ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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大塚君の怪我が軽い気がする。まあ、ゴローのようなのはいかんのですが・・・


2017年 6月28日

2011年シーズンと本作で想定したため、若干の史実設定が織り込まれます。


初の全国
第50話 全国の猛者


翌朝のスポーツ面ではやはり稲実の予選敗退の記事は少し取り上げられていた。

 

各新聞では――

 

『稲実、まさかの予選敗退。成宮、7回4失点の粘投も………』

 

『青道、6年ぶりの甲子園。1年生エース大塚、大舞台で躍動。8回3安打無失点14K!』

 

『一年生完封リレー!! 大塚&降谷!!  稲実をねじ伏せた!』

 

地元の新聞では、それまで市大三高、稲実に後れを取っていた古豪復活は大きな話題を生んだ。大塚の出自についてはまだ明らかにされてはいないが、いずれあの神奈川の大投手、大塚和正の息子であることも甲子園前にリークされるのだが、大塚にとってみれば、

 

「俺のやることは変わりませんよ」

と、青道の食堂にて仲間と雑談していた。

 

「くっそ~~~!! 俺だって活躍してやる~~!!!」

新聞に写真つきで載っている二人を見て、沢村はかなりの闘志を見せる。だが本人に自覚がないようだが、大塚に次いでのチームへの貢献を果たしている沢村。長い回を投げられない降谷よりはイニング数で貢献しているのだが、彼にそんな考えはない。

 

「(二人目の先発投手って、優勝にはかなり大事なんだけどな………)まあ、甲子園で頑張ればいいじゃん」

御幸はそんな沢村を宥め、甲子園で活躍さえすれば、すぐに名前を売れるという。

 

―――ホント、こいつらには助けられっぱなしだよなぁ

 

御幸も、この3人の投手がもし青道に入っていなかったらと考えるとゾッとする。最悪、川上先発で、他の投手を使う―――リードも大変だっただろう。

 

―――まあ俺も、あの大会でかなり学んだ気がするな。カルロスがそれまでの配球を読んでいて、大塚がそれに気づくところも。

 

初回先頭打者。大胆に、そして繊細に行くべきだった。決勝の舞台で固くなっていたのは自分だった。

 

いずれ、丹波が復帰すればエースは彼に渡るだろう。そうなると大塚の背番号は恐らく11。

 

それが惜しい気がした。大塚ははっきりとエースナンバーを丹波に託すと言っていた。自分は予選までの代役だと。

 

 

「………………………………」ジーン、

珍しく食が遅い結城。今朝の新聞を見て、未だに実感が続いているのか、結城の箸は遅い。

 

「結城のあんな面が見られるなんて。甲子園に行けたのもうれしいけど、ああいう哲も悪くないかも」

小湊兄(亮介)も、結城がここまで甲子園への秘めた思いがあったことに驚いていた。しかし、

 

「さっさと食べろって、テツ!! 練習が始まっちまうぞ!!」

なお、その後伊佐敷に無理やり食べさせられた。

 

 

そして今朝の練習では、ついに丹波が完全復帰し、全体練習に加わった。

 

「これで完全復活? いや、してくれないと困るけどね」

小湊が完治した丹波を茶化す。

 

「丹波先輩、お疲れ様です」

頭を下げ、挨拶をする大塚。基本礼儀正しい大塚は投手である丹波には一際敬意を払っているのだ。

 

「ああ。迷惑をかけた。予選の投球は全部見ていたぞ。ナイスピッチだった」

 

「あ、ありがとうございます………」

そして彼からのお褒めの言葉に、やや頬がかゆくなる大塚。

 

「コホン……そろそろ始めるぞ」

片岡監督が軽く咳払いをし、二人にそう促す。

 

「はい」

 

そうして、全体が聞く姿勢になると、

 

「昨日は本当によくやってくれた。お前たちが甲子園の土を踏むことになっただけでも私は嬉しく思う。」

まずは甲子園出場が決まって、片岡監督からの賛辞。しかし彼は「だが………」と続ける。

 

「我々の目標は常に全国制覇だ。観光気分で行くわけではないことを頭に置いておいてほしい………いや、それはもう解っているようだな」

 

誰一人として、全国の頂きに行くことを夢で終わらせる気ではないことに、片岡監督は少し笑みをこぼす。

 

「今朝の集合でも解るとおり、丹波がついに復帰した。そして予定通りエースナンバーを渡したいと思う。そして、本選の18名を選びたいと思う。」

 

「!!!」

予選よりも2人少ないメンバーに驚く沢村。しかし、お前が驚いてどうするんだと一同が呆れる。

 

すでに、大塚と丹波、降谷、川上、沢村は当確。この5人の投手は本選でも如何なく力を発揮することになる。その上、降谷と大塚は外野手も出来る。まず削られるのは外野。

 

「………………」

東条も、自分が当落線上にいることを弁えている。喉を鳴らし、緊張した面持ち。しかし――

 

「………………………」

今度は結城に呆れられている東条。楊舜臣のフォークを一撃で仕留めた打席は、青道に流れを呼び込んだ。堅実でスマートな打撃は、上級生にも劣らない。

 

「本選は、予選とは段違いに苛酷な試合になるだろう。ベンチ入り候補20名の中で選ばれなかった者も、心の準備だけはしておいてほしい。」

 

 

投手

背番号1  丹波光一郎 (投手3年)

背番号10 川上 憲史 (投手2年)

背番号11 沢村 栄純 (投手1年)

背番号17 降谷 暁  (投手外野手1年)

背番号18 大塚 栄治 (投手外野手1年)

 

捕手

背番号2  御幸 一也 (捕手2年)

背番号12 宮内 啓介 (捕手3年)

 

内野手

背番号3  結城 哲也 (一塁手3年)

背番号4  小湊 亮介 (二塁手2年)

背番号5  沖田 道広 (内野手1年)

背番号6  倉持 洋一 (遊撃手2年)

背番号14 増子 透  (三塁手3年)

背番号15 小湊 春市 (二塁手1年)

背番号16 楠木 文哉 (内野手3年)

 

外野手

背番号8  伊佐敷 純 (外野手3年)

背番号7   東条 秀明 (外野手1年)

背番号9  白洲 健次郎(外野手2年)

背番号13 坂井 一郎 (外野手3年)

 

門田と前園がメンバーから漏れた。ベンチ入りメンバーの中に、1年生が6人。全体の3分の1を占める新戦力の台頭。落選した門田はそれでも笑顔で、衝撃を受けている東条に「頑張れよ」と声をかける。

 

一方、前園は悔しさもあるが、沖田にあらゆる面で負け、小湊には巧打で負けていると知っており、秋への巻き返しを図る。

 

「絶対に生き残るで………秋には活躍するんや!!」

 

大塚の背番号は不可解ではあったが、

 

「父さんと同じ背番号をつけて、甲子園に行ってみたい」

という発言で、

 

「背番号18………大塚…………まさか………!!?」

伊佐敷が衝撃を受けた顔で大塚を見る。マネージャーの貴子はだいぶ前に知っていたので、あまり驚いていない。

 

「あの大投手………大塚和正の………そうなのか?」

結城もまさかあの大投手の息子とは思っていなかったらしく、衝撃を受けていた。

 

「………うーん、あまりこう………そんな畏まらなくても大丈夫ですよ………」

大塚は皆のこの態度に少し苦笑い。何度目かのリアクションにやや辟易している。

 

「サインとか無理か!? 現役じゃないけど!!!」

伊佐敷がサインをねだる。実は、真逆の存在とはいえ、伊佐敷のあこがれている投手の一人に、彼がいたりする。

 

野茂の後に渡米し、野茂の記録を全て塗り替え、アメリカでも伝説となっている日本最高峰の投手。

 

日本では6年連続最優秀防御率(1点台継続)を記録。さらには4回の最多奪三振(6年連続200奪三振)を記録し、沢村賞2回の怪物。

 

25歳まで日本に在籍し、歴代最速の1000奪三振を記録。7年目の最終シーズンでは、投手シーズン記録第6位の11完封を記録、プロ通算100勝を達成。防御率0点台を数十年ぶりに達成。勝率10割を達成し、投手タイトルを総なめにして、最後までポストシーズンも負けなし。日本一を置き土産に渡米。

 

沢村賞が2回のみなのは、完投数の問題があった。いずれも沢村賞受賞した時は10完投をクリアしたが、それ以外はクリアできなかった。故に、「まあ、このレベルの投手はいつもで捕れるだろ」ということで、あえて厳しい視線の中で審査を受けていた。1年目にして最多奪三振と最優秀防御率の2冠を取ったことがすべての原因である。

 

 

渡米1年目から最多勝争いを演じ、2年目にサイヤング賞を受賞。防御率1点台を通算で5回達成。37歳まで現役を張り続け、メジャー通算200勝目を達成。ワールドシリーズMVPを2回受賞。最多奪三振5回、と最優秀防御率9回と全米を震え上がらせた。最多勝は2回と、このタイトルはライバルが多かった。

 

だが、サイヤング賞8回とあのメジャーの大投手を超えた。

 

 

 

日本復帰38歳で最多奪三振と最優秀防御率を受賞。2度目の日本野球では、最多勝は最後まで取ることが出来ず、40歳に引退。

 

 

文字通り、最後まで基地外染みた活躍をした。

 

しかし、引退から半年。復活に向けて動き出しているとのこと。現在41歳。本人曰く

 

「老け込むには早過ぎた」

セ・リーグの監督たちは、その言葉を聞いて卒倒しかけた模様。

 

本当にセ・リーグは戦々恐々としている模様。関係者からは、「ただの充電期間だったのでは」との声も。大きなけがもなく、連続して活躍していたので、長期間休養が欲しかったのではという声も。

 

その後、ブルペン入りしていた丹波は、大塚の投球を見ながら、

 

「…………まあ、それを言われたらわかる気がする………」

顔を青くしながら、大塚の早すぎる引退の裏にはこんなことがあったのかと納得していた。

 

「そこのところどうなんだよ? 大塚選手は復活するのか?」

 

「父さんは、決勝の投球を見ていたらしいです。なので、なんだか触発されたようで………今頃はブルペンに入っていると思いますよ」

昨日の息子の投球を見て、和正は触発されたそうで、今頃はブルペンに入っているであろうという大塚の見解。

 

しかし、今は打撃投手で実戦感覚を慣らし、二軍の野手陣に悲鳴を上げさせているらしい。一方投手コーチの一人の久保は、「引退するのは早過ぎた。明日から一軍行っていいぞ」と言われたりする。

 

「………マジかよ………」

伊佐敷は、大投手が形はどうあれ復活する可能性がある、現実味を帯びてきていることに、冷や汗をかく。

 

「とりあえず、練習終わったんで、授業行きましょう」

 

朝練が終わり、いつもの学校生活へと戻る青道投手たちと伊佐敷。

 

 

 

「おめでとう、大塚君!!」

 

「決勝戦、凄かったよ!!」

 

「沖田君のヒットも、とっても大きかった!!」

 

教室へと入ると、大塚はクラスメイトにもみくちゃにされた。

 

「えっと……………」

囲まれて身動きできない大塚。苦笑いのまま、荷物を降ろさせて、とお願いするが、女子は退こうとせず、大塚は動けない。

 

「降谷君も三凡でセーブ!! 最後の雄たけびもカッコ良かったよ!!」

 

「………………ありがとう。」

人の声援や期待を浴びることに慣れていない降谷はその大塚程ではない声援の前ではにかんでいた。

 

「……………若菜じゃねぇし、俺はどうでもいいし」

沢村はちらちら二人の様子を見て、自分には彼女がいるので、アレを自分が受ければ裏切りになると、空気を装っていた。

 

「栄純君は、ホント純粋だな~~」

春市もそんな親友の純情ぶりを褒めていたりする、ここまで来ると。

 

「はるっち。」

そして彼からの言葉。沢村が何やら真剣な瞳で尋ねてきたのだ。

 

「?? どうしたの?」

 

 

「彼女に色々とメールを貰ったんだけど、どう返事すりゃぁいい?」

 

何か春市の頭のどこかの線が切れた。

 

「…………栄純君は、一回爆死すればいいと思うよ」

 

「えぇぇっぇ!??!?」

 

 

 

「またかよ!? 大塚どこいったァァァ!!!」

沖田を身代りにして、またしても逃げた大塚。

 

「高いし、イケメン!!」

 

「一年でレギュラーよ!!」

 

「先制タイムリーの沖田君だ!!!」

 

「…………こ、こら………今度は俺が通れない!(少しだけ、グッジョブ、大塚ァァ!!)」

頭の中がぶっ壊れた沖田。先生が来るまでその状態が続いた。

 

 

「………まあ俺、影薄いからな………」

レギュラーの外野手の東条。そんな三人の様子を見て、ため息をつく。

 

「お、おれはちゃんと見ているぞ!!」

金丸が秀明を慰める。

 

「あわわわ………マネージャーとして何かしなきゃ………っ」

沖田と大塚の日常生活が脅かされている。マネージャーとして「一軍の主力メンバーの生活リズムを守る使命があるんです!」と意気込んだ春乃だが、あまりの密集地帯にキョドっていた。

 

 

 

「………とか、やっているんだろうな。マジで冷やかしにいけばよかった」

2年の教室では、御幸が机を囲まれ、身動きが出来ない状態。御幸もたった今、伊佐敷らに冷やかされ、かなり疲れていたので、年下の彼らに八つ当たりしたい気分だったのだ。

 

「…………モテる奴は死ねばいいのに………ヒャハッ…………」

倉持の周りにはあまり来ない。男子はくるのだが、女子はあまり来ない。

 

「まあ、顔が怖いしな、お前……」

 

 

「てめ、言ってはならないことを………! 俺は絶対に彼女作ってやるからなァァァ!!!」

 

 

「あ~あ。大丈夫かな、倉持君」

夏川はついに部屋を飛び出していった倉持を見て、幸子に尋ねる。

 

「大丈夫じゃないの? またふらっと戻ってきて、いつも通りよ。」

 

 

2年の教室も同じような感じだった。

 

 

 

そして、姿を消した大塚は―――――

 

「―――――――やっば……」

誰もいない屋上で、一人息を荒くしていた。その表情は少し歪んでおり、何かを我慢しているようだった。

 

明川学園戦でのスライディングで胸部を痛めた大塚。ただそれが原因かはわからない。だが、薬師戦以降から胸に違和感を覚え始めた大塚。

 

 

そして、決勝戦後に違和感が痛みに変わった。

 

 

 

病院に行ったときに診断されたのは――――――

 

 

 

「右の5本目の肋骨が傷ついている。君は何かスポーツをしているのかい?」

レントゲン検査の結果、彼はやはり怪我があった。それも、原因は、彼の長所からくるものだった。そして含みのある表情で、何のスポーツをやっているかを尋ねる。

 

「――――野球で、投手をしています。」

嘘をつくわけにはいかない。大塚は素直に話した。

 

「ここを怪我するのは、腰の回転が速いか、相当な衝撃を与えた時のみだ。何か心当たりはあるかい?」

 

 

 

大塚の腰の回転の良さが、その未完成の体に相当な負荷を与えていた。フォームチェンジというもろ刃の剣も加わり、複数のフォームがあることも、彼の体を蝕む原因だった。通常は、フォームを崩した場合、そのまま成績も不調になるケースが多いが、彼は敢えてフォームを変えている。

 

故に、高い場所にまでいってしまった。彼を止める者はいなかった。

 

「まだ軽傷だが、これ以上投げればその骨が持たない。完治が遅れるかもしれないぞ」

彼にとってはまだ最初の夏。秋季大会までに体を作ればいずれ偉大な投手になれると彼ははっきりと口にした。

 

「―――――――――――――――――」

大塚はそれを聞いて沈黙してしまう。

 

その医者は、大塚が東京のアマチュア界では有名な投手であることを知っていたのだ。だから敢えて、最初は深く尋ねなかった。だが、この診断で彼を止める必要があると考えた。

 

この若き天才投手の芽を怪我で摘むわけにはいかないと。

 

「――――――中途半端な怪我だ。だが、悪化すれば治りは遅くなる。痛み止めだけでは、いずれ限界が来るよ?」

決勝以降に発覚したこの怪我。本選でのフル回転は絶対に避けるべきだと宣告した。

 

「―――――それでも、リミットはありますか? 騙し騙しするには、何が必要か、何が出来ないのか」

 

「――――――――5イニング以上は絶対に投げるな。それも、5イニングに到達するのは出来れば控えてほしい。痛み止めも万能ではない。使えば使うほど、効力は弱くなる。」

 

 

「―――――それは、痛みが消える時間が短くなるという事だ。マウンドで倒れる気なのかい?」

 

「――――それでも、自分に出来ることをしたい。お願いします」

だが、大塚は無理を承知で頭を下げる。あのチームで少しでも長く、全国を戦いたい。体が動く限り、自分は貢献したいと考えていた。

 

 

 

「―――――っ」

 

使えば使うほど、効力が弱まる。ならば、彼は日常生活での使用を完全に捨てたのだ。

 

使うのは試合の時のみ。それが、効力の希薄化を遅らせる大塚の選択だった。

 

――――なんか、吉川さんの様子がおかしかったけど、ばれているのかな?

 

優勝した時も、彼女だけはなぜかあまり元気がなかった。そして、自分を見ていたのだ。

 

―――――けど、チャンスなんだ

 

父が届かなかった栄冠がすぐ近くに見えている。そして、中心人物としての責任。

 

 

――――全国の恐ろしさ、研究される事がどういう事か

 

 

沖田、東条以外の選手が心配なのだ。全国大会の経験の無さが、チームに与える不安要素。

 

――全国大会は、予選のように生温くはない。

 

稲実を倒せたのは、研究したからだ。だからこそ、今度は青道がされる側になることが不安なのだ。

 

 

――勢いだけでは、栄冠は夢のまた夢……

 

 

 

 

悲壮な覚悟を胸に、大塚は本選に挑む。

 

 

そしてビースターズ二軍グラウンド、横須賀では―――

 

ズバァァァァンッッッッ!!

 

「ナイスボールッ!」

 

ブルペンに入っているのは、かつての背番号18。伝説の男。

 

「明日には支配下登録されるらしい。阪神の地獄のロードに合わせて、4位の阪神を一気に追い抜く。大塚さんの出番はそのぐらいですね」

投手コーチの久保が、大塚にそう話した。

 

「ありがとう。まさか私の頼みごとをここまで聞いてくれるとは………これで結果を出さないと話にならないな。」

意気揚々と140キロ後半のストレートと、切れ味鋭い変化球を投げ込む大塚。年月を重ねた変化球の切れは、健在だった。いや、晩年の時よりもかなり状態はいい。故に、晩年の力を超越する可能性は高い。

 

「息子さんも嬉しいんじゃないですか? 大塚さんの雄姿が見られて」

 

「ああ………私は先に見せてもらったからな。」

 

「ラスト一球!!」

 

ズバァァァァンッッッッ!!

 

「うひゃぁぁ…………ナイスボールっ!!」

二軍捕手も驚くストレートが投げ込まれた。しかもミットは動かなかった。

 

―――待っているぞ、栄治。俺からエースナンバーを奪ってみせろ。

 

大塚和正の眼光は、そのはるか先を見据えていた。

 

 

そして、ついに4日の移動日が迫っていた。6日に始まる今年の甲子園。例年通りに開催されるこの大会。

 

青道は稲実を破った高校として、全国に注目されていた。

 

 

横浦高校では―――

 

「あの左腕を打ち崩した? いや、青道の核は間違いなく投手。だが甲子園の舞台は、そう甘くはないぞ」

 

「…………嬉しそうですね、監督。」

背番号2を付けた選手が、仰木監督の笑みを見て、そのように言う。

 

「………敵チームとはいえ、あれほどの投手。どうして見つけられなかったと、悔いてならない。だが、甲子園で見てみたい投手の一人だ」

 

「…………ええ。アイツの凄さは、2年間だけでしたが、身に染みていますから」

 

「………今度は奴に打棒で勝って見せろよ、ルーキー?」

監督に難しいミッションを送られ、苦笑する一年生捕手。

 

 

「しかし、データなしとはいえ、アイツに借りを返す機会が出来たのは嬉しいな」

高校通算82本塁打。岡本達郎。彼はデータのない沢村に抑えられた左の強打者の一人。

 

「それは俺も同じだ。春の借りを返さないとな」

そして横浦の主砲、坂田久遠が現れる。高校通算66本塁打だが、通算打率は驚異の4割越え。勝負強く、ここぞの場面で打てる男。

 

「俺も次は抑えてやる!」

エース和田が青道へのリベンジを誓う。

 

――――ここには、頼もしい先輩たちがいる。けど、お前らにもいるんだろう?

 

黒羽は、沖田と大塚にも自分と同じような先輩がいることを知っている。彼は捕手だ。相手の打者の記録を見るのは仕事のような物。青道に警戒すべき打者が数多くいることは知っている。

 

―――今度はお前の球を受けられないけど、俺がお前の―――

 

背番号2黒羽金一は、かつての親友に挑む。

 

 

 

そして西の雄の一角。広島光陵高校のエースとベンチ入りメンバー。

 

「どうやら、また奴と戦う時が来たようだ」

あの時の優勝メンバーの一人、2年生木村は、再び関東の地で蘇ったエースを知り、歓喜に震える。

 

5番捕手木村。勝負強く、得点圏脅威の4割越え。まさにクラッチヒッターとして光陵の5連覇に打撃で、そしてその強肩で守備でも貢献した。

 

「あの時は引き分けみたいなもんだ………だが、次は決着をつけてやる!」

背番号1を付けた光陵の1年生エース、左腕の成瀬達也。ゴールデンルーキーとして広島予選を自責点ゼロで駆け抜け、光陵の5連覇に貢献。

 

「アイツからヒットは打っていないんだ。俺も挑戦者の気持ちで、奴に挑む。」

センターのレギュラーである2年山田昭二。俊足にして、強肩強打の凄い奴、と言われるような大型選手に成長。

 

秋大会では、打率4割を達成し、選抜でもデビューを果たした。

 

「マックス149キロに緩急か………そしてそれに加えてあの微塵も衰えていないSFF。」

 

「いや、大塚だけじゃない。沢村栄純、降谷暁………そして―――」

 

彼らの輪の中にいない、あの大きな柱。

 

 

「甲子園で会おうぜ、沖田」

 

彼らのチームの中心だった、あのショートは東京にいる。あの関東1の左腕からタイムリーを打った。

 

最高のチームメイトが、今度は最強のライバルの一人として、立ちはだかる。

 

「ああ。打たせる気はねェけどな」

成瀬の気合も、十分だった。

 

 

 

そして大阪―――

 

「やはり来たんか、青道はん。」

 

青道が稲実を破ったことに、大阪桐生は驚いていない。むしろ、隙の多い成宮が崩れたことは想定内だった。

 

「投手としてはええけど、ハートはまだまだやからなぁ、白髪の子は。大塚君が来るのは解るわ。」

 

―――ホンマ、あれほど冷静で、熱い男は頼もしいやろうなぁ。

 

「せやけど、うちもただやられに行くわけちゃうで、なぁ舘?」

 

「はい」

大阪桐生のエース、舘は練習試合の雪辱を晴らすべく、甲子園へと向かう。年下だが、格上のあの投手に投げ勝つために。そして、チームとして勝つために。

 

「それに、曲者もおるしな」

背番号18を付けた一年生内野手。右投げ右打ち。

 

名を、笹川始。大阪桐生の秘蔵っ子。夏予選では打率6割を達成。激戦区の大阪で、数多の投手をその一打で崩してきた。

 

「今度はあの時のようにはいきまへんで?」

 

 

 

前橋―――

 

「………そうか…………青道が来るのか。」

前橋学園のエース、神木鉄平は、大塚が成宮に投げ勝ったことを新聞で知った。練習試合で彼は投げてはいなかったが、それでもあの高校とはもう一度戦う機会があるかもしれない、そんな予感があった。

 

青道の戦いぶりは、4試合はコールド勝ち。

 

コールドではないのは2試合。だがそれでも、あの成宮が4点を奪われたことも、油断のならない存在であることを悟らせる。

 

そんな安定した戦いをしていた青道が唯一苦戦した高校。

 

明川学園。打力も強豪には劣る中堅に届くかどうかのチーム。だがそのチームのエース、楊舜臣はあの打線を一点に抑えたのだ。

 

―――――楊舜臣に出来て、成宮に出来なかったこと。それは一体――――

 

神木はそれを掴んでいれば、青道を確実に抑えられただろうと考えた。そんな彼が一番警戒しているのは――――

 

沖田道広。

 

彼に打ち込まれた満塁弾は、その練習試合での勝敗を分かつ一撃だった。だからこそ、リベンジをしなければならない。

 

そうでなければ、気持ちよく高校野球を終えることは出来ない。

 

 

今年の選抜準優勝投手は去年の夏、ベスト4に散っている。だからこそ、あの夢をもう一度目指す。

 

 

最後に、春夏連覇を目指す沖縄の覇者。

 

「へぇ、あの白い子が来ないんだ」

柿崎則春。今年の選抜優勝投手。2年生世代最高の左投手。多彩な変化球を兼ね備え、目標の投手はK.カーショー。

 

憧れは利き腕こそ違うが、ビースターズの大塚和正。

 

 

「その青道には、大塚の名字の投手がいるんだってよ。もしかしたら息子かもしれないぜ」

 

「うわ。投げ合ってみたいな。もしそれが本当なら。試合後にサインは絶対にもらわないと。ていうか、大塚投手が現役復帰したら、絶対に優勝したいし、それを手土産にサインをねだる。これが理想」

 

「相変わらず誰に向かって話しかけているんだ、お前は」

主将の垣屋は、そんな柿崎にあきれる。

 

こんななりだが、一応2年生世代最強らしい。

 

 

 

 

 

続々と姿を見せる、全国の強豪。青道を待ち受ける試練はまだまだ続く。

 

 




実際の症例を基にして考えました。そして、全国で青道と当たるかもしれない面々。

なお、ここで当たる予定の高校は2校のみの模様。


横浦、光陵、大阪、前橋、沖縄勢。青道が激突する高校ははたしてどこなのか。


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