ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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タイトルが不穏過ぎる。


第58話 すり抜けた勝機

沖田の試合をひっくり返す逆転スリーランホームランで突き放す青道。しかし妙徳も後続を打ち取り、差はまだ2点差。逆転した直後の丹波の投球が注目される。

 

 

3回が終了し、4回の表。

 

相手は4番だが―――

 

「――――ッ!!」

 

目に力が宿った丹波。緊張で固くなっていた顔も、本来の野武士のような精悍な顔つきに戻り、マウンドでの目力を取り戻す。

 

ズバァァァンッっ!!

 

そして、それは意外なところで彼の変化を生み出していた。

 

「――――?」

 

御幸が何気なくスコアボードを見た。やけにいい球だったので、少し確認するつもりだった。

 

 

141キロ。

 

 

「!?」

これには驚いた御幸。丹波の球速が自己最速を超えていたのだ。これには青道ベンチも、

 

 

「また一皮むけたか、丹波」

 

続くボールも、

 

ズバァァァァンッッ!!!

 

「ストライクツー!!!」

 

142キロ。さらに球速を更新。その投球フォームにも、若干の躍動感、さらには沢村、降谷、大塚に見られた逆の手の動きが関係していた。

 

 

「丹波先輩にも試したんですか、アレ?」

 

「なに、お前たちだけなのはフェアじゃない。アイツらも会得できると信じていたからな」

 

 

そして、ここにきて球威があがってきたことに、戸惑いを隠せない妙徳ベンチ。

 

――――なんや、この投手。ここにきて球威があがって来とる。

 

そして、その蘇るどころか、一球ごとに進化したストレートが走ることにより―――

 

ククッ、ギュインっ!!

 

その他の変化球が活きてくるのだ。

 

――――ここにきてキレも上がってきている、だと!?

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

 

キレのある大きな変化を叩きつけた丹波のカーブ。バットを出すことが出来ずに先頭打者を打ち取る。

 

――――俺に出来ることを、もっと腕を振り抜け!! 

 

 

ずばぁぁぁっんッッ!!!

 

「ストライクっ!!!」

 

――――仲間の為に、取り返してくれたみんなの為に!!!

 

カァァァンッッ!!

 

「ファウルボールっ!!!」

 

「ぐっ(この投手はカーブとフォーク、せやけど、なんやこいつ。一打席目とは雲泥の差やないか!)」

打席に立つ打者は、丹波が初打席とは違うと感じていた。緊張して表情が硬かった時に比べ、いい意味で開き直っている。

 

だからこそ、捉えきれない。しっかりと腕を振り抜くことで、ボールが見えづらくなっているのだ。

 

 

 

御幸は、沖田の一撃で力を受け取ったかのように飛躍を遂げている丹波の力投に、目を輝かせる。

 

――――さっきまでの不調が嘘みたいだ。腕も振れているし、フォームも綺麗になってきている。これなら―――

 

 

ククッ、ストンッっ!!!

 

 

「ストライクっ、バッターアウトっ!!」

 

ワンバウンドだが、ボールの勢いと腕の振りが功を奏し、三振に打ち取る青道バッテリー。まだフォークは万全とは言い切れないが、それでも今の配球に間違いはなかった。

 

 

 

『三振~~~~!!!! これで4つ目の三振を奪う力投!! 3年生丹波、これで立ち直ったのか!?』

 

4回被安打は3。ホームランを浴びたものの、崩れかけた自分を立ち直らせた。

 

最後の打者も、

 

カァァンッッ

 

『打ち上げた!! 捕手の御幸が手を上げます!!』

 

「オーライ!! オーライッ!!」

 

そして難なくキャッチャーフライを処理し、これでスリーアウトチェンジ。

 

『三者凡退!!! これで初回以来の三者凡退の丹波!! ギアがあがってきました!!』

 

このリズムを攻撃に生かしたい青道。

 

そして4回の裏、新見は続投。伊佐敷を三振に打ち取られるものの、次の打者は当たっている。

 

6番東条との対決。前の打席はカーブを掬い上げられ、長打を浴びている。

 

 

新見の手から放たれたボールは、通常ではありえない変化を描き、低目のストライクコースへと揺れながら落ちていく。

 

 

初球ナックル。沖田に打ち砕かれたとはいえ、この球種が有効ではなくなるわけではない。だが、新見は打たれたコースを考えるべきだった。

 

一球目を見逃した東条。だが、かなりの確率で下へと落ちることを確認した東条は、

 

――――低目は俺にとってヒットゾーン。打つッ!! 何が何でもっ!!

 

その低目に対する強烈な自己暗示は、伊達ではない。

 

 

 

カァァァンッッッ!!!

 

 

 

二球目の落ち際のナックルを掬い上げた打球。内野の頭を越え、今度はセンター前へのポテンヒット。

 

『二打席連続安打!!! 1年生東条!! 今度はナックルを捉えてセンター前!!! 青道の1年生は活きが良いぞ!!!』

 

『ボールを呼び込み、ナックルの最大の弱点である落ち際を狙いましたね。そして自分のポイントで打てば、最低限内野の頭は超えますからね。』

 

口で言うのは簡単だが、その落ち際を予測するのが難しいのがナックル。だが、東条と沖田はそれを為すだけの力がある。

 

 

しかし続く7番小湊から快音が聞かれない。進塁打になったものの、まだヒットが出ない。

 

「っ!!(みんな頑張っているのに!! 俺だけ力になってない!!)」

 

悔しがる春市。東条はマルチヒット、沖田は逆転スリーラン。なのに、自分は二打席ノーヒット。悔しさよりも、情けなさの方が上回った。

 

「切り替えるぞ、春市」

 

「せっかく勝ち越しているんだ。二遊間は特に忙しくなるかもしれないんだからな」

 

なお、8番御幸は―――

 

カキィィィィンッッッ!!!

 

「おっ!! 行ったでしょ、これ!!」

打球を目で追う御幸。

 

 

パシッ!!

 

「げぇぇぇぇ!!!!」

しかし当たりの鋭いセンターライナー。センターのファインプレーに阻まれる。

 

 

しかし、勢いを取り戻した丹波には、5回までを投げ切る体力が残っていた。

 

ズバァァァァンッッッ!!!

 

「ストライクっ!!」

 

5回二死。ランナーなし。立ち直った丹波は、快投を続け、5回で降りることすらもったいないくらいの出来だった。

 

―――――これが最後になるかもしれない、だからこそ―――

 

 

最後になるかもしれないこの一投に、丹波は今持てるすべての力を込める。

 

 

 

――――この一球に、魂を込めるッ!!!

 

 

ズバァァァァァンッッッ!!!!

 

「ストライクっ、バッターアウトっ!!!」

 

 

『空振り三振~~~!!! 立ち直ったのかのように、快投を続けます、3年生丹波!!』

 

球速表示に表示された球速は――――

 

142キロ。マックス140キロだった男が、ついに自分の殻を割った瞬間だった。

 

 

「ふぅ……」

最後のイニングを終え、大きく息を吐く丹波。今までは悔しさすらあったにもかかわらず、課題を見つけ、少しばかりの苛立ちを感じていたにもかかわらず、

 

―――今は、なんだか気分がいいな

 

 

「お疲れ様、丹波」

小湊が出迎える。この彼の力投は、チームに大きな力を生むだろう。病み上がりでここまで人を引き付ける力投は、きっと青道に受け継がれるだろう。

 

「ナイスピッチ、丹波!」

 

「もっと投げてほしかったけど、文句はねぇぜ!!」

 

結城も伊佐敷も、丹波が強豪相手にここまで投げた事に労いの声をかける。

 

「後は、任せたぞ。」

そして降板した投手に出来るのは、後続の投手に、グラウンドで戦い続ける盟友たちに声援を送り続けること。

 

―――――後は頼んだぞ、お前ら

 

何はともあれ、これで5回表が終了。3回のスリーランで逆転に成功した青道高校。

 

5回の裏は、倉持、小湊が抑えられ、前の打席ホームランの沖田。

 

――――まともに勝負する必要はない。4番勝負だ

 

「ボールっ」

クサイところを攻めることしかしないバッテリー。明らかに勝負を避けている姿勢に、沖田はやや苛立ちを隠せない。

 

――――当然だが、打撃をさせてもらえないのはきついな。

 

そして妙徳の思惑通り、結城を打ち取りこの回は無得点。

 

「勝負しろ~~~!!」

 

「沖田と勝負しろ~~~!」

 

決め球のナックルはおろか、新見の全球種が通用しない怪物。まともに勝負すれば、またしても特大の一撃を食らうことになるだろう。

 

 

ここで先発の丹波を下げ、投手交代。

 

 

『選手の交代をお知らせします。丹波君に変わりまして、沢村君。ピッチャー、沢村君。背番号11』

 

 

ここで、青道の進撃を支える変則左腕の登場。

 

 

『ここで青道は継投に入ります!! 3年生丹波を下げ、1年生沢村をマウンドに送ります!!! 開幕戦では7回無失点の好投!! 9奪三振を奪い、今大会無失点!! キレのあるスライダーがさえわたります!!』

 

『ここで変則左腕ですか、投手陣の厚い青道ならではの継投ですね。さぁ、この継投で試合は動きますよ』

 

青道がさらに流れに乗るのか、妙徳が追いすがるのかが決まる。

 

 

6回の表、妙徳の先頭打者は打順返って石清水。

 

沢村のリリーフはこの夏初めてではある。彼が投げる試合はすべて先発。先発とは違い、リリーフは一球の重みが違う。

 

――――先輩が5回まで投げたんだ!! 俺は絶対に抑える!!

 

 

沢村は強い決意でマウンドに臨んでいた。

 

 

妙徳ベンチでは―――

 

 

「青道の中でも、攻略しやすい投手が来てくれるとはなぁ」

大森監督の第一声はそれだった。

 

「あの作戦の通りやで? 普通にやれば攻略できるけん」

 

「うっす!!」

 

妙徳としては、速球と速い変化球の降谷は、対応できると考えていた。川上は初見では難しいし、丹波に至ってはデータがなかった。大塚は出てきた瞬間に厳しい。

 

しかし、沢村には明確な弱点が存在していた。

 

 

――――スライダーのフォームと、他のフォームが違うやないか。

 

妙徳は、この急造の変化球のデメリットを見抜いていた。

 

 

――――フォームさえ分かっていれば、スライダーを打ってくださいと言っているようなもんや。

 

 

 

一方の青道側。

 

 

――――よし、球は走ってる。あの時と同じ沢村なら、この打線相手にも通用する。

 

ズバァァァンッっ!!

 

「ストライクっ!!」

 

ムービングファーストがアウトコースに決まり、まずストライクを取る沢村。

 

キィィンッっ!!

 

「ファウルボールっ」

続くムービングの連投で、追い込んだ沢村。

 

『やはり彼のフォームに惑わされているんでしょうか。』

 

 

『ええ。腕が遅れて出る所為か、かなり球持ちがいいでしょうからね。解りやすい速球派投手よりも厄介ですよ』

 

――――ここでスライダーだ。

 

ククッ、ギュギュインッッッ!!!

 

石清水のバットがとまる。墜ち際もよく、完璧なコースだった。だが、彼はバットを止めてきたのだ。

 

「!!」

 

――――な!? いいコースだったはず。スライダーにバットが止まった?

 

しかし、続く癖球で打ち損じを誘い、アウトにとる沢村。

 

 

 

続いて2番田井を迎える。今日は丹波からヒットを打っている。要注意の打者。

 

 

――――ここは初球パームボールを使うぞ。

 

ギュインっ、フワッ!

 

縦にナックル気味に落ちる高速パーム。今日は風もあるのか、変化もやや不規則になっている。

 

――――風のおかげで変化も出ている。パームも困ったら使えるかもな。

 

そして3球目のフォーシームでファウルを奪い、追い込んだ沢村。

 

 

ギュギュインッッ!!!

 

「ボールっ!!」

 

『見た!! よく見た田井!!! 沢村のスライダーを見切りました!!』

 

――――まただ。スライダーが見極められている。けど、他の球種なら―――

 

 

ククッ、フワッ!!

 

「!?」

 

ここでパラシュートチェンジ。ストレート待ちだったのか。タイミングが合わずに三振。

 

『空振り三振、二者連続!!! 今日も変化球のコントロールはいいようです、この沢村!!』

 

「―――――」

沢村は、どこか落ち着きがなかった。決めに入ったスライダーを悠然と見送られていることに。他の球種では、打ち取れるのに、自信のあるスライダーが見切られている。

 

 

ここで、主軸ながらノーヒットの3番赤城。この局面はかえって不気味だ。

 

――――大丈夫、抑えられる。バトンを絶対―――

 

ズバァァァンッっ

 

「ボールっ!!」

まずはムービングファーストが際どい所から外れてボール。制球は悪くない。

 

ククッ、ギュインっ!

 

「ストライクっ!!」

続くスライダーで空振りを奪う沢村。コースに決まっているのでそう簡単に撃てるわけではない。

 

――――表情が硬いが、いつも通りなのか? 球自体の調子はいいし、何とかなるか?

 

いつもの先発での勢いをやや感じられない御幸。気迫の溢れる投球ではなく、何か固い。

 

「ボールツー!!」

 

「!!」

決めにいったボールが外に外れる。まるで何かに怯えているように。

 

 

そんな沢村の豹変に驚く御幸。何とか捕球するも、沢村のこの乱れ方は何か尋常ではない。

 

 

――――だが、時々らしくない外れ方をする。アイツのボールは浮くというより、低めに外れるケースが大きい。

 

 

そして、このボールは珍しく高めの浮くボール。体が力んでいるのか、やや上体が高いように見える。

 

「タイムっ!!」

 

―――― 一応声をかけた方がいいな。

 

御幸はマウンドの沢村へと駆け寄る。

 

「御幸先輩? どうしたんすか? ランナーはいないっすよ?」

 

「表情がかてぇよ。もっと開き直って投げろ。その方がお前の場合はボールが来るからな。それに、上体がやや高い。」

 

「うっす―――」

 

 

――――ヤバい。力んでいるのか、俺は

 

開き直り、笑顔になろうとしても、笑顔になれない。表情がまるで石になったかのように動かない。

 

――――何なんだよ、先発の時は何にも感じなかったのに!! なんなんだよ、これ!!

 

体が重くて仕方ない。いいボールを投げているのに――――

 

 

 

スライダーが見られていることで、沢村の中で何かが崩れ始めていた。

 

 

「ボール、フォア!!」

 

そして、二死からフォアボールのランナーを出してしまった沢村。最後はインコースに外れるボール。コントロールにさほどの乱れはないが、御幸には妙に沢村の荒れ球が怖く感じた。

 

――――今はいかない方がいいな。捕手が頻繁に出向いたら、投手の方が不安になっちまう。

 

そして、続く打者は妙徳の主砲。4番浦部。

 

―――――まずはアウトコースにムービングファースト。一球で引っ掛けてくれれば儲けモノだが。

 

 

クイックモーションからの初球。

 

 

「!!!!!(なっ!? 内に入った!?)」

御幸の目が大きく見開いた。外に構えたコースとは逆の、やや外の内に寄ったコース。

 

―――けど、沢村の癖球は動く!! 動いてくれ!!

 

そしてシュート気味に逃げるようにアウトコースへと向かう。

 

――――バットが出る、これでスリーアウト―――

 

 

 

 

ガキィィィィィィンッッッっ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――――え?」

 

沢村の視界から打球が消えた。

 

「なっ、レフトォォォ!!!」

 

 

まさかの痛打。沢村がリリーフ登板でここまで崩れるとは青道のだれもが想定していなかった。開幕戦の出来から、調子のいい投手をスクランブルで投入するのが間違いではないが、沢村の今日の出来はおかしかった。

 

 

 

 

 

 

「良かった、この深さまで下がって」

 

東条はバックしながら打球を追う。投手の目線でも今日の沢村は何かがおかしい。特にスライダーを見極められるケースが多く、それを見た彼は嫌な予感がしていた。

 

 

さらに、ツーアウトからのフォアボール。嫌な走者の出し方だったのだ。

 

 

 

 

 

レフト東条がフェンス際まで走る。飛球はまだ伸びる。レフト方向へと伸びる

 

 

「え?」

背中に固いものが当たった。それは外野のフェンスだった。東条はどうすることも出来ず、打球を見上げる。

 

 

 

 

 

金属音が響いた。それは、青道にとって利きたくなかった音であり、現実だった。

 

 

 

 

打球はレフトポールに直撃した。直撃してしまった。

 

 

 

 

 

『ここで妙徳意地の一発!! 同点ツーランホームランっ!!!! 4番のバットがチームを救うか!?』

 

『風に乗った良い打球でしたね。素晴らしい当たりでした。』

 

『開幕戦とは少し違うようですが、いったいどういう事なのでしょうか。』

 

『どうでしょう、何とも言えませんね。ただ、リリーフの時の彼の表情が何となく硬かったなかな、と感じましたね』

 

 

レフト方向を見つめて呆然としている沢村。

 

――――打たれちゃいけない。いけなかったのに!!

 

「ハァ……ハァ……ハァ………」

 

 

息が疲れてもいないのに、苦しい。地鳴りのような声援、甲子園の雰囲気。異常なムード。

 

 

甲子園のマウンドに初めて沢村は恐れを抱いた。

 

 

「沢村っ!!」

 

すると、いつの間にかまた御幸がマウンドにやってきていた。

 

「あ、御幸、先輩―――」

 

「しっかりしろ、まだ試合は終わっていないぞ」

 

「でも、せっかくの沖田のホームランが――――」

 

「また打ち込めばいい話。打たれない投手なんていない。」

そこへ、沖田がすかさずフォローに入る。またホームランで突き放してやると、

 

「すいません……」

 

その後沢村は同点の場面では力を発揮し、この回の後続は抑える。しかし、沖田の勝利打点を台無しにする痛恨の被弾。

 

 

 

 

 

 

 

そして6回の裏も新見続投の妙徳。もはや温存する気がないのか、ナックルと速い球主体の投球で伊佐敷をまず

 

カァァァンッッ!

 

「ちっくしょぉぉぉ!!!!」

 

セカンドゴロ、当てることは出来たが、弾道が低すぎて、内野の頭を超えることはない。ナックルの変化に対応できていない。

 

そしてなんと東条には――――

 

 

 

「!?」

東条は目を見開き、マウンドを見つめる。

 

初球の入りが完全にボールゾーン。

 

『今日2安打の東条。まず初球見送ってボール。今の球はどうですか?』

 

『勝負を避けているかもしれませんね』

 

「ボールツー!!」

 

「ちくしょう、沖田だけじゃなくて、東条も敬遠かよ!!」

 

「勝負しろ~~~!!!」

 

沖田に続き、今日は当たっている東条がここで敬遠気味の投球を受けている。

 

「ボールスリー!!!」

 

「―――――(解っていること、けど、クサイところを攻めてくる結果の敬遠だと思ってた―――)」

目を伏せつつも、打席に意を決し、立つ東条。集中力だけは切らしたくない。

 

「ボール、フォア!!」

 

『フォアボール!! これで一死一塁、今日ノーヒットの小湊!! 何とか意地を見せられるか』

 

――――試合終盤になるにつれて、沖田君と東条君へのボールが多くなってる。けど、俺だって――――

 

恐らく、この試合を見た者達も、今大会まともに起きたと勝負をする投手はいるのかと、そう考えてしまう。あの魔球ナックルすら飲み込んだ怪物バッター。

 

そして春市は、された側とする側の両方の意味を理解できるからこそ、余計に力んだ。

 

カッ!

 

そんな状態の春市の打球は上がらず、難なく新見の前に打ち取られてしまう。痛恨のショートゴロゲッツー。

 

『ああっと、打たされた~~~!!! ショートとって、二塁へ、一塁転送~~~!! アウトォォォ!!!ゲッツー!! ランナー出しましたが得点に繋がりません!!』

 

同点に追いつかれ、嫌な流れが続く青道サイド。

 

 

「――――リリーフの沢村は、やはり悪手だったのかもしれません。」

クリスは、リリーフ経験のない沢村を送り出した采配に悔いをもらす。

 

「――――沢村の力を活かすのは先発。調子がいいからつぎ込むのは間違っていた。」

片岡監督も、沢村にリリーフを頼む場面ではなかったと考えていた。

 

「さらに一番の懸念材料は、スライダーが見極められていることです」

 

「スライダーだと?」

 

沢村のウイニングショット。それが機能しなくなっているのだ。御幸の話では、決めに入ったスライダーは、どちらもコースに決まっていた。だが、悉く見極められたという。

 

「――――スライダーを投げる比率を薄める必要がある。原因は恐らく―――」

 

 

スライダーのフォームと、他の球種のフォームが違う事。データを集められ、研究をされたことによって、沢村の弱点が明らかになったのだ。

 

以前は、球持ちの良いフォームのおかげで非常に球種を絞りづらかった。だが、ここまで長期間放置していれば、やはり研究され尽くされたのだろう。

 

さらに、リリーフ経験のない沢村を送った采配にも問題がある。

 

 

打たれたのは沢村。だが、リリーフ適正のない彼をマウンドへと送ったのは自分。

 

「ランナーが出れば、降谷にリリーフをさせる。本人には心の準備を頼む。」

 

 

そして一方のブルペン、降谷は沢村のらしくない被弾に、首をかしげていた。

 

――――いつもの彼らしくない。けど、先発とは何か違う。

 

良い意味で鈍感な降谷は、リリーフをしようが先発をしようが変わらない。彼の課題は体力とコントロールだからだ。

 

だがそれよりも問題なのは、打線の方だ。4番結城は相性が悪いのか、このフォームチェンジの投手にタイミングが合っていない。伊佐敷も打つ事が出来ず、ラッキーボーイ的な存在だった小湊も結果を出せない。

 

もし次があるならば、大幅な打線の見直しが必要になる。かつて、あのような飛距離を誇る怪物スラッガーと予選で対戦したことはあるが、青道は逃げずに秘策&秘策を用いて封じ込めた。沢村が新しい変化球を使って轟のリズムを崩し、最後は変則投手の川上で完全に崩壊させたが、もし沖田と対戦した場合はどうするべきなのかを考えた。

 

――――初打席で見てくる相手であるならば、徹底的になれさせない。一巡ごとに投手を変えるしかない。

 

 

そしてあるいは――――

 

――――全打席とはいかないが、敬遠をされる可能性は高くなる。

 

 

片岡監督の不安とは裏腹に、沢村は同点になった後は、素晴らしい投球を続ける。

 

6番萩生をチェンジアップで空振り三振に打ち取り、

 

 

キィィンッっ!

 

「(同点になったのに、どうなっているんだ、こいつ!?)」

球威に押された7番打者が、呻く。フォーシームのキレが戻り、彼特有のフォームによってタイミングが遅れる。

 

 

――――よかった、ちゃんと投げられる――――

 

マウンドの沢村はほっとしていた。リリーフでリードしている場面。その時に比べ、今は安定した投球が出来ていた。

 

しかし、沢村にとって、リリーフ登板はこの日から鬼門になり、後の青道投手事情に大きくかかわっていくことになる。

 

 

8番打者も打ち取ることで、三者凡退。7回の表が終了し、7回の裏。ここで妙徳は新見を降板させる。

 

『新見君に変わりまして、中田君。ピッチャー中田君。』

 

ここで妙徳ベンチは3年生エースの新見を下げ、2年生の中田を持ってきた。右の本格派。

 

『ここで2年生の本格派、中田をマウンドに送ります、妙徳ベンチ。』

 

『地方大会では4試合に登板。カッターにツーシーム、2種類のスライダーがあります! 球速も140キロに迫るそうですね』

 

なお、マックスは137キロ。それでも2年生の部類では相当早いほうである。

 

「ここで2年生の投手、か」

 

――――この交代で試合は良くも悪くも変わる。何とか流れを呼び込む一撃を。

 

 

 

同学年対決。果たして軍配は―――

 

 




球質の軽い沢村が制球を乱した途端にこれです。抑えは川上ですが、降谷のロングリリーフへの不安から、彼を投入しました。丹波が5イニングでマウンドを降りることになったせいです。

沢村の挫折は、これだけではないです(白目)。







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