ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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王者青道!!

誰より汗を流したのは

青道!!

以下略


第32話 俺達は誰だ?

青道のエース、丹波が負傷で離脱したものの、その代役に大塚を据えた片岡監督。チームも落ち着きを取り戻しつつある、彼の覚悟がチームに響いた結果だろう。

 

 

そして組み合わせよりさらに数日、ついに背番号を渡す日がやってきた。

 

「これから背番号を渡す。呼ばれた者から順に取りに来い。まずは背番号1、大塚栄治!!」

 

「はい!」

片岡監督に言われ、大塚は前に進む。それでも己は予選では青道の柱になるのだと。

 

沢村も番号がくると元気よく返事をする。ちなみに、背番号は11。先発の一角を任される。

 

そして、背番号6は沖田が付けることになった。これで、ショートのポジション、そして状況に応じてサードも守れ、強打で勝負強い沖田が担うことになる。

 

「ヒャハ、本選で取り返してやるぜ」

あまり堪えてはいない様子。というのは見せかけで、相当悔しいようだ。

 

そして背番号17に降谷暁。背番号18に小湊春市。背番号19に東条秀明、背番号20には前園健太が呼ばれた。

 

「わ。ワイですか!?」

 

「内野で、一塁と三塁を守れる、強打のお前を追加で一軍へと昇格させる。予選で一軍に生き残れるかどうかは、お前自身の力でモノにしろ」

 

 

「……………はいっ!!!」

ようやくの一軍。だが、前園が呼ばれた意味はほかの一年生に比べて重い。だからこそ、喜ぶこともせず、黙々とその背番号を貰う。

 

緊急事態もあったが、これで予選限定のメンバーがそろう。

 

 

投手は背番号1の大塚(1年生)、背番号10の川上(2年生)、背番号11の沢村(1年生)、背番号17に降谷(1年生)

 

捕手登録は背番号2の御幸、背番号12の宮内

 

内野には、背番号3の結城(3年生一塁)、背番号4の小湊兄(3年生…二塁)背番号5の増子(3年生…三塁)、背番号6の沖田(1年生…遊撃手…ユーティリティ)、背番号14の倉持(2年生…遊撃手)、背番号16の楠木(3年生…遊撃手)、背番号18の小湊弟(1年生…二塁手)、背番号20の前園(2年生…一塁手…三塁手)

 

外野は、背番号7の坂井(3年…レフト)背番号8の伊佐敷(3年…センター)、背番号9の白洲(2年…ライト)、背番号13の門田(3年)、背番号19の東条(1年生)

 

全ての選手を読み上げた後、片岡監督はマネージャーへと向き直る。

 

「それからマネージャー、お前達も本当によく手伝ってくれた。お前達もチームの一員として、スタンドから選手と一緒に応援してほしい」

 

そう言って手渡したのは、試合用のユニフォーム。この粋な計らいに、3年生の貴子は感極まり、2年生たちはしみじみとユニフォームを抱き寄せ、1年生の春乃はもらい泣きしていた。

 

「(………やっぱり重いな、この背番号は…………)」

大塚は夏川先輩から聞いた。青道のブラスバンド部が、ダンス部が、その他有志の人が、野球部を応援しているという事。

 

そしてマネージャーの様子を見て、大塚は思うのだ。

 

――――予選限定だけど、チームのためのエースに。チームを勝利に導く投球を。

 

そして、あの掛け声が始まる。

 

「俺達は誰だ?」

結城の言葉に集う青道レギュラー陣。

 

『青道!!』

 

 

「誰よりも汗を流したのは?」

 

『青道!!』

 

「誰よりも涙を流したのは?」

 

『青道!!』

 

「戦う準備はできているか?」

 

『おおおおおおおおおおお!!』

「我が校の誇りを胸に、狙うはただ一つ、全国制覇のみ!!」

声高らかに、結城は全国を制することを宣誓する。

 

「行くぞォォォォ!!!!」

 

『おおおおおおおおおおお!!』

 

 

ついに始まる夏の予選。3年生にとっては最期の夏。大塚たちには初めての夏。

 

 

そして――――

 

 

舞台は明治神宮球場。関東を本拠地とするプロ野球球団のホームスタジアムであり、神宮大会の決戦の地。

 

夏の甲子園、東京代表、その椅子を争う地でもある。

 

開会式は、東西合同で行われ、230校を超える学校のうち、甲子園の切符を手に入れられるのは、僅かに2校のみ。

 

「…………これが夏の西東京予選………」

沢村は、真剣な瞳でそうつぶやいていた。二人目の先発として、青道の命運を握る存在として、そのプレッシャーは相当だろう。

 

しかし―――

 

―――悔しいけど、お前がいるから、落ち着いていられる俺がいる。

 

背番号1を背負う、大塚の後姿を見て、沢村はそう思う。あれほどのプレッシャーを受けてなお、力に変えられる彼は凄いと素直に思った。

 

 

―――秋季大会からは、俺がその背番号をつけてやる。だから、俺がエースになるまで、だれにも負けるな!!

 

だからこそ、その壁が厚くても、沢村は越えたくて仕方がないのだ。

 

 

「あ、熱い…………」

降谷は、この密集の中で、人酔いになりかけていた。

 

 

その後、開会式が終わり神宮を後にする青道ナイン。そこへ、

 

「また会ったね、大塚」

そこへ、成宮鳴が現れる。

 

「成宮先輩…………」

彼の目には、背番号1を付けた左腕が、笑みを浮かべながら近づいてくるのが見えた。

 

「丹波さんはどうしたの? というか、お前がエースナンバーなの?」

 

「……………それについて言うことはないよ。」

大塚は何も言わない。

 

「まあいいさ。俺とお前、当たるとすれば決勝。あの時のリベンジでもさせてもらうから。首を長くして待っときなよ」

そう言って、成宮は去るのだが、

 

「俺達のリベンジはまだ済んでねぇぞ」

伊佐敷が吼えると、

 

「お前ら元気だな」ややぐったり、

降谷と同様に、少し人に酔っていた原田。

 

「昨年のリベンジ、今年は果たさせてもらうぜ」

伊佐敷としては、尊敬する東の前に立ちはだかったこの投手への闘争心は強い。

 

「言ってろ。また抑えてやんよ」

年上に対しても、強気な発言の成宮。昨年は本当に手が付けられなかった相手であり、結城の一撃以外はまともに撃たれていない。

 

青道が甲子園に行くための、最大の関門である。

 

「……」

売り言葉に買い言葉なので、大塚は早々に引き下がる。それに、妙にこちらを睨んでいる稲実のメンバーが複数いるので、この場所に居づらい。

 

――――黒い人に、目つきの鋭い人、赤い髪の人、髪が立っている人。俺、なにかしたのかな。すごい睨まれているんだけど。初対面だと思うし、初対面はいろいろと気遣う傾向なんだけど。

 

 

特に、この4人からは凄い目で見られているので、大塚は関わらない方がいいと判断した。大塚は、この4人のことを知らないのだ。だが、大塚は他の可能性を考えるべきだった。

 

そのことについて知るのは、少し先である。

 

 

 

その後、主将同士が決勝で会うという約束を交わし、青道と稲白は神宮を今度こそ後にするのだった。

 

 

そして抽選の結果、青道は2回戦からの登場となり、1回戦の試合の勝者と当たることになる。

 

 

初戦の相手は米門西高校。

 

エースは120キロ後半のストレートに、スライダー、カーブの投手。制球は沢村に劣る。

 

打線は中堅よりもやや下。守りのチームである。

 

初戦を迎える青道高校。その初戦の先発マウンドに上がるのは、

 

「沢村に任せたいと思う。」

 

「はい!!」

 

初戦の2回戦のマウンドには沢村、3回戦には大塚。4回戦は調子のいい方を。

 

そこへ、セットアッパー降谷、抑えの川上を投入し、継投を用意している。リリーフ専門でもある川上への信頼は大きい。

 

だが、やはり丹波不在という問題は、二人の1年生投手に重くのしかかっている。

 

 

「頼んだぞ、沢村」

 

「はいっ!!」

 

 

そして、一方の米門西高校は、

 

「ビデオを回していたが、アイツらは絶対俺達の事を舐めているよなぁ」

米門西高校監督、千葉は青道には、強豪特有の驕りがあると考えていた。

 

青道の投手事情が解決されつつある事さえ知らない彼は、当日思い知るだろう。

 

「青道高校、恐れるに足らず」

 

そしてトーナメントで不安要素を覚えている虎こそ、一番用心しなければならないという事を。

 

 

 

試合当日、

 

1番 小湊亮介 (3年) セカンド 

2番 白洲健次郎(2年) ライト  

3番 沖田道広 (1年) ショート

4番 結城哲也 (3年) ファースト

5番 増子 透 (3年) サード

6番 伊佐敷純 (3年) センター

7番 御幸一也 (2年) キャッチャー

8番 坂井一郎 (3年) レフト

9番 沢村栄純 (1年) ピッチャー

 

「なにぃぃぃっ!? 一年生の先発だと!?」

衝撃を覚える千葉監督。強豪だとはいえ、まさか一年生を持ってくるとは思っていなかったのだ。

 

「この勝負貰ったぞ!!」

 

 

 

そしてスタンドでは、

 

「みんな大丈夫かな………特に沢村君………」

春乃は、先発の重圧を当然感じているであろう、沢村を気遣う。

 

「まあ、心配いらないわよ。そう言う時に頼りになるのが上級生なのだから」

 

 

しかし、先頭打者の小湊がサードライナーに打ち取られる。

 

「(うぅぅ、引きつけ過ぎた………)」

 

白洲もタイミングが合わず、カーブを打ち上げてしまい、レフトフライ。

 

この二死の場面、ランナーなしで3番の沖田に回る。

 

「(浮き上がり、少し沈むストレートに、スローカーブ並に遅い変化球。もう見る必要はない)」

二人から情報を貰った沖田。情報の球が来れば、迷わず振るつもりだ。

 

 

「ハハハッ!! 青道め、浮足立っているぞ!!」

スタンドでは溜息など、打者の表情を見るなどして、そんなことを言っている千葉監督。

 

「だ、大丈夫でしょうか。1年生で、3番を任せられる選手です………一応警戒した方が………」

 

「そうだな。バッテリーには厳しく攻めるよう言っておくか」

 

だが、彼らは一つ見落としている。青道は自分たちの事を見くびっていると言うが、実はそうではない。彼らのその思考こそが――――

 

 

それが慢心であり、敗因である―――

 

 

 

カキィィィンッッッ!!!!!!

 

 

沖田のバットがその初球のストレートを一閃する。センター方向へと伸びていった打球はそのまま

 

ダンッ!

 

センターのフェンスオーバー、外野の越えた先へと吸い込まれていったのだ。

 

 

「………なっ…………!!」

まさかの初球ホームラン。悠々とベースを回っていく沖田。そして唖然とする千葉監督。

 

打たれた投手も、あまりの飛距離と勢いに、動揺している。まさか1年生にあそこまで飛ばされるとは考えていなかったのだ。

 

 

 

だが彼らは知らない。その3番と同等に怪物な打者が、待っていることを。

 

 

4番結城がバッターボックスに入ると、

 

ガキィィィンッッ!!!!

 

今度は初球緩いカーブを見送った後のストレートに振り負けず、レフトスタンドへと打球は消えていく。

 

「なぁ!?!」

初回2者連続ホームラン。3番4番の一撃に、唖然とする千葉。

 

 

しかし、5番増子が長打で出るも、6番伊佐敷が打ち取られ、初回は2点どまり。

 

 

そして青道先発を見て、まだ勝機があると考える千葉。

 

「相手は一年生。この初戦の重圧に耐えられるかな!?」

 

 

ズバァァァァンっ!!

 

130キロ前後ながら、出所の見えにくいフォームに加え、キレのいい癖球に翻弄される米門西の選手。

 

さらに、

 

ククッ、

 

「あっ!」

 

ブゥゥンッ!!

 

右打者へのサークルチェンジがさえ、この回は2者連続三振でスタートし、最後は

 

カァァァン

 

力のないピッチャーゴロで、三者凡退に抑える沢村。

 

「しゃぁぁぁ!!!」

 

 

「まあ、コースも狙っていたし、初回は及第点だな」

御幸の辛口採点。

 

「及第点!?」

そしてそれにショックを受ける沢村。

 

その後、主軸の勢いに乗った青道打線は止まらず、4回までに10点を奪う猛攻。沖田の満塁ホームランもあり、奇跡的に沢村が出塁したりもした。

 

そして守備では沢村が4回までヒットゼロに抑える好投。まだ相手打者にランナーを出してない。

 

―――とりあえず、スライダーを使わずにすみそうだ。

 

御幸はストレートのキレが一段といい沢村を口ではああいっていたが、称賛している。

 

――――球速が増しているし、腕の振りもいい。今日は調子がいいな

 

 

そして、5回の表、先頭バッターを高速パームで空振り三振に抑え、続く打者をムービングでセカンドゴロに抑える。

 

「??? 何だ? まだ5回なのに、なんで必死に………?」

コールドゲームを知らない沢村。相手の余裕のない視線を受け、そして打者を見る。

 

「…………ッ!」

打者ももう後がないような顔をしていた。しかし沢村はそれを気にせず、自分の投球を続ける。

 

そして――――

 

ズバァァァァンっ!!

 

「あ…………」

 

「ストライィィィクッ!! バッターアウトっ!! ゲームセットっ!!」

 

「え………?」

審判が試合終了を宣言したのだ。沢村は訳が分からずベンチへと帰ろうとするが、

 

「コールドゲームのこと忘れてたわ。5回に10点差以上ついていると、今みたいに試合が終わるんだよ。」

御幸が小声でそう説明する。

 

「そ、そうなんすか?」

 

そして整列した沢村の前には、号泣している選手が。

 

「……………っ………」

 

少し考えればわかる事だった。相手も3年生。後がないのは、どちらも同じなのだと。

 

「…………余計なことを言うなよ、沢村」

底冷えするような声で、沖田が動く仕草をした沢村を手で制す。

 

「なっ………でも………」

 

「勝者が敗者にかける言葉はない。お前が言っても、あまり意味はない」

 

「……………………けど………」

 

モヤモヤとするまま、整列をして、挨拶を行った直後、

 

「頑張れよ、もっと勝ち進めよ!!」

泣きながら握手を求める相手選手。それを見た沢村は驚いた顔をする。

 

「…………はいっ…………」

何も言えない。何も言えるわけがない。ただ、勝ち進めよという言葉に、応えるしかないのだ。

 

公式戦デビュー。

 

沢村 5イニングを投げて、被安打ゼロ。7奪三振。無四球。

 

 

――――初めて味わった勝利は、とても苦かった。

 

沢村にとって、この戦いは一生心に残るだろう。

 

 

青道高校、3回戦進出。

 

 

 

 

 

 

 

続く第3回戦。

 

ズバァァァンッ!!!

 

140キロ前後の球を動かす大塚の前に、ランナーを進めるどころか、ランナーすら出せず、打線も初戦の勢いそのままに、相手投手を圧倒。

 

試合は12-0で勝利するのだった。

 

「俺の出番、ダイジェスト過ぎるでしょ………」

 

なお、大塚は4イニングを投げて、被安打ゼロ、2奪三振。最後は降谷が登板し、三者凡退に抑えた。

 

試合後、

 

「兄さん!」

試合の終わりに、妹の美鈴が一人でやってきたのだ。母親は風邪を引いた裕作を連れて病院にいっているために、ここにはいない。

 

「美鈴!? ていうか、会場まで遠かったろうに。」

ここまで一人で来たことに、気が気でなかった大塚。彼にとっては可愛い妹に何かあれば野球どころではないのだ。

 

「ううん。だって、試合を応援しにいくって決めていたもん」

彼女の決意に秘めた言葉にたじたじになる大塚。その光景は、当然青道の面々も見ていた。

 

 

「おい、あの子は………誰だ?」

 

「今大塚の事を兄さんって………」

 

「というか、滅茶苦茶可愛くねぇか、あの子。」

 

ざわざわ、

 

「あ~~えっと、妹の「美鈴です。いつも兄がお世話になっています。」というわけです。」

相変わらず兄のペースを考えない。内外でも妹に弱い大塚という面が知れた瞬間だった。

 

「い、い、妹!?」

 

「聞いていねぇぞ、大塚ァァ!!」

 

「え!? だって、聞かれなかったし。」

倉持の叫びに、大塚は困惑しながらそう答える。

 

「そうだけどな!!」

 

「うん? 大塚……それに美鈴って……まさか、」

楠木文哉が美鈴の名前に何か思い当たる節があるらしい。

 

「知っているのか、文哉?」

結城が彼に尋ねる。彼は野球部の面々の他とも交流が深く、色々な雑学や情報にも詳しいのだ。

 

「友人の話から聞いたことがある。水泳界の若きホープって呼ばれているのが確か大塚美鈴。まさか、大塚の妹だとは思っていなかった。」

 

「水泳界のホープ……何者だよ、大塚家って」

 

「あの、妹が心配なので、送るのはなしですか? 今日はきっちりと一言入れておきますので。」

頭を下げる大塚。見てくれが周囲の目を集めるので、兄としては心配で仕方ない。

 

「兄さんは応援に来ちゃだめなの?」

 

 

「いや、そうではなくて。ただ、東京を一人で歩くのは心配というか……」

話しが先に進まない両者。結城が監督の方を見る。

 

「………ハァ、次からは親御さんとともに応援に来てもらいたい。次はない。」

 

なお、

 

「(この子可愛いなぁ)」

沖田は沖田だった。

 

そして、そんな親友の姿を見て、

 

――――お前にだけは絶対に嫁に出したくないな。

 

 

 

 

そして、その試合での活躍は日頃の学校生活にも少し影響を与える。

 

「沢村君~~~!!」

 

「大塚君~~!!」

 

「沖田君!!」

 

「小湊君!!」

 

「………お、俺には…………」

沢村には地元に意識している彼女がいる。故に、何かとその視線を何となく理解はしているが、それでも苦手意識を覚えていた。

 

「栄純君はホント一途だよね」

小湊春市は、そんな親友の様子に笑みを浮かべる。彼には、それが好ましく思えるし、まっすぐな性格の彼らしいと言える。

 

「大塚君が消えた!?」

 

「エイジっ!! 俺を生贄にしたな!!!」

沖田が女子に囲まれ身動きが取れない中、大塚は雲隠れしたのだ。

 

「あははは………大塚君は相変わらずだね…………」

 

 

屋上にて、

 

「沖田もこれを機に、いい人を見つければいいんだけどねぇ」

あえて自分が雲隠れすることで、沖田へ集中することを狙った大塚。何気に2枚目である沖田。残念さを受け入れてくれる人がいればと願う大塚。

 

 

順調に2試合連続コールドで勝ち上がる青道。

 

 

だが、青道にとって最初の、夏予選の試練が訪れる。

 

コールド勝ちした際の試合を見ていた明川学園の選手たち。

 

「うわっ、えげつない球を投げるな。アイツ…………」

大塚はコントロールよく両サイドに投げ、癖球で球数を節約している。球速の割に三振が少なく、コースコースへと癖球を投げて、スタミナを節約しているのが解る。

 

「(………まだ力を抑えている………2、3回戦は全力を出す必要がないというかのように)」

明川のエース、楊舜臣はそんな大塚の投球を見て思う事があった。明らかに癖球を利用し、軽めの力で投げている。本来の彼は、もっと速い球速を出すだろうことが、フォームを見て一瞬で分かった。

 

「…………けど、青道の起用は、この前の沢村とかいう左腕がうちに当たると思うぜ。キレの良いストレートに高速パームと、チェンジアップを投げる、技巧派だ」

 

「………そうか、」

エースナンバーをつける一年生投手。未だに底を見せていない実力を隠し、打たせて取る投球をしている。

 

さらには、後ろには剛腕投手と、サイドスローの投手が控えている。まさに鉄壁といっていいほどに、投手が揃っている。

 

総合力でも、自分たちがまけているが、試合にならないと解らないこともある。

 

――――打たれなければ負けない…………

 

だが、楊は思った。

 

――――出来る事なら、あの背番号1と、投げ合いたいと。

 

だが楊の独り言を聞けたものは、だれもいなかった。

 

 

――――――大塚、俺が追い求めた投手の理想。

 

 

彼が幼少のころに見た、最強にして最高の投手。日本に来たのも野球の為なのだが、あの伝説の投手に会いたいという気持ちもあったのだ。

 

300勝投手、至高の精密機械、世界の制球王、大塚和正。

 

 

それが彼の原点だった。22年連続で二桁勝利を達成した、生ける伝説。昨年現役を引退したが、近ごろ古巣の横須賀にて、ブルペンで投球練習をしている噂のあるこの有名人。

 

 

関係者しか、その真相を知らないと言うが――――――

 

 

 

 

 

 

一方で、沢村は恐らく投げ合うであろう投手を見て、衝撃を受けていた。

 

「ミットが動かない…………」

自分でも6、7割コースにいけばいい方。なのに、彼は寸分の狂いもなく、ミットへとボールが吸い込まれていく。

 

「投手としてのコントロールは、大塚以上かもな。どうですか、ご本人?」

御幸はちらりと大塚の方を見る。

 

「悔しいですが、制球力は少し彼の方が上かもしれません。あれほどの制球力、凄い投手ですね、彼。」

大塚が手放しで称賛し、一部分で負けを認めた。それが沢村には驚きだった。球威を得た分、若干制球力が落ちた大塚。本人がやや意識しているだけで、周囲は変わりがないと考えているようだが。

 

「恐らく9分割でのコントロールは、揺さぶりをかけない限り、乱れないでしょうね。しかし、つけ入るすきはただ一つ。」

大塚は投手ではなく、捕手の方を見る。

 

「御幸先輩のような意地の悪い捕手でなければ、その脅威は半減します」

 

「おいおい、本人の前でいうことかよ。まあ、捕手としては褒め言葉だけどな。」

 

「………ああいう投手をリードしたら、楽しいだろうなぁ………」

御幸は楽しそうにその投手、楊舜臣を見ていた。

 

「大塚。」

するとそこへ片岡監督がやってきた。

 

「次の試合、お前が投げろ。あれほどの投手相手だ。大量リードがない限り、お前に投げてもらう。」

中堅校相手に、沢村をぶつけるつもりだったが、この投手だけは次元が違う。まさにダークホース。未だに彼は死四球を出していないのだ。

 

 

「…………解りました。正直、コントロールは凄いですし、投げ合えるのは少しだけ光栄に感じますね。けど、勝ちは譲る気はありません」

大塚の投手としての正直な物言いに、監督は笑みをこぼす。

 

「そうか。お前は、今のまま、階段を上がり続けろ」

 

 

その後、試合は楊舜臣が1安打無四球完封で締めくくり、6-0で相手チームを破った。

 

 

 

 

その一方で、大手スポーツ雑誌、野球王国所属の峰は、大塚に違和感を覚えていた。

 

「あの程度の投手なわけがない………力を抜いているな」

 

「どうしたんですか、峰さん? 大塚君が?」

 

「ああ、彼は本来、フォーシーム主体の投手だ。球速も140キロを超えることもある本格派に近い技巧派。だが、今日は球速が140キロにほとんど届かなかった。それがどうにもね」

140キロに到達したストレートはわずかに3球。それ以外は、癖球とスライダーで抑え込んでいるのだ。その投球術に、若者離れした何かを感じていたのだ。

 

――――大塚、この名前で投手をしている高校生。まさか、いやーーーそんな偶然があるわけがない。

 

峰は、大塚栄治と大塚和正の関係性を考えたが、それについては断定できないと考えた。

 

――――だがもし、大塚和正の関係者だというのなら、青道はとんでもない怪物を呼び寄せたかもしれない。

 

「実力を隠しているんですか!? このトーナメントで!?」

 

「ああ、彼の真価が見られるのは、恐らく次の次に当たるであろう、市大三高戦だろう………」

 

未だ底知れぬ、大塚の実力。それを野球に携わる仕事をしている者たちは、それを予見していた。

 

彼は、何かが違うと。

 




大塚和正。二つ名は制球王、至高の精密機械。主人公の父親が楊瞬臣に影響を与えたという事実。

和正の劣化コピーもどきである楊瞬臣。けど、劣化コピーでも恐ろしい実力です。オリジナルが化け物過ぎて。ある意味成宮よりも危険すぎる。

ちょい投稿が遅れるかも。

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