目前に有望株の事実は、マスコミにも注目された。
―――――球児が真夏の甲子園で倒れる。
―――――青道高校の責任問題
あることないことを次々と記事が生まれる。その矛先は、片岡監督へと最終的に向けられることになった。
―――――天才、大塚栄治が負傷した理由については不明。原因は不明。
事実関係が明らかにならない中、青道高校への風当たりはきついものだった。甲子園ファンは、都合のいい憶測に耳を傾け、大塚が壊れたのは何か他の理由があるのではないかと考えた。厳しい練習による疲労、昔の指導の非効率さ、登板間隔をあけていたにもかかわらず、彼は壊れたのだ。
だが、珍しく高野連が動き、騒動はすぐに収まった、とは言えないが、決勝まではあまり積極的な報道を避けることをメディアに働きかけた。
準決勝第2試合。
試合は、強打を誇る光南が6回まで零封という、光陵の善戦、成瀬の好投から始まった。
だが―――――
『試合終了~~~!!!!! 何と柿崎!! この準決勝、強豪光陵を相手にノーヒットノーラン達成!!! 16奪三振でシャットアウト!!!』
光陵高校は、誰一人として、彼の前にヒットを打てるものがいなかった。1-0。8回1失点と好投した成瀬は援護がなく、広島の名門は琉球の旋風に飲み込まれた。
柿崎がすべて。柿崎を前に、光陵は攻略することが出来なかった。
映像の奥では、柿崎がやや疲れた表情を見せていた。まさに一杯一杯の表情。
大会期間中はカッター、ツーシームの調子が悪い柿崎。敢えてフォーシーム中心の投球。伸びのあるまっすぐを軸に、スライダー、フォーク、カーブでカウントを整える。
広島の選手たちは思うように狙い球を絞れず、柿崎が選択する高水準の球を仕留められなかった。
8回にフォアボールを二つ出したが、このピンチにストレートは最速150キロを計測。ピンチで連続三振を奪い、同点、逆転のピンチをしのいだ。
その後、最後の力を振り絞るように柿崎の力投。
ねじ伏せたのだ。
134球の快投だった。
「―――――――――――っ」
そして、その勝利の余韻の裏に、成瀬の涙があった。1年生で王者相手に8回1失点。死力を尽くしたが、柿崎の投球の前では全てが霞んでしまう。
そんな成瀬の右肩を、1年年上の木村がポンポンと叩く。この敗戦は彼だけモノではない。光陵の力が、光南に届かなかった、それだけだ。
しかし、光南はここにきて主軸の調子が悪化。準々決勝でも柿崎以外の投手陣が撃ち込まれ、接戦の勝負が見られたのだ。相手が一年生最高の左腕、成瀬であっても、この打撃陣の不調は深刻だった。
そして、光南はこのエースを、決勝を目前に完投を求めることしか出来なかった。他の投手では間違いなく敗退していただろう。
対する青道は、弱点が露呈したとはいえ、沢村を温存した万全の体勢。後ろには横浦戦で好投した丹波、打たれはしたが、これまでの安定感が際立つ川上がいる。
疲労によるコンディションの崩れは最小限に抑えられる。
だが、世間は完全に光南の春夏連覇を応援していた。2度目の春夏連覇、青道の二人の有望選手の離脱が重なり、甲子園球場は完全に青道にとってアウェーの場となった。
激戦が終わり、夕方。
「―――――降谷、君は………」
大塚は、隣でぐっすりと寝ている降谷を見て、沈痛な顔をしていた。ここは兵庫の病院。大塚は甲子園終了後に東京の病院へと移動することになり、怪我もそれほど大きくはない。
だが、彼は死の危険性すらあった。当然の絶対安静だった。
コンコン、
「どうぞ」
入ってきたのは、吉川だった。
「―――――大塚君、怪我は……それに降谷君は――――」
赤くはれた目をしている彼女を前に、大塚は目線を少し外した。
「大丈夫、ぐっすり寝ているよ。」
出来るだけ平静を装って答える大塚。
「――――どうして?」
震えた声で、彼女は彼に尋ねる。彼女は大塚を見て信じられないものでも見ているような、ショックを受けた顔をしていた。
大塚は、その理由が解らなかった。
「? どうしたんだい、吉川さん?」
その言葉が、引き金だった。
「どうして、そんなに冷静なの!? なんで!? なんでぇ!?」
大塚に訴える吉川。動じていない大塚を理解できないことが苦しい。尊敬していた、憧れていたからこそ、彼のそんな姿にショックを受けているのだ。
「――――――俺はアイツじゃない。本当は、降谷が一番苦しいんだ。悔しいんだ。俺が冷静でいないと」
大塚はそれを、降谷に対する態度だと考えた大塚。彼が倒れたというのに、大塚が冷静であること、あまり心配している様子に見えなかったことだと結論づけたのだ。
かみ合わない
「なんで!? どうして自分の事をあまり考えていないの!? なんで!? 決勝戦だよ!! 決勝戦まで来たんだよ!!! なのに!!!」
「俺の力が、運も含めて足りなかった。出来ない、登板できないのは―――そういう事なんだろう」
振り絞るように、大塚は最期の言葉を言い切った。
大塚は、予選4回戦のあのプレーをする覚悟を決めていた時から、自分の初めての夏がいずれこうなる事を予期していたのかもしれない。最後まで、夢を見ることが出来ない未来が来るかもしれないと。
――――道を選ぶってことは、他の道を捨てるってことなんだろうね。
だから今、自分は彼女を傷つけている。彼女を悲しませている。
「ごめんね、幻滅したかな? 俺も必死なんだ。理想が遠すぎて、毎日その壁を前にすると、普通ではダメなんだって。」
動じないメンタル、それが必要だと彼は考えていた。だが毎日彼は動揺していた。
その巨大な壁を前に、彼は揺れていた。
「人から見れば、普通じゃない。けど、そうじゃないと、追い付ける気がしない。気にするなとは言っても、俺にとっての父親は、彼だけだから。」
「毎日が必死なんだよ。休むことがトレーニングとはいっても、何かをしていなきゃ、何かを変えないと、何かをしないと。不安なんだ。」
誰もが、自分を大塚和正の息子だとみている。世界最高峰の野球選手の息子。そして彼はその長男。周囲からの期待は大きい。そして、彼の姿を見ていると、こうも思ってしまう。
――――父の記録に迫れる選手にならないと、失敗ではないのかと。
「だから、何か一つ。何か一つでもいいから、父さんに勝るモノが欲しかった。けど、それだけじゃない」
甲子園の栄冠。父が果たせなかった栄誉を何としても取りたかった。和正の全盛期を見続けたからこそ解る。
そんな思考に支配され、自分のエゴもあった。しかし、大塚には眩しかったものがあった。
「尊敬できる先輩に、栄冠を届けたかった。」
丹波の力投を見て、いてもたってもいられなかった。あの人のようなエースになりたいと。
「このチームで、最後まで―――――」
共に戦いたかった。
欲張った末の、自壊だった。
「――――――――――――――――」
吉川は、全てを察した。大塚が見据えている、大きすぎる壁。それはどこまでも大塚に近く、彼にとっては最も偉大な人物であると。
それが解ってしまったからこそ、
「―――――私、明日は大塚君と試合を見る!!」
彼女は決意した。彼は、とても危うい。大塚は、誰よりも先にいる。それは彼の努力とセンスもあると思っていた。だがそれは違った。
――――大塚君は、お父さんに追い付く為に、普通でいられなかったんだ………
本当の怪物、大塚和正を前に、天才はすでに挫折を経験していた。気が遠くなるような大記録、誰もが認める金字塔。それに挑もうとしているのだ。
何度、現実を思い知らされたことか。何度、諦めたくなることがあったか。300勝の壁。5000奪三振。途方もない、大記録。
「――――いや、ちゃんと部として試合を見るべきだ」
マネージャーと選手が必要以上に距離が狭まるのはよくない。何よりも片岡監督もあまりいい顔をしないだろう。
誰かに甘えたい、そんな思いもないわけではない。
だが、栄治はそのことを言わない。言えば楽になるかもしれない。だが、それは甘え。誰かに同情されるために、そんなことを言いたくない。
それがあまりに不恰好で、情けないと考えてしまった。
「ううん。部として、マネージャーとして、大塚君を見なきゃいけないって、解ったもん。大塚君の事、目を離さないからね」
その時、大塚の心に何かが通った。彼自身が自覚していない何かが通ったのだが、彼は理解することがなく、そのままその何かは消えていった。
「女の子にここまでいわせる、情けないピッチャーだけど――――いいのかな?」
言いたいことがないわけではない。しかし、彼女の言葉に縋ることにした大塚。
大塚は気づかない。大塚栄治という選手を気遣っているだけではない吉川の言葉に。
気づこうともしない。
気づかないまま、大塚は今年の夏を振り返る。
――――あの時も、そして今も
大塚がエースとして覚醒する最後のピース。努力や、精神力、天運、才能がすべてではない。
本当のエースになるために必要なのは―――――
―――――――仲間を信頼すること。当たり前の事なのに。
だが、それが今は遠い。今こうして、迷惑をかけているこの時でさえ、彼は自分と仲間に大きな違いがあることを意識していた。
決して自惚れではない。自分は、普通の高校球児ではない。自分は場違いではないかと考えてもいた。自分が投げれば勝てると思っていた。
今年の高校野球で最高と言われる坂田久遠との勝負は、
楽しかった。あの緊張感は、とても良かった。
打たれるかしれない、そんなことを少しだけ考えていた。しかし、自分は追い詰められた感覚がなかった。
ネガティブなイメージをするぐらいなら、やれることをしようと思っただけなのだ。
――――打てるものなら、打ってみろと。
それしか出来ないから、それをやるだけなのだ。
投手向きのメンタル。投手として必要な資質を兼ね備えている。それは実力、精神面でのこの充実ぶりが物語っている。
だが、彼は求めていた最後のピースが近くにあったことを知らなかった。
―――――昔は出来たのに、何で出来なくなったんだろう。
それが虚しくて仕方なかった。そんな自分が醜くて、仕方ない。
――――本当に、どうかしているな、俺は。
そして、息子が負傷したことについて、彼の目標でもある父親、大塚和正にもそれは届いた。
「あのバカ野郎―――」
思わず頭をおさえた和正。怪我を押して出ることで、選手生命が失われる危険性すらある。そうでなくても、故障体質は本当に長い戦いが必要になる。
「――――息子さんは、きっと―――」
同僚であり、ライバルでもある梅木祐樹は、和正に声をかける。彼も大人だ。栄治が何に悩み、何を考えているのかが分かる。
「俺の所為、なのかな? 俺が父親だから、背負いすぎたのかな――――」
もし大塚栄治が大塚和正の息子ではなかったら。
もしそうなら、才能の溢れた彼は――――
「バカなことを言うな。アイツは、お前の息子だから、ここまで来たんだ。」
梅木はそんなライバルの弱気な発言を咎める。
「栄治君は、確かにお前の残したものを前に、気負っている。だが、それを不幸かどうかを決めるのは、お前じゃない」
「何よりアイツは、お前の息子だ。それにまだわからないぞ」
梅木は、ライバルを前に笑う。
「もしかしたら、お前の成績を超えるかもしれないんだからな」
その海の向こうでは――――――
「大塚ジュニアが、怪我をしたのか」
かつての同僚、マッケロー・ウィリアムスが日本のインターネットサイトで彼の息子が怪我をしたことを知る。
嘗てアスレチックスの捕手として名をはせた彼もすでに引退。現在はコメンテーターとしてメジャーリーグの解説に呼ばれることもある。アスレチックス野球の申し子として、他球団からのコーチ打診もあるが、コーチになる気はないようだ。
「パパ!? エイジがどうしたの!?」
そこへ、彼の長女でもあるサラは、かつてのボーイフレンドに不幸が起こったことを聞いて顔色を悪くする。
現在20歳のサラ・ウィリアムス。アメリカのA州立大学を卒業間近、若い時に経験を積みたいという事で、スポーツ関係の仕事につこうと考えているのだが、日本語も堪能なので日本での道も視野に入れている。
弟分のエイジの事をずっと気にかけており、今回の事で、より日本への目が強くなるだろう。
彼だけではない。日本の高校球児の怪我率。その過酷な環境。
無論アメリカでも中4日議論がなされており、日本のシステムを一概に悪く言うことは出来ない。だが、アマチュアの選手に対するあの日程はあまりにも酷だ。
「ああ。どうやら、右の5本目の肋骨にダメージがあったようだ。骨折までは至らなかったが、あれでは満足のいく投球は出来んだろう。それが“普通”だ。」
怪我の原因は、あのフォームだろう。マッケローは瞬時にそこに目が行った。
動画サイトで彼の投球フォームを見た。彼が父親と同じく複数のフォームを持っていることも解った。だが、まだアマチュア、体が出来ていない高校生に、フォームチェンジはかなりの負荷がかかる。
さらに、問題なのは縦のフォームだ。SFFとストレート系を投げる際は、爆発的な力を発揮するフォーム。体に軸が出来ているのはいいが、大塚の腰の回転が良すぎるのだ。
身体を軸にして投げられるのは、投手として褒められるべきスキルだ。むしろこの年齢でそれを会得できているセンスがまずおかしい。末端ではなく、体の中心が出来ているのだ。
さらに、その体が出来てからできるはずのスキルを行使し続け、腰の回転がいい事で、球のキレも生まれる。その捻りに、大塚の体が追い付かなかったのだ。
――――だが、あの登板間隔で、あそこまで酷くなるはずはない。
試合中、もしくは練習中の些細な怪我が原因なのだろう。
しかし、たった一打席とはいえ、93マイルに迫る速球を何度も投げるポテンシャルは、彼が父親同様に、他とは一線を画す実力であることは間違いない。
―――――もしかすれば、素材だけならカズを超えているかもしれない。
「そんな―――エイジ、また無茶をしたのかしら―――アメリカでも、焦ったままだったもん。」
エイジのいたチームでも、彼のトレーニングが過酷であることをたびたび指摘されていた。その練習の多さを矯正し、休むこともトレーニングであることを諭したのがサラだった。
「エイジが心配。なんだかとても。日本に早く行かないと」
サラは、日本での仕事を考えた。まず考えるのは横浜ビースターズ。あそこには、大塚和正もいるし、上手く運べばホームステイのような形で上手くいくかもしれないと。
これは、栄治には内密で、4月から相談をしていた事案でもある。横浜も、スポーツ医学の権威と言われた大学を卒業した彼女を招きたいと考えていたのだ。
来シーズンから、正確には年明けからスタートするのだが、先に引っ越しを済ませようという事だ。
「――――それよりも、東京への引っ越しが先だ。まさか私を海外スカウトとして誘ってくるとはね」
そして、アスレチックスの頭脳とまで言われたマッケローにも、バッテリーコーチの打診、もしくは海外スカウトの打診が来たのだ。
「私の案件は、まだまだ時間がかかるからな。アメリカで仕事もある。簡単には決められん。だが、若いお前ならすぐに行動出来るだろう。」
「パパ……」
「先にJapanを堪能していきなさい。カズの生まれ故郷だ。」
「はいっ!! 日本についたら連絡するわ!!」
そして場面は戻って、日本。
「久しぶりだね、自分のチームを応援する側にいるのは。」
甲子園の応援席で、大塚は青道の応援をしていた。
「大塚――――」
金丸も、黄昏たように覇気がない大塚に何も言葉をかけることが出来ない。それは他のメンバーも同じで、
「大塚君ならすぐに戻れますよ! 今は、沢村君の応援です!!」
彼の隣にいる吉川がとても眩しく見えた。
1番右 東条 右 1番左 島村 遊
2番左 小湊 二 2番左 布施 中
3番右 沖田 遊 3番右 南野 三
4番右 結城 一 4番左 垣屋 左
5番左 御幸 捕 5番右 巌 右
6番右 伊佐敷 中 6番左 権藤 一
7番右 増子 三 7番右 上杉 捕
8番左 白洲 左 8番左 柿崎 投
9番左 沢村 投 9番右 沼倉 二
『さぁ、ついにこの時を迎えました。決勝戦、西東京代表、青道高校対沖縄代表、光南高校。2試合連続先発、前日はノーヒットノーランを達成した柿崎に対し、青道高校は沢村を先発に据えました。』
『1年生成瀬に投げ勝ち、この最後の決勝戦でも1年生の左腕との対決。光南としては同じ左腕が続けて相手となる事で、慣れもあるかもしれませんね。しかし、沢村君もとにかく球持ちがいいので、序盤はかなり苦労すると思いますよ』
まず、先攻めの光南高校。ここ2試合は不調だが、横浦に迫る打線を誇る。だが、春夏連覇のプレッシャーからか、ナイン全員の顔は固い。
1番島村を迎える沢村。今日の試合にかける思いは強い。
――――勝手に、勝手にいなくなるんじゃねェよ!!!
ベンチにいない二人を認識し、沢村は歯噛みする。何もできない、やり場のない負の感情が渦巻く。
ズバァァァァンッッ!!
「!!(これが、沢村のストレートか!!)」
球持ちのいいフォーシームを中心とした、テンポのいい投球。1ボール2ストライクとストレートで追い込み、
――――高速パームだ。けりをつけるぞ
御幸が明確な意思を沢村に伝える。まず最初の打者をねじ伏せろと。
「なッ!? チェンジアップっ!!」
高速パームをチェンジアップと誤認し、タイミングを外される。やはり、ランダム変化するこのボールは、気紛れだ。
その後、初回は光南に固さがあり、沢村が簡単に三者凡退に抑える。
『最後力のない打球!! ショート沖田が取りました!! 1年生沢村、上々の立ち上がりです!』
甲子園観客席にて、
「栄純がまさか決勝の舞台に投げるなんて――――」
長野からはるばる甲子園球場にやってきた長野組。昔馴染みの友人たちが
「栄ちゃん、大丈夫かな……」
「大丈夫だって!! 栄ちゃんはこれまで何度も何度も抑えてきたんだ!!」
「でも――――」
彼らは、4回戦の乱調が頭をよぎっていた。
1回の裏、調子の上がらない柿崎を攻めたてる青道高校。
先頭打者は、東条。
ズバァァッァンッっ!!
143キロのストレートが内角に決まりカウントを奪われる。しかし東条は、体の開きがやや早い柿崎の球筋を冷静に見ていた。
カキィィィンッッッ!!!
『痛烈~~~~!!!! 打球ライトへ!! 伸びる伸びていく~~~~!!!』
東条が外角のスライダーを弾き返し、ライトへと痛烈な打球を飛ばす。ライト巌は追い付かない。
『抜けた~~~~!!! 打球右中間真っ二つ!! 打った東条は二塁を―――いや、二塁蹴る!!』
打球処理を見て、東条はスピードを落とさずに三塁を狙う。外野からの返球は間に合わない。
『先頭打者の東条がいきなりスリーベースヒット!! いきなり無死三塁のチャンスを作る青道高校!!』
「っし!! 頼みます、先輩っ!!」
三塁ベースでガッツポーズを作る東条。厳しい表情の柿崎。度重なる連投の影響が、ここにきて響いている。
2番小湊、ここはいやらしい打撃で柿崎に襲い掛かる。
――――春の覇者、でも打たせてもらうよ?
逆球が多く、映像で見たようなキレがない。小湊は、甘く入ったツーシームを逆らわずにセンター方向に飛ばす。
『ピッチャー返し!! 打球捕れないッ!! それを見た東条は自重! 帰塁するそぶりを見せ、動かない!!』
そして、東条の動きに気を取られた柿崎は、小湊をアウトにすることが出来なかった。
『投げられない~~~!!!! チャンス拡大の青道高校!! ここで、3番ショートの沖田!! 今大会はハイアベレージを残しています!!』
『ランナーを溜めて一番勝負したくない打者ですからね。広角に打ち分けるばかりか、逆方向への強い打球が多いですからね』
「いっけぇぇぇ、お兄ちゃん~~~~!!!」
「お兄ちゃん~~~~!!!!」
青道応援席から、沖田へのかなり特徴的な応援の声が聞こえた。それを聞いた彼はフッ、と笑う。
――――応援に来ている家族の為にも
そして、同じく応援席にいるであろう盟友の為に、
―――――大塚の為に!!
柿崎は苦しい表情。やはり、思うような投球が出来ていない。それが見て取れるが、沖田はそれに対して、
――――決勝の舞台、何が何でも勝つ。万全ではないのはこちらも同じだ。
こちらには大塚がいないのだ。ベンチにいない盟友に捧げる―――――
ガキィィィィィィンッッッッッ!!!!!!
初球癖球で引っ掛けようとしたのだろう。ストライクから際どいボールになる低めのフォークを真芯で捉えた当たりは、センター方向へとライナーで飛翔していく。
フォークは捉えられた際によく飛んでしまう弱点がある。
柿崎は大会中自信のあった変化球を仕留められたことで、動揺を隠し切れない。
――――そんなコースにまで、
とどくのか。そんな彼のつぶやきを一閃する素晴らしい当たり。
『打ったァァァ~~~~!!! センターバックする、バックする!!! 打球伸びる!!』
マウンドで、顔をしかめる柿崎。打球は惜しくもフェンスオーバーとはならなかったが、
ダンッ!!
センターへのホームランかと思われるほど豪快な一撃。センターが打球に抜かれ、打球処理に手間取る。
『三塁ランナー東条ホームイン!! 一塁ランナーも三塁を蹴る!! 打った沖田は二塁へ!!』
足の状態が万全の小湊。走塁に問題はなく、三塁を蹴り、本塁を目指す。
「ちっ!!!」
ライト巌がカバーに入り、鋭い返球で中継プレー。ショート島村が送球を受け継ぎ、
「くそっ!!!」
バックホームするが、
『タッチは、セーフ!! セーフっ!!! 青道先制!! 琉球の夢を阻む、沖田の2点タイムリーツーベース!! 2-0!! 尚も無死二塁のチャンス!!』
さらに、ここで主砲の4番結城。
『さぁ、まだアウト一つが取れない柿崎!! ここで青道の主砲四番結城を迎えます!! 何とかアウトを早めに取りたい光南!!』
何もかもがかみ合いすぎている青道の流れ。ノーヒットノーランを達成した柿崎が不調。春夏連覇を阻む青道の猛攻が続く。
成瀬君は無援護属性持ち。被弾癖はないけど。
沢村君はどのくらい持つと思いますかねぇ(ゲス笑い)
丹波さんの連投も手でしたが、あえて彼に託しました。原作予選決勝も降谷だったし、あの監督ならやりかねない。