ダイヤのAたち!   作:傍観者改め、介入者

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やる気スイッチが入ったようですね。




第28話 着火!!

1 小湊亮介  二 1右 太田 中

2 白洲健次郎 右 2左 早田 二

3 沖田道広  遊 3左 天見 遊

4 結城哲也  一 4右 北原 左

5 増子 透  三 5左 原  三

6 伊佐敷純  中 6右 山崎 捕

7 御幸一也  捕 7右 神木 投

8 東条秀明  左 8左 杉山 一 

9 沢村栄純  投 9左 榊  右

 

6回が終了し、勝負は後半戦に入る。7回の表、片岡監督は沢村に代打を送る。

 

「タイム、代打!! 小湊」

 

ここで1年生の小湊春市。木製バットの1年生野手に、前橋は――――

 

「木製バット? 1年生?」

 

――――沢村君の代わりの打席。ここで何とか出塁したい。

 

「ストライク!」

 

ここでスライダー。やはり、あのホームランを打たれても、簡単には崩れない。

 

――――試してみるべきかな

 

小湊がインコースに寄る。インコースを明らかに捨てているような打席。かなりベースに寄っているので、インコースは捌きにくい。

 

―――――いい度胸だ。この点差で余裕だというのか?

 

神木は、自分の不甲斐無さに怒っている。ゆえに、

 

カッ!

 

レフトへのシングルヒットを、小湊の予測通り打たれた。彼の狙い通り、インコースのストレートを運んだのだ。

 

――――くっ、この野郎、曲者か!

 

しかし10球粘った小湊亮介を外野フライに打ち取り、白州は三振。

 

ここで、ホームランを打った沖田、なのだが―――――

 

「代打! 倉持!!」

 

ここで、沖田を下がらせた片岡監督。

 

「ひゃっは、打ってくるぜ」

 

 

ズバァァァァンッッ!!

 

「ストライクっ、バッターアウトっ!!!」

 

 

「良く打ったな、あれ……」

 

 

攻撃が終わり、守備に就く倉持。

 

「抑える。絶対に抑える」

 

「肩の力を抜けよ~~~~」

 

マウンドには降谷。闘志を燃やし、前橋学園に剛球を投げ込む。

 

 

ドゴォォォォォンッッッ!!!

 

 

ドゴォォォォォンッッッ!!

 

ストライク二つを奪うと、

 

―――――好きに投げろ。お前の投げたいようにな

 

御幸のサインに、

 

―――――そういえば、彼はアレをあんな風な握りで投げていた

 

 

降谷は、大塚のとある球種を見よう見まねで握り、

 

シュッ、

 

 

フワンッ!

 

 

「!?」

 

 

「え!?」

 

 

打者と捕手、両者が戸惑い、空振りを奪われた。

 

――――なんだか手抜きボール、みたいだね。

 

降谷は、ボールがいかないことへの違和感を覚えていた。

 

しかし、御幸はそれどころではない。

 

「タイムっ!!」

 

――――マジかよ、好きに投げろとはいったが、チェンジアップ投げるなんて聞いてないぞ!!

 

「降谷! 今のはなんだ?」

 

「いえ、好きに投げろと言われたので、それに大塚の握りを見よう見まねで――――」

 

――――えぇぇぇぇ!!! 見よう見まねで覚えたのかよ!? そんなのありかよ?

 

「ハハハ……もうツッコまねぇぞ。突っ込んでたまるか」

 

「?」

 

「おーけい、解った。チェンジアップのサインはこれな。しっかりと投げ込んで来いよ。」

やや呆れた顔で、御幸は本塁へと戻る。

 

何はともあれ、見よう見まねのチェンジアップが猛威を振るい。この回は3者凡退。

 

「あの野郎、二球種目を覚えたのかよ!!!」

沢村が、降谷がチェンジアップを覚えたことに焦りを感じる。

 

「けど、腕が緩んでいるから見分けがつきやすいな」

御幸はこの1イニングで、降谷の癖を見抜いた。チェンジアップの時は、叩き付けないように腕がやや緩んでいるのだ。

 

「フォームを一緒にしないと、その球は使えないぞ。」

御幸の手厳しい指摘に、

 

「はい」

降谷は2球種目の変化球取得はならなかったが、それでも進歩を感じていた。

 

課題はこれから取り組めばいいのだから。

 

 

その後、8,9回も三者凡退に抑え、前橋学園を圧倒した青道高校。

 

といっても、得点は5回の表のみ。エラーがなければ1点差の試合だ。

 

結城は長打こそあったが、打点はなかった。沖田はその代りに4打点をたたき出した。東条は2安打と、調子を維持した。

 

深刻なのは、増子の不調。やはり3,4番があるかされた場合、彼との勝負が多くなる。

 

「きっちりやられた。夏はこうもいかないからね」

悔しそうな顔をしている神木。沖田という誤算があったとはいえ、5失点は言い訳できない。

 

「夏の本選で会おう。そこでリベンジをさせてもらう」

 

前橋学園の神木はこの練習試合での敗北で、さらなる飛躍を誓う。

 

 

一方、沢村は―――――

 

「完封できなかった。」

 

「上出来だと思うぜ」

 

無理に完封を狙えとは言わない。だが、イニングで6回前後しかもたないのは先発として心もとない。惜しかったが、沢村のエースは来年に持ち越される。

 

「今年のエースはお前だけど、次は負けねぇからな!!!」

 

大塚に宣言する。来年こそはエースだと言わんばかりに。9回完封と、6回零封。投球内容も大塚が圧倒的だった。

 

「何度でもこい。俺もエースを譲る気はないよ」

 

 

 

 

選抜準優勝投手と青道の試合。他県との試合ではあったこの試合を偵察していた者がいた。

 

「監督は目立つからダメだけど、俺等なら帽子をかぶっただけでばれないだろう」

 

「春の関東大会で、手酷くやられたからな。打撃力がすごいと思っていたが、まさか神木を打ち崩すとは」

 

一つは、市大三高。エースの真中が注目していたのはむしろ1年生投手陣。丹波のことは気がかりだが、それでも勢いのあるこの世代は油断できない。

 

そして、あの神木に投げ勝った1年生。

 

「沢村栄純、か。大塚のほかに、あんな投手がいるのは少し羨ましいな」

 

「中学の実績はゼロ。というより、一回戦負け。それがどうしてこうなるのか」

 

そして、2番手で出てきた剛腕投手。

 

「変化球を覚えて、手が付けられなくなったな」

主将の大前は、降谷の球種を全て目に焼き付けた。制球も、春の関東大会とは成長している。

 

ライバル校の新戦力の台頭は、やはり脅威だった。

 

 

だが、彼らは気づかない。同じように青道を偵察に来ている人物がいることに。

 

そして、最後にスカウト陣。神木を目当てに来ていたが、青道の投手陣の凄さを目の当たりにしたのだ。

 

「球速こそまだないが、あの投手は将来が楽しみだな」

 

「青道の左腕、あのスライダーにはキレがあり、ストレートのスピードが上がれば、夏は必ず化ける」

 

「だが、あの剛球投手も縦変化を覚え、投球の幅が広がっている。」

 

関東大会ではオールストレートだったが、今ではSFFを交えている。1年生に有望な投手が突然現れるのは現代では本当に稀、とはいかないが、珍しい事である。

 

青道はそれを3度成し遂げた。それが異常。青道の夏での飛躍が注目されるのはそれだ。

 

 

「2年後は皆さんに譲りませんよ。」

 

「それは我々とて同じだ」

 

「その発言は、大卒の選手を諦めるとみていいのかな?」

 

「それこそまさかだ。」

 

 

 

修北戦は、1年生が全員ベンチ外。2,3年生を中心としたチーム。そのため、1年生は手が空くことになる。

 

 

「倉持先輩も気合を入れているだろうね。」

故に、久しぶりのレギュラー争い。大塚はどちらがショートにいるのかを考える。

 

―――バックにいる時は倉持先輩の方が心強いかな? 打撃は沖田だけど。

 

「けど、沖田のホームランは凄かったぜ。援護はないと思っていたから、アレは嬉しかった」

沢村は得点が期待できなくても、自分の投球を続けるつもりだった。だからこそ、あの援護は嬉しかった。

 

あっても1点か2点。そう意識していた彼は、まさか満塁打までが飛び出してくるとは考えていなかった。あの一撃で勝負は決まったと言っていい。

 

「東条もしっかりマルチだし、スタメンもいけるんじゃね?」

 

「まだまだ。もう少し頑張らないと。白州先輩と伊佐敷先輩、坂井先輩に守備力で負けているし」

打力では引けを取らないどころか、引っ張り気味の東条。課題は上級生に劣る守備力。やはり短期間で外野は会得できるものではなく、そこにいるレベルの大塚や降谷と違って、彼に求められるのは野手の守備である。

 

 

「けど、沖田はスタメン確定だろ。東条もはるっちも、狙えるって!!」

小湊もしっかりヒットを打っているのだ。だからこそ、チャンスがあれば、いけるかもしれない。

 

 

 

1年生には出番のない第3試合、青道にはちょっとした問題が起きていた。

 

 

夏合宿終盤になると備品が少しずつ心もとなくなってきたのだ。片岡監督も、備品について無知に等しい沢村と降谷をいかせることに意味を見出している。そのため―――

 

「ごめんね。下級生とはいえ、買い出しの手伝いを頼んじゃって………」

マネージャー長の貴子が申し訳なさそうにしているが、一同は気にしていない。

 

「主将が言うのであれば、喜んで手伝います。それに、結構量も多いので、大変だと思います」

沖田は結城の言うことはほぼ大抵聞いている。それほど尊敬しているのだ。

 

 

その手伝いの理由なのだが、最近備品が不足しており、思い切って買い出しを決行するマネージャー一同だった。が、荷物が多いことを気にして、ホンの少しだけ弱音を呟いただけで、

 

 

「では暇そうな下級生を何人か連れていけ。」

と主将にいわれ、沖田と大塚も断る理由がなかったのだ。尚、沢村には「足腰のトレーニング」降谷は「体力を鍛えたいんだろう?」と唆し、巻き込んでいる。

 

「(あわわわわ…………大塚君とこんなところで一緒に買い物だなんて………)」

 

「(あらあら。吉川さんは彼を意識し過ぎているようね。となれば………)」

貴子は一計を案じる。もしこのまま大塚がいれば、吉川が何かドジを踏む可能性は十分にあり得る。彼女は沖田と目配せした。

 

「(なるほど、そういうことですか、先輩。任せてください)」

 

そして、沖田は沢村と降谷に、「これから3年間の備品をよく知っておけよ」と自分を監視につけ、マネージャーとともに店内にて説明を受けることになり、大塚は外で全員分のジュースでも買うと言い、外で待つことにしたのだが…………

 

ここで、沢村たちがいなかったのは幸いなのか、それとも大塚にとっては災難だったのか。

 

 

「……………あっ!!」

そこへ、白い髪の私服の少年が大塚を見つけた瞬間に、声を上げるのだ。大塚は記憶にないので、いきなり声をかけられて怪訝そうな顔をする。

 

「…………?」

 

「お前! そうか、青道にいたのか!! 神奈川で探したのにいないから。まさか青道なんてなぁ!」

いきなり話を進める白髪の少年。大塚は本当に記憶に残っていないので、渋い表情をして、

 

「あの………貴方は?」

素朴な疑問を口にするのだった。

 

「………へ? 俺を知らない!? 2年前投げ合った仲じゃん!! あの後、中学で音信不通だったの、結構気にしていたんだぜ?」

どうやら彼は自分のことをよく知っているようだ。そして彼の言う2年前。

 

それは中学2年生の全国大会。

 

「失礼………利き腕は?」

 

「ハァ………そこからかよ………この俺、成宮鳴を忘れるなんて、なんて奴だよ! 一応去年は甲子園に行ったんだぞ? お前のいる青道を倒して。それと俺は左腕な」

その名前と利き腕、甲子園に行った投手。有名どころ。それらをキーワードに記憶から記録を抽出し、大塚はようやく思い出した。

 

あの時の準々決勝の年上の左腕…………

 

「あの時の左腕投手………稲城実業のエース、ですか」

 

最速148キロのストレート、スライダー、フォークを持つ快速球投手と世間では取り上げられている男。そういえば、甲子園でプロ上位指名が数年後に期待できる投手が現れたと報じていた。

 

「そうだぜ。それに、今日の試合は偵察させてもらったよ」

そして成宮の言葉に、大塚は少し動揺する。

 

「!!」

まさか見られていたとは思っていなかった大塚は、顔を歪める。

 

「当たり前だろ? お前ら青道は仮にも関東地区大会で頭角を出した、うちのライバル校の強敵なんだぜ? 見に行かない方がおかしいだろ? まあ、心配すんなよ。他校には流したりはしないからさ。」

何言ってんだよ、当たり前の事だろ、と成宮に突っ込まれる。そしてそれくらいの節度は守る、とやや膨れっ面のご様子。

 

どうやら、大塚のことはばれていないようだ。彼らがやって来たの今日のみ。つまり、沢村と降谷のことしか知らない。

 

「けがをしたというから安心したよ。元通りのお前に今年はリベンジするから、決勝まで来いよ」

 

「何やっているんだ、鳴」

そこへ、巌のような体をした成宮の連れと思われる男が現れる。

 

「…………でかい」

一応179cmの大塚。だが、彼はそれよりもさらに大きい。

 

「ぷっ、言われてますよ、原田先輩♪」

 

「ハァ………こいつがお前に一度投げ勝った男か。だからといって、すぐ絡むな。お前を見つけるのに何分かかったと思っているんだ?」

あきれ顔の原田。しかし大塚には、彼が只者ではないことは明らかに分かった。

 

――――稲実の主将にして、4番捕手の原田。チームの精神的な要。

 

「ハァ!? そういうの関係ないし!! 同じ地区のライバルだし、一言二言ぐらい当然だと思いますけど!!」

 

「とりあえず、邪魔をしたな。青道のゴールデンルーキー。次に会う時は試合だろう。」

 

そして残された大塚は、二人の選手を見て、冷や汗を流していた。

 

――――帰って先輩たちに聞こう。彼がいったいどんな選手になったのか。そして、青道と稲実の因縁………

 

「買ってきたぞ!! 備品つっても、いろいろあるのな!! って、どうしたんだ?」

沢村は厳しい目をして、彼方を見つめている大塚に声をかける。大塚が渋い表情をする時は、大変なことが起こったというサイン。彼がこういう顔をするのは、やはり珍しいのだ。

 

「………大塚君?」

吉川の試合以外で見せない厳しい瞳に、何かあったのだと悟る。

 

「………今年の予選、最後の最後に一山有りそうですね………」

そして不敵な笑みを浮かべ、大塚は心の中で決意する。

 

―――この2年で、水を大きくあけられている。だが、あそこまで勝負を吹っ掛けられて、俺が黙るとでも?

 

大塚は、成宮との対決が必ず来ることを予感する。甲子園を行くには絶対に倒さなくてはならない相手。それを強く意識した。

 

 

そして、そんな彼の様子に、貴子は全てを察した。

 

「(………そう、彼に会ったのね、大塚君)」

青道の最大のライバルにして、その中心と、彼は出会ったのだと。

 

 

そして事情を知らない一年生たちは―――

 

 

「大塚がなんからしくない凶悪な顔をしているぞ」

沖田も、これはただ事ではないと感じていた。が、聞くことが出来ない。

 

「彼が怒る?所は珍しいよね」

春市も、大塚の獰猛な側面を見て不思議に思った。

 

「並の打者は、打席に入れるかわかんねェな。あれ」

 

「投げたい」

 

「話聞いてた、降谷!?」

突っ込まれる立場のはずの沢村が、降谷にツッコむ。

 

 

マネージャーのリーダー的な存在である貴子は―――

 

「どう、甲子園のスターと対面してみた感想は?」

 

「別に、劣っているとは思っていませんし、自分の力をぶつけて勝つだけです」

成宮のことを思いだして、ややムキになっている大塚。甲子園の光を浴びているからと言って、こちらが負ける確率が高いだなんて認めない。

 

――――今年は俺達が本選に行く。負けたくないッ

 

 

青道のエースをねらう男は、静かに燃えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




降谷のチェンジアップ。原作ではスローボールを投げていました。なお、夏では投げることは完全に無理です。

降谷はこの夏はSFFとストレートで頑張ってもらいます。


そして、西東京最大のライバルの稲実成宮が初登場。原作との違いは、チェンジアップを知るのは夏予選直前になるということです。今回、稲実との試合はなかったので。

時期が遅れると、やっぱり対策と意識が変わりますからね。

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