ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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特にタイトルが思いつかなかった。




第56話 四国の雄

青道3回戦の相手は西国の強豪、妙徳義塾。名将大森監督率いるこのチームは、今大会でも異色の面子を揃えている。

 

先発オーダー

1番石清水  左(左)

2番田井   右(中)

3番赤城   左(右)

4番浦部   右(一)

5番新見   左(投)

6番萩生   右(捕)

7番福原   右(二)

8番高梨   左(三)

9番森久保  左(遊)

 

ここまで左と右の打者が入り乱れた打線は今大会でもこのチームぐらいだろう。チーム打率はそこそこだが、目が光るのはエースの新見。大会最速のクイック使い。

 

なんと、彼の高速クイックは始動から1.1秒前後である。さらには強肩捕手の萩生とのコンビを組んでおり、盗塁を許すことはないとされている。

 

そのうえ、彼の球速は140キロ前後。スライダー、カーブ、チェンジアップ、高速パームといった球種の豊富さもだが、彼の魅力はクイックだけではない。

 

彼の決め球は、あの魔球ナックル。ランダム変化の最高峰にして、捕手泣かせのウイニングショット。そして、その球種に対応するために、捕手の萩生は通常よりも大きめのミットを用意するほどだ。

 

 

「早い回から丹波を援護するぞ。」

 

対する青道高校。沢村、大塚の先発ではなく、3年生丹波の初先発。3本柱の最後の一人が先発として甲子園デビュー。

 

上級生にとってみれば、ようやく出遅れた男が帰ってきたというもの。ベンチに座っている小湊はやや悔しそうな顔をしているが、ベンチを外れることなく、この間近で声を張り上げることはできると考えていた。

 

1番倉持 (遊)

2番白洲 (右)

3番沖田 (三)

4番結城 (一)

5番伊佐敷(中)

6番東条 (左)

7番小湊 (二)

8番御幸 (捕)

9番丹波 (投)

 

青道のオーダー。主軸に変更はないが、今大会当たっている東条を6番に抜擢。小湊亮介の怪我の具合によるが、それまでは2番は白洲が担うことになる。

 

『夏の甲子園3回戦。第1試合。一塁側、西東京代表、青道高校、三塁側には高知代表、妙徳義塾。大会屈指の投手陣対、大会最速のクイック使い。特に青道は盗塁の出来る選手がいますから、その対決も楽しみですね』

 

『プロも舌を巻く、高速クイックを誇る新見君。彼の投球スタイルも、どこまで青道に通用するかがポイントになるでしょう。一方の青道高校は、3年生投手をマウンドにあげます。やはり1年生に連投をさせない方針なのか、片岡監督はこの投手を送り込んできましたね。』

 

 

『資料によりますと、大きなカーブと、フォークボールがあるそうです。マックスは140キロ。オーソドックスな印象を受けますが、解説の牧原さん。どう思いますか』

 

『そうですね。今大会初先発の丹波君は、胸を借りるつもりで投球してほしいですね。相手は今大会で、フィールディングは恐らく一番上手い新見君。その華麗なグラブさばきにも注目したいですね。』

 

 

先攻の妙徳義塾。1番石清水は非常に足の速い選手。選球眼もよく、軽打を仕掛けることが多い。

 

マウンド上の丹波には、今のところ緊張している様子は見られない。

 

 

――――まずは一球。カーブから行きますよ、ボールでも構いません。

 

「ふしっ!」

 

御幸、丹波選択したのは初球カーブ。カーブは一瞬浮いたように見えた瞬間に、鋭く曲がり落ち、外側のストライクコースに決まる。

 

「ストライクっ!!」

 

――――よし、カーブの調子もいい。序盤はストレートとカーブを中心に組み立てよう。

 

続くボールはストレート。妙徳サイドは丹波のフォークを警戒してか、追い込まれるまではあまり積極的ではない。

 

「ボールっ!!」

 

――――次はインローのストレート。フォークを警戒しているなら、ストレートで押すまで

 

ズバァァァンッ!

 

「ストライクっ!!」

 

空振り。やはりフォークを待っているような感覚の御幸。マウンドの丹波も、フォークを意識している打者に何かを感じていた。

 

しかし、続くボールはカットされ、2球を粘られる。しかし最期は―――

 

ククッ、フワッ!!

 

「っ!!」

 

大きく変化するカーブに手が出ず見逃し三振。これ以降丹波は自信を掴んだのか、続く打者をストレート一球で内野ゴロに打ち取り、最後の打者には―――

 

 

ガっ!

 

「くっ!」

 

3番赤城には、カーブに手を出されたが、腰砕けのようなスイングで内野ゴロに打ち取る。

 

『さぁ、本選初先発の丹波、上々の滑り出し、裏の攻撃につなげられるか!?』

 

まずは1回。上々の滑り出しの丹波。そして裏の攻撃にいい流れを呼び込む投球に対し、立ちはだかるのは――

 

『さぁ、注目の好投手、新見に対し、青道打線はどういった攻撃を見せるのか!?』

 

『初回の攻撃が大事になりますからね。彼のフォームチェンジに惑わされないようにしないと。』

 

妙徳義塾のエース、新見。

 

先頭打者の倉持は、球種に関して考えていた。

 

――――ナックル、か。球数を投げさせるのがセオリーだけど、この投手はナックル以外も持っているし

 

ナックルボーラーにしては異色の多彩な変化球投手。故に、球数を投げさせるという作戦はあまり有効ではない。

 

初球はゆったりとしたフォームのストレート。

 

ズバァァンッっ!

 

低目に決まりカウントを奪われる。続く二球目のスライダーにもタイミングが合わない。

 

ククッ

 

「っ!!(スライダーも良いな、この投手)」

 

滑り落ちるようなスライダーではなく、真横へと切れるタイプのスライダー。右打席で臨んだ倉持だが、食い込むように曲がるこの球種に難儀した。

 

ラストボールは――――

 

新見の投球モーションが格段に早くなった。

 

「!?」

 

その急激なチェンジペースに、倉持は打席で間合いを測る事すら出来ずに――――

 

ズバァァァンッっ!!

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

 

『出たぁぁぁ!! 新見の高速クイック!!! 倉持手が出ない!! 見逃し三振!!』

 

『1.1秒前後のモーションから繰り出されるボールはきついですよ。2球までのあのフォームがかなり効いていますね』

 

インコースのストレートにバットを動かすことが出来ずに三振。ゆったりとしたフォームに、通常フォーム、高速クイックを、ランナーなしの状況でも使い分けた新見。

 

「――――(あの時以来の厄介なタイプかもしれねェな)」

御幸は、予選で青道を苦しめた明川学園の楊舜臣を思い出した。さらにナックル使いでもあるため、見極めが難しくなるだろう。

 

続く白洲も明らかにタイミングを狂わされ、キャッチャーファールフライに打ち取られ―――

 

「あの投手を苦しめたお前なら―――」

初回、完全に抑えられるのは丹波へのプレッシャーが大きくなる。何とか粘ってほしいと考えた御幸。

 

――――とにかく、半端ないな。今年の夏は役者が豊富だ。

 

沖田は、白洲と倉持が手も足も出ない投手―――新見を見据える。

 

持ち球はスライダー、フォーク、カーブ、チェンジアップ、ナックル。そしてセットポジションで投げていることから、クイックと通常フォームの初動の見分けがしづらい。

 

――――何とか球筋を見極めたい。

 

フワワワワワッッッ!!!

 

『そしてこれが新見のナックル!! 不規則に変化したボールに、まずは手を出さない沖田!! いや、手を出せないのか!?』

 

そして初球は彼の決め球ナックル。不規則な変化をした軌道がミットに収まる。当然、捕手の萩生はやや慌てたような動作から捕球するも、沖田から見てもこの球種は捕手でも難儀するほどだという事が解る。何よりも――――

 

――――まったく軌道が読めない。予選のナックルボーラーとは雲泥の差だな。

 

あのナックルよりも球速がやや早く、それでいて変化も大きい。

 

続く二球目も、ナックル。

 

カァァンっ!!

 

「―――ッ!!」

かろうじてバットに当てた沖田。しかし体勢を崩され、ヒットに出来るフォームではない。

 

『当てた!! かろうじてバットに当てた沖田!! ナックルに二球目に当てる辺り、センスがありますね!!』

 

『普通のナックルボーラーならそれで充分ですが、彼はそれすら取り込んだ変則の中の変則ですからね。他の変化球へのアプローチに注意する必要がありますね』

 

――――こいつ、俺には徹底してナックルの多投か!!

 

ナックルはほかの変化球のように多投したとしても、それほど影響が少ない。常に変化が変わってしまう球種に慣れることを許さない。

 

そして、妙徳義塾は一番青道で警戒しなければならない打者を弁えている。

 

 

カァァァンっ!!

 

「ファウルボール!!」

 

続く三球目もナックル。ボールゾーンに手が出てしまった沖田。

 

――――ナックルの多投、追い込んだときには倉持先輩に見せたクイックもある。何が来る!?

 

そして新見の初動がまたギアチェンジした。

 

――――ストレートっ!?

 

フワッ、ククッ!!

 

「!?」

 

しかしやってきたのは、チェンジアップ。早いモーションに惑わされた沖田は、その鋭い腕の振りからストレートを予測してしまったのだ。

 

――――ここで、緩い球だと――――っ!?

 

しかし、ボールは揺れながら落ちるチェンジアップ。

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

 

『高速クイックからのチェンジアップ!! ストレートを待っていたのか沖田、空振り三振です!!』

 

『いやぁあ、投球術というのを解っていますね、彼は。フォームとボールの両方で緩急を扱う彼の技術には脱帽です。』

 

1回の裏、エース新見は青道上位打線を圧倒する立ち上がり。手も足も出なかった光景は、エース楊舜臣との戦い以来。成宮相手には2点を先制、ここまでは全て先制。だが、ここまでの変則投手との対戦は、初めてといっていい。

 

楊舜臣はあれでも本格派なのだから。

 

まだ早い回ではあるが、早くも投手戦の予感がするこの第3試合。2回は初ヒットを許した丹波だが、倉持のファインプレーで辛くも2死にし、

 

 

カァァァンッッ!!

 

サード方向へと打球が比がる。サードには沖田―――

 

 

パシュッ、

 

グオォォォォォぉんッッッ!!!

 

難なくゴロを処理し、沖田の右腕から矢のような送球が一塁結城へと放たれる。

 

「アウトォォォ!!!」

矢のような送球ではあったが、正確無比なこの送球を難なく捕球する結城。このスタンドプレーともいえるプレーだったが、この嫌な流れを変えようと、沖田なりに考えた行動。

 

『三塁沖田からの矢のような送球!!! 物凄い送球ですね!! 甲子園が湧きます!!』

 

『内野手であの強肩。さらにデータでは内野全てを守れるあたり、守備にも定評がありますからね。見事な強肩、流れを変える狙いがあるのでしょうか』

 

そして彼の予想した通り、妙徳義塾ベンチでは―――

 

「な、なんじゃありゃぁぁ!!?」

 

「なんつう肩をしているんだ、あの一年生!!」

 

「それなら投手やれよ、なに内野守っているんだぁ!!!」

 

どうやらあまり堪えてはいない。むしろ、気持ちが乗ってしまっている。

 

そして観客の間でも、

 

「あの一年生のっているな!!」

 

「矢のような送球!!」

 

「メジャーリーグみたいだぜ、アレ!!」

 

「兄ちゃん頑張れ!!!」

 

「兄ちゃん!? 君はまさか―――」

 

 

青道の守備に沸く甲子園球場。丹波もその空気によってやや落ち着きを取り戻したのか、

 

「悪い、助かった」

自分を盛り立てるために、ああいうプレーをしたのだと解っている丹波。自分がメンタルに課題を抱えていることは解っている。

 

だからこそ、こうしてバックの堅守を見せつけることで、丹波のプレッシャーを和らげる狙いが沖田にはあった。

 

「嫌な凡退したので、何とか取り返そうと思ったんです。これでチャラにしてくれますか?」

 

「ふん」

 

「沖田、ケースバイケースだが―――」

やや苦笑いの片岡監督。

 

「心得ています。流れを変えるために色々と工夫は必要だと思いました」

自分が目立とうとは思っていない。守備で盛り立てるプレーは必要。攻撃で流れをなかなか作れない以上、守備がより重要になるのは明白。

 

「だが、幾分か丹波の表情から緊張が取れた。よくやった」

 

 

2回の裏、結城に対しては

 

「ストライクっ!! バッターアウト!!」

 

最後はナックルボール。初球から高速クイックを使い、タイミングを外しにかかった新見の投球に歯が立たない。

 

続く伊佐敷はストレートに詰まらされ、セカンドフライ。タイミングを合わせることを悉く封じる新見。

 

『新見の前にタイミングを狂わされている青道打線! ここで迎えるは、6番レフト東条!! 一年生ながら、レギュラーを張ります!』

 

ここで、6番に昇格の東条。

 

――――狙いはまず通常フォーム。真ん中のフォームに合わせる必要がある。

 

まず初球、クイックのストレート。

 

「ストライクっ!」

 

いいとこに決まる直球。制球も悪くなく、むしろ大塚や楊舜臣よりやや落ちる程度の制球力。

 

――――いいや、とりあえず―――

 

続くボールはクイックからのカーブ。ややボール気味だが、そのゾーンは東条の得意な低め。

 

 

――――来た球を打つッ!!!

 

カキィィィンッッッ!!!

 

「なっ!? (ボールゾーンのカーブを思い切りミート? なんやこいつ!?)」

 

打たれた新見もびっくりの東条の痛打。緩い変化球に合わせつつも、ポイントの合った打球はそのまま右中間方向へと伸びていく。

 

『おぉぉぉ!!!』

 

『カーブ、掬い上げたッ!!! 右中間へと打球が伸びる!! 伸びていく~~!!!』

 

『風も無風、いや、風に乗るのか!?』

 

「うおぉっぉ!!! 東条が打った!!!」

ベンチの沢村も、東条の一撃に身を乗り出して打球を追う。

 

「行けェェェ!!!!」

春市も、同級生の打球に祈るように声を張り上げる。

 

ダンッ!!

 

『フェンスダイレクトっ!! 東条の当たりは、惜しくもスタンドには届かない!!! しかし、打球処理に手間取る妙徳外野陣の動きを見た東条は三塁へ!!!』

 

躊躇いなく三塁を蹴る東条。一気にスピードアップする。

 

『到達~~~~!!! 青道初ヒットは1年生東条のスリーベース!!! 一気に二死三塁のチャンスメイク!! シングルヒットで先制!! ここで迎えるは7番セカンドの小湊!!』

 

このチャンスの場面で曲者の出番。7番小湊。

 

『予選での成績は、主に代打起用!! 小技も使えるという小湊!! さぁ、同じく1年生の東条をホームに迎え入れることが出来るか!?』

 

新見と萩生のバッテリーがタイムを要求。

 

「あの一年生は低目が好きだとは聞いとったけど、ボールゾーンをあそこまで飛ばすんか」

 

「何はともあれ、この打者はほかの上級生よりも厄介だ。ナックルもしっかり取るから、腕を振り抜いてくれよ」

 

「あいよっと」

 

 

マウンドでのバッテリーの意思疎通を明確にした妙徳サイドはすぐに守備位置に戻る。

 

『さぁ、注目の初球!!』

 

 

ゆったりとしたフォームから繰り出されるカーブ。まずはアウトコース一杯に決まる。

 

『緩いフォームからの緩い変化球!! 大胆にそして、繊細に行きますねぇ』

 

『意図をもって投球をしているのが解ります。あの集中力はいいですよ。』

 

続く二球目は―――

 

「!!」

 

ここでナックル。真ん中のコースだが、ランダム変化に対応できず、掠るのが精一杯の小湊。

 

『やや高めに来ましたが、ファウルボール、いや、ストライクか?』

 

『スライダー気味から落ちましたね。』

 

――――ナックルがここまで―――

 

妙徳バッテリーは―――

 

―――もう一球ナックル。ここは安全に打ち取るぞ。

 

――――取ってくれんかったら、安全じゃないけん、しっかり取ってェな

 

フワワワワワワワッッッッ!!!!

 

ランダム変化のナックル、しかも決めにきたナックルに小湊は最後まで捉えることが出来なかった。

 

――――当たらないッ

 

 

「ストライクっ!! バッターアウトっ!!」

 

『空振り三振~~~!!! ここは新見の勝ち!! このピンチ、三塁ランナーがいる場面でナックルを投げ込んできました!!』

 

『バッテリーの信頼が為せる業ですね。あそこまでナックルを投げられると、きついですよ』

 

 

そして速いテンポで、3回の表へと投入する。丹波もヒットを一本許しているが、状態が悪いわけではない。だが、相手打線は何か自信に満ち溢れていた。

 

「この回に仕掛けんよ、あの投手は3年ちゅうても、甲子園初先発。なんかの拍子で、崩れるんはおかしなことやない」

 

妙徳の大森監督、ここでベンチにて丹波を揺さぶるよう指示を与える。

 

―――唯一の不安要素は、大塚をどのタイミングで登板させるかや。正直、あの投手は一巡では崩し切れん。

 

 

3回の表、打順は7番の福原。荒いが一撃のある打者。

 

――――ぶんぶん振ってくる相手。ならフォークの連投。当たると少し怖いからな。

 

「ストライクっ!!」

やはり予想通り、フォークに空振りする。

 

――――続けますよ、丹波さん。甘いところは厳禁。低めを意識してください

 

「ストライクツー!!」

 

フォークの連投。これであっさりと追い込んだバッテリー。

 

――――また表情が硬くなってる。さきほどの凡退が原因か?

 

――――落ち着いてください、丹波先輩。ここは一球、アウトコースにはずします。

 

「ボールっ!!」

 

ボールゾーンに外れるストレート。コースもそれほど甘くはなく、いいコースに来ている。

 

――――大丈夫です。今の丹波さんなら投げ込めます。

 

両手を大きく広げ、腕を振るように、と指示を与える御幸。低目は大丈夫だと。

 

――――………ああ。

 

そして4球目のフォーク。それが御幸の外寄りの構えよりも内に入る。

 

――――大丈夫だ、ここからさらに落ちて――――

 

しかしフォークが落ちない。球威のない棒球が、内寄りに進んでくる。

 

―――落ちないッ!?  甘いコースッ!! やられる!!

 

カキィィィィィンッッッ!!!!!

 

 

甘いゾーンに来た球を容赦なく引っ張った打球は、レフト方向へと伸びていく。マスクを取って御幸が外野に指示をしようとしたが、

 

「―――――あっ」

 

レフトの東条はその大飛球を下から見るだけ。動くことが出来ない。伊佐敷も動けない。

 

ダンッ!!!

 

『入った――!!!!! 妙徳先制!!! 7番福原の一撃!!! 甘く入ったボールを見逃しませんでした!!』

 

 

この夏の大会で、初めて先制を許した青道。ここから立て直せるかが、チーム力の強さを示すことになる。

 

「丹波――――!」

伊佐敷は打たれた打球方向を見て、呆然としている丹波に声をかける。

 

「!!」

 

「しっかりしろー!! まだ試合は終わってねェぞ!!!」

 

「切り替えるぞ、丹波!!」

 

そして主将の結城もマウンドへと声を送る。

 

「切り替えです。まだ無死。ここから切り替えて、打者を打ち取っていきましょう」

 

捕手の御幸がマウンドへ行くことは、何度も許されている。だからこそ、打たれた後に彼がフォローに回るのはとても重要である。

 

「あ、ああ。(何をやっているんだ、俺は。)」

自分を責める丹波。ここで崩れれば、あの時の悔しさも後悔も、無駄になる。

 

 

続く打者を打ち取り、ラストバッターの森久保。

 

すっ、

 

「!!!」

セーフティバントを試みる森久保。無警戒の青道内野陣は、彼に上手く三塁方向へと転がされる。

 

――――甘いッ、俺の所に転がしたら、何度でも刺してやる!!

 

沖田は舐められたものだな、と一塁へと走っている森久保に毒づく。2回の守備を見た上で、それをやってくるというのであれば、愚か者であると。

 

しかし――――

 

沖田の目の前に、丹波がチャージを既にかけていたのだ。

 

「!!」

 

シュッ、

 

「!?!」

しかし焦ったのか、丹波の送球は大きくそれてしまう。

 

『あああああああ!!!!! 送球が逸れる!!! 森久保は二塁へ!!! 送球がバックネット裏へと飛び込んだので、自動的に二塁へ進みます!!』

 

「―――――――!!!」

 

一死二塁。追加点を取られるのはキツイ。このミスによる失点はなんとしてでも阻止しなければならない。

 

打順は帰って先頭の石清水。

 

―――――ここはセーフティもある。けど、ここで沖田を前に出すのは、あまりにもリスキー。

 

かといって、今の丹波に処理を任せるのは怖い。

 

スッ

 

「ボールっ!!」

守備の隙をついてくる妙徳義塾。思わず外れるボール。尚もバントの動きをやめない石清水。

 

――――インコースにストレート。アウトコースは待たれている可能性が高い。ファウルを奪えれば、

 

 

カァァァン

 

「ファウルっ!!」

 

バント失敗。ラインを割ってファウルになる。だが、追い込まれた様子はない。

 

――――カーブを見せます。その後にフォーク。

 

ボールゾーンへのカーブ。だが、やや甘く入ったカーブが、

 

「ストライクっ、バッターアウトっ!!!」

 

逆に手が出なかった石清水。安堵する表情の丹波。これで二死。

 

続く2番田井。

 

『これで二死!! 何とか追加点は防ぎたい青道高校!! ここで妙徳のバッターは、予選での得点圏打率5割の田井!!!』

 

―――――どうする、ここは―――

 

御幸は自分を落ち着かせるように心の中で言い聞かせる。

 

――――フォークボールでお願いします。

 

「ストライクっ!!」

 

今の良いコースから落ちたフォーク。今日はフォークの調子がイマイチわからない。良い時はいいが、よくない時は落ち切らない時がある。

 

――――アウトコースのストレート! ボール気味でも

 

頷く丹波。表情も硬くなっているが、まだ球威自体がそれほど落ちているわけではない。

 

 

『第2球!! 』

 

丹波から投げ込まれたボールは、御幸の理想通り、ボール気味のストレート。審判もボールという事が間違いないコース。

 

かァァァァァンッッッ!!!

 

完全に山を張られていたのか、強引にセンター返し。御幸と丹波の表情が驚愕に染まる。

 

 

『センター前―――!!!! 二塁ランナー帰ってくる!!! 』

 

 

 

「舐めてんじゃねェぞぉぉぉぉ!!!!」

しかしここで意地の好返球。伊佐敷のレーザービームが二塁ランナーの森久保の足を止めさせた。

 

『いや、止まった!! 止まった!! センター伊佐敷からの好返球で、ランナー帰れず!!! しかし、二死一塁三塁と、ピンチが続きます!!』

 

 

そして次の打者は―――

 

『ここで3番赤城!! 強打で予選では破壊力を見せつけた主軸の一角!! このピンチを3年生エースの丹波はどう凌ぐか?』

 

――――強打の癖に、巧打もうまいと、どう打ち取るべきか。さっきは軽率過ぎた…!

 

御幸としては、ここではむかえたくなかった打者。

 

先制され、尚もピンチが続く青道高校。ここで食い止めるか。

 

 

 




ここまでは原作の丹波さん。だが、丹波さんなら何とかしてくれるはず(錯乱)


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