ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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お待たせしました。

2017年7月4日 2番青木を2番乙坂に変更しました


第68話 分岐点の先へ

青道対横浦、決勝をかけた一戦。

 

3回表一死二塁。ここでまたチャンスで御幸。以前は抑えられたが、この調子が中々上向かない投手を仕留めることが出来るか。

 

ここで追加点が取れれば、かなり大きい。

 

 

――――狙うのは初球。ファーストストライク。今奴の調子の良い球種は、スライダー、そしてストレート。

 

カーブは力みが取れず、フォークは浮いたり下に叩きつけられるなど、まだ安定していない。

 

――――スイングをコンパクトに、ミートする感覚で、

 

カキィィィィンッッッ!!!

 

 

『初球打ち~~~!! ライト前~~~!!! 二塁ランナー結城が三塁を蹴る!!』

 

 

「やらせるかよッ!!」

 

ライトの高木からの再三の好返球。ノーバウンドで低い弾道。レーザービームのような返球が、本塁に迫る。

 

ズバァァァンッっ!!

 

「!!!」

 

結城がスライディング体勢になった目の前で、黒羽がその返球を捕球。

 

「アウトォォォォぉ!!!」

当然判定はアウト。さらなる追加点を取れなかった青道高校。

 

「!!」

そして黒羽はこれに満足することなく、

 

「なっ!?」

二塁を陥れようと攻撃的な走塁をした御幸を、寸前でアウトに。素晴らしい判断で、チャンスメイクすら封じた。

 

 

 

「何やってんだあの人っ!!」

 

結果的に、4番のバットで追加点が取れたが、やはり悪い流れが出始めている。

 

 

対照的に丹波は一巡目をノーヒットに抑える。

 

『3回終わってまだ横浦がランナーを出せません!!』

 

『あのカーブが横浦の選手たちを食い止めていますね。右打者にはブラッシュボールに見えるでしょうねぇ』

 

 

『ここまで3回を投げ、被安打0、四死球なし、奪った三振は3つ! この丹波はどこまで横浦を抑え込めるのか!!』

 

4回表、伊佐敷がランナーに出るも、続く白洲が打ち上げ1死。小湊ファーストライナー

 

 

「げっ!!」

 

伊佐敷戻りきれずタッチアウト。

 

 

丹波の投球だけではどうにもならなくなりつつあるこの流れ。

 

 

そして4回の裏、2巡目の攻撃。先頭打者の高木――――

 

カキィィィィンッッッ!!

 

思い切りの良い打撃で、ボール球のカーブを強引に掬い上げ、外野に運ぶ。第1打席とは違って、初球から振り抜いてきた。

 

「なっ!?」

丹波としては、ボール球のカーブ。それを、強引にうちに来てヒットゾーンに運んだのだ。驚かないわけがない。

 

 

ついに火薬庫が火を噴き始めた。

 

 

 

 

2番センター乙坂。手堅く送りバントかと思われたが――――

 

―――まだバントの構えはない。ここで強硬策か

 

1ボール1ストライク。3球目。

 

「!?」

 

ここで、バントの構えを初めて見せた乙坂。それを見て前進する丹波。

 

「なっ!?」

今度は御幸が驚く。

 

乙坂が構えを再び変えてきたのだ。

 

乙坂はバントの構えからバスターに切り替え、一二塁間に空いた穴を狙い撃つヒットでチャンス拡大、横浦の流れが迫り来る。

 

 

 

「―――――ッ」

ここに来ての連打。不味い流れだと感じていた。片岡監督も、ブルペンで投手を準備させているが、間に合うかどうか。

 

無死一塁二塁で、3番サード岡本。

 

 

――――ランナーを溜めた状況で当たりたくなかった。けど、ここは腹を決めるしかない。

 

初球ストレートをアウトコースに、まずはここで打者の反応を見るしかない。

 

――――絶対に見逃すな、どんな挙動も、絶対に見つけ出す。

 

「ボールっ」

 

アウトコース、ストレートにやはり反応していた。しかし、カーブをここで投げるのは怖い。

 

―――どうする、2枚目捕手。

 

岡本は、追い込まれつつある青道の守りを担う、司令塔を見つめる。

 

――――どうする、ここで相手はストレートを待っていた素振りを見せた。

 

 

――――御幸、どうする?

 

 

――――アウトコースのストレート、もう一球続けます。際どいボール、外れてもいいです。外寄りにお願いします。

 

用心深く、そして大胆に。そうでなければ、この打者たちを抑えるのは難しい。

 

 

カキィィィィィンッッッッ!!!!

 

しかし、アウトコースに反応した岡本が流し打ち。打球がレフト方向へと伸び、

 

「なっ!」

 

「ファウルっ」

レフト切れてファウルボール。切れなければホームランボール。僅かに岡本の逆方向に押し出す感覚が狂ったのか、打球が僅かにスライスしたのだ。

 

――――これで1ボール1ストライク。これ以上ストレートはキツイ、か。

 

丹波も、今の打球を見て、厳しい表情。厳しいところに投げて、コントロールミスをした瞬間に試合が壊れる。

 

――――考えろ、相手を欺くために、何が出来るのか。何が出来ないのか。

 

「タイム、お願いします!!」

間を取ろう。相手にまず考える時間を与えて、駆け引きに持ち込む。

 

 

「丹波さん!! ボールはコースに来ていますし、今のところ、言うことはありません。あの連打は、守備の間と、珍妙な打法に惑わされましたが、まだ立て直しはききます」

 

――――そう、出来るだけ笑顔でいろ。捕手はまだこの状況で、強気でいられると見せつけろ。

 

 

岡本が打席から外れた場所で、こちらを凝視していた。相手の隙を付け込む、肉食動物のように、こちらの弱点を探る。

 

――――後は、度胸だ。

 

 

 

インコースのフォークボール。ここで、投げ切れば、後は抑えられる。岡本は狙い球を失い、打ち取れる。

 

――――ここで打たれるわけにはいかない。まだ3回。投手事情を考えれば、丹波さんに投げてもらうしかない。

 

 

――――まだ、あの捕手だけは侮れない。ここでインコースに来る可能性も。いや、1ボール1ストライクでそこまで無理をするか? カーブの線も消えていない。

 

 

「ふしっ!!」

 

丹波は意を決してセットポジションから投げ込む。インコースへの投球。

 

 

――――なっ! インコースっ!?

 

そして、反応が遅れた岡本は、何とかバットを出そうと、スイングをするが、

 

 

ククッ、ストンッ!!!

 

ここでさらに落ちる変化。岡本の目には、丹波のフォークが視界から消えかけていた。

 

ガァァンッっ!

 

ストレートをセンター方向へと弾き返そうとしていたのだろう。それがさらにボールが落ちたことで、当てに来た岡本。

 

 

ただ、さすがはドラフト候補。きっちりセンター方向へと転がしたが――――

 

「ショートっ!!!」

ショート倉持がセカンド春市に送球し、二塁フォースアウト。走りながらの捕球。目いっぱい腕を伸ばして掴み取った打球を春市に託す。

 

 

 

「セーフっ!!! セーフっ!!」

 

ここで、ショートゴロ。ゲッツーこそとれなかったが横浦の岡本を抑え込んだ。

 

 

『ここで痛恨の一打、岡本打てませんでした!! 一死一塁三塁へと変わります!!! いやぁぁ、丹波投手もよく投げ込みましたね。』

 

『ええ。この局面で制球を乱さずに、よく投げたと思います。』

 

そして、ここで4番打者の坂田久遠。

 

 

 

ワァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!

 

ここで第一打席とは比べ物にならない歓声。そして流れるチャンステーマ。

 

 

 

打て!! 打て!! 打て!! 打て!!

 

 

 

かっとばせぇぇぇぇ、久遠ッ!!!!

 

 

お前が決めてくれ~~~~~♪  久遠ッッ!!!

 

 

甲子園の大観衆が、得点圏での特大の一撃を期待する。

 

 

 

 

彼が得点圏で打席を迎えた時、この甲子園でまだ一度も抑えられていない。だからこそ、観客は坂田の大きい一発に期待する。

 

「打てよ~~~!! 坂田ぁぁぁ!!」

 

「早くあの天才を引きずり出せ!!」

 

「やっちまぇぇぇぇ!!!」

 

 

選手個人を名指しで挙げる応援。甲子園のスター選手にのみ、許される現象。

 

 

「――――――」

流石の丹波も、これには苦笑い。ここまで声援を味方につけるスラッガーとはまだ戦ったことはない。

 

 

「―――――こんなバッターと、しかも次は黒羽――――」

スタンドの金丸は、敬遠をした場合でも次は黒羽であることを恐れていた。頭をよぎるのは、舘が坂田を歩かせて黒羽に打たれたグランドスラム。

 

 

 

 

ベンチの大塚も、この状況でアドバイスできることは少ないことを痛感していた。

 

――――この打者相手に、小細工は通じない。真っ向勝負で抑えるしかありません。

 

けど、と大塚は思う。

 

――――ここでホームランなら、一気に流れが傾いてしまう。最高なのはゲッツーですが

 

 

登板が許されない彼は、見守るしかないのだ。

 

 

 

『さぁ、得点圏でこの男に回ってきました!! 坂田久遠!! これまで今大会の打率はなんと8割とんで9厘!! 21打席で17安打を誇ります!!しかもホームランは5本!! 』

 

『そして驚異的なのは、得点圏打率10割!! 6打数6安打11打点!! 内ホームラン2本!! さぁ、この超高校級のスラッガーを相手に、3年生エース丹波はどう立ち向かうのか!!』

 

 

『敬遠しても、文句は言えませんね。』

 

 

解説は敬遠を予測した。

 

 

そして御幸も同じ結論に達していた。この大観衆の声援がブーイングに変わるかもしれないが、今ここで丹波に潰れてもらっては困るのだ。

 

 

 

 

 

――――無理をして、相手の主軸と勝負する必要はない。

 

 

立ち上がろうとした御幸だが、

 

 

――――丹波さん?

 

丹波は首を横に振る。敬遠に納得できていなかったのだ。

 

「タ、タイムっ!!」

御幸は、ここで坂田と勝負をする必要はないと考えていた。黒羽なら打ち取れる確率が高くなる。ランナーを溜めるが、それでも無得点で抑えるには―――

 

 

「御幸。確かに、普通ならこの状況。勝負しないのが正しいだろう。だが、俺は不用意にランナーを溜めるのが、奴らの一番の狙いだと思う。」

丹波は、これまでの試合を見て、チャンスでの勝負強さに目を引いていたが、その前にランナーを溜めることにおいて、横浦はすぐれていることに気づいていた。

 

――――圧倒的な3番4番がいる所為で、他の打者にチャンスで回りやすい。

 

そして、他の打者も、並の打者ではないことも知っている。

 

「!!!」

御幸の脳裏には、坂田を敬遠し、満塁ホームランを打たれた舘の姿が浮かんだ。

 

 

 

逃げて逃げ道を失った彼が打ち崩された。だからこそ、

 

 

丹波はあえて罠に見える逃げ道を、自ら断ったのだ。

 

 

 

これまでの彼ならば、敬遠に従うだろう。だが、それが相手の思惑であることを見透かした彼は、

 

 

 

揺るがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「甲子園に来てから、いや、予選でも背負いすぎだ。ここは俺の責任。俺の投球だ、俺が責任を持つ」

強い決意で臨む丹波。

 

 

御幸の目の前には、青道のエースが立っていたのだ。

 

 

才能と実力を兼ね備えた、大塚栄治が至ることが出来ていない、エースの条件を十二分に見せつけていた。

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

御幸は衝撃を受けた。

 

 

丹波の言葉からは覚悟が感じられた。自分の投球に集中し、度胸も感じた。精神面で最近強くなったと。

 

 

 

ここはもう、自分も腹を括るしかないと。

 

 

 

 

 

――――ホント、凄いわ。3年生って。

 

「ちょっと珍しく弱気になってました。けど、厳しいコースを要求するんで、お願いします。」

 

そして、ホームベースへと戻る御幸。その背中は、先輩に後押しされたのか、決して弱々しくない。

 

 

「ふっ」

その背中を見守る丹波。

 

 

 

性格が悪そうに見えて、本当は性格がいい。チームの為に、勝つことに貪欲な姿勢。

 

 

 

「お前はそれでいい。お前が、青道を引っ張るんだ」

その背中を見て、丹波は投手ではなく、青道の新時代の柱は彼であると見出した。

 

 

そして、大観衆も御幸が一度立ち上がったにもかかわらず、座ったことに驚いていた。

 

 

「おいおいおい!!! バッテリーが座ったぞ!!!」

 

 

「ここで勝負を選ぶのかよ!!!」

 

 

「けど、これで久遠の一撃が間違いなし!!!」

 

 

「ああ!! 俺達の主将だぞ!!」

 

 

横浦応援スタンドでは、丹波が勝負を選んだことで、これで追撃が出来ると考えていた。

 

 

一方の中立の観客の間でも、

 

 

「見物だな」

 

 

「ああ。どういう意図かは知らんが、あまりにも実力差が離れている」

 

スカウト陣も、理解が出来ない。

 

「満塁で黒羽君は怖い。だから撃たれても同点どまり、といえばいいのだろうか」

 

 

 

 

そして最後に一般客はこの勝負、固唾を飲んで見守るのみ。

 

 

 

 

 

 

 

――――初球から落としていきますよ。三塁ランナーは気にせず、どんどん攻めていきましょう。

 

 

「ふしっ!!」

 

ククッ、ストンッ!!!

 

「ストライクっ!!」

 

「!!」

まさか三塁ランナーがいる状況で、初球フォーク。続く2球目も、

 

 

「ボールっ!!!」

フォークの連投。ここにきて、打者の坂田を全力で、死力を尽くして抑えに来ていた。

 

――――これで、相手も狙い球が絞りづらくなっている。今までの配球から、カーブを強く意識するだろう。だからこその―――

 

カァァァァァンッッッ!!!

 

「ファウルっ!!!」

インコース一杯のストレートが坂田の懐を抉る。しかし坂田も反応し、打球はレフト線切れてファウル。スタンドへとボールが突き刺さる。

 

「うわっ!?」

付近にいた観客もその痛烈な打球がすぐ近くに飛んできたことに驚く。というより、坂田のスイングが見えなかった。

 

 

「っ!!(これが、最強打線の核か――――)」

ここでストレートに振り負けない強さを誇るのが坂田である。思わず冷や汗と笑みがこぼれる丹波。

 

―――――もっと、腕を振りきれ。もっとコースを突け――――っ

 

 

だが、強打者との対決で開き直っている丹波は、いい意味で開き直っていた。

 

 

 

――――当たればホームランの可能性もある中、丹波さんの球が走ってる。

 

ホームランで同点の場面。バッターは坂田。いいボールを投げ込む丹波に心強さを感じた御幸。

 

――――行けるッ!! 勝負が出来るッ!! 今の丹波さんなら――――!!

 

 

 

ここまでの気迫を打席で見せてきた投手を、彼はこの夏初めて見つけた。

 

 

 

 

「!?(息をまた吹き返した!? ここで、捕手から怯えが消えた。それを為したのは―――)」

そして最後に坂田は丹波の様子を見て、訝しむ。あれほどの当たりをされても笑みを見せる投手はいなかった。

 

 

なのに―――――

 

 

坂田は、マウンドに立っている青道のエースを見つめる。

 

 

 

マウンドにそびえる、青道の精神的支柱。

 

 

 

青道のエース、丹波光一郎が立ち塞がっているのが解る。

 

 

 

 

「(センスや実力ではない。あれが、青道のエースッ!!)」

 

――――1ボール2ストライク。ここでテンポよく、投げ込み、考える余裕を与えない!

 

 

アウトコースによる御幸。丹波はそれを見て笑う。要求はフォークボール。

 

 

―――お前はそうだ。そういう捕手だ。

 

 

丹波の脳裏に浮かんだのは、あの練習試合後の日々。

 

 

あの試合で丹波はフォークを武器に出来た。だが、彼の成長は止まっていなかったのだ。

 

 

2球種だけで、全国を抑えられるはずがない。だが、もう他の球種に手を出す時間はなかった。

 

 

3回戦には間に合わなかった、丹波の最後の秘策。それを知るのは、覚悟を受け止める勇気を取り戻した青道の要のみ。

 

 

―――――ぶっつけ本番、今までの丹波さんなら要求できませんでしたけど

 

 

 

御幸のミットが大きく見えた。丹波に不安はなかった。その“決め球”を自分は投げ切れると信じていた。

 

 

 

―――――今は、信じさせてもらいますよ、丹波“先輩”

 

 

 

打席の坂田、決め球はフォークとよんでいた。

 

 

――――三塁ランナーを気にしない今のバッテリーならば、フォークは十分考えられる。

 

 

そして坂田のイメージと同じく、アウトコースにボールがやってきた。

 

 

ややボールが高い。ストライクゾーン際どい場所に落ちると踏んだ坂田。見逃せば三振だ。

 

 

この状況で、ストライクからストライクに落ちるフォークボール。

 

 

―――――右打者には食い込んで落ちるフォーク、貰った!!

 

 

だが、その“シンカー気味に落ちるフォーク”が、坂田の視界から消えたのだ。

 

 

 

「!?」

 

 

 

そしてスイングした瞬間に虚空を切る感覚。イメージと違う未来、現実。

 

 

 

 

彼のバットにボールが当たらなかったのだ。

 

 

「――――――――――――――」

観客も、坂田が三振をした瞬間に沈黙してしまう。彼が三振を喫したのは、約1年半ぶりだった。

 

 

 

―――――シンカー気味ではなく、スライダー気味のフォーク。

 

 

そのボールを捕球した瞬間に、胸を高ぶらせる御幸。痺れる場面で、最高のボールを受け取ったのだ。

 

 

これこそ、捕手冥利に尽きる瞬間だろう。

 

 

 

 

第1打席とは違うフォークの落ちる軌道。データにないボール。データにないフォークボール。

 

 

―――――迂闊だった、確信を持つのは、結果を出してからだというのに!!

 

 

そう、丹波のフォークは“2種類”存在する。といっても、握りを微妙に変えただけ。

 

 

中指に力を入れれば、スライダー気味に。人差し指ならば、シュート気味に。丹波の場合はシンカー気味であるが。

 

 

それをやってのけたのは、その素質を開花させた下地は、彼のカーブにあった。

 

 

指先の感覚が求められる変化球、カーブボール。繊細な指先の感覚を誇る彼だからこそ、フォークボールを覚えることが出来た。

 

 

 

そしてさらに、フォークボールを一段上へと進化させることが出来たのだ。

 

自在に両サイドへ落とすという、離れ業に至ったのだ。

 

 

 

敵味方に関係なく、その勝負は多大な影響を与えた。

 

 

 

 

 

――――守っていて、丹波先輩の雰囲気が変わった。

 

 

それは青道全員の見解だった。丹波は確実に成長していた。むしろ、あの怪我を経験して、精神的に強くなった気さえする。

 

 

 

「――――これが、俺達のエースだッ」

ナインの誰もが、そのセリフを横浦に宣言して見せた。誰かが合図をしたわけでもなく、

 

 

 

 

誰もが誇らしげに、彼を誇る

 

 

 

 

 

 

「ストライィィクっ!!! バッターアウトォォ!!!!!」

 

 

 

丹波の気迫に、坂田が呑まれた瞬間だった。

 

 

 

 

『空振り三振~~~~~~!!!!!!! 青道の3年生投手丹波!! 神奈川の怪物、坂田相手に真っ向勝負!!!  最後はフォークボールっ!!! 横浦は未だに快音聞かれず!! 空振り三振に打ち取りました!!』

 

 

『幾多の好投手を燃やしたあの横浦相手に魂の投球、鬼気迫る気迫で投げる丹波君に敬意を表したいですね。最後は際どいゾーンでしたが、勢いで抑え込みましたね。』

 

『ここまで勝負をして、あの坂田が打ち取られるなんてことは久しくありません!! ここまで打率は8割を上回っていた坂田!! 得点圏打率10割がこの瞬間なくなりました!!』

 

 

さらに、坂田の得点圏打率を10割から落とすことに成功した。

 

『そして、坂田久遠!! この夏初めての三振を喫しました!!!!』

 

 

彼が三振をしたのは、昨年神宮大会の神木との対決以来だった。

 

 

 

『強打の打線相手に、よく頑張っています。横浦は、丹波君と御幸君の術中というか、気迫に押されているような気がしますね』

 

 

 

――――不味い流れだ

 

丹波投手がここまでとは思っていなかった黒羽。相手は今勢いに乗っている。だからこそ、初球に集中する黒羽。

 

――――流れを変えるには、この初球の―――ファーストストライクを仕留める。

 

 

 

『さぁ、空振り三振でツーアウトにまで漕ぎ着けた丹波!! 5番黒羽との勝負――――』

 

 

 

――――ストレート!! 狙い通りっ!!

 

 

カキィィィンッッッ!!!!

 

 

「!!!」

外角ストレートを掬い上げられた丹波。この状況でさすがに勝負を急ぎ過ぎた。

 

 

 

『打ったァァァァァ!!!! 右中間!!! 伸びていくっ!!!』

 

 

 

打球は甲子園のフェンスに届きそうな勢い。青空を、白い影が通り過ぎていく。

 

 

「くっ、追い付けないッ!!」

ライト東条が必死に足を動かすも、打球が遥か彼方に伸びていく。

 

 

―――――抜かれるッ!!

 

 

 

 

 

「諦めんなぁァァァ!!!!!」

 

 

東条はその声を聴いた瞬間にハッとする。更に自分の視界の前方に、センターの伊佐敷が走っていくのが見えた。

 

 

「っ!!!」

 

彼とフェンスの距離はもう短い。このままの速度では激突してしまう。だが、足を緩めない。緩めるわけにはいかない伊佐敷。

 

 

―――――アイツが覚悟を決めて坂田を打ち取ったんだ。

 

 

ツーアウトを取ったあの瞬間、青道を飲み込んでいた圧迫感が消えた。

 

 

もう彼の眼前にフェンスの壁が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

その刹那の時が過ぎ、甲子園に鈍い音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

東条は、目の前の光景を見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

フェンス付近で伊佐敷が倒れ込んでいた。動かない。

 

 

 

「伊佐敷先輩っ!!!」

 

慌てて駆け寄る東条だが――――――

 

 

 

「――――――っ」

 

 

ゆっくりと、伊佐敷がグラブを天に掲げる。それを見た瞬間、東条はプレー中であるにも拘わらず、泣きそうになった。

 

 

 

 

「アウトォォォォ!!!!」

審判の声高な宣言が甲子園に響く。

 

 

ファインプレー。センター伊佐敷の黒羽の大飛球を掴む、丹波を救うベストプレー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ」

黒羽としては、感触は良かった。しかし打ち取られたので、苦い顔をする。

 

 

―――――あの投手の気迫が、相手ナイン全員に、戦う気持ちを取り戻したのか―――ッ

 

 

一瞬だけ黒羽は、あの人とバッテリーを組みたかったと、感じずにはいられなかった。

 

 

 

捕手の目線で考えても、丹波がいい投手に思えてしまった。

 

 

 

 

「伊佐敷先輩っ!!!」

しかし尚も立ち上がれない伊佐敷。東条が手を差し出そうとするが、伊佐敷はそれを見た瞬間にゆっくりと立ちあがる。

 

 

 

「お前は、諦めんなよ」

 

「え?」

 

不意に、伊佐敷からの言葉に東条は首をかしげる。

 

 

「凄い投手がお前の代にはたくさんいるけどよ。けど、お前は――――」

 

 

 

 

「ピッチャー、諦めんなよ」

 

 

俺よりセンスあるんだからな、と苦笑いをしながらベンチへと走っていく伊佐敷。

 

――――ああいう風に、気迫を見せる投手にお前も――――

 

 

才能すら凌駕する未来を、作れるような凡人に。

 

 

 

「先輩――――」

 

 

 

紛れもなく、先輩たちが作ったこの流れ。東条に強い気持ちがこもる。

 

 

 

 

大ピンチを抑えた青道。大舞台でのエースの存在感と価値を見せつけた丹波。

 

 

 

波に乗れ、乗るしかない。

 

 

 




投手としては、大塚が上ですがエースとしては、丹波に軍配。


挫折や不幸が、マイナスではない例ですね。原作ではお察しでしたが


沢村なら、至れるかもしれないですね。



丹波さんの株と、伊佐敷さんの株が爆上がり。




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